ネギまとかちょっと真面目に妄想してみた   作:おーり

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『ぎぶみーちょこれーと【男子の悲哀】』

 

「そういえばそろそろあの時期だよなー」

 

「どの時期?」

 

「ああ……、

 お前なら気にもしないんだろうな……」

 

「わざわざ言葉にしねえと察しないって言うのか

 上等だ、表に出やがれ」

 

「冗談だよ

 あれだろ? 期末テスト」

 

「「「ぶち殺すぞ烏丸ぁ」」」

 

 

 神宮寺・織村・敷浪が口をそろえてメンチを切った。期末も大事だと思うのです。

 

 

「そんなことを言われてもなぁ

 お返し考えるのも結構大変だぞ?」

 

 

 まあ俺も男子ではあるから、言いたいことはわかっている。わかっちゃいるが俺の苦悩もあるんだよ。

 『苦労』や『面倒』とは絶っ対に言わないけどねっ。女の子ぉのためならばっ。

 

 

「言ってみてえなその台詞!」

 

「もらえる宛てが絶対にあるという確信か!」

 

「女子との交流があるからって余裕かよ!」

 

 

 口々にそれぞれ呟く端から凄まじい呪詛の念が滲み出る。

 これで女子中校舎に通っているということを伝えれば虚(ホロウ)が産まれてもおかしくない。ソレぐらいには凄まじい怨念。

 

 

「とりあえず去年はいくつだった?」

 

「えーと、エヴァ姉に明日菜にこのかにゆーな、柿崎と和泉。あ、あとバイト先のおばちゃんにも貰ってたわ、七つだな」

 

「最後はともかくその前六つ! 全部同年代だよなぁ!?」

 

「くそ、こんなに格差があるのかよ……っ

 イケメンってわけでもないのに、なにが違うって言うんだ……!」

 

 

 付き合いの濃度かな。

 あと敷浪のキャラのブレっぷりがさっきからハンパねえんだけど。

 

 

「まあお前もジオラマ作ってないで部活にでも精を出せば?」

 

「部活は駄目だ

 先輩とかがいれば確実に問題起こす」

 

「自信満々に言うなよ……」

 

「つか、敷浪はそんなにチョコが欲しいの?」

 

「欲しいね

 当然だろうが」

 

 

 そんなことを言われても。

 

 

「級長は? イケメンだし、剣道部やってれば貰えるだろ?」

 

「いや、ウチは女子のほうが強いし……、そもそもあまり接点がないんだよなぁ……」

 

「何のために男女混合なんだよ、その剣道部」

 

 

 せっちゃんが君臨していたりするのだろうか。あの娘の方が女子人気は高そうではあるし。

 

 

「あ、それロン」

 

 

 何だかんだと言いつつ神宮寺の棄て牌で和了り。対々和。

 

 

「またかよ!?」

 

「やー。なんか今日調子いいわ

 なんかいいことでも起こる前兆かね?」

 

「爆ぜろ」

 

「もげろ」

 

 

 『いいこと』を直接的にそういう風に捉えるっつーのは、まあ男子だから仕方ないのかもしれない。

 

 

   × × × × ×

 

 

 そんなことを話しながら麻雀を囲んでいたのが三日前。そして本日がバレンタイン当日。

 

 

「好きです、つきあってください!

 あ、あの、へんじは今度でいいですからー!」

 

 

 そう叫ぶように走り去ってゆく女子。

 俺はというと、告白と同時に手渡された四角い包みと手紙を片手に、呆然と見送るくらいしかできなかった。

 つーか、今の娘誰よ。

 

 どうやら八連荘は吉兆ではなかったらしい。

 朝からちょっと頭を抱えたくなる問題を片手に、相変わらずの女子校舎を進んだところ珍しい人物を発見した。

 

 

「おいーっす、ちうたん

 珍しいね、こんな時間に来るとは」

 

「あ? ああ、烏丸か。おはよう

 ちうたん言うんじゃねえよ……」

 

 

 元気がない。

 登校時間もいつもより遅めなので、何かあったのだろうかと疑問に思う。

 

 

「どーかした?」

 

「いや……

 今朝方、変な夢を見てな……」

 

 

 夢見が悪いとな。

 

 

「それがイヤにリアルな夢でな……

 ちょっと、今でもどっちが現実だか曖昧で」

 

「それ普通にやばい人だよ

 話してみれば? どんな夢さ?」

 

 

「何故か私が武装錬金を駆ってリリカルな世界でジュエルシードを集める夢を……」

 

 

