War Story   作:空薬莢

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下衆は下衆であり、塵は塵である。
本質を見誤るな。






ReportⅡ The Innocent Girl?-前編-

第5機械化歩兵(ライヒ)中隊は全滅した。

あの無線の後に立ち昇った火柱は、アイツらだったらしい。

どんな熟練者だろうと運が悪ければ死ぬし、運が悪くなくとも、いずれは死ぬ。

それが戦場の摂理であり、世界の本質でもある。

よって、今現在必要なのは、彼らの死因であり、死を悲しむ事ではない。

回収された機体はコクピットを正確に寸断されていたらしく、パイロットは皆、ミンチと化していたらしい。

が、死体の状況は多目的装甲パイロットの死体としては、ごく普通だ。

普通では無かったのは、奇跡的に回収できたという、戦闘記録機――ミッションレコーダー――の内容だった。

 

『クソッ!ロックできねぇ!』

『手動照準で対応し――ぐあぁっ!』

『ライヒ8、大破』

『この野郎ッ!』

『突出するな、ライヒ3!各員、包囲射撃を展開。所詮は紙装甲だ、当たれば殺れる!』

 

――レーダーに映らず、火器管制装置(FCS)のロックオンも不可能な、映像記録に映る、深い蒼に染め上げられた多目的装甲。

その両腕には、展開式の大型実体剣(カーボンブレイド)、短機関砲が握られている。

他に武装が見受けられない以上、ライヒ中隊はカーボンブレイドで葬られたと見て間違いない。

近接戦闘は嫌というほどやって来たが、カーボンブレイドは使う気が起きない。……デッドウェイトだからだ。

絶大な威力を持とうとも、それが取り回しの悪い近接武器ならば、不要である。

……ま、何にしてもマニュアル照準の精度が重要になる相手か。

前衛機が搭載するFCSは敵機をロックオンし、銃口を追従させる機能がある。

ただ砲弾を叩き込むだけならば、有効な機能であるが、パイロット自身の射撃精度を向上させる物ではない為、今回のような機体相手には非常に分が悪くなる。

一方で後衛機のFCSでは、ミサイル使用時以外はマニュアル照準固定であり、サポートされるのは風向、風速、外気温、湿度等といった射撃精度に関わるデータの提示のみであり、単純に考えれば、ステルス機にも対応できる。

が、高機動機が主体のU.S.O.軍相手には、キツいものがあるのだろう――

(……今、何時だ?)

端末の画面から視線を外し、時間を確認。

――A.M.8:21

夜通しで考え事かよ……。

俺らしくねぇ。

重い頭を引き摺りながらベットに横になる。

作戦があったのは12時間前。

それから、食事やら何やら済まして宿舎の自室に戻り、ポルノ雑誌を読み漁る気にもなれずに、小隊メンバーの訓練メニューデータ作成、ライヒ中隊壊滅の考察に耽った結果、今に至る。

(眠れねぇ……)

目が完全に冴えてやがる。

……当然だ。

俺は考え事の時はブラックコーヒーを飲む。

カフェインを摂り過ぎて眠れなくなるというのは、迷信だという話を聞いた事があるが、真偽のほどは定かではない。……第一、カフェイン量はコーヒーより紅茶その他の方が多い。

(まぁ、いいか……一日は始まってんだ……)

