「あ゛ーーー……」
朝食時、非常に気だるげな様子で長谷川が息を吐き出した。
昨日は膳で女子や男子はクラスごと別々に並んで食べていたのに対して、本日の朝食はヴュッフェ形式。自分の分を取ってきたちうたんは、何故か人の隣を陣取っていたりする。
「どしたん? 寝不足?」
「いや、ちょっと夢見が悪くてな……」
また? 確かバレンタインの頃にもそんなことを言っていたような気がする。
「マッチョな魔法少女にクトゥルフの邪神と宝貝と幻想種のオンパレードで海鳴のキャパがマッハ……」
「……なんぞ、それ?
あー、以前に言ってた件の夢となんか関係してんの?
案外別の世界線のちうたんの記憶を読み取ったリーディングシュタイナーだったりしてな」
フゥーハハハ! 我こそはムァーッドサイエンティスト! その名も鳳凰院血雨! と高らかに叫び声を上げる白衣のメガネを幻視する。
……あれ、意外と似合ってね?
「いや、まさか、そんなはずはねえだろ。夢だよ夢……
あとちうたんいうな」
そう? 面白そうなのだけど。
「ところで今日のご予定は? 俺らは特に決めてないから参考にしたいのだけど」
「あー、確かいいんちょが今日こそネギ先生と一緒に行動したいとか言っていた記憶が――」
まあ、あんまり掘り下げても大変そうなので話を横へシフトさせてみた。
どっちにしてもエヴァ姉の要望で行き先が決まる気がするけど、話題としてこれ以上のものは無いと思う。
× × × × ×
「ほぉ、映画村か」
「うん。ネギ君がいいんちょに誘われてなー、いっしょにって誘われたんよ」
「……ネギ君に?」
「そやえ」
身の危険でも感じ取ったのだろうか。
なんだか3班と5班が同時出向してとんでもない人数になりそうだが、うちの班も誘えば総人数は二十に届きそうなくらいに跳ね上がる。
聞かなかったことにしてエヴァ姉の思考を逸らそうか。いや、無理か。
しかし、件の映画村と関西呪術協会の本山である昆神社は距離的に間逆の方向。親書の件はどうするつもりなのだろうか。
……まさか忘れたことにして遊び倒す腹積もりじゃなかろうな、あの葱坊主。
「お嬢様、此処でしたか」
桜咲が現れた、と思ったらこれまでと違う距離感でこのかに話しかけてきた。
あれ? 何か心境の変化でもあったのか? 昨日の昼頃までは随分と距離を取っていたような気がしたのだけど……。
「あ、せっちゃん、どうしたん?」
「宮崎さんが早乙女さんを説得するのを手伝って欲しいそうです、なんだか雪広さんに負けてられないとか言い出して煽るのを止めて欲しいとか」
「あー、そんならうちのとーるはんまーの出番やな」
「いえ、そこは穏便にしたほうがいいのでは……」
懐からとんかちを取り出すこのかに、若干声音が引き攣った様子で抑止しようとする桜咲(震え声)。
そんなの関係ねえ、とばかりに駆け出すこのかは、思い出したように含み笑いを桜咲に見せた。
「まあまあ、こっちはうちがなんとかするし、せっちゃんはそらくんとゆっくり話しとってや? あとは若いお二人に~」
「え。いえ、それほど話すことも、ってお嬢様ー?
……あぁ、行ってしまわれた……」
遠くを見やる桜咲に視線を向ける。
正直昨日のことで若干申し訳なさも残るのだけど。まあ何とかなる。聞いておきたいことも一応はあるし、平常心平常心。
うむ。一回昨夜のことは忘れよう。
「あー、桜咲? お前このかと何かあった?」
「え、いえ。お嬢様とは特に何も」
「じゃあその距離感の変化はなんだ? 護衛とか言いながら護衛対象と距離を置いていたのは、他でもないお前じゃなかったっけ?」
町に出たときとか、このかと俺が顔つき合わせていたときに遠くからちら見する殺気を感じていた俺が言うのだから、そう的外れなことではないと思うので聞いてみることに。
「ああ、そのことですか
……綾瀬さんに、ちょっと反省を促すようなことを……」
「説教でも受けたか」
翳りのある表情で呟いたので突っ込んでみれば、更に目線をあさっての方向へと逸らす。図星かよ。
「まあ、一緒に行動するのは悪いことじゃないと思うけどな。結婚おめでとう」
「してませんよ!? そ、そもそも二人の間にはそれはそれは大きな身分の差が……!」
気になるのは身分だけか?
それはともかく、桜咲のほうはこのかとのこと以外では何かを気にしている素振りもない。
……あっれー? ひょっとして昨夜のことを気にしてるのって俺だけ?