「ちうたん……、あなた疲れてるのよ……」

 

 

 その場合、主題歌は『真っ赤な誓い』なのか『BrightStream』なのか。

 

 

「だよな……

 ん、人に話したらちょっと自覚できた

 わりーな、もう平気だ」

 

「ならいいけどさ……

 バレンタイン当日になんちゅー夢を見てるのか」

 

 

 思わず呟くと、なんだか真顔になってこっちを見る。何。

 

 

「お前、そういうのを期待してるのか」

 

「期待っつうか現実だよ

 男子校舎では割りとそういうのをよく話しているからなぁ」

 

「ふぅん、そういうもんか

 あー、そうかぁ……」

 

 

 なんだか辟易とした様子なのだが。

 何かバレンタインに嫌な思いでもあるのだろーか。

 

 

「いやな、

 私はいいんちょと同室なんだけどな、」

「ああ、

 もういいよ、よおくわかった」

 

 

 なんとなく察した。

 あのショタコンは何かしら企んでいるということなのだろう。

 憂鬱すぎて教室に行きたくなくなってきた……。

 

 

   × × × × ×

 

 

「おは……うわ、ナニコレ……」

 

「うわぁ……」

 

 

 教室に入って一番に目に付いたのは銅像。それもネギ君の姿をした茶色の銅像だ。

 匂いから察するに、これひょっとしてチョコ?

 

 

「おはよー烏丸くん、いやぁいいんちょがさぁ」

 

「ああ……うん、察したわ……」

 

 

 これをプレゼントできるって……、雪広もかなりキているなぁ。

 件の雪広はそわそわうきうきとネギ君が来るのを今か今かと待ち構えている。捕食寸前の狼のようにも見えなくもない。

 

 

「にしても、珍しいね二人がそろって一緒に来るとは」

 

「そこで会ってね」

 

 

 残念ながらチョで始まる甘いものすら彼女には貰ってない。まあくれる人柄じゃないのは傍目に見てもよおくわかっちゃいるけれど。

 少しだけは期待していたんだけどなあ。

 

 

「そんな目で見てもやるモノはねーぞ

 用意もしてねえしな」

 

「用意していたらあげるつもりだったの?」

 

 

 ニヤニヤしながらパイナップル娘こと朝倉が長谷川を茶化す。

 ちうたんはというと、「アホ」とだけ答えて席へと向かう。なんてハードボイルドなじょしちゅーがくせいなのか。

 

 

「あ、そだ朝倉に聞きたいことがあったんだけど」

 

「ん? 何々? アタシがチョコをあげる相手とか?

 いやー、それはいくらなんでも烏丸くんには簡単には教えられないなぁ

 欲しいっていうなら考えてあげても――」

 

 

「なんか、俺がロリコンだという話が予想外の範囲にまで広がっている気がするのだけど貴様が報道の実行犯と見て間違いないのか」

 

 

 ――逃げた。

 鮮やかな逃走に留めることもできなかった。

 

 つかこう来ると犯人は確実だな。くっそ、ろくでもない噂ばかり広げやがる……っ!

 

 

「顔怖いよ、そらっち

 おはよー」

 

「んぉ? おおゆーな、おはよ」

 

 

 何故かこっちが葛藤しているタイミングでばかり話しかけるね。やってきたのはバスケ娘裕奈。

 

 

「はい、はっぴーばれんたいん」

 

「おー、ありがとうございます」

 

 

 ふつーに渡すのでふつーに感謝。お返しは何にしようかなー。

 

 

「………………

 えっ、ちょ、ずいぶんアッサリ渡すんやな」

 

 

 あ、和泉。

 

 

「いや、そらっちに恥ずかしがるってのも今更だし」

 

「言いながらまだ二度目なんだけどな、去年と今年とで

 愛も変わらず義理だというのもよぉく知ってるし」

 

「そなん?」

 

「そだよー」

 

 

 本命は父親だっけか。中学生までならなんとか親孝行で済む話なんだろうけど、それを高校にまで上がってやっていたとしたら、引く。

 まあ俺としては貰えるものは貰うので、裕奈のやりたいことには特に口出しする気もないけど。

 

 

「でもゆーなデートとか前いうてへんかった……?

