間違いではないが、大切にすべき出会いと、そうでない出会いはある。
だからこそ、出会いは出会いか――
分かる人には分かるネタもありますよ。
数分後、俺は《青錆》に入る。
「うわぁ……趣味の良いお店だね~」
先程出会った、白と金の少女と共に。
本当は、この女と一緒になど来たくはなかったが、付いてきたのだ。
エネルギー不足の身体を栄養剤で無理矢理動かしている俺にとって、少女を追い払うのは無駄な労力だと判断した為、とも言えるがな。
物珍しそうに店内を見回す少女は無視。カウンター席に着く。
同時に声をかけられる痩身の男性の発言は、
「子連れとは珍しいな、ヴェイ。……どこで攫ってきた?」
酷いものだ。
「攫ってねぇよ、マスター。……腹に溜まる物をくれ」
不機嫌を隠す事無く、目の前に立つ、痩身の男性――マスターに雑なオーダー。
「腹に溜まる物、か。……さては朝飯を抜いたな?まぁ、良いけどさ。少し待ってろ」
それきり、マスターは調理を始める。
後は待つしかないか……。
ならば、出来る限りエネルギーを節約しなければ……。
空きっ腹に水を流し込み、店内BGMに耳を傾ける事十数分。
「こんなモンかな」
出された料理は、アイスバイン、ライ麦パン、アイントプフ、ヴルスト。……量はあるみたいだな。
余談だが、ドイツ連邦は朝食をしっかり摂り、昼と夜はそこそこか少なめという三食の形態を取っているらしい。
かくいう俺もそういうクチだが、今は腹に
身体中が栄養分を求めている。
パンは食い千切り、アイスバインとアイントプフは掻き込むように、胃に流し込む。
双方完食した後、ヴルストも腹に収める。
計10分も掛からなかった。
「……余程空腹だったんだな」
「……あぁ。昨日、色々とあってな」
夜中は人間本来の活動時間ではない為か、エネルギー効率が悪い。……どうでもいいか。
「で、そっちの嬢ちゃんは何か注文するかい?」
そっちの?
俺は真横を見る。
例の少女がいた。
「うーん…………。シュトーレン、かな?」
「シュトーレンか。……少し待ってな」
オーダーを受けたマスターは奥へ。
同時に、少女が俺に向き直る。
「オジさん、名前はなんて言うの?」
「教える義理はねぇよ」
数世紀前以上に治安が悪化している今、個人情報の価値は非常に高い。故に、たとえ無邪気に見える少女相手だろうと、気安く名乗る気は無い。
スリ常習犯の餓鬼もいれば、詐欺師紛いの餓鬼も別段珍しくないし。
「なら、私が名乗れば良いよね。それだとフェアだし。……ティルミ・リアクティブ。それが私の名前♪」
ティルミ・リアクティブか。……物騒な名前だな。
と、思った直後――
「おい、スモー!?」
「……焦らなくても大丈夫よ、ファマー。いつもの体調不良だと思うから」
「本当に身体弱いよね……スモーちゃんは」
ボックス席で急病人でも出たようだ。
しかし、いつもの体調不良とは……。
で、スモー?
聴き覚えのある名前だな。
暫し、思案。
(……もしかして、U.K.軍のアイツか?)
心当たりが見つかる。
本名、スモー・ルーディ。
西欧連合国軍、その中のイギリス軍に所属していたMAパイロットだったか。
もはやギャグの領域に達している病弱さで、軍人になれた事自体が謎な人物。
他に、ファマー・エクール……コイツはフランス軍出身で……って、
俺はある事に気付いた。
(ボックス席の奴らは西欧連合国軍第2多国籍機械化歩兵中隊の連中かよ)
アイルランド戦線の連中が何故、中東戦線参加側であるドイツ国内にいる。アイルランド戦線はU.S.O.との真っ向から殴りあってる筈だ。歩兵は元より、他所に割けるようなMA部隊は無い筈だろうに……。
上層部は無能か?
などと思いながら、出されていた珈琲を啜る。苦ぇ。
「御馳走様~」
「お粗末様でした。……良い食べっぷりだな、嬢ちゃん。……だが、もう少し綺麗に食えよ。……品のねぇ女は嫌われる」
その横では、少女――リアクティブがシュトーレンを完食したらしい。皿のサイズを見れば、おそらく一本丸々腹に収めたらしい。どんな胃袋持ってやがるんだ……というか、
(マスターも何言ってんだよ!?)
軽いナンパに近い発言だった。アンタはロリコンか?それとも、ペドフィリアと言った方がいいか?……ペドフィリアとは、精神異常の一種だが。
「……ヴェイ。一つ言っておく。俺は世辞を言ったに過ぎないぞ」
「…………そうかい」
口に出してねぇ筈なのに……何故、バレた?顔に出てたか?
(マスターも侮れねぇな)
接客業、営業の連中は人を見る目がある。……無ければ、仕事が上手くいかないしな。
仮面を被る必要性は高い。
それに比べりゃ、俺のような……軍人、それも下っ端の奴は仮面なんざさして必要無い。生物を殺せる精神力さえあれば、最低限の仕事はできる。
…………何を考えているんだか。
腹ごしらえは済んだ事だし、基地に戻ろう。
俺は席を立つ。
「マスター、代金は18€だったか?」
「あぁ」
財布から紙幣を取り出し、マスターに渡し、店を出る。
「おい10€の釣りだ……って、いらねぇのかよ」
なんて声を聴きながら。
オジさんは店を出ていった。
(……名前、教えてくれなかったなぁ)
店の出口辺りを一瞥し、私は内心がっかり。
オジさんの事、わりかし気になっていたのに。
名前が分かれば、調べようは内心幾らかあった。
でも、分かったのはオジさんが西欧連合の軍人だという事だけ。
残念だと思いながら、店内を見回す。
カウンター席は私一人だけ。
ボックス席の方には数人いるんだけど……。
「またか、スモー!」
「何に当たったんだ?」
「…………もう、止めようよ」
テーブルに一人の女性が突っ伏していた。
いや、突っ伏して痙攣している。
なんで?
と、首を傾げた矢先に、ポケットに一人の収めていた携帯端末が振動。
端末を取り出し、画面を確認。
「ハァ。もう、かぁ……」
溜息を吐く。
画面にはただ一言、
――二十分後だ
と、表示されていた――
以上、The Innocent Girl? -後編-でした。
思った以上にネタが使えなかった上にInnocent Girlの出番が無かったな。
後悔先立たず、ですかね。
今回はこの辺りで。
拝読ありがとうございました。