War Story   作:空薬莢

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一期一会とはよく言ったものだ。
間違いではないが、大切にすべき出会いと、そうでない出会いはある。
だからこそ、出会いは出会いか――

分かる人には分かるネタもありますよ。



Report Ⅳ The Innocent Girl? -後編-

数分後、俺は《青錆》に入る。

「うわぁ……趣味の良いお店だね~」

先程出会った、白と金の少女と共に。

本当は、この女と一緒になど来たくはなかったが、付いてきたのだ。

エネルギー不足の身体を栄養剤で無理矢理動かしている俺にとって、少女を追い払うのは無駄な労力だと判断した為、とも言えるがな。

物珍しそうに店内を見回す少女は無視。カウンター席に着く。

同時に声をかけられる痩身の男性の発言は、

「子連れとは珍しいな、ヴェイ。……どこで攫ってきた?」

酷いものだ。

「攫ってねぇよ、マスター。……腹に溜まる物をくれ」

不機嫌を隠す事無く、目の前に立つ、痩身の男性――マスターに雑なオーダー。

「腹に溜まる物、か。……さては朝飯を抜いたな?まぁ、良いけどさ。少し待ってろ」

それきり、マスターは調理を始める。

後は待つしかないか……。

ならば、出来る限りエネルギーを節約しなければ……。

空きっ腹に水を流し込み、店内BGMに耳を傾ける事十数分。

「こんなモンかな」

出された料理は、アイスバイン、ライ麦パン、アイントプフ、ヴルスト。……量はあるみたいだな。

余談だが、ドイツ連邦は朝食をしっかり摂り、昼と夜はそこそこか少なめという三食の形態を取っているらしい。

かくいう俺もそういうクチだが、今は腹に食料(モノ)を詰める方が先決。

身体中が栄養分を求めている。

パンは食い千切り、アイスバインとアイントプフは掻き込むように、胃に流し込む。

双方完食した後、ヴルストも腹に収める。

計10分も掛からなかった。

「……余程空腹だったんだな」

「……あぁ。昨日、色々とあってな」

夜中は人間本来の活動時間ではない為か、エネルギー効率が悪い。……どうでもいいか。

「で、そっちの嬢ちゃんは何か注文するかい?」

そっちの?

俺は真横を見る。

例の少女がいた。

「うーん…………。シュトーレン、かな?」

「シュトーレンか。……少し待ってな」

オーダーを受けたマスターは奥へ。

同時に、少女が俺に向き直る。

「オジさん、名前はなんて言うの?」

「教える義理はねぇよ」

数世紀前以上に治安が悪化している今、個人情報の価値は非常に高い。故に、たとえ無邪気に見える少女相手だろうと、気安く名乗る気は無い。

スリ常習犯の餓鬼もいれば、詐欺師紛いの餓鬼も別段珍しくないし。

「なら、私が名乗れば良いよね。それだとフェアだし。……ティルミ・リアクティブ。それが私の名前♪」

ティルミ・リアクティブか。……物騒な名前だな。

と、思った直後――

「おい、スモー!?」

「……焦らなくても大丈夫よ、ファマー。いつもの体調不良だと思うから」

「本当に身体弱いよね……スモーちゃんは」

ボックス席で急病人でも出たようだ。

しかし、いつもの体調不良とは……。

で、スモー?

聴き覚えのある名前だな。

暫し、思案。

(……もしかして、U.K.軍のアイツか?)

心当たりが見つかる。

本名、スモー・ルーディ。

西欧連合国軍、その中のイギリス軍に所属していたMAパイロットだったか。

もはやギャグの領域に達している病弱さで、軍人になれた事自体が謎な人物。

他に、ファマー・エクール……コイツはフランス軍出身で……って、

俺はある事に気付いた。

(ボックス席の奴らは西欧連合国軍第2多国籍機械化歩兵中隊の連中かよ)

アイルランド戦線の連中が何故、中東戦線参加側であるドイツ国内にいる。アイルランド戦線はU.S.O.との真っ向から殴りあってる筈だ。歩兵は元より、他所に割けるようなMA部隊は無い筈だろうに……。

上層部は無能か?

などと思いながら、出されていた珈琲を啜る。苦ぇ。

「御馳走様~」

「お粗末様でした。……良い食べっぷりだな、嬢ちゃん。……だが、もう少し綺麗に食えよ。……品のねぇ女は嫌われる」

その横では、少女――リアクティブがシュトーレンを完食したらしい。皿のサイズを見れば、おそらく一本丸々腹に収めたらしい。どんな胃袋持ってやがるんだ……というか、

(マスターも何言ってんだよ!?)

軽いナンパに近い発言だった。アンタはロリコンか?それとも、ペドフィリアと言った方がいいか?……ペドフィリアとは、精神異常の一種だが。

「……ヴェイ。一つ言っておく。俺は世辞を言ったに過ぎないぞ」

「…………そうかい」

口に出してねぇ筈なのに……何故、バレた?顔に出てたか?

(マスターも侮れねぇな)

接客業、営業の連中は人を見る目がある。……無ければ、仕事が上手くいかないしな。

仮面を被る必要性は高い。

それに比べりゃ、俺のような……軍人、それも下っ端の奴は仮面なんざさして必要無い。生物を殺せる精神力さえあれば、最低限の仕事はできる。

…………何を考えているんだか。

腹ごしらえは済んだ事だし、基地に戻ろう。

俺は席を立つ。

「マスター、代金は18€だったか?」

「あぁ」

財布から紙幣を取り出し、マスターに渡し、店を出る。

「おい10€の釣りだ……って、いらねぇのかよ」

なんて声を聴きながら。

 

 

オジさんは店を出ていった。

(……名前、教えてくれなかったなぁ)

店の出口辺りを一瞥し、私は内心がっかり。

オジさんの事、わりかし気になっていたのに。

名前が分かれば、調べようは内心幾らかあった。

でも、分かったのはオジさんが西欧連合の軍人だという事だけ。

残念だと思いながら、店内を見回す。

カウンター席は私一人だけ。

ボックス席の方には数人いるんだけど……。

「またか、スモー!」

「何に当たったんだ?」

「…………もう、止めようよ」

テーブルに一人の女性が突っ伏していた。

いや、突っ伏して痙攣している。

なんで?

と、首を傾げた矢先に、ポケットに一人の収めていた携帯端末が振動。

端末を取り出し、画面を確認。

「ハァ。もう、かぁ……」

溜息を吐く。

画面にはただ一言、

 

――二十分後だ

 

と、表示されていた――

 

 




以上、The Innocent Girl? -後編-でした。
思った以上にネタが使えなかった上にInnocent Girlの出番が無かったな。
後悔先立たず、ですかね。
今回はこの辺りで。
拝読ありがとうございました。

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