 義理相手でそんなんゆうん……?」

 

「二人で遊びに行くときはデートって普通言わない?」

 

「えー……」

 

 

 うん。和泉のその疑念はなんとなくわかるけど。

 精神的に未だ小学生から抜け出せないのか、それとも社交力が無駄に高いのか。判断に困る娘では、ある。

 

 

「むー、なんかなっとくいかんなぁ……」

 

「亜子、それよりも」

 

 

 お、アキラたんもいた。

 

 

「せやな

 烏丸くん、はい、はっぴーバレンタイン」

 

「私からも

 この間は世話になったし」

 

「おお、ありがと」

 

 

 しかし朝一で渡すって、確実にこれが義理だと言外に語っているよね。いいけどさ。

 って、そういえば。

 

 

「そういえば、和泉は部活で渡せばよかったんじゃないか? 朝練あったんだし」

 

「ん、いや、他にも男の子おるところで渡せるはずないやん」

 

 

 あれー。去年はマネージャー数人でサッカー部男子にごそっと豆撒きならぬチョコ撒きをやっていた記憶があるのだけれど。今年はやらないってこと?

 

 

「それには参加せえへんねん、

 今年は烏丸くんだけや」

 

 

 ………………。

 

 

「……なんよ、その顔?」

 

「亜子、その言い方だと誤解招くよ……?」

 

「うん……、他人のこと言えないじゃん……」

 

 

 ……うむ。思わず微笑み忘れた顔になった。

 こ、これ、義理であってるよな?

 

 

「いや、あたしにそんな顔されても……」

 

「私も、詳しく聞いたわけでもないし……」

 

 

「なんなんよ、三人して

 なんか言いたいん?」

 

 

「えーと……

 和泉さん、これ手作りだったりする?」

 

 

 思わずその場にいる二人に顔を向けて意図を探ってみても、あまり役に立たなかったので、意を決して聞いてみた。

 

 

「うん」

 

 

 はー?

 

 

「えー、あー……、

 改めて、ありがとう、ございます……?」

 

「ん、味わって食べてな

 と言っても、湯煎して型に流した程度やけども」

 

 

 ちょっとテレテレと笑いながらそんなことを言う和泉さんですけれども、こちとらDIO以上の攻撃を食らったように内心の処理が追いつきません。

 俺、裕奈、アキラたん、と揃ってワールドの影響を受けているようであった。

 

 

   × × × × ×

 

 

「なんか、ちょっと見ないうちに偉く憔悴してねえか……?」

 

「うん……、バレンタインってこんなに精神削るイベントだっけ……?」

 

 

 席に着くとちうたんに心配された。

 今朝のことと相俟って、俺のライフはほぼゼロだったりする。なにがどうしてこうなっているのか、そもそも本当にそれが真実なのかと、色々答え合わせをしたくないことばかり起こる。

 あの三人で六つ目。既に去年の数に追いついてきているのだけれど、だからこそのこの結果なのか。それとも貰えない男子からの呪詛でも何処かで拾ってきてしまったのだろうか。

 

 

「何かあったの?」

 

「おはよーさん、そらくん」

 

 

 次から次へとやってくるね、今日は。ある意味仕方ないのかもしれないけど。

 明日菜とこのかが自席へとやってきた。

 

 

「はいそら」

 

「おー、いただきます」

 

 

 明日菜の手から差し出された手作りチョコを摘む。今年はトリュフ形かー。

 

 

「年々腕前上がってるなー、旨ぇ」

 

「ほんと?」

 

「ほんとほんと」

 

 

 やっぱり美術部なだけあって、造型にも相性が合ってきているのか。形もしっかりしているし、味も満足。

 この分だと料理の腕前も上がってるんじゃないか? なんかほんわかしてきたー。

 

 

「あー、なんか人心地つけた気がする

 癒されるわー」

 

「なんか知んないけど疲れてるみたいね

 あ、飲み物いる?」

 

「もらうー」

 

 

 おお、ホットココアか。準備万全だな。

 

 

「嫁スキルが着実に上がってるじゃん

 結婚してー明日菜ー」

 

「はいはい、こんどね」

 

 

 実は割りと何度か交わしている冗談を酌み交わせるくらいには回復してきた気がする。しかし未だ垂れている状態には変わりないのだが。

 あ。明日菜が頭撫でて来た。なんか懐かしい――、

 

 

「おい」

 

「はい?」「なに?」

 

 

 ――なんか、ちうたんの目が怖い。

 

 

「朝から何いちゃついてんだお前ら……っ」

 

「「えー」」

 

 

 理不尽な怒りを買っている気がする。思わず共にハモってしまう、俺と明日菜。

 

 

「長谷川さん長谷川さん」

 

「止めんな近衛、私は今からこのバカップルに鉄槌を下さにゃなんねー」

 

「えーからこっちこっち」

 

 

 あ、このかに連れてかれた。

 

