War Story   作:空薬莢

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殺し殺され、世は廻る。

だから、恐れるな。早いか、遅いかの違いしか無いのだから――


ReportⅦ ~The Angels Die~

 

 

A.C.3021 July.10 A.M.8:35 東欧連邦領 旧ウクライナ ウマニ陸軍基地内

 

「これで全部か……」

硝煙と黒煙が立ち昇る広場には、数十機の多目的装甲の残骸が散らばっている。

その全てが、東欧連邦の機体。

「ルシファー1より各機へ。……ブツは見つかったか?」

部下に指示を出す。

俺達の目的は、試作機の破壊。

詳しい事は知らないが、局地戦用の大型兵器であり、既存の兵器では対処が困難らしい。

(……そんな兵器を作らせてたまるかよ)

学生時代の座学では、今起こっている三つ巴の戦争の根本的原因は、東欧連邦の国際法を逸脱した侵略行為に対するU.S.Oの制裁が発端と教えられた。

太古の昔から、俺達と東欧連邦はいがみ合っていた。

一時期は“冷戦”と言われていたが……その頃の方は悲惨だったらしい。

他国を(そそのか)し、争わせる。即ち、“代理戦争”が頻発したから。

(今はそんな事が無い分、多少はマシということか?)

有り得ないな。……戦争は何時だって、悪しき行いだ。

『ルシファー2より各機へ。増援確認。西欧機体、おそらく“ブラウンベス”が6機』

ブラウン・ベスか……。

かつての女王の名を冠した、欠陥機。

格闘性能に重きを置いた性能だった筈。

計器確認。

残弾、推進用マージ・マテリアル(MM)は充分。

「確認した。ルシファー6以外は応戦しろ。だが、弾薬は浪費するなよ」

『『『『『Yes,sir』』』』』

部下達の了承を聴きつつ、旋回。

その瞬間、

『機体温度上――!?』

ルシファー5の正面装甲が()()

続けて飛来した砲弾が、コクピットブロックを破壊。

ルシファー5が戦死した。

「クソッ!各機、注意して臨め!」

マージ・ブースタ起動。

レーダー確認。

怪しいのは――そこか!

ルシファー5の残骸から程近い裏路地に移動。

案の定、そこには曲面装甲を多用とした、中世の騎士に似たMAの姿。

数は二。

ブースタを吹かせたまま、水平移動。

過去位置を抉る砲弾。

照準修正。

右腕の40㎜突撃砲《WA AC10-D》を速射。

狙いは腕部装甲の継目。

何割かが、狙い通りに着弾し、敵機の腕部を破壊。

背部に予備の武装は無い。

一機、無力化。

残る一機も同様の手順で無力化し、

『ルシファー3、敵機撃破』

『ルシファー4、敵機撃破』

『ルシファー2、敵機撃破。敵対勢力の全滅を確認した』

部下達の報告が続く。

殲滅完了。

『隊長、また無力化するだけかよぉ……』

『殺しとかなきゃ、また来るぜ?』

後は、いつも通りの戦い方への不満。

言わんとする事は理解しているさ。俺もアイツらも……お互いにな。

「だとしても、俺は血で汚れる気は無い。……ルシファー6、試作機の位置は割り出せたか?」

『えぇ。地下です。ゲートロックも解除出来ま――クソッ!』

報告の最後に悪態。

「どうした?」

『試作機の起動を確認。こちらに向かってきます!』

「了解した。出現予想地点は分かるか?」

『勿論。送信します』

「……確認した。各機、迎撃準備だ」

起動されちまったならば、面倒だ。

なにせ、試作機のデータは無い。

慎重に行かないとな……。

『ったく。破壊目標が起動って……漫画じゃあるまいし』

『無駄口を叩くな、ルシファー3。死亡フラグだぞ』

『死亡フラグねぇ……。俺、基地に恋人がいるんだ――とか、言えば良いのか?』

……コイツら。

(まぁ、軽口を叩ける程度に、落ち着いているのか……はたまた、緊張しているのか)

どちらにしても、時間は待ってくれない。

徐々に大きくなる、駆動音がそれを証明している。

鮮明に聴こえる事から、時間的余裕は無い。

「無駄話はそこまでだ。各自、構えろ」

『『『『了解』』』』

指示を出しつつ、全武装の最終チェック。

40㎜突撃砲――残弾7割。

300㎜ロケットランチャー――残弾、3。

背部180㎜ミサイルランチャー――残弾、6。

近接格闘兵装、損耗無し。

確認終了。

と、同時に――背筋に悪寒が走り、俺は反射的にブースタを吹かし、サイドステップ。

直後、元いた位置の地面が赤熱化した。

(あぶねぇ……一歩遅かったら、戦死だな)

安堵しつつも、視線を出現予測地点へ。

音が消える。

そして、再び響く。

重い扉が開く音ではなく、破壊され、吹き飛ぶ音が。

蔓延する土煙。

出てくるのはどんな機体だ?

