自由大熊猫UNKNOWN ただしキグルミ 本編完結 作:ケツアゴ
「良いですか、皆さん! 迫り来る週末に向け、僕達は準備をしなければなりません。そう……ピラミットパワーの習得です!」
引き籠もりが治って女子制服で学校に通いだしたギャスパーは終業式の朝、黒板に貼ったパンダが乗ったピラミットの絵が書かれた旗を叩いて叫ぶ。その後で強く叩き過ぎたせいで手首を痛めたのか涙目で蹲った時、漸く小猫が登校して来た。
「……ギャー君。何してるの?」
「お早う小猫ちゃん! さあ! 君もこの本を読んでっ!!」
渡されたのはハードカバーの本。『ピラミットパワーの全て』と書かれており、帯にはツタンカーメンのコメントが書かれている。
『多分凄いんじゃないかなぁ つたんか-めん』
「……いや、ツタンカーメンってピラミットのあるエジプトの王様じゃ……」
表紙を捲ると作者の写真には何処かで見たようなパンダが付け髭を付けてワイングラスを持っており、最初のページには見開きでこう書いていた。
『ピラミットパワーは凄い』
次のページ
『何が凄いかというと』
次のページ
『兎に角凄い』
「……ふぅ」
小猫は静かに溜息を吐くと本を閉じ、ギャスパーにゆっくりと近付いて行く。
「さあ! 皆も一緒にピラミット……」
「……ギャー君、落ち着いて」
ギャスパーが振り向くと同時に腕を掴んで膝を鳩尾に叩き込む。小柄なギャスパーの体は宙に浮き、手を離した小猫は回し蹴りでギャスパーの体を床に叩きつけた。そのままバウンドしたギャスパーの体は水面蹴りで払い、そのまま両手で体を支えつつギャスパー目掛けて一気に伸ばす。小猫は最後に手榴弾のピンを歯で外すと窓ガラスを割って宙に放り出されたギャスパーに投げ付けた。
「ピラミットパワーっ!!?」
「……汚い花火です」
「こ、小猫ちゃん。
……ギャスパー君は貧弱なんだから三コンボまでだよ?」
注意する所がおかしい。
「……反省」
「しかしギャスパー君って何があったの?」
「多分担任のせいです……」
その時チャイムが鳴り響き、担任教師が入ってきた。
「皆ー! 子供のアイドル・アンノウン先生だよー!」
『わーーーーーー!』
多分クラスメイトがおかしくなったのもアンノウンの仕業だろう。なお、前の教師はプロサーファーになると言って埼玉県に引っ越した。埼玉県には海がないとかはツッコミ不要である。
「……そう。よくやったわ、小猫」
リアスは小猫からの報告を受け、笑みを浮かべながら小猫の頭を優しく撫でる。小猫は気持ちよさそうにそっと目を細め喉を鳴らす。それと同時に小猫のお腹とリアスの携帯のタイマーがなった。
「オヤツの時間ですね」
「ええ、
リアスは胃薬を取り出すと錠剤タイプを液体タイプで飲み込む。その時、両肩にそっと手が置かれた。
「僕はどら焼が欲しいなぁ。ってか、リーアたん、その年でそんなに胃薬飲むの? やっぱり次期当主ってストレス溜まるんだね。疲れてるようだし歌でも歌ってあげようか?」
「遠慮しないで。~♫」
「……普通ね」
「ええ、普通です。聞き惚れるほど上手くも、耳障りなほど下手でもない。はっきり言って中途半端です」
二人は何時もの仕返しのつもりなのか容赦ないコメントを付け、それを聞いたアンノウンはショックを受けたように固まり、次の瞬間には泣きながら部屋から出ていった。
「ひ、酷いやっ! 小猫ちゃんとリーアたんの馬鹿~! ネタ担当メインヒロイン~! 切り株体型寸胴将来性皆無~! グレてやる~!!」
そしてアンノウンは小猫とリアスの秘蔵のお菓子を盗み、
三すくみの協定を受け、四大魔王は会議を開いていた。厳重な警備の他にも幾重にも張り巡らせた術式2より会議室は鉄壁の要塞と化している。主席しているにはサーゼクス・ルシファー、アジュカ・ベルゼブブ、セラフォルー・レヴィアタン、ファルビウム・アスモデウス。今まで敵対していた種族との協定なので問題も多く、いつもは面倒臭がりのファルビウムも眠らずに話を進めている。
「ああ、次は彼らについて話そうか。そう、アンノウンとオーフィスについてだ」
サーゼクスの言葉に場の空気が一気に引き締まる。今は何を考えているのか分からないがリアス達の周囲をウロチョロしている両者だが、其の力はあまりにも強力すぎる。下手すれば世界のバランスを崩しかねないくらいにだ。
「とりあえずさ~。どうにかコントロールしようって考えない方が良いと思うんだ~。どうせ無駄だし、下手に怒らせても困るでしょ~?」
