自由大熊猫UNKNOWN ただしキグルミ 本編完結   作:ケツアゴ

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番外編 ダンまち編 ③

「えぇ!? 神様を家政婦に雇ったんですかっ!?」

 

 打ち上げの会場である『豊穣の女主人』は少しお高い酒場だが冒険者には人気の店だ。其処へ向かう途中アンノウンから話を聞いたベルは周囲に人がいるにも関わらず大声を出して注目を集める。

 

「うん! 一番面白そうな子だったから採用したんだけど、どうやら金欠らしいよ。借金もあるんだって~。あはは! 無様無様!」

 

 いや、正確に言うと既に注目は集まっている。主にアンノウンが一輪車に乗りながら皿回しをしているからだ。周囲の者も会話の内容よりもアンノウンの姿に注目しているので神が家政婦だとかは殆ど聞かれていなかった。

 

「あっ、ちっこい子だからベルっちの好みかな?  福引きに雇った子達も見た目が幼い子が多いんだ。な~んか人間の男ってマザコンかロリコンしか居ないらしいし、パンダと女の子なら客寄せに良いと思ってさ。それより急ごうか。もうお金は渡して先に始めて貰ってるからさ。競争だ~!」

 

 アンノウンはキグルミ四人が担ぐ神輿の乗るとあっという間に姿を消し、ベルはその場にぽつんと置いて行かれた。

 

「いや、どうやって勝てと……」 

 

 少し痛み始めた胃を気にしつつ歩き出すベル。その姿を都市で最も高い建物であるバベルから眺める女神が一人居た。

 

「あの子興味深いわね。透明の魂……あれぇ?」

 

 目を擦ってベルの心をよく観察する女神。確かに透明の魂を宿していたが、所々にデフォルメされたパンダのスタンプが押されていた。

 

 

 

 

 

 

「お、お待たせしました!」

 

「ベルっち遅~い! あっ、紹介するね。彼が僕の眷属でなんと一日目でレベルアップしたベルっちだよ!」

 

 ベルが店に着くと既に何人かは酔い潰れておりアンノウンの背後には空になった樽が幾つも積み重ねられている。更に背後を見ると最大ギルドである『ロキ・ファミリア』が宴をしておりアンノウンの言葉が聞こえてのか一斉にベルの方をチラホラ見ていた

 

「……え~と、皆さんはアンノウン様が開いた例のイベントのバイトさん達ですよね?」

 

「そうだよ。やぁやぁ、初めまして。僕はヘスティア。明日から住み込みの家政婦として働く事になったから宜しくね!」

 

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

 ヘスティアはロリ巨乳。思わずドキッとしたベルだが直様お目当てだったオーフィスの姿を探し、アンノウンの隣で大盛りパスタを食べているのを発見した。

 

「あ、あの。さっきは有難う」

 

「……誰?」

 

 どうやら顔を覚えてもいない様子に落ち込むベル。すると酒を並々と注いだグラスが差し出された。

 

「まっ、飲みなよ。オーフィスは興味ない相手にはとことん興味を示さないだけだから」

 

「それってフォローになってませんよねっ!?」

 

「それではベル君がロリコンに目覚めたことでレベルアップした事と福引大会の成功を祝って改めてかんぱ~い!」

 

『かんぱ~い!』

 

 レベルアップの理由を聞いたロキ・ファミリアの殆どが口を開けてポカンとし主神のロキは腹を抱えて笑い転げている。そんな中、ベルはアイズと目があった。

 

 

「あ、どうも」

 

「こんばんわ」

 

 特に会話をする事なく会釈だけ交わす二人。ベルにとっては尻餅をついた時に手を貸してくれた人程度だしアイズにとっても尻餅をついてたので手を差し出した程度の相手でしかない。要するにただ顔を知っているだけの関係なので何の感情も持っていないのだ。

 

 

「じゃあ、本日のMVPの発表で~す!」

 

 別の席で酒を酌み交わしていたキグルミ達は慌ててアンノウンの背後に回るとドラムを鳴らし小さなくす玉をとり出す。そして候補になった者達が固唾を飲んで待ちわびる中、ついに発表の時が来た。

 

 

 

 

「リリルカちゃん! いや~、ヘスティアちゃんは惜しかったね。僅か三百万の差だったよ。はい、これが約束の品。今引く? 別に誰かに売っても良いけど」

 

「じゃあ、リリは引きますね」

 

 

 リリルカと呼ばれたのは小柄な少女。小人族(パルゥム)と呼ばれる種族の彼女は迷わず答え差し出された箱の中に手を入れる。彼女が三角クジを開くとポンという音と共に煙が出て一冊の魔道書になっていた。

 

「あの~、これはどのような魔法なんでしょうか?」

 

 彼女もバイトをする際にどんな魔法があるか聞かされているのだろう。少々不安そうに差し出された本の内容を知るべくアンノウンに差し出した。

 

「あっ、これは敵に恐怖心と絶望感を与える魔法だよ。でも、レベルが下の奴にしか効かないんだ。でも、高レベルの冒険者なら雑魚除けとして高く売れるんじゃない? ・・・・・習得には副作用が有るけど」

 

「なんで魔道書にそんなものがあるんですかっ!?」

 

