自由大熊猫UNKNOWN ただしキグルミ 本編完結 作:ケツアゴ
「・・・・・アンタも人が悪いねぇ。ロキ・ファミリアの連中がアンタを探る為に止めなかったのに気付いてたんだろ?」
「うん! こっちのロキも悪知恵が働くみたいだけど、僕って結構長生きだからそういうの見抜けるんだよね」
あの後、ベート額に肉、腹には間抜けな顔、股間には象の顔で尻にはアザラシの顔を書いた後で鼻眼鏡を接着剤でくっ付け鼻に吹き戻しを突っ込んだ時点で満足したアンノウンは宴会に戻り、ロキ・ファミリアのメンバーもロキに止められて手出しせずそのまま宴を終えて帰っていった。その後ベルは住み込みで働く事になっているヘスティアとお腹いっぱいで眠りだしたオーフィスを連れて家に戻り、残りのバイト達はバイト代を渡されキグルミに送られて帰って行き、アンノウンだけが残っていた。
「……こっちの?」
「あ、何でもないよ。それよりさ、ベルっちこれからどうしようかな? いきなりステイタスだけ上がったけどさ、技術がイマイチだし……。せっかく良い装備上げても本人の心が弱いままだしさ」
「それを考えてやるのも神様の仕事ってもんだろ。ほら、今日は店じまいだよ。誰かさんが店の酒と食材全部飲み食いしちまったからね」
「じゃ、代金は渡したお金から引いといて。残りはベルっち達が食べに来た時の勘定に当ててくれたら助かるよ」
アンノウンはそのまま風船に掴まって高く高く飛んで行き、途中でフクロウに風船を割られて街中に墜落した。
「って訳でベルっち。今日から暫くは五階層までで上がったステイタスに感覚を追い付かせといて。僕はガネーシャ・ファミリアに誘われたパーティに行って暫く帰らないけどヘスティアちゃんは家政婦の仕事があるから家にいるし、剣術の先生を用意してるから」
「先生、ですか?」
ベルが指された方向を見ると其処にはハシビロコウのキグルミ。その手には光で形成された剣が握られていた。
「……キルユー」
「何か怖いんですけどっ!?」
「大丈夫大丈夫。彼は僕の個人的な部下で元悪魔祓いだったんだけど異教徒を殺しすぎて追放されただけだから安心して」
「できるかっ!」
ついに敬語を忘れたツッコミを入れるベル。こうしてる間も彼のステイタスとストレス性胃炎の進行状況は上昇していた。
「……あの~、それって異教の神の僕もやばいんじゃないかい?」
「ガンバっ!」
親指を立てて最高の笑顔を向けるアンノウン。ヘスティアは思わず拳を叩き込んでいた。
「わあ、うっぜぇ!」
アンノウンは床に煙玉を叩きつけると煙が晴れた頃にドアから普通に出て行った。
神の宴、それは開催するファミリアも周期も決まっておらず、要するに宴を開きたい神と宴に参加したい神がいることで成り立つイベントであり、ガネーシャ・ファミリアのように大手のファミリアが開く宴は大規模で都市中の神に招待状が送られていた。
「やあやあ、お招きありがとう。僕がアンノウンだよ。中々愉快な会場じゃないか!」
「よく来てくれたな! 俺がガネーシャである! お前のファミリアの建物も素晴らしいではないか!」
アンノウンに話しかけられたのは象の仮面を被った男でこのファミリアの主神のガネーシャ。ちなみに会場は彼がファミリアの貯蓄を使って建てた物だが胡座をかいた象の姿をしており股間が入り口だ。どうも同じように悪趣味な建物を建てた同士気が合うのか談笑する二人。
「……おい、アイツが例の。あのイベントで少なく見積もっても五万冊の魔道書が出回ったとか。一回百万ヴァリスだから……五百億ヴァリス!?」
「どうも唯一の眷属が例の一日でレベルアップしたルーキーだとか……」
「酒場で聞いた話じゃスキルは今まで誰も発現した事のない超レア物らしいぜ」
神は娯楽を欲しており、アンノウンの噂などは注目の的だった。
