自由大熊猫UNKNOWN ただしキグルミ 本編完結 作:ケツアゴ
「私も同行させて頂きますよ」
「僕もー!」
その日、ソーナも眷属を連れて冥界に帰ろうとしている所にユークリットとアンノウンがやって来た。まだユークリットは良いだろう。セラフォルーの眷属だから何の問題もない。敢えて言うならばジーパンに『魔法少女レヴィアたん』のシャツという服装なだけだが、それ以外にこの残念なイケメンに文句は少ししかなかった。
「アンノウン、貴方は兵藤君の家のペットではなかったのですか? それに、冥界には自由に行き来していますよね?」
本来、冥界に勝手に行き来するのは悪魔の法で禁止しているのだが、アンノウンに関しては誰も捕らえようとしない。いや、捉えようとした者も居たのだが、今は諦めてしまっている。
「えっとね、冥界に行くの列車使うでしょ? 食堂のご飯食べてみたくって。それにシトリー領にお店出したから顔出さないといけないし。あっ、オーフィスもつれて行くね」
「……どうぞご勝手に」
色々と諦めたソーナは同行を許可する。そして一行は町の駅に隠された秘密の地下ホームから冥界に向かう列車に乗り込んだ。
「うおっ!? 本当に別世界に行くんだなっ!」
匙は窓の外の景色を見て驚く。人間界と冥界は別世界であり、向かう途中は次元の狭間を通るので景色が妙な事になっていた。そんな中、オーフィスは無言で窓を外を見つめている。手元に置いているお菓子にも手を付けていなかった。
「……やはり帰りたいのでしょうね。グレートレッドに追い出された故郷に……」
オーフィスにとって次元の狭間は生まれ故郷だ。だが、グレートレッドと呼ばれる最強のドラゴンによって追い出され、今も故郷での静寂を求め続けている。それを知るアンノウンとユークリットはその姿を静かに見詰め続け、
「あっ、暇だから何か観ようか?」
「なら、この前の映像が出来上がたので観ましょう」
この前撮影した『魔法少女レヴィアたん』を勝手に設置した大型プロジェクターで再生しだした。実に自由な事である。なお、この番組は当然人間界では見ることなどできず、ソーナも姉があんな格好をしているのが恥ずかしいので見せない様にしている。
(何故でしょう。異様に嫌な予感が……)
その頃、王であるソーナは一族専用の車両に居るのでいま眷属用の車両で何が上映されているなど知りはしない。だが妙な寒気を感じていた。
「……一応皆の所に行きましょう。ずっと一人なのもどうかと思いますし」
徐に立ち上がったソーナは胃痛を感じつつ後方車両に向かっていった……。
「魔法少女シトリン只今参上!」
「なんだこりゃっ!?」
魔法少女姿のソーナの姿を見た匙は顔を赤らめ鼻血を流しながら混乱している。その横ではアンノウンが映像を見ながら大爆笑していた。
「驚くか喜ぶか萌えるかどれかにしたらどうですか?」
そう言いながらもユークリットの視線はグレイフィアに向けられている。彼の顔も明らかに萌えていた。
「そういえばユー君。どうせならお仕事よりもお金貰った方が良かったんじゃないの? その方が拘束時間がないでしょ?」
「何、私の持っている情報など大した事無いですからね。ヘタに大金を要求しても役に立たない情報では姉さんに返すように言われたりしますし、流石にニートは……。そう言う貴方こそリアス達と一緒の列車に乗る予定だったのでは?」
この時、彼の脳裏には前の雇用主の顔が浮かんでいた。なんか白髪の外道少年神父とキャラがダダ被りだが、彼の事など知らないユークリットには知る由もない。
「なんか眷属を鍛える為に最上級悪魔で元龍王のタンちゃん……タンニーンに襲わせるつもりだったらしいから偽物置いて来た。僕を狙ってるんだって。だから攻撃したらドラゴンが大嫌いな匂いをバラまく仕掛け付きなんだ」
「……それはまた。それで、一体何をしたんですか?」
ユークリットの問いに大してアンノウンは腕を組んで首を捻る。全く覚えが無いといった様子だ。
