自由大熊猫UNKNOWN ただしキグルミ 本編完結   作:ケツアゴ

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大幅加筆してきました


二十二話

 謎の喋る大熊猫が開く戦闘訓練に参加すべくソーナ達は険しい山道を歩いていた。

 

「うわっ!?」

 

「匙先輩!」

 

 この山は舗装など当然されておらず、脆い足場を注意しながら進むしかない。そして大地に遙か昔から掛けられた魔術によって翼を広げて飛ぶことは適わなかった。仕方なく歩いて山頂を目指す一行だが、今し方も匙が足を滑らせて滑落しそうになった所だ。

 

「つ、着いた・・・・・」

 

 全員が疲労困憊で立てているのはソーナと椿姫だという状況の中、漸く目的地にたどり着いた。其処に建っていたのは木製の道場を思わせる日本家屋風の建物。そして『謎のパンダ道場』と書かれた看板が門に掛けられ、門の上には付け髭をを付けて道着を着たアンノウンが腕組みして立っていた。

 

「此処まで遠路遥々よくぞ来た! 別にエレベーター使っても良かったのだが、わざわざ困難な道を選ぶとは物好きな奴らだね! さあ! 我が漫画道場(・・・・)に入られよっ!!」

 

「エレベーターあったのっ!?」

 

「っというより、漫画道場と言いませんでしたか? 私達は戦闘訓練と書いてあるチラシを見て来たのですが……」

 

 アンノウンが指し示した先にはソーナ達が登り始めた道の丁度反対側まで通じるエレベーターが設置されており、此処に来る時に見たチラシには戦闘訓練としか書かれておらず、エレバーターの存在など記されていなかった。そして、その言葉を聞いたアンノウンは明らかに困惑している。

 

「……全員、集合!」

 

 鳴り響くホイッスルの音と共にキグルミ達が一斉に集まり、黒子はソーナ達に『聞こえないふりしてね』、と書いたプラカードを差し出した。

 

 

 

「……えっとさ、どうなってるの? 僕はマンガ道場って言ったよね?」

 

「いや、私はペンギンからスクワットダイエット講座って聞きましたよ?」

 

「じゃあ、間違って戦闘訓練って印刷したの誰だよっ!? しかもエレベーターの事書き忘れてるしよ」

 

 その後、数分館に渡ってアンノウンとキグルミ達のヒソヒソ話は続いた。

 

「……仕方ないか。テイク2!」

 

 アンノウンが叫ぶと同時にキグルミ達は持ち場に戻り、何時の間にか空には暗雲が漂い時折稲光が走る。そしてアンノウンは門の前で仁王立ちをしていた。

 

「ふははははは! よく来たな、ひよっ子共! ここが僕のマンガ……戦闘訓練道場だっ!!」

 

「さっきからグダッグダじゃねぇかぁっ!」

 

 匙は叫ぶ。心の底から叫ぶ。だが、アンノウンは聞こえないふりをしていた。

 

 

「とりあえず中でお菓子食べる? 古くてカビ生えてる上にカニの食べれない所みたいな味するけど」

 

「話聞けっ! てか、人にそんなもん勧めるな!」

 

「いや、君って人じゃなくって悪魔じゃん。それに、さっきからテンション高いね」

 

「誰のせいだと思ってやがるっ!! ……うう、胃が痛い……」

 

 この時よりソーナ眷属の胃痛ポジションは匙に決定した……。

 

「じゃあ、今から修行開始ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……強くなりたい」

 

 小猫はグレモリー邸の部屋でポツリと呟いた。小猫の周囲には小猫よりも強い者が多く居る。自分は戦車なのに弱い、その思いが彼女を苦しめているのだ。

 

「ギャー君は電波だけど強くなった。イッセー先輩も強くなったけど変態です。祐斗先輩は口に出したら可哀想ですし。・・・・・私は戦車なのに一番弱い」

 

 小猫の仲間に対する評価は散々である。だが、それでも自分が役立たずという事には変わらない。色んな意味で仲間に聞かれるわけには行かない評価を呟いた時、窓が空いてアンノウンが入ってきた。

 

「やっほー」

 

「……ああ、この自由すぎるパンダも私より強かったですね。それで、何の用ですか? 部長ならイッセー先輩が自分の体についた嫌な臭いで気絶してるのを看病していますし、アーシア先輩もそれに付き合っていますよ」

 

 お気に入りの二人が此処には居ないと教えて早く居なくなって貰おうとする小猫。一人になりたかったのもあるが、アンノウンの相手を一人でするのが嫌だから押し付けようとしているのだ。

 

「っというより、貴方は今ソーナ会長達に絡んでいるんじゃなかったんですか? 時系列は同じですよね」

 

「ふふふ、甘い甘納豆。昔から言うでしょ? ”男には外に六人の自分が居る”ってさ。僕は同時に七匹存在できるのさ!」

 

「言いません」

 

「それよりさ、力が欲しくない?」

 

 小猫も段々染まってきているのかメタ発言を平気で行う。アンノウンを真面目に相手しても疲れるだけとわかっているのか本を読みながら適当に返事する小猫だが、アンノウンの言葉にバッと顔を上げた。

 

「私が強くなる方法、知っているんですか?」

 

「ふっふっふ、もちもちロン毛さ。僕からこの……」

 

「心眼という名のスーパーボールなら要りませんよ。いくら繰り返し(天丼)がギャグの基本でも、今はシリアスシーンです」

 

「……」

 

 アンノウンはキグルミのポケットから取り出そうとした目玉模様のスーパーボールを再びポケットに仕舞うと今度は何か通販とかで見る振って使うダイエット器具を取り出した。

 