「……うわ~、目立っとるの。まぁ、しゃーないわな。どうもファミリア成立届けの際に提出した推薦状やけど、大物の弱み握って脅したとかいう噂を抜きにしても、山程の魔道書に異常な記録を達成した新人の眷属。……アンタも今回ばかりは目立っとらんの、フレイヤ」
ロキは先日の貧乳呼ばわりをまだ根に持っているのかアンノウンを睨みながら隣の女神に話し掛ける。彼女の名はフレイア。他の女神とは一線を画す美貌を持つ美の女神で何時もなら彼女こそが注目の的なのだ。
「うふふ、少し興味が湧いたわね」
「あんたパンダ好きやったか?」
「いえいえ、そういう事ではないわ。……ちょっとね」
フレイヤは一癖二癖ある性格を隠そうともせずアンノウンに近付いていった。なお、彼女の美貌はモンスターさえ魅了出来るほどである。
「でさ、これがお土産の魔道書で、火属性の最下級魔法を発動して放つ前に唱えると最上級魔法と同等の威力になるんだ!」
「ほほう! 例の誰も手に入れれなかった迷宮脱出魔法は探索を一変させると噂になった物だが、その湯なものまで持っていたかっ!」
「うん。この”これはメラゾーマではない。これが余のメラだ”、は作るのに苦労したんだ。何度やっても小麦粉がダマになってさ」
「む? 魔道書のつくり方ではないのか?」
「そーだよ? そうやって苦労して作ったホワイトクリームに鶏肉やマカロニやブロッコリーを入れて粉チーズを振って蒸し器で三十分蒸すと出来上がるんだよ?」
「いや、それはグラタンだろう!?」
「グラタンは焼くんだよ? おかしな事言うね」
おかしいのはお前だ!、と、先程から魔道書の情報を得ようと聞き耳を立てていた神達は心の中で一斉にツッコミを入れる。その時、フレイヤが二人のすぐ横で立ち止まった。
「初めま…」
「あっ! 鳥の丸焼きだぁ! わ~い!」
だが、アンノウンはフレイヤなど眼中になく焼きたての鳥の丸焼きの元に駆け寄っていく。移り気な神さえ熱を上げるフレイヤよりも鳥の丸焼きの方が魅力的だったようだ。
「……ふふふ。面白いわね」
「フ、フレイヤ?」
ガネーシャはフレイヤの様子にたじろいで挨拶する機会タイミングを失い、フレイヤは笑いながらアンノウンの元に向かっていった。
「給仕さん。鳥の丸焼きおかわりー!」
「あらら、もう食べ終わったのね。それにしても……」
「あっ! あっちに美味しそうな果物があるやっ!」
又してもフレイヤなどには目もくれず食べ物へと向かって行くアンノウン。肩を軽く叩いて意識を向かせようとした姿勢のまま暫し固まっていたフレイヤ。次第に体がプルプル震え、何時もの余裕ある笑みが崩れる。どうやら美の女神としてのプライドを大いに傷つけられたようだ。
「あ、これ美味しい! これも美味しいな!」
山積みに積まれた瑞々しい果物は次々とアンノウンの口の中に放り込まれてき、忽ち姿を消していく。そして果物に夢中になるアンノウンの背後からフレイヤがこっそり近づいていた。
(……後ろから抱きつけば流石に)
もうこうなったら意地なのだろう。アンノウンが杏に手を掛けた時、フレイヤは一気に抱きつこうと跳ぶ。
「そろそろ果物も飽きたしチャーハンでも食べに行こっと」
「へっ?」
そしてそのまま果物の更に頭から突っ込んだ。もちろん他の神がざわめいてもアンノウンはフレイヤには興味すら示さずまるで居ない様に振舞っている。
その頃、ダンジョンから帰ったベルはハシビロコウから指南を受けていた。
「言っておくが俺の剣術は戦う為ではなく殺す為の物だ。だが、モンスター相手ならそれで構わんだろう。……復唱! キルゼムオール!!!」
「キ、キルゼムオール!」
「声が小さい!」
「キルゼムオール!!!」
なお先に言っておくが、もう直ぐ付けられるベルの二つ名は『
「……僕、就職先間違えたかな?」
おそらく間違えたのだろう。
この小説では原作の大物は結構手玉に取られます。だってアンノウンだから
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