東方渡世抄 〜現実と幻想の境界〜 【更新停止】 作:小鳥戦士
床が爆ぜた。
その瞬間的な出来事に紅魔館勢は瞬時に戦闘態勢に移った。目の前が煙で包まれ、周りが見えなくなり警戒が強くなる。そして、煙が晴れるとそこにいたのは......
「フランドール・スカーレット......⁉︎」
金髪に赤眼、白と赤の服に色とりどりの綺麗な宝石のような翼。東方紅霧異変におけるEXボスで、レミリアの妹。その実態は吸血鬼にして、正真正銘の破壊の悪魔。
そんな最強の一角であるフランが、虚ろな瞳でこちらを見ていた。
「あ...あハ....あはははハははハはははははハハハハハハハハハハハはハハハハハハハハハハハハハハ‼︎‼︎あなたが....あなたが今日のオニンギョウサンネ‼︎サァ、アソビマショウ‼︎」
「ッ⁉︎」
なんという狂気、なんという圧力。これが、破壊の悪魔フランドール・スカーレット。
ふと、破壊の悪魔は態勢を前にし、弾丸のようにこちらに迫ってきた。
「(や、ヤバいこれは死ぬ....!)」
あまりの迫力に呆然とする俺に向かってフランが迫りーー
「なにをしてるの‼︎」
目の前の景色が急に変わり、様子の変わった咲夜に怒鳴られた。そうか、時を止めて助けてくれたのか。
「ッ!すまん咲夜さん、ボケてた‼︎」
「いいから、とにかく今はフラン様を止める事を考えて‼︎」
見ると咲夜はかなり切羽詰った顔をしていた。咲夜の視線をなぞり、顔をずらす。
「な......レミ...リア?」
そこには、フランの出した炎剣レーヴァテインにレミリアの胴体が突き刺されていた。レミリアは俺を庇ってくれたのだ。俺を庇ってレーヴァテインに貫かれ......
「落ち着きなさい‼︎レミリア様は吸血鬼、不死身よ。死ぬ事はないの!」
(そ、そうだ、吸血鬼は弱点以外では死ぬ事はないんだった。......いや、違う。そこじゃない!フランの本当の脅威はレーヴァテインではなく『ありとあらゆるものを破壊する程の能力』という回避不可能のチート能力‼︎)
「なぁニ?オネェサマガアソンデクレルノ?」
「まずっ⁉︎お止めくださいフラン様‼︎」
そこからフランの行動は早かった。ただ単純に、簡単な動作で右手をレミリアに向け能力を発動させようとしーー
「幻符『夢幻蹴夢』‼︎」
発動する前にスペルカードを切った。
発動と共に俺の足下にサッカーボール程の霊力弾が形成され、その弾を蹴り上げた。
「あー!あたらしいオモチャダァ‼︎」
フランはそれを嬉々として自らの弾幕を放ち相殺した。
ーーかに見えた。
「残念、それは分散型なんだフランちゃん」
フランの弾幕が霊力弾に激突した瞬間、視界を覆う程の量へと変わった。まるで網で魚を捕まえるようにフランへと襲い掛かる。
「ウー、これジャマ!コンナモノキエチャエ‼︎」
堪らずと言ったようにレミリアを突き放し、能力で殲滅を図る。だが、フランの能力は一度に多くを破壊することは出来ない。破壊する為の核が多過ぎて処理出来ないのだ。
つまりこれは、フランの数少ない攻略法である。
「そんでもって、今からが本命なんだよなぁこれが」
相殺しきれず、弾幕に囲まれたフランは滅多打ちにされる、はずだった。
弾幕はフランを囲んで襲っているが当たらないのだ。いや、当たらないというよりも....透けて消える。
「まぁ名前の由来だわな。夢幻...夢と幻、夢の様に儚く、幻の様に消えていく......本来は本物が分からなくする為のフェイクなんだが、まぁ初見だし囲んでるし有効だろ」
みるみる内に消えていく弾幕だが、その内の一つは違った。丁度フランの背中辺りに着弾し、背中を逆くの字にしながら地面に叩きつけられた。
同じ様な体型のルーミアを吹き飛ばしたその威力、霊力を込めた量が違うのだ。そう生半可ではない。
「とまぁ、ここまで順調に俺のターンだった訳だが.....」
ボロボロになりながらも、ググッと四肢に力を込めフランは立ち上がった。その目には未だ虚ろな瞳を宿しており、疲労の色は一切見えない。
「うん、立ち上がるよね。知ってた」
未だ戦いは始まったばかりであった。
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「あぁクソッ!埒が明かないし喰らったら即死って鬼畜ゲー過ぎる‼︎」
あれからどれほどたっただろうか。スペルカードを切ってからというもの完全に防戦一方だった。こちらからも霊力弾を撃って対抗しているものの、流石はEXボス。初心者相手に撃ち合いで遅れをとる訳がなく。
レミリア達も応戦してくれているが、先程から使われている禁忌『フォーオブアカインド』の効果により分身され、さらに禁忌『レーヴァテイン』を装備され実質一対フランという最悪な展開で戦う事を余儀なくされていた。
「(そもそもなんでフランは暴走してる⁉︎十中八九あの黒いのが原因だろうが、どういう原理であぁなるんだよ!)」