むぅ、自信過剰だったか……。
と、思案していると電話が鳴る。
正確には念話専用のコール音だけど。チャチャチャチャ、チャチャチャ、チャーラー。と響く音を理由に。
「済まん、電話だわ
あ、もう聞くことも無いし、お嬢様のところへ戻っていいぞー」
「ぞんざい過ぎやしませんかね……」
そう言いつつも、場から離れることに苦言を云わずに去ってゆく桜咲。
いや、俺のほうが気にしちまいそうで。
離れてゆくせっちゃんのサイドポニーを眺めつつ、意識を切り替える。
「さ、て
もしもしさよちゃん? なんぞあったかね?」
『あ、そらさーん?
昨夜何か私が寝ているときに食事とかしました? なんだか柔らかいものが口に触れた感触があったのですけど、肉まんとかプリンですかね?』
……思い出させないでください。
× × × × ×
ぶつくさ言いながらもその場所を離れるせつな。
そのまましばらく歩き、廊下を曲がる。周囲に誰の姿も見えなくなったことを確認すると、不意にその場にて壁へと寄りかかり顔を押し付けて、
「―――にゃぅぅぅ~……!」
なんだか艶めかしいような可愛らしいような呻き声を上げつつ、真っ赤になった顔面の温度を下げたいのか、そのままぐりぐりとひんやりと涼しく感じる壁に顔を押し付け続ける。
どう見ても奇行のそれなのであるが、せつなは今とてつもなく恥じていた。
彼女だって昨夜のことを忘れたわけでなければ、無かったことにするには余りにも衝撃的過ぎた。
麻帆良に来てからこの二年弱での交友関係など、剣道部に所属しているものの麻帆良では常時帯刀していても問題の無い口実のためであって、まともな部活動に参加した記憶など無いに等しいし。魔法生徒とは仕事上の付き合い程度の交流であり、プライベートは基本的に遠距離からのこのかの護衛()くらいしか行ったことしかない。
有り体に言うならば、男子との付き合いなんぞ想定したことすらない。それなのに、昨夜はこのかの命令とはいえ――、
「ふにゃぁぁぁぁ……!」
事故のような形とはいえ、重なった瞬間の感触を思い出し、尚更奇行がヒートアップする。
先ほどの邂逅だって平然を装えたものの、心の底から平気だったわけではない。
むしろ早く離れたかった。
しかし理由も無しに離れるには無礼すぎるかと心の片隅でそんな理由が浮かんでしまったが最後、自分から離れることが出来なくなっていたのだ。
それにしたって酷い。
何がというのは、当然己の現状。
同い年の男子に耐性が無いとはいえ、こんな姿をもし誰かに見られでもすればまたどのような印象を与えてしまうのか――、
「――……」
「」
――そこまで考えたころにはもう遅かった。
ぎ、ぎ、ぎ、と視線を感じて首を曲げれば、その廊下の先には、
――にやにやと笑みを浮かべている柿崎美砂の姿があった。
「」
「」
どちらも無言。
しかし、その表情には雲泥の差がある。
せつなは余りにも妙な姿を目撃されたということで絶望的な表情を浮かべているのに対し、美砂は「言わずともわかってますよ」的な。
うんうん、と頷きながらも、その表情は笑みを浮かべるのを止めやしない。
そのままフェードアウトしようとする美砂。
その動きを見、慌ててせつなは叫んでいた。
「ち、ちがっ! 違うんです! 違うんですよこれはぁっ!」
釈明にもならない絶叫は、空しく無人の廊下へと響くのみである。
~鳳凰院血雨
ネギま(原作)を終えた三十路手前のちうが、えるぷさいこんぐるぅする二次創作とか思いついたのだけど。
~着信アリ
音源は火サス。
~せっちゃんフラグきたー?
いえ、彼女の心境がどうこうって程度なのでそこまで行くつもりは。
49話目ですよー
始めた頃は二十も続けばいいかなと思っていたエタる気満々だったのに、よくもまあ此処までこれたものです
評価が本格的に低迷化でもしない限りは期待に応えられるようにやってみますわ
それはそうと、
IF3、そんなに不評かw
いや、想定外にもほどがある内容なのは自覚してますけどね。元々はにじふぁんの頃一番最初に考えた二次創作なので作りが甘いのは仕方ない
あれでも一応は骨子をつなぎ合わせた結果なので、投稿したことは後悔して無い。反省はしている。サーセン
え、それ以前の問題?マジでか
まだ引き摺っている超番外編を、活動報告へと載せてみます
次回、多分衝撃の展開
それでは