立ち上がり、ベッド下から細長いプラスチックケースを取り出す。

中身は特製の滋養強壮剤が詰まった小瓶――早い話、栄養ドリンクだ。

一本取り出し、封を切って一息で飲み干す。

喉を通過する激痛、味覚を狂わす苦味と酸味が意識を鮮明化させ、頭痛、疲労が消し飛ぶ。

「ハァ……ハァ……」

口腔内が気持ち悪いが、怠さが吹き飛んだだけ良しとする。

部屋着を脱いで軍支給の耐火カーゴ、ジャケットに着替え、兵舎を出ると――

「「「「145!146!147!148!149!150!!」」」」

「14……2、1……43、1……4……4……1……4…………5………ハァ……ハァ……」

「誰が休んでいいと言ったっ!?寝るな、蛆虫がっ!」

「でも……腕に力が……がふっ!?」

「減らず口をほざくな、蛆虫野郎っ!甘ったれた言葉は母親の腹ん中だけでほざきやがれ!!全員、150回追加だっ!!」

「「「「「Ja!!」」」」」

腕立て伏せを行う集団の声。……おそらく、第7機械化歩兵中隊の奴らか。

暑苦しい事この上無い。

無視して通り過ぎるが、

「東の馬鹿共、蹴り飛ばしー」

「「「「「東の馬鹿共、蹴り飛ばしー」」」」」

「素敵なご褒美叩き込めっ!」

「「「「「素敵なご褒美叩き込めっ!」」」」」

「U.S.O.(オーシャン)はろくでなしー」

「「「「「U.S.O.(オーシャン)はろくでなしー!!」」」」」

「女を見かけりゃ喰らうだけー」

「「「「「女を見かけりゃ喰らうだけー!!」」」」」

今度は、ケイデンスを歌いながらランニングする集団が目の前を横切っていく。

(第13歩兵大隊か……)

アイツらは新兵か。

あの歌は新兵を軍隊式に矯正する為のもので、主目的としては士気高揚、連帯感の強化。……まぁ、ガス抜きも含まれているが、それはどうでもいい。

俺としてはあの新兵共の染みったれた精神がどこまで保つのか、が見物だな。

(……我ながら、腐った事考えてるな)

やっぱり疲れが取れてないな。

……いや、エネルギーが足りてねぇからか?なら、早く飯を食わねぇとな……。

かなり距離が空いたとはいえ、聴こえるケイデンスを聞き流し、歩みを進める。

……行き先は第4機械歩兵中隊の多目的装甲格納庫。

ウチの新入りに今日の訓練メニュー(課題)を伝えねぇと……。

飯はそれからである。

(だが……食堂は閉まってるだろうし……外食しかねぇか)

出る時間が遅過ぎたのは、失態か。

などと思ううちに、格納庫に着き、集合している5人の新兵を発見。

確認するまでもなく、俺の小隊メンバー。

「わりぃ、遅くなった」

軽い調子で近付いていく。

「おはようございます、隊長」

「フォルさん、遅いですよー」

「私達から見れば、上司なのは分かるが……重役出勤は止めてほしいぜ、隊長」

「……Guten Morgen」

「へっ、緩い隊長だな!」

返答は個人差がある。当然だが。

(……取り敢えず、エーデルにはキツめのメニューを課せるか)

ケルテック一等兵の返答はまだ許せるが、流石にアレは許せない。

自身の携帯端末を操作し、小隊メンバーへと訓練メニューを送信し、彼らに向き直る。

「早速だが今回の訓練もシュミレータ使用だ。各自、携帯端末で確認しろ。……以上、訓練開始!」

「「「「「Ja」」」」」

敬礼を返したメンバー達が格納庫へと入っていく。

その様子を眺めた後、俺は格納庫から離れる。

いつまでも空きっ腹というわけにもいかない。

数十分後、俺は軍基地近くの繁華街を歩いている。

この辺りの飲食店は値段のわりに味が良い。……どんなに酷くとも、軍の味気ねぇ携帯食料よりは。

その中でも、俺が気に入っているのは《青錆》という名の飲食店。

名前こそアレだが、美味いし、比較的安い。

(さて、飯……)

《青錆》に入ろうとして、

「君、一人かい?」

男の声が耳に入る。それも、明らかに下心の垣間見える類いの。

(……なんだよ、ナンパか?)