「そうだね。特にアンノウンは天界に何時のの間にか忍び込んで知恵の実を食べ尽くしたり、北欧で勇者に食べさせる猪を食べ尽くしたり、沙弥山に忍び込んで霊薬を食べ尽くしたり・・・・・何か食べてばかりだね。でも、相手の黒歴史を集めるなど情報収集能力に優れているし、怒りを買った神から簡単に逃げるなど能力は計り知れないよ。・・・・・其の正体もね」
アンノウンの正体。それは
「そういえばセラフォルーはアンノウンと友人だったね? 何か分かってる事はないかい?」
「えっとね、好感度とかで呼び方が変わって、ちゃんや君だと大して興味がなくて、呼び捨てだと親しみを持ってって、アダ名だと弄ると楽しいと思われているよ☆」
魔王四名の視線が自然とサーゼクスの後ろに控えていたグレイフィアに向けられた。”グレちゃん”と呼ばれ、大いに弄られているからだろう。
「……何か?」
もっとも、このような話題で注目されるのは非常に気に入らないのだろう。出来ればアンノウンに関わる事を全て無かった事にしたいグレイフィアは微かに眉間に皺を寄せていた。
「じゃ、じゃあ、他にはあるかい?」
この中で唯一グレイフィアから物理的なお仕置きを受けるサーゼクスは何とか話を切り替えようとする。プレッシャーからか手に滲んだ汗でカップが滑って落としそうになるのを何とか堪えた其の顔は引き攣った笑顔だった。
「う~ん、他にはお肉や甘い物が好きって事かな?」
「あっ、最近ピザにハマってるから何か注文して良~い? 取り敢えず照り焼きピザのLを頼むけど、皆はどうする?」
アンノウンは最近出来た話題のピザ屋のチラシを広げるとスマホでネット注文のページを開く。ちょうど三時程度で小腹が減ってくる時間帯だったのでサーゼクス達もチラシを覗き込んだ。
「そうだね。だったら僕はシーフードピザかな」
「僕はミックスピザが良いかな~」
「じゃあ、私は山菜と豚肉のピザにするね、アンノウン」
「「「「って、アンノウンっ!?」」」」
「もしもし~? 照り焼きピザとシーフードピザと山菜と豚肉のピザをLサイズでお願い。チーズはコッテリ、生地は厚めね」
先程も書いたがこの会議場は厳重な警備と幾重にも張り巡らされた術式で鉄壁の要塞となっている。そしてこの場に居るのは悪魔の中でも最上位に位置する者達。にも関わらず誰もアンノウンが何時入って来たのかさえ分からなかった。
「ねぇねぇ、何処から入ってきたの~?」
「何処って、あそこ。ダメだよ、ちゃんと壁締まりには注意しないと」
アンノウンが指し示した方向の壁には大穴が空いていた。
「いや、壁締りって言葉はないよ。それに術式が反応しなかったけど?」
「知ってる? パンダの毛って保護色になるんだよ?」
事実であるが質問の答えにはなっていない。グレイフィアなどはもう胃が痛くなってきたのか手で押さえていた。
「あれ? グレちゃん、腹痛? ダメじゃないか。あれほど拾い食いはするなって言ってたのにさ……」
呆れたように言うアンノウン。グレイフィアの怒りのボルテージがグーンっと上がった。
「……サーゼクス様、勝手に入って来たのですから処分しましょう。さあ! ハリーハリー!」
「なんか最近キャラが崩壊していないかい?」
この小説では今更である。ギャグ小説なのだから何一つ問題はない。
「……それで、何用ですか?」
「えっとね、ユー君……ユークリット・ルキフグスが生きてるって教えに来たの。七千八百円で頼まれたんだ」
”ユークリット”、その名を聞いた一同は驚愕で固まる。その名は死んだはずのグレイフィアの弟の名前であり、グレイフィアは明らかに狼狽していた。そしてサーゼクスは先程までの陽気な笑顔から魔王らしい真剣な表情へと一変する。
「……彼は生きていたのか。それで、なんで今頃になって生存を表明してきたんだい?」
「この前のグレちゃんの映像見て魔法少女物が気に入ったから、堂々とグッツ買ったりイベントに参加したりしたいんだって。あと、コレクションを集めるのってお金が掛かるから仕事探しの為だよ」
今度は別の理由で一同が固まった。
「そうそう、旧魔王派の情報を持ってるけど、教えるのは条件が有るってさ。一つは給料が多くて有給が取りやすく定時に上がれる仕事が欲しいのと、もう一つは……」
そして数日後、アンノウンが伝えた条件二つが了承され、ユークリット・ルキフグスが表舞台に姿を現すことになった……。
原作とは別の形で生きる理由を見つけ別の形で壊れちゃったユー君であった
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