奇襲を警戒しつつ、土煙を睨む事暫し。

破壊目標が現れる。

太い4本の脚を持つ、昆虫然とした機体。

背部からは羽のように多数のコンテナが突き出し、前面にも多数の武装が確認できる。

全体的に、蝶と何かを掛け合わせたような雰囲気の機体。

こんなのが破壊目――

砲声。

ルシファー3の突撃砲か。

『隊長!様子見は撃ちながらにしてくれ!』

『そうですよ。コイツを潰せば任務完了ですよ!』

ルシファー4も攻撃を開始。

二機が速射する35㎜圧縮マテリアル徹甲弾(CMB-AP)が破壊目標たる機体――仮称、バタフライに迫る。

防御性能を図るには充分か、と思ったのも束の間。

『ぐあっ!?』

接近しつつ、攻撃を続けていたルシファー3の正面装甲が大きく抉れ、通信断絶。

……撃墜された。

バタフライが武装を使用したようには見えない。

「何が起こった?」

『分かりませんが、対象は無傷ですよ』

「……本当だな」

確認すれば、無傷で居座っている。

バタフライには突撃砲程度では効かない、と?

「ルシファー2、支援砲撃は――」

『ルシファー3、4の攻撃に合わせて行っている。……結果は見ての通り』

90㎜多目的狙撃砲も駄目、か。

ロケットランチャーとミサイルにかけるしか――

 

――CAUTION

 

警告音。

バタフライ背部から、多数のミサイルが撃ち出される。

《WA AC10-D 》を用いて、ミサイルを迎撃しつつ、ブースタ移動。

全てのミサイルを迎撃した所で、一気に距離を詰め――左腕の《WA RK05-C》を一回発射。

続けて、ブースタを前面に吹かし、急速後退しつつ、効果を窺うが――炸裂した様子が無い。

代わりに、俺の周囲が抉れていた。

(……攻防一体のバリア、みたいなものか?)

飛来する砲弾を無効化し、何かしらの手段で反撃する機構。

ルシファー3を殺し、俺やルシファー2の攻撃を尽く無効化しているのは、おそらくそんな武装。

ロケット弾が駄目ならば、ミサイルは…………絶対に効果が無いだろう。

……上層部が破壊指示を出したのも頷ける。

コイツは脅威だ。現状の装備では、太刀打ちできないかもしれない。

(どうする?)

考えろ。

バタフライを撃破する方法を。

闇雲に撃った所で、掠り傷すら与えられない。

近接格闘戦に持ち込もうにも、その前に機関砲やらで蜂の巣になるのがオチ。

どうにか、損害を与える手段を探さないと――思考中断。

ブースタ起動。

サイドステップ。

しかし、機体を激しい衝撃が襲う。

 

――右腕に深刻な損壊発生。稼働不能。

 

モニターを確認すれば、右肩から下が無くなっていた。

『ルシファー1、蒼白い光条が確認できた。……恐らく、電磁投射砲』

即座に、ルシファー2が原因を教えてくれた。

電磁投射砲――。

亜光速の砲撃。

発射されてからでは、避けようのない攻撃――。

ますます、打つ手が潰えていく。

装填弾数の少ない武装しか無く、いずれもバリアを突き破るには至らない。

『クソッ!クソッ!なんで当たらねぇんだ!』

悪態を吐きつつ、突撃砲を撃ち続けるルシファー4。

彼の機体の周囲は抉れ、バタフライは無傷のまま。

バリアが減衰した様子は一切無いようだ。

――CAUTION

警告音を聴き、回避機動。

機体を掠めていく、蒼白い光条。

当たれば即死の砲撃に、胆が冷える。

『……どうするの?』

「今考えている。……が、対抗策が思い付かねぇ」

バリア自体が、どういう原理か――ん?

(攻撃が無効化されると共に、周囲が抉れる……。反射しているわけじゃないよな?)

