血と鉄でしか、語り合えない事はある。
それが……戦争の一端だ――
――西暦2890年。
増え過ぎた人口に対する解決策として、火星や月が
その物質は電流を加える事で、無機有機問わず結合、増殖すると共に、莫大なエネルギーを放出する性質を持っていた。
また、この時に精製される結晶状の物質すらも、一定以上の電圧を加える事で同様にエネルギーを放出する性質があった為、外惑星移住と共に問題に挙がっていたエネルギー不足は同物質によって、解決に向かう。
しかし、優位性だけに着目して使用された為、人類はこの物質が非常に危険な物だとは気付かなかった。
後に性質から《マージ》と名付けられた同物質の性質は、結合した物質の原始構造を破壊し、エネルギーを取り出しつつ、似た物質として増殖するものだったのだ。
そんな事などいざ知らず、マージを多用とした人類はある時、悲劇を起こす。
制御を誤った《マージ》が流出し、アフリカ大陸の8割が更地と化すという、大災害を。
この人災により、《マージ》の制御技術と危険性の研究が活性化した一方で、それまで然程積極的ではなかった、外惑星移住が急速に広まり、人類総人口の実に4割にあたる60億人が外惑星へと移住した。
地球に残ったのは、宇宙と外惑星に不安を拭いきれない臆病者と、今ある権力を失いたくない国の上層部達。そして、貧困に喘ぐ人々。
やがて、国家は再編され、地球は四つの国に分割された。
――旧欧州を統合した西欧連合国。
――旧ロシア連邦とアジア諸国が統合した東欧連邦。
――旧アメリカ合衆国を主軸として、北米と南米が同盟を結び、生まれたU.S.O.
――中立の立場を貫き通す、日本国。
これら四国家は初めこそ、国連によって纏められていたが、何十年と時が過ぎた西暦2960年、平和は砕け散る。
数世紀前から続く、旧ロシア連邦と旧アメリカ合衆国の対立が表面化してしまった為だ。
開戦の火蓋を叩き切ったのは東欧連邦。
溜まりに溜まった不満をぶつけるかのように、U.S.O.国内のマージ発電所を空爆したのだ。
同空爆により、北米西海岸の四割が更地と化したU.S.O.は即座に報復行動を開始。東欧連邦領遼東半島を占領し、旧モンゴル地方とシベリア地方に侵攻。
これが、地球全土を巻き込み、今現在まで続く泥沼化した《第五次世界大戦》と呼ばれる戦争の理由だと言われている……。
――AC.3020 July.7 東欧連邦領 旧エジプト近郊
『バルト隊、まもなく作戦エリアです』
『了解。戦闘体制に移行する。各員、システムスタンバイ』
東欧連邦領内を数台の大型トレーラーが疾走。
各トレーラーの荷台には、二機ずつ、角張った金属の巨人――多目的装甲と呼ばれる有人搭乗型軍用兵器が載せられている。
その多目的装甲の一つに、俺は乗っている。
正面モニターに表示される各種機体状況。
(ジェネレータ正常駆動。ブースタ、人工筋肉共に異常無し)
全システム、
サブカメラに写るのは、無味乾燥した砂漠と――軍用兵器。
『バルド6、敵戦車部隊確認!距離、7000』
『了解。トレーラーは停止。十分後、味方戦車部隊が交戦予定だ。ブリーフィングで説明した通り、俺達は横合いから崩す』
『『『了解』』』
味方機パイロット達の返答とほぼ同時に、トレーラーが停止。
搭載された多目的装甲が砂漠に降り立つ。
少し遅れて俺もトレーラーから降り、
『各機、ツーマンセルで散開』
部隊長の指示に従い、散らばる。
『……うわぁ、機外温度は77.5℃だとよ、ヴェイ』
配置に着き、敵部隊の監視に移ろうとした直後に、後方支援のパイロットから無線。
機外温度?砂漠なら、そのぐらいは普通だろう。
「作戦行動中だぞ、バルド5。私語は帰ってからほざけ」
『へいへい……。真面目な奴だねヴェイは……って、戦車部隊が移動を始めやがったっ!』
……なんだと?
カメラの望遠倍率を上げ、確認――本当だ。
「……こちらバルド3、敵戦車部隊の移動を確認。奴等、味方戦車部隊に気付きやがったみたいだ」
『そのようだな。……今入った情報だと、味方戦車部隊が交戦開始したらしい。各機、
『『『『了解!』』』』
伏せていた味方機が次々と立ち上がり、移動開始。
かくいう俺も、
「バルド5、援護は任せた」
『了解。思いっきり暴れようぜっ!』
後続機に援護を要請し、砂丘を飛び越える。
遠くに見える数多の主力戦車。距離は……7480。
歩行じゃ埒が開かない。
腰部後方に取り付けられたブースタを点火。
後方奔流が機体を前に押し、加速。
一気に距離を詰め、残り5000m。
再加速。
残り3200m。
そこで敵戦車部隊もこちらに気付いたらしい。
何両かが、こちらに砲塔を向ける。
だが、遅い。
『ヒャッハー!!』
『鉛のバーゲンセール、開催中だっ!!』
味方機が手にした35㎜突撃砲を撃ち始め、
緩い放物線を描く砲弾に薄い上部装甲が撃ち抜かれ、乗員はミンチと血糊に変わる。
『二両撃破』
『俺は三両だ』
味方のキルスコアは聞き流し、俺も操縦棍のトリガーを引く。
レティクルの中心を基点に、35㎜砲弾が飛び散る。
変わらず、緩い放物線を描いて、上部装甲をブチ抜き、鉄屑と不味いミンチが増えていく。
『おいおい、バルド3。俺の出る幕ねぇよ……』
「別に良いだろ。弾薬費が節約できる」
軽口を叩く余裕するある始末だ。……嫌な予感がする。 一応、警戒しておくか。
「バルド5、暇ならレーダーを起動してみてくれ」
『あん?レーダー?敵は
「嫌な予感がするんだよ。…………幾らなんでも、ザル過ぎる」
『ハァ……心配性だな、バルド3。了解だ。何もねぇ事を祈るぜ』
「恩に着る。
気が付けば、標的は全てが鉄屑に変わっている。
『バルド1から各機へ。撃ち方止め。目標は完遂した。帰投するぞ、トレーラーに戻れ』
『『『『了解』』』』
バルド隊の任務は終わった。これで帰れる。
各々、安堵しながらトレーラーに向かう中、脚を止める機体が二機。
俺とバルド5の機体だ。
「バルド5、結果は――」
『バルド5から各機ヘ!14時方向、距離7000。敵
嫌な予感が当たりやがったっ!