ならば後に続くのは、健全な青少年がゲロを吐くような、醜い乱交パーティーだろう。

(せめて夜にやれよ……)

昼じゃ目立つんだよ。

苛立ちながら、声の元に向かう。

取り敢えず、ナンパ師を一発殴ってから飯だ。

……で、行き着いたのは、路地裏。

「俺達とお茶でもどうだい?」

「大丈夫、お茶するだけだ」

俺と同じ耐火軍装姿の男達が、何者かに話しかけている。……肝心の何者かは、見えないが。

(あの顔ぶれ…………第11機械化歩兵中隊かよ)

馬鹿共が。

――第11機械化歩兵中隊。規律をゴミ箱に投げ捨てたとしか思えない、不良共。おまけに実力は新兵に毛が生えた程度である為、はっきり言って軍の汚点である。

今度は誰に声を掛けているのか……。

と、思った矢先に聴こえた声は、

「う~ん……何処でお茶するの?」

やたらと高い、可愛らしい少女の声だった。

おいおい……馬鹿共、ついに幼女漁りかよ。女に餓えすぎだぞ。

「お、行く気になったのかい?」

「場所によるよー」

「そうだな……お嬢ちゃんの好きな店に行こうか」

「そうと決まれば、早く行こうか」

男の一人がそう言った直後、何かが折れる音が聞こえた。

「ぐあぁぁっ!?腕があぁっ!!」

絶叫する男の腕は醜く腫れている。骨を折られたらしい。

「このガキッ……人が下手に出てるから――っ!?」

怒りを滲み出した別の男の首に絡む、白く細い人間の脚。

遅れて、白と金の塊が動き――

「ごふっ!?」

アスファルトに打ち付けられる生ゴミ。見事なフランケンシュタイナー。

「ワンダウンー♪」

白と金の塊は可愛らしい声で言い、立ち上がる。

どうやら、馬鹿共のナンパ相手は、この白と金の塊――もとい、金髪の少女だったようだ。

「次、いっくよー☆」

残りの馬鹿共が動くより早く、少女が動く。

「うおっ!?」

手近な相手に対して、ダッシュの勢いを利用した、スライディング気味の足払い。

「がっ!?」

浮き上がった身体目掛け、遠心力を乗せた、回し蹴りが食い込み、アスファルトと蹴りのドリブルの後、ダウン。

「トゥーダウンー♪」

言いつつも、蹴りの遠心力で飛び上がった少女は空中で身体を捻り、

「ぐはっ!?」

別の男の脳天に踵落とし。

「このア――ぐふっ!?」

「スリーダウンー☆」

続けて、ショートダッシュからの鳩尾を狙った掌底。

怯む男。

「フォーダウンー☆」

「っ!?」

そして、無慈悲に繰り出された、金的。

見てるこっちの背筋が寒くなる……が、これで少女をナンパしていた馬鹿共全員がダウン。

傍観する価値も無かった、ストリートファイトは呆気無く終了したのだ。

「ふぅ……。さて、戻ろ――ん?」

振り返った少女と視線が交錯。

長い金髪に、整った端正な顔。色白かつ華奢な身体を包む白いロングのワンピース。

ビスクドールじみた少女だ。

「おじさん、いつからそこにいたの?」

屈託の無い声で問われ、

「ついさっきだ」

と、答える。間違ってはいないはずだ。

だが、少女は納得していないのか、暫し俺の顔を眺め――

「……この人達の知り合い?」

倒れ伏す男を指差し、問う。

知り合いというか、同業者だが……正直言うと、俺も蹴られそうだ。

「……いや、違う。ともかく、あぁいうゴミ野郎には気を付けろよ」

俺はシラを切り、裏路地を後にした――

 

 

 




――というわけで、第3話。
僕の作品お馴染み、元気な幼女の登場です。
案外、元気な幼女ってのは扱いやすいものです。……物語的に、ですよ?。
僕はロリコンではないので。……いや、リ〇オーヌは好きだけど。って、知ってる人いないか……。あるラノベのキャラです。
では、今回はこの辺りで。
拝読ありがとうございました。

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