「この”スーパーストロングネオベリーストロングスティック”を毎日三十分使い、適切な栄養管理と優秀なトレーナーの下での修行を長期間こなし、才能があれば誰でも強くなれるよ!」

 

「当たり前です。それと一週間も続かないダイエット器具を押し付けないでください」

 

「じゃあ、この”ハイパワーオメガサテライトビームガン”の”イリュージョンテラパワー高密度コスモジェットウルトラウェーブフレイム破壊光線”なら上級悪魔でも一撃だよ」

 

「私が欲しいのは自身の力であって、ハイパワーオメガサテライトビームガン”の”イリュージョンテラパワー高密度コスモジェットウルトラウェーブフレイム破壊光線”ではありません」

 

 小猫は小学生男子が喜びそうな未来銃(ガン)を窓から捨てると深く溜息を吐く。それにしてもハイパワーオメガサテライトビームガン”の”イリュージョンテラパワー高密度コスモジェットウルトラウェーブフレイム破壊光線”一回で覚えるあたり小猫の記憶力は優秀なようだ。

 

「そう? だったら、この超聖水……」

 

「それ、本当はただの水ですよね?」

 

「なら、スーパーパワー手ぶく……」

 

「貴方は何処の未来から来た猫型ロボットなんですか? そもそも大熊猫と書きますが熊でしょう」

 

 アンノウンが出してくる強くなる為の道具(ただしインチキ)を次から次へと窓からと捨てていく小猫。重量のあるものを捨てた時に”ピ、ピラミットパぅワァァァ……”と聞こえた気がするが小猫は無視した。

 

「じゃあ、とっておきの……」

 

 アンノウンが空間を歪ませて何かを取り出そうとしたその時である。突如ドアが開いてグレイフィアが入ってくる。そしてアンノウンの体をグレイフィアの魔力が包み込んだ。

 

「っち! 仕留め損ないました」

 

 グレイフィアはアンノウンが逃げたと判断するやいなや崩壊した壁から飛び出していく。後には小猫だけが残された……。

 

 

 

 

 

「強くなるって、変になるって事なのでしょうか? ……最強の魔王であるサーゼクス様もシスコンですし」

 

 やはり口が悪い小猫であった……。

 

 

 

 

 

 

「では、第一訓練! イタリア名物トマト投げ祭りー!!」

 

「どんどん、ぱふぱふ」

 

 アンノウンは両手に持ったセンスを振りながら宣言し、オーフィスが携帯ゲーム機をしながら棒読みで効果音を出す。その背後には無数の大籠にみっちり入ったトマトが用意されている。

 

「……さて、頑張りましょう」

 

 ジャージ姿になったソーナは屈伸運動を始め、匙以外の眷属も準備運動を始めている。匙だけがマトモだったので取り残された。

 

「じゃあ、ルール説明。オーフィスがトマト投げるから頑張って避けながら走って。……ちなみに避けそこねると?」

 

 アンノウンが指し示した先には偶々空を飛んでいた下級のドラゴン。今は発情期なのでメスを探して飛んでいる途中だ。

 

「えい」

 

 そして、結婚前のドラゴン目掛けてトマト()が放たれた。トマトは風圧で瞬時に潰れ、果汁が散弾のように飛んでいく。命中した瞬間、ドラゴンは潰れたトマトのようになった……。

 

「ガンバッ!」

 

 ソーナ達は逃げ出した。

 

 

 

 

『重量オーバーです』

 

 だがエレベーターは動かない。逃走失敗だ。慌ててエレベーターから脱出するソーナの前に立ったアンノウンは二つのディスクを取り出した。

 

「……これは?」

 

「修業中のBGMなんだけど、ソーちゃんが歌う『魔法少女レヴィアたん』の新EDテーマかグレちゃんのマジカルパフェを映像付きで大写しにするの、どっちが良~い?」

 

「マジカルパフェで」

 

 それは見事な即答だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ワインお代わり~!」

 

 その日の夕食時、グレモリー卿から夕食の招待を受けたアンノウンは大ジョッキを振り上げながらワインの代わりを催促する。既に高級ワインの瓶を数十本開けていた。

 

「……旦那様」

 

 流石に公爵自ら招いた相手にては出せないのかグレイフィアはグレモリー卿をジト目で睨むに留まる。その代わり発せられるオーラは五割増しだった。

 

「姉さん、私もワインをお願いします」

 

「……貴方を呼んだ覚えはありませんよ、ユークリット」

 

「嫌だなぁ。姉さんのメイ……仕事姿を生で見るためじゃないですか」

 

 何時の間にか勝手に着席していたユークリット。彼は食事時間後に待ち受ける自分の運命をまだ知らない……。

 

 

 

 

 

「あっはっはっはっはっ! いやぁ、楽しいねぇ」

 

「それは結構だ。娘が色々とお世話になったからね」

 

 確かにアンノウンはリアスを何度か救っている。だが、それ以上に胃痛の原因となっている事など知る由もなかった。

 

「気にしないで良いよ、公爵。僕はね、リーアたんを気に入ってるから。そうそう、夕食が美味しいから奥さんには隠している熟女物のエロ本の在り処は教えないであげるね。サーゼクスも安心して。他の隠し場所は絶対に言わないから」

 

「……アナタ?」

 

「……サーゼクス様」

 

 この場には二人の妻も同席している。そしてレーティングゲーム参加の際、アンノウンはフェニックス卿を含めた三人の何かの隠し場所をチラつかせていた。それが何か、もうお分かりだろう。

 

 

 

 

 

「叔父様。エロ本て何ですか?」

 

「ミリキャス君が大人になれば分かりますよ」

 

 ユークリットは無難な誤魔化しで済ませた……。

 

 




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さて、頑張って新作書こう

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