軍隊の常識として、それは間違っていない。
では、社会の常識として、社会人は駒である事は間違いか?
答えは否である――
数十分後――第4機械化歩兵中隊ハンガー
「さて、お前ら。唐突だが出撃命令が下った」
基地に戻った俺は、第4機械化歩兵中隊の面々をハンガーに集めていた。
「いきなりかよ。こっちは訓練終わったばかりだってのに」
苦情を述べる、エーデル。
鉄拳制裁でもしてやりたいが、体力の無駄だろう。
「口を慎めよ、エーデル。それで隊長、任務内容は?」
一方で、口が悪い方ではあるアリサは、任務説明を求める。
仕事熱心なのは良い事か。
「そう焦んな、と言いたい所でもねぇから、説明に移るか。……明後日明朝03:00より東欧連邦国領、旧ベラルーシ、ボルコブイスクの前線基地を強襲。前線を押し上げるそうだ。……で、プランとしては第8、10、13戦車中隊と第21歩兵大隊が正面から侵攻。それに先んじて第4、5機械化歩兵中隊がHALO降下で先行突入。できる限り基地設備を破壊し撤収。尚、正面からの侵攻組と同時に、第6、7機械化歩兵中隊と第23歩兵大隊も侵攻。第9重迫撃砲中隊が後方から制圧支援をしてくれる、ともある。……作戦としてはシンプルだが、何か質問はあるか?」
「いいえ」
「無いぜ、隊長」
「Nein」
「特に無いです」
「……無いぜ」
全員、異存は無いらしい。
「作戦開始までは自由だが、腕は鈍らせるなよ?……以上だ、解散」
故に、あっさりと通達事項は終わる。
「じゃ、もう一戦やって来るか……」
「僕も復習しておこう」
アリサとコニーは機体へ再搭乗。
口振りからして、トレーニングか。
「……」
リタは…………既に機体へ搭乗、操作系の調整作業中。
機体の改良は重要だ。
で、残るは天樹とエーデルか。
と、思いつつ携帯端末を起動。自主課題として押し付けたシュミレータの結果を表示する。
(天樹は……まぁ、こんなものか)
天樹の方は、大方、予想通りの結果。悪くはない。
一方でエーデルは――
(……被撃墜判定、20。撃墜判定……3。その程度か?)
多少キツめの内容にしておいたのに、この程度とは。口先だけのカスだったようだ。
……ならば、やるべき事は決まっている。
「エーデル、お前もシミュレーター訓練だ。手解きしてやる」
叩き上げだ。
「……チッ、了解した」
俺の意図を察し、嫌そうに了解するエーデルを尻目に、訓練メニューを組み上げる。
難度は昼間に与えたヤツの二倍。
僚機は……有りにしてやるか。
と、組み上げたシミュレーションデータをエーデルの機体に送信した所で、肝心のエーデルも機体への搭乗を終えた。
「クリアするまで、出れないと思えよ?」
『黙れよ』
短いやり取りの後、シミュレーター起動。
エーデルを仮想戦場へと放り込む。
(これで少しはマトモになると良いが……)
小さく溜息。
小隊目下の課題はヤツの練度向上だろう。
「フォルさん」
直後、背後から天樹の声。
「なんだ?」
「お客さんみたいです」
「……お客さん?」
振り返る。
ハンガー入口に、女性兵士の姿。
(……アイツは…………第2多国籍機械化歩兵中隊のファマーか?)
何の用だろうか?
