自由大熊猫UNKNOWN ただしキグルミ 本編完結   作:ケツアゴ

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第十五話

 一誠がこれ以上その場に居ると多大なるストレスを受けるのを察して体育館から出るのと入れ違いになるようにして匙が入ってきた。

 

「ほらほら、散った散った」

 

「はいはいはい、皆さん今日は。僕、アンノウン!」

 

「私、セラフォルー! 二人揃って……」

 

「いやぁ、しかし最近暑いですねぇ」

 

「いや、コンビ名名乗ろうよっ!?」

 

「何時から君と僕とがお笑いコンビだと錯覚していた? 君とコンビを組んだ事なんて、現在進行形でしかないよ?」

 

「まさに今じゃんっ!」

 

「「はい! アンフォールド!」」

 

 アンノウンと魔法少女の格好をした女性は両側から手を叩きながら中央のマイクの前に立つと勢いだけの漫才を始める。最後に決めポーズのつもりなのか互いに背を向けると交差する様な状態で背中を反らした。

 

「……え~と、何やってんだ?」

 

 匙はどう反応すれば良いのか分からずかたまってしまう。それはそうだろう。コスプレ撮影会が行なわれているから生徒会の一員として止めに来てみれば、コスプレ少女とパンダのキグルミが少しも面白くない漫才をやっているのだ。だが、その反応を見た二人は何か勘違いしたのかヒソヒソと相談しながら匙を指差していた。

 

「セラフォルー、この子分かっていないみたいだよ。お笑いのセンスがない子はこれだから嫌だよねぇ」

 

「じゃあ、もう一ネタする? お笑いが苦手な子でも分かるくらい面白い奴。 いや~、最近暑いね。蒸し蒸しするし、嫌になっちゃよ」

 

「僕はムシムシするの好きだよ? カブトムシとか高く売れるから」

 

「そっちの虫かいっ! ていうか、それを言うならムシムシやのうて虫取りやがなぁ!」

 

「「はい! アンフォールド!」」

 

 突っ込む時だけ関西弁。そして少しも面白くないネタに匙のストレスはマッハで高まる。出来る事ならば地平線の果てまで二人揃って蹴飛ばしたい気分だ。先程同様に背中を反らした状態でドヤ顔を向けてくる二人に文句を言おうと匙が口を開きかけた時、騒ぎを聞きつけたソーナが入ってきた。

 

「サジ、なんの騒ぎですか。問題は迅速に処理するようにと何時も言って……」

 

「会長! いや、なんか絶対売れないお笑いコンビが少しも面白くないコントしてるんっすけど……会長?」

 

 ソーナは匙を叱咤した後でステージ上のコスプレ少女を見て固まっていた。

 

「……絶対売れない」

 

「……少しも面白くない」

 

 そしてセラフォルーとアンノウンは匙の言葉に大いに傷付き、お笑いコンビとしての自信を打ち砕かれて膝から崩れ落ちている。その顔は絶望に染まっていた。

 

「……お姉様?」

 

「ううっ、あんな言い方しなくたって……ソーナちゃん? うわ~ん! あの子が虐めるの。お姉ちゃんを慰めて、ソーナちゃ~ん!」

 

 ソーナが状況を飲み込めないままセラフォルーに話し掛けたその時、彼女に気付いたセラフォルーはボロボロ涙を流しながらソーナに抱きつき、そのまま押し倒した。

 

「お、お姉様っ!? 離れて下さい!!」

 

「嫌々っ! 私、とっても悲しんだから! コカビエルが襲撃した時も私に助けを求めてくれなかったし、さっきはあの子に必死に考えたネタをつまらないって言われたし。もう、ショックのあまり堕天使に戦争を仕掛けたい気分!」

 

「絶対に辞めて下さいっ!」

 

 セラフォルーはソーナの制服を涙で濡らしながら慎ましい胸に頬擦りする。その間会話に入っていけない匙は内容からセラフォルーがどういう立場か理解して顔を青ざめていた。

 

「な、なぁ。あの人ってもしかして……魔王?」

 

「うん! 君が絶対に売れない才能ゼロのお笑いコンビって貶したのは四大魔王の一人にして最強の女性悪魔セラフォルー・レヴィアタンだよ。ちなみに君が惚れてるソーナ・シトリーの実姉で極度のシスコン。……さて、一誠君から聞いたけど、君ってソーナちゃんとデキ婚したいんだって? 言っちゃおうかな~?」

 

「頼むから勘弁してくれ! いや、勘弁してください!」

 

 それはもう見事な土下座だった。その見事さにアンノウンでさえ若干引いている程だ。

 

「……うん、だったらさ……」

 

 そしてアンノウンは告げ口しない代わりに別の条件を提示した。

 

 

 

 

 

「それではショートコント百連発行きま~す! ショートコント・左の乳!」

 