それなら、成形炸薬弾による爆発がある。

つまり、攻撃自体を実体弾として、跳ね返しているわけだから――

もしかしたら……。

「ルシファー2。奴は、霧状の荷電マージをぶちまけているのかもしれない」

『……なるほど。つまり、反撃の正体は、マテリアル?』

「そういう事だろうな。……しかし、そうなると物質的攻撃手段は一切が無効だ。……状況は好転しない」

『…………そうでもない。賭けになるけれど、方法はある』

「方法?」

『ブラウン・ベスの主兵装に、熱線銃があった筈。熱エネルギーならば、マージと結合しない』

……そうか。

マージが結合するのは、飽くまで()()だ。

熱線――熱エネルギーならば、貫通可能か。

『……でも、東欧製のMAは重装甲が基本。至近距離から照射しなければ、破壊できない可能性が高い』

「…………やるしか、無さそうだな」

左腕の《RK05-C》を背部のマワントヘセットし、後退。

ブラウン・ベスの残骸へと近寄り、件の熱線銃と思われる、長砲身の武装を取得。

兵装マッチング開始。

…………完了。

モニターの兵装情報が更新。

 

――RF HSC00 155㎜Thermal Cannon――Limit:20s/5s

 

僅か20秒しか、照射時間が残されていない。

が、右腕は損壊している以上、二挺保持は不可能。

俺以外の機体で、通常腕のMA使用者は、ルシファー2だけだ。

「ルシファー2。止めは任せる。……残りは、援護だ」

『了解』

『了解』

部下達の応答を尻目に、ブースタ再起動。

突貫する。

――CAUTION

軌道修正。

擦過する砲弾。

――CAUTION

 

撒き散らされるミサイル。

再加速。

 

――CAUTION

 

ブースタの使用限界を伝える警戒音。

そんな事は分かっているんだ。

でも、バタフライを破壊するには、これしかねぇ!

残りは100m。

《HSC00》を構え、放射準備。

残り70m。

後少し――というところで、砲身が分解され始める。

「効果範囲内か!」

トリガーを絞り、放射開始。

狙いは、バタフライの胸部。

もっとも装甲厚は厚いだろうが、薙ぎ払っていては、焼き切る前に、俺がマテリアルになっちまう。

現に、乗機の装甲材が3割程度、分解されちまっている。

赤熱化したバタフライの胸部。

僅かに溶解した装甲から覗く、灰色。内装系だな。

それも、纏めて焼く。

まだか?

装甲の分解が止まらない。

数秒後には、衝突するであろう軌道。

駄目押しが必要か!

《HSC00》をバタフライに突き立て、放棄。

続けてナイフを抜き、覗く内装へと突き立てる。

いつの間にか、止まった装甲の分解。

パイロットが死んだか?

なら、好都合。

防御機構が潰せりゃ、後はただのデカブツ。

『離れて』

ルシファー2も察したのだろう。

後退。

すぐさま飛来する砲弾が、バタフライを破壊していく。

相変わらずの精密砲撃。

解体作業は、わりかしすんなり済むだろう。

(…………悪夢のような兵器だったな)

荷電マージを放出する機構……。

東欧がこんな技術を持っていたとは――――

 

――CAUTION

 

警戒音。

 

――敵機内部にて、熱量増大中。自爆プログラムと思われます。

 

「クソッ!各機、後退しろ!!」

自爆って事は、マージジェネレータの暴走。

MA用のジェネレータでさえ、最低出力で半径200m程度を吹き飛ばすから、デカブツともなれば、1000m位かもしれない。

指示と同時に、ブースタ起動――

 

――Stall. material empty

 

――出来なかった。バタフライ相手に、使い過ぎた。

(まだだ。ジェネレータを駆動させ、マテリアル精製――)

次策に移るも、時既に遅し。

――Caution

 

警戒音が聴こえた直後、俺は光に包まれた――

 

 

 




……お久し振りです。
構想は出来ていても、肉付けが手間取る。……その結果が、この低速更新です。……誠に申し訳無い。

今話を簡単に言ってしまえば、『ヤベェ、新型機強ぇ』という感じ。
実際、燃費と整備兵の負担を度外視すれば、かなり強い機体が『バタフライ』です。……まぁ、正式名称は別にあり、この名称は原案時の名称です。
尚、本機が使用していた防御機構を、分かる人向けに説明しますと、射角変更可のアサルトキャノン化したAA+PA(アクアビットマンレベル)といった感じ。

今回はこの辺で。
拝読ありがとうございました――


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