疑問に思いつつ、近付く。エーデルの訓練監督中とはいえ、ヤツの事だ、二時間ぐらいはクリアできないだろう。
故に、数分席を外すぐらいは……な。
「何の用だ、ファマー軍曹」
「ちょっとした連絡ですよ、フォールディ中尉」
ファマーは苦笑し、続ける。
「出来れば、今度の作戦で派手に暴れてください。……私は貴方とは違う作戦への参加ですが、幸運を祈りますので!」
要望を。
「……言われなくても、暴れてやるさ」
ならば、返すべきは快諾と、
「紙飛行機共は楽に落とせるが、壁殴りはどうだろうな?」
多少の嫌みだ――
A.C.3021 July.8 P.M.4:15 旧インド洋上
広大な海を、一隻の船舶が航行している。
船舶は多数の砲門と甲板、艦橋を備えた重航空巡洋艦。
その船内、MA格納庫内では――
「諸君、次の任務が決まったぞ」
一人の巨漢が、十数人の兵士に告げる。
「本当ですか、ヴァーチェノフ中佐」
「次は西欧連中のケツ掘りですか?それならば、自分にやらせてください!」
「いえ、U.S.O.捕虜の拷問が先でしょう。どうやってゲロを吐かせましょう?」
などと、兵士達のやる気は充分なようだ。
巨漢の名はヴォルガン・ヴァーチェノフ。
階級は中佐で、東欧連邦国軍 第9機甲大隊を預かる男。
ヴォルガンは苦笑し、
「仕事熱心なのは良いが、全て違うぞ、諸君」
騒ぐ兵士達を制する。
「今回は旧ウクライナ地区に存在する、我が軍基地の防衛だ。……何でも、そこで新兵器を開発している事が西欧連中にバレたらしく、二日後に同基地の制圧作戦が決行されるとの事で、俺達が呼ばれたらしい。……不安の種は早々に摘み取るのはお互い様だな。……と、いうわけで諸君。自軍の基地を守りつつ、西欧連中を肥溜めにブチ込めばいい簡単な任務だ。捕虜を取るか否かは諸君に一任しよう。何か質問は?」
「「「「「「ありません!」」」」」」
「「「「「「異議無し!」」」」」」
「「「「「「理解しました!」」」」」」
「「「「「特にありません!」」」」」
……無いらしい。
「諸君の心意気は理解した。解散して構わん」
『Да!!』
部下達が一斉に敬礼し、格納庫から出ていく。
数分で人気が失せ、格納庫にいるのはヴォルガンただ一人。
「……さて、手酷く…………って程でもねぇが、やられたな」
自分の機体を見上げる。
重装甲の多目的装甲。
その肩部はフレームが剥き出しになっている。
先の戦闘において、肩部装甲内蔵型の多連装ロケットランチャーに被弾し、誘爆によって比較的大きな損傷を負った為だ。
(アイツら……確か、U.S.O.軍 第9独立機械化強襲小隊――ルシファー小隊だったたか?)
ルシファー――堕天使、か。
過ぎた名だと思える。
ヴォルガンがやりあったあの機体は同小隊の基本戦術から見て、隊長機である事は明確。
隊長があの程度の実力では、タカが知れた部隊。
(……第一、戦場で“殺したくない”等、甘ったれた戯れ言ほざく奴には、軍人はおろか、市民面して生きる事自体がおこがましいんだがな……)
殺すな、壊すな、などと奇麗事ばかりほざく奴らは文献だけの戦争に踊らされた道化であり、自らが危機に瀕すれば、やはり奇麗事をほざいて真っ先に逃げる。
そうして、
ロクな解決策など提示せず、保身に走ったクソ野郎共。
あの機体のパイロットの根本的思想は、ソイツらと同じだろう。
だから、次に会ったら仕留める。
万一捕虜にでもなったのならば、現実を教えた上で嬲り殺しにしてやろう。
奇麗事に現を抜かした自分を呪いながら死ねるように。
と、結論が着いた所で、ヴォルガンの携帯端末が震える。
振動パターンはメール。
即座に開くと――
「…………随分と夢見がちな兵器だが、大丈夫なのか?」
それは防衛対象に含まれる、新兵器に関する資料だった――
A.C.3021 July.8 P.M.9:29 U.S.O.領 旧カリフォルニア U.S.O.軍基地内 第9独立機械化強襲小隊ハンガー
「……また、作戦か」
コンテナに腰かけ、携帯端末を開いた中肉中背の男――アルファ・ネクストは溜め息を吐く。
つい数時間前に旧オーストラリアで作戦を遂行し、小隊所属機の殆どが損傷を負い、ロクに修理も済んでいないというのに。
と、思ったものの、よく読めば作戦決行は二日後のようだ。
(……それでも、整備兵達は休み無く働かなければならないだろうな)
また、小言を言われそうだ。
溜息。
ともかく、作戦内容の確認だな。
目的地は――――東欧連邦国領 旧ウクライナ。
(……同地点の東欧連邦国軍基地の制圧?)
アイルランド戦線の前線補給基地の方ではないのか?
明らかに、悪意を感じる作戦内容じゃないか―――ん?
(……なるほど、行きはHALO降下で、帰りは黒海から輸送機、か)
どうやら帰還の手段はあるらしい。
『自分達の腕でどうにかしろ、チャンスは用意してやる』という事か。
酷い上層部だ。
結論が着いた所で、
「隊長!」
「何だよ、この任務は!?」
「落ち着けよ、お前ら……」
「む、無理だと思いますが……」
「…………」
ハンガーに小隊メンバー達が入ってきた。
どうやら、任務の抗議か。
(……さて、どうしたものか)
アルファは三度目の溜息を小さく吐き、コンテナから腰を上げ、
(……上層部への抗議、通ると良いがな……)
小隊メンバーの元へと歩き始める。
その後、仲間の抗議を聞いたアルファは上層部に作戦中止を具申したものの、黙殺されたという――
はい、ReportⅤでした。
一気に三人の視点はキツかった。
特に、アルファ視点は力尽きた感が強い。
因みに、アルファ・ネクストは僕のオリジナルキャラではなく、ルシファー小隊勢と共に、原案が提供されたキャラです。
僕的には、扱いづらいキャラです。
では、今回はこの辺で。
拝読ありがとうございました。