 アンノウンが提示した条件。それはお笑いコンビ『アンフォールド』の全ネタを観るというものだった。セラフォルーには匙が実は芸人志望で将来超えられない壁になる二人を潰す為に嘘を付き、やはり面白すぎるので嘘をつき続けれなかった、と話したのだ。

 

「な~んだ! やっぱりそうだったんだね☆」

 

「では、お姉様、ネタを見せてあげたらどうですか? 私は仕事がありますので彼が録画したものを後で見せて頂きます」

 

 セラフォルーはそれを信じ、ソーナはこのカオス空間から脱出する為に匙を生け贄に捧げて逃げ出す。なお、当然後で見る気など毛程も無かった。

 

 

 

 

「ショートコント・カレンダーでボーリング!」

 

(つ、つまらねぇとかそれ以前の問題だ……)

 

 こうして匙はビデオカメラ片手に二人の持ちネタを十時間に渡って見せ続けられたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「封印されえていた『僧侶』を解放する、ですか?」

 

「ええ、そうよ。ちょっと力を扱えなくて封印する事になってたの。……アンノウンが戻って来る前に終わらせられれば良いんだけど」

 

 数日後、一誠達は旧校舎の一室を目指していた。万が一でもアンノウンが来たら大変な事になると危惧したリアスは会談の日まで温泉旅行をプレゼントしたのでアンノウンは今居ない。そしてテープが貼られた部屋の前にたどり着いた。

 

 

「じゃあ、開けるわよ?」

 

 リアスは入り口に貼られた封印の魔法陣を解除しながら今から起きる事態を予想する。ここに封印されている眷属こそギャスパー・ウラディ。既にアンノウンに色々と弄られている彼である。本当なら夜の間は旧校舎内を自由に歩けるにも関わらず引き篭って出てこない彼なら、一誠達の姿を見た瞬間に悲鳴を上げるだろう、と予想していた。

 

 

(……とりあえずどうやって打ち解けさせるかね)

 

 だが、ドアを開けたにも関わらず予想していた悲鳴は聞こえてこない。代わりに何やら話し声が聞こえてきた。

 

 

 

「我、ドロー4」

 

「ぼ、僕もですぅぅ」

 

「なら、私も」

 

「我、更に一枚」

 

「……何をしているのかしら、オーフィス」

 

「UNO」

 

 オーフィスはリアスの質問に普通に答える。そう、確かに答えはしたが、リアスが意図した答えとは少しズレていた……。

 

 

 

 

 

 

 

「……え~と、要約すると既にアンノウンとは接触していて、そこの眼鏡の彼とも……貴方、名前は?」

 

「初めまして、アーサー・ペンドラゴンと申します。座右の銘はYESロリータNOタッチ、好みは実妹か肉体の成長が芳しくない美少女です。……そこのお嬢さん、お名前をお聞きしても?」

 

「……塔城小猫です」

 

 早速小猫に声を掛けるアーサーを見てリアスは頭痛が激しくなるのを感じる。そしてアンノウンの関係者らしいのでどうやって入り込んだとかの追求はしない事にした。どうせ無駄だし、疲れるだけだ。

 

「ギャスパー、とりあえず新しい子を紹介するわね。金髪の子がアーシア・アルジェント。貴方と同じ『僧侶』よ」

 

「ア、アンノウンさんから聞いています。……他にパワー馬鹿の『騎士』と性欲の強い両刀(バイ)の『兵士』がが入ったって……」

 

 ギャスパーは其処まで言った所で間近に居る一誠に気付く。アンノウンから聞いた特徴と見事に一致していた。

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!! 犯されるぅぅぅぅぅぅうっ!! 女装少年好きの野獣に襲われるぅぅぅぅぅっ!!」

 

「……いや、あいつ俺の事どういうふうに言ってるんだよ。ほら、大丈夫だから……」

 

 一誠がギャスパーに近付いたその時、ギャスパーは両手の指で三角を作って頭上に掲げて叫んだ。

 

「ピラミットォパゥワァァァァァァァァッ!!」

 

 その瞬間ギャスパーの瞳が怪しく輝き、一誠の動きだけが停まっていた。

 

「で、出来た……。ついにピラミッドパワーをモノにしたぞぉぉぉぉぉっ!!」

 

「……どうせアンノウンの仕業ね。この状況を嘆くべきか喜ぶべきか……はぁ」

 

 何か変な事があったらアンノウンの仕業。そう学んだリアスはピラミッドパワーを褒め称えるギャスパーを見ながら溜息を吐いた。

 

 

 

 

「やはりピラミッドパワーこそ最強の力なんだっ! 吸血鬼の力も悪魔の力も神器もピラミッドパワーの前では無力! ああ、アンノウンさんに会えてよかった!!」

 

 

 

 

 とりあえず胃薬を飲むべきだろう。

 

 

 

 


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