『クソッ!バルド隊各機、迎撃体制に移れっ!』
焦ったような部隊長の指示。
その指示を嘲笑うように、耳をつんざく飛翔音。
少し遅れて火柱が上がる。
『バルド7、大破!』
長距離砲撃……しかも、後方支援機を狙いやがった。
俺とバルド5は咄嗟に砂丘の影に隠れる。無駄と分かっていながら。
『敵に汎用砲持ちがいるな、バルド3』
「あぁ。……バルド1、砲撃許可を」
『……許可する』
『了解。野郎共、良い気になるなよ――』
暫し黙り――
『フォイア!!』
轟音を上げて、280㎜榴弾が空に放たれる。
数瞬遅れて、爆音。
着弾。成果は――
『一機破壊。だが、前衛機だ。クソッ!』
「距離は……4000」
クソッ!有効打となるものがねぇ。
俺の多目的装甲の武装は35㎜突撃砲と150㎜散弾砲。
どちらも近距離用。
味方で残っている汎用砲持ちはバルド5のみ。
彼は今も砲撃を行っているとはいえ、既に位置は割れており、見え透いた砲撃と言える。
よほど相手が阿呆でもない限り、当たるわけがないのだ。
(せめて、もう一門あれば……)
二門の汎用砲があれば、偏差砲撃で仕留められる可能性が上がるのに。
そう思いながら、大破炎上しているバルド7機を見る。
胴体――コクピットブロックに大穴が空いている。確実に搭乗者はミンチになっているだろう。
恐らく武装の方も…………なんだと?
貫通した
(……借りるぜ)
突撃砲と散弾砲を肩部ラックに
バルド7から狙撃砲を拝借。砂丘に機体を投げ出し、構える。
機体システムが近接仕様である為、
スコープを覗き、モニターに表示される
交差点と疾走する無骨な多目的装甲を合わせ――僅かにずらし、発砲。
一瞬だけ
砂漠用迷彩に彩られた無骨な多目的装甲後部――汎用砲――を破壊した。
(クソッ!大破ならずか。まぁ、
内心で毒づき、第二射。
今度は、同対象の右腕マニュピュレータが吹き飛ぶ。
またかっ!
やはり、手動照準は難しい。もっと練習すべきだったな。
――という、反省は後。比嘉の距離は2000を切っている。突撃砲の射程内――
『野郎共ブッ殺してやらぁっ!!』
『蜂の巣になりやがれっ!』
突撃砲の射程内だと理解したのだろう。先程の戦闘でも初発を撃った二機が躍り出る。
無線から聴こえた言葉は完全にアドレナリンが回った、戦闘狂のそれだ。
(馬鹿野郎がっ!)
咄嗟の射撃とはいえ、前衛機の左腕を破壊。
撃ち切った
代わりにマウントした突撃砲、散弾砲を再保持。
「友軍の援護を頼むぜ」
『分かってる。……任せな』
短い通信の後、俺も前線へと躍り出――ブースタを吹かす。
相手の45㎜突撃砲の発砲炎が見えたからだ。
即座に35㎜突撃砲を応射しつつ、距離を詰める。
ロックした敵機が識別され……データ表示。《DI T01D バレット》。
武装は180㎜多連装ミサイルランチャー、45㎜突撃砲、カーボンナイフ。
(ミサイルはいてぇな)
誘導兵器は例え欺瞞が楽な赤外線誘導式とて、回避が面倒。
さっさとケリを着けよう。
ジェネレータ出力向上。
ブースタ再点火。
比嘉の距離は300。
両マニュピュレータに握る砲――突撃砲と散弾砲の双方を斉射。
先に散弾砲の弾倉が空になるが、問題無い。
距離は100以下。
格闘戦の距離。
それを悟ったであろう敵機がナイフを抜こうとするより早く、俺はブースタ起動。背後に回り込んだ後、双砲――正確には、砲身下部に取り付けられた大型カーボンブレード――を突き刺す。
コクピットが貫かれ、亀裂と刀身の隙間から赤黒い液体が溢れた。
排除完了だろう。
突き刺した砲を抜く。刀身は肉片に塗れ、紅く濡れていた。
『バルド1より各機へ。敵多目的装甲の殲滅を確認した。帰投するぞ』
同時に響く、部隊長の指示。
「バルド3、了解」
しかし、命令に従う部隊員は俺だけだった――
――はい、そんなわけで《War Story》プロローグでした。
前述の通り今作は執筆:空薬莢ですが、メカニック:アルファるふぁ氏、細かい設定他:空薬莢で制作しております。
初回という事で、あまり言える事はありません。
今回はこの辺りでお暇させていただきます。
超低速更新に耐えられる方は、気長にお待ちください。
では最後に、拝読ありがとうございました。