 

「なんだったんだ……」

 

「さぁ……?」

 

 

 なんか教室の隅でぼそぼそと。

 まあいいか。「それより、」と起き上がり言う。

 

 

「お前いい加減渡さないのかよ

 腕前ばかり上がって、渡さないと意味ねえぞ」

 

「う、うるさいなぁ

 タイミングって言うものがあるじゃないの」

 

 

 世間一般でのタイミングというものは、まさに本日のことだと思うのだけれど。

 そんなことを年々続けて今年で五年目ほど。高畑先生に手渡せないままに、バレンタイン終了後に俺が処理したチョコは累計四つ。

 五つ目が加算されないことを切実に願う。

 

 

「せっかく味見に付き合って着実に腕前も上がってるんだし、今年こそはがんばれー」

 

「わかってるわよぉ、うう……」

 

 

 なーんであのおっさんに相対するときばかりそういう乙女になっちゃうのかねこの子は。小学校の2・3年くらいまでは平気だった気がするのだけれど。

 そんなことを話していたら二人も戻ってくる。OHANASHI終わった?

 

 

「なんだ、つまりそれは、味見、なのか」

 

「え? うん、そうだけど……?」

 

「毎年……?」

 

「う、うん……」

 

 

 去年までと違うのは前日じゃなくなってるところだな。味見は前日、処理は後日、というのが去年までの通例。

 今年こそは味見だけで済むといいな。俺的にではなく、明日菜的に。

 

 

「あ、そだ

 できれば相談に乗ってもらいたいのだけれど」

 

 

 ん? と声をかければ三人とも振り向く。

 

 

「いや、実は今朝ここにくる途中で本命を貰ったんだけど、」

 

「マジでか。」

 

 

 うお。ちうたんが真顔になってる。

 見渡せば全員が真顔。何、そんなに驚く話?

 

 

「なん……だと……?」

 

「………………そらくんは義理ばっかりで本命を貰えんタイプやと思うとった……」

 

 

 明日菜の驚愕の仕方が。

 あとこのかが地味に酷い。

 確かにその通りではあるけれど。コレまで貰ってきたのは大体友チョコか義理チョコで、エヴァ姉に貰うのだって多分家族チョコ程度の意識だと思うし。

 

 

「で、えーと、続きを」

 

「いや、話すけどさ、相談持ちかけたの俺だし……」

 

 

 でも平気だと思うなよ……?

 

 

「で、だ

 なんかいいお断りの仕方とかってないかね」

 

「「「えっ!? 断るの(か)っ!?」」」

 

 

 そろって驚くな。

 俺にだって許容できないことぐらいある。

 

 

「だって、ガチの告白してきたのって……

 ……初等部の二年生だぞ……?」

 

 

 未だ一桁相手に、どういうリアクションを取ればいいのか本気でわからない。

 教えてー、青●せんせーい。

 

 




~タイトル
 多分男子寮の場面しか示してない。

~真っ赤な誓い
 【まにあむけりりかる】をご参照ください。

~BrightStream
 劇場版か紅白を観たんだと思います。烏丸の中ではリリカルはこの曲。

~いいんちょと同室
 設定上、部屋割りが原作とは若干変更されております。

~手作りチョコ(義理)を手渡す亜子たん
 今更ながら和泉さんがアップを始めたようです。

~流れるような明日菜の、
 小学生時から始めて通算五年目の味見。原作でどうだったか知らないがこの世界では足掛け五年の片思い。しかし実質あげている男子はそらのみ。もうお前らつきあっちゃえよ。
 ちうたんも堪忍袋の緒が切れそうです。

~青●せんせーい
 こど●のじかん。実は作者まったく読んでない。ネタのみ。なので青山先生だったのか青葉先生だったのかがわからずに伏せ字。
 俺は悪くねぇ!俺は悪くねぇ!

~結局そらはいくつ貰ったの?
 順繰りにいくと、早朝訓練と称して夜明け前から駆り出されたエヴァから一つ。新聞配達のバイトで分所のおばちゃんで二つ。通学途中に待ち伏せられて手紙つきでガチの本命を初等部二年生幼女から手渡されて三つ。登校して裕奈、亜子、アキラからで六つ。明日菜から味見と称して七つ。このかから友チョコで八つ。その後は風香、いいんちょ、柿崎からで累計十一。もげろ。
 しかし限りなくグレーな亜子はともかくとして、本命チョコが幼女のみな烏丸くん。実際はロリコンではないドノーマルなので完全に困惑。どうなるのかは感想次第かもしれない。

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