「……リリはレベル1ですし戦闘向きではないので使えませんね。だとしたら換金するか……」

 

「へぇ、どんなんや? 内容次第ならウチのギルドが買い取るで」

 

 先程から注目していたのだろう、ロキが話し掛けて来た。何故かヘスティアを見ながらニヤニヤしておりヘスティアはロキを睨んでいる。どうやら知り合いのようだ。

 

「えっとね、魔法名が詠唱内容で、”私の戦闘力は五十三万です”、だよ。ちなみにこれの強化系として”変身をあと2回もオレは残している…その意味がわかるな?”、って言うんだ。ちなみに副作用はオカマ口調になる」

 

「こうたっ! ベート、アンタが使うんやで!」

 

「誰が使うかっ! てか、そんなキグルミ野郎を信用していいのかよっ!?」

 

 叫んだのは狼人族の青年。初日にアンノウンがキグルミだと見抜いた奴だ。そして再び周りから”何言ってるの?”っといった視線を送られていた。

 

「……すまんかったな、ベート。疲れとるんやったら早く帰って寝ていいで?」

 

「気ぃ使うなっ!」

 

 ロキは彼の方に手を置いて気遣い、他のメンバーも心配するような視線を送る。その中には彼が密かに思いを寄せるアイズも含まれていた。

 

「ったく、変なもん買うのもいい加減にしろよ。言っとくが俺は使わねぇからな。雑魚なんざ速攻で倒しちまえば……そういやアイズ。其処の餓鬼って迷宮で腰抜かしてたって奴だろ? ったく、情けねぇにも程があるよな」

 

「……ミノタウロス三匹が相手だったし初日だったなら仕方ない」

 

「それでも限度ってもんがあるだろ。お前はお前でトマトみてぇになってるしよ」

 

 其処から先はあえて書くべきでもなく、ベルの事を馬鹿にし始め場の空気を悪くし、最後には”俺と其奴、つがいになるならどっち?”などの話に移っていった。

 

「ねぇねぇ、さっきから聞いていると君ってアイズって子の事好きみたいだね。だけど素直になれないから意地悪しちゃうって典型的な子供の恋、ぷ~っくすくす! え~と、ベート君だっけ? ベーやんはアイズちゃ~んに片思い~♪」

 

 アンノウンは明らかに馬鹿にした様子で歌いながらクルクル回る。対するベートの顔が見る見るうちに赤くなっているのは酒のせいではないだろう。

 

「……テメェ、表出ろ」

 

「え~!? 僕まだ飲み食いしたいし、美味しいって聞くソーマ・ファミリアの酒が樽でもうすぐ届くんだよ? それにさ君程度なら手を出さずに倒せるけど?」

 

「え~と、アンノウンやったか? アンタのファミリア認可を推薦した奴らは口を噤んでなんも言わんからよく知らんけど、流石にそれは無茶やで? ベートはこれでもレベル5や。地上におるって事は神の力を封印してるんやから無茶せんとき?」

 

「大丈夫大丈夫。目隠しして前足縛った程度で龍が瀕死の蟻に負ける? 負けないでしょ? ……それにさ、僕も少しは怒ってるんだよね。新しいおもち……眷属を馬鹿にされてさ」

 

「今思いっきり僕の事を玩具って言いましたよねっ!?」

 

「確かにベルっちは良い装備を貰ったからって調子に乗って七階層まで初日で行ったよ? っていうかあの装備ならベル君のようなヘッポコでもミノタウロスに勝ててたしさ。情けなくて弱虫でヘタれのお調子者の田舎者って事は認めるけどさ」

 

「いや、俺も其処までは言ってねぇぞ?」

 

 流石に少し引いたベーとは冷静さを取り戻した様子だ。それでも怒りは残っているのか構えたままだが。

 

「あ、所でさ、もしかして怒ったのって好きな相手が違ったから? アイズちゃんじゃなくって貧乳ナイチチ真っ平らの平胸が好きだった?」

 

「はぁっ!? 何で其処でロキが出て……」

 

 殺気を感じて振り返るベート。其処には笑顔のロキがジェスチャーで伝えてきた。

 

『さっさと殺せ。そして次はお前の番や』

 

 冷や汗を流しながらアンノウンに向き直るベート。すると体が急に動かなくなった。

 

(……何だっ!? 体が動かねぇ。それに無性に寒いのに汗が吹き出やがる。なんで俺の心臓はこんなに高鳴ってやがるんだっ!?)

 

「僕も早く宴会に戻りたいし早く済ませようよ。でもさ……」

 

 場の空気が一気に冷え切りロキでさえも冷や汗を流す。アイズなどは無意識のうちに武器を構えていた。

 

 

 

 一歩でも動いたらグッチャグッチャのミンチにするよ?」

 

 アンノウンは非常に可愛らしい声でそう告げる。それと同時にベートは白目をむいて気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ! 僕の勝ちだから油性マジックで落書きしちゃえ! 額に”肉”で瞼に目を書いて~。あとはヒゲに脛毛に~。ねぇ、ベルっち。他に何かあったら言ってくれる?」

 

「言えるかっ!」

 

 またしてもベルのステイタスが上昇し、さらには新しいスキルも手に入れた……。

 

 

 

 




本気にならずともアンノウンならこんなもん

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