「えっとね、寝てる間に背中をピンク色に塗って紫のハートマークを書いたり、宴の時に飲み物を激辛に変えたり、角を磨くクリームを艶消しクリームに変えたり、口に入るもの全てが全て生クリームの味に感じられるようにしたりとか、その程度しか思いつかないなぁ……」
肉を食っても、染み出てきた肉汁も、全ての味が生クリーム。うがいの水も、歯磨き粉の味も生クリームだ。もちろん、唾液や空気でさえも……。
「……いや、それは恨まれるでしょう」
「え~!? その程度で恨むなんて心狭いなぁ」
それで恨まなかったら聖人君子というレベルですらない。その頃、番組は丁度EDテーマになっていた。
「皆、少し顔を見に…来まし…た」
『私達はマジカルアイドール! 愛とお菓子で悪を倒すの~♫』
そして、丁度ソーナが入って来た……。
「おい、アレどうにかしろよ……」
「任せといてっ! 誰かを励ますなんて朝飯前だよ!」
匙は車両の端で蹲ってブツブツ呟いているソーナを指さしながらアンノウンに囁く。アンノウンはキグルミの口元にポテチのカスを付けたまま胸をどんと叩いた。
「朝飯? アンノウン、我、パンが食べたい」
丁度冥界に到着しており、冥界独特の建物が窓から見える。その中にはパンの看板を付けた建物もあった。
「じゃあ、僕はパン屋に行ってくるね」
列車の窓ガラスをガラス切りで切ったアンノウンはオーフィスを背中に乗せて穴から飛び降りる。かなりの高所だが、花柄模様のパラソルを広げるとフワフワとゆっくり落下していった。実にファンシーな光景だ。
「……いや、会長は放置っ!? てか、ほんとアイツは何モンだよ……」
「さあ? 私も付き合いは短いですし、オーフィスでさえ知らないそうですよ。この世界で彼の正体を知っているのは北欧のオーディンとグレートレッドと
「
「私もよく知らないのですが、アンノウンから紹介された文通相手が調べていたらしくて。……その文通相手というのがですね、写真を見る限り私の好みの銀髪の大人びた女性でして……」
そして到着までの間、匙はゲンナリしながら、女子達は恋バナに興味津々な様子でユークリットの話に聞き入る。その間、ソーナノ存在は忘れられていた。
「うぉっ!? 凄ぇっ!!」
匙は駅に到着して外に出るなり驚愕する。駅の外はソーナを出迎える民衆で埋め尽くされていた。
『ソーナ様ー!』
『ソーナ姫様ー!』
『シトリーン!』
中には変なのが居たが大人気なのには変わらない。ソーナも何時の間にか次期当主の顔になって彼らに手を振っていた。
「では皆行きましょう。迎えの馬車が来ていますから」
ソーナの指差した先には家紋が書かれた馬車が到着しており、その更に先には新装開店のアドバルーンを上げたパンダの顔の形の建物があった。
「本日開店アンノウンデパート! 五千円お買い上げ毎にクジが引けるよー! ここでしか手に入らない限定の魔法少女レヴィアたんグッズだよ~!」
その時、ソーナの手元にチラシが落ちて来た。
G賞『便箋』 全三種
F賞『クリアファイル』 全五種 魔法少女姿の三人のソロと集合、そしてユークリット
E賞『ラバーストラップ』 全三種類
D賞『ミニフィギュア』 全八種+シークレット一種類
C賞『魔法メイド少女ルキフグスフィギュア』
B賞『魔法少女シトリンフィギュア』
A賞『魔法少女レヴィアたんフィギュア』
ダブルチャンス賞『ルキフグスフィギュア・メイド服バージョン』
「あれ? ユークリットさんは?」
「財布握りしめてデパートに突撃しました」
オマケ
緊急事態に見せ掛け一誠達を強襲したタンニーンだったが、
「うおっ!? 白目向いて嘔吐しながら向かって来ただと! 此奴、気絶したまま戦っていやがる! それにこっちの男だか女だか分からん奴は変な電波受信してるし、何か怖い! こうなれば貴様だけでもっ!」
裕斗とかギャスパーに関わりたくないからアンノウンを抹殺しに掛かる。そして、攻撃したらドラゴンの嫌いな匂いを放つ偽物に命中した。
忘れがちだが一誠もドラゴンを宿しているのでその匂いは苦手であり、同行したのですぐ近くにいた・・・・・・。
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