だが、考える余裕をフランは与えてくれない。能力は使われる様子はないが、濃密なまでの弾幕と触れたら即死級の炎剣に焼き殺されかかる。
愚直に縦切りで迫る炎剣を右サイドステップで躱し、近づいてくる弾幕は危ないものだけ弾幕で相殺する。弾幕は意味がないと感じたのか、フランはレーヴァテインを振り回すが太刀筋が甘く、簡単に避けられる。だが避けてばかりではダメだ。この状況から早く抜け出さなくてはならない。
しかしここで視界が変わる。周りは木々に囲まれ、戦闘は外にまで広がっていたようだ。そこには服をボロボロにし、露出した肌に痛々しい血を被る咲夜がいた。
「咲夜さん!そっちの戦況は⁉︎」
「大丈夫、そろそろ妹様のスペカの効果は切れる頃合いよ。一応この分身は能力じゃなくスペカ依存の効果だから時間制限があるの。つまり一つは山場を越えたってこと」
「そうか、スペカの効果だもんなコレ。霊夢みたく無敵じゃない訳だ」
ちなみに脇巫女、貧乏巫女として知られる博麗霊夢は、能力に依存した『夢想天生』という究極奥義がある。それは能力によってありとあらゆる現象から自身を浮かせるという無敵技であるが、フランの場合は分身は確かに強力ではあるが時間制限がある上、分身は無敵ではない。要は耐久スペルだ。
「.....仕方ない。ここは広いとこで決着つけたほうが良さそうだ。広いところと言えば.....湖くらいか」
俺はフワリとはいかないが、空中にジャンプしてそのまま留まり、湖を目指す。正直障害物がある場所で戦いたいが紅魔館は狭すぎてやり辛い。多少リスクを負ってでも挑まないと勝てないとの判断だ。
「レミリア嬢達にも伝えてくれ。これから湖で畳み掛けるとな」
「......えぇ、わかったわ。わかったけど......貴方飛べたの?」
「ん?...あぁコレ?一応修行して手に入れた力ですがなにか?」
東方の世界に転生してから早2週間、なにも博麗神社で雑用ばかりしていたわけではない。あの神社には最強の巫女と最強の妖怪が住まう魔窟である。教えを請わない訳もなく、ひたすら弾幕と霊力の使い方や浮遊術を習って(殆ど雑用を修行と扱われたが、小さい体の使い方を訓練としてこなして)来ているのだ。もちろん能力の鍛錬も然り。
咲夜は感心したように唇を釣り上げ、レミリア達に伝えに能力を使い消えた。
「......実は浮遊術じゃなく霊力を足元に集中させて立ってるんだけどな。まぁいいや、今のうちに新しいスペカ作ろう」
目的の湖まで霊力でブーストしながら走る中、俺は懐から今日三枚目となるブランクカードを取り出す。霊夢に貰ったブランクは5枚なので、作る際は慎重に作らねばならない。
「んー、手札的にも近距離系のスペカが欲しいなぁ。んじゃ、イメージイメージっと」
俺がイメージすると、ブランクカードにスウっとイラストが描かれる。
「よし、名付けて装符『マジック・エース』だな。うん、我ながらカッコイイ名前だ」
新たなスペカ、まぁ通称エースと呼ぶことにするが、満足してホクホクしている場合ではなかった。
ーー殺気だ。後方から凄まじい程の殺意を向けられている。警戒し、カードを構えると振り向きざまに弾幕を放った。牽制程度の弾幕であったため、殺気を放つ影が持つ剣で跳ね飛ばされた。
「アハハハハハハ!みぃツケたァ!みーんな遊んでくれたけど、つまんなーい。だからだから!貴方がアソンデ?」
「ガァァァ⁉︎」
お返しとばかりに強力な弾幕を放たれ、応戦して放った弾幕ごと叩きつけられ、そのまま湖の方まで吹き飛ばされてしまった。とんでもない衝撃で、意識を持っていかれそうになったが、湖にあわや着水するギリギリで霊力でノの字のような緩やかなコースを形作り、衝撃を逸らしながら滑り上空へ投げ飛ばされる形で難を逃れた。
「ゲホッ、ゲホッ‼︎うぐ、なんつー威力だよちくしょう」
「ネェねぇ!今のなに今のナニ⁉︎スゴイねすごいネ‼︎」
空中で腹を抑え苦しむ所を嬉しそうに笑い、好奇心で溢れた目を向けてきた。....初めて見る、虚ろではない目だ。
「あんにゃろう、嬉しそうに狂いやがって......こっちはかなり苦しんだんだけどなぁ⁇えぇ⁉︎」
恐らくフランを狂わしている原因であろう黒い霧に殺意を露わにしたが霧は出てこない。フランはその代わりと言うかのように弾幕を生み出し、こちらに放とうとする。
しかし、やられっぱなしってのは性に合わない。まずは自分が戦うための場を作らせて貰う。
「やいフラン‼︎俺と遊びたいんだろ‼︎だったら気を失うまで付き合ってやるよ‼︎」
「エッ!ほント⁉︎」
「おうさ、だが遊び方を決めさせてもらう‼︎」
「やっタぁ‼︎」
対象の気を誘うことに成功、さらに有利な方法に選択可能。これで殺されるような事が起きないと思う。なにしろ『遊び』だ。フランにとって遊びは殺しかもしれないが、俺が提示した条件をみとめるように誘導して死なないに失神させてやらぁ‼︎
「ーー弾幕ごっこだ‼︎」
第二ラウンド、開始