自由大熊猫UNKNOWN ただしキグルミ 本編完結   作:ケツアゴ

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第十四話

 まさか本当に参加するとは、それがアンノウンの事を知る三すくみの指導者達の心境だった。

 

「あの、アンノウンちゃんってそんなに性格が悪いのですか?」

 

 三すくみの会談にミカエルのお供として出席する事となったイリナはミカエルの渋い顔を見て訊ねる。するとミカエルはアンノウンの出席を聞いた時よりも更に眉間の皺を増やした。

 

「ええ、あの野ろ……彼と私が出会ったのは私がまだ幼かった頃、見習いの仕事として神の所に向かったら主の背中に『特売』と書かれた紙が貼り付けられていました。他には知恵の実を全て食べ尽くしたり、天界に所蔵されている本のページをランダムに春画と入れ替えたり、神の靴下を片方だけ裏返しにしていたり、私が演説中している時、背後に『爆笑しなさい』ってニセのカンペを出したり。……やりたい放題でした」

 

「意外とセコイっ!? ……あれ? ミカエル様、今、”あの野郎”って言おうとしませんでしたか?」

 

「気のせいです」

 

 その時のミカエルの笑みは汚れ一つなき聖人君子の笑みであり、イリナも自分の耳がおかしかったのではないかと一瞬疑ってしまう。

 

「いや、だって……」

 

 だが、それでも自分の耳は信じたかったイリナであった。

 

「……さて、システムの様子を見てきますか。もしかしたら私にイチャモンを付ける信徒を追放するようになってるかもしれませんし」

 

「気のせいですね! そうに決まっています!」

 

 なお、システムとは聖書の神が残したもので、神が居なくても其れがあれば大丈夫なようになっているのだ。

 

 

 

 

 

「……ったくよぉ、此方が会いたくない時ばっか姿を現しやがって。形式で呼んだだけで来ねぇと思ってたのに……」

 

「まさか俺も来るとは思ってなかったぞ『閃光と暗黒(ブレイザー・シャイニング)の龍絶剣(オア・ダークネス・ブレード)』総督」

 

 アザゼルにかかった呪いは未だ解けていなかった……。

 

「俺が堕天した頃の時だがよ、抱こうとした女全てに堕天使の目には醜悪に映る術を掛けたり、異常性癖を持っているように誤解されたり。……連れ込んだ俺の部屋に薔薇な本と男物の下着が散りばめられてた時は頭が真っ白になったぞ」

 

「……ふ~ん、あいつってそんな事をしてたのか。俺と戦った時もワサビ寿司をお茶なしで食べたり、スキップやドロー4を連発したり……あの時、中吉さえ来なければ引き分けだったんだがね」

 

「だからどんな戦いだったんだよっ!?」

 

 

 

 

 

 

「わーい! アンノウンちゃんが来るんだね」

 

「お姉様はアンノウンと友人なのでしたよね?」

 

「うん! 初めて会った時は酷い事言われたんだけど、その後仲良くなっちゃった!」

 

「何を言われたのですか?」

 

「キッツ! って言われたんだ。酷いよね、プンプン」

 

 この時、ソーナは思った。

 

(ああ、勇気あるな。皆思っていても言えない事を……)

 

「気紛れな子だから滅多に会えないんだけど、今度は会えるんだね。楽しみだな~」

 

「……私は不安です」

 

 ただでさえ手が付けられない者同士。それが友人だというのなら一箇所に揃ったらどうなるか。ソーナはそれが不安だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「公開授業? 僕も行って良~い?」

 

 グレイフィアの黒歴史に新たな一ページが刻まれてから数日後、息子の一誠ではなくアーシアの授業風景を楽しみにしている一誠の両親の様子を見たアンノウンは唐突にそんな事を言い出した。

 

「……駄目に決まっているでしょう。学園は部外者立入禁止よ」

 

 当然のごとく拒否するリアス。どう考えても余計な事しかしないからだ。

 

「え? でもグレちゃんは入って来たよね? ほら、ライザー君とのゲームが決まった時」

 

「あの時は仕方ないでしょ? ……本当に頼むわよ」

 

「分かった! 部外者は入ったらいけないんだね」

 

 妙に聞き分けの良いアンノウンに一抹の不安を感じながらも取り敢えず信じる事にしたリアス。でも、一応学園の警備を強化するよう、後でグレイフィアに連絡する事にした。

 

 

 

 

 

 

「……部長も大変だよなぁ」

 

 公開授業当日、親が自分の授業風景には大して興味がなさそうな事に若干の悲しさと気楽さを感じている一誠は兄と父親が来る事を恥ずかしがっていたリアスの事を思い出して呟く。その時、友人の元浜が話しかけて来た。

 

「聞いたか? イッセー。次の数学なんだが担当の田中が急病で、代理を雇ったらしい。……詳しく知らないが、その代理は凄く可愛いそうだ」

 

「マジかっ!? うっひょぉぉぉぉお!」

 

 二人の脳内には初々しさが残る新米美人教師があたふたしながら授業を進める姿が浮かんでいた。

 

「きっと苦労するから、俺がさりげなくフォローすればもしかして……」

 

「”私達、先生と教師だけど構いませんよね? 秘密の授業、始めましょう”、とかなっ!」

 

 夕暮れの誰も居なくなった空き教室で新米女教師と男子生徒が二人っきり。教壇の上に座った先生はそっとブラウスのボタンを外しパンストを脱ぐ。まだ少女といってもいい顔立ちからは想像も付かないような豊満な胸とそれを包むブラが覗き、誘うようにそっと手が前に突き出された。

 

「……な~んてなっ!」

 

「うぉぉぉぉぉおおおおっ! 早く数学の時間来いやぁぁぁぁっ!!」

 

 エロ妄想でテンションを上げる二人だが、一誠に向けられる女子の視線は暖かかった。

 

「……木場君とうまく行ってないのかな?」

 

「そんな事無いわよ。この前も一緒にカラオケ行ったみたいだし。あ~、二人のイチャつきが間近で見れるアーシアさん達が羨ましい!」

 

 未だ無くならないどころか急加速で広がり続ける噂。それは不幸か幸いか、一誠本人は未だその噂を知らなかった……。

 

 

 

 

 そして数学の時間、チャイムの音と共に教室のドアが開く。一誠は其処を食い入るように見つめ、入ってくるのを今か今かと待ち侘びていた。

 

 

「急病で休んだ田中先生に代わりに授業を行うアンノウンだよ~。宜しくね~」

 

「きゃぁ~! パンダよパンダ!」

 

「あっ! 胸に『教員資格保有のパンダ』って書いてるぅ~! わぁ! あの子、頭良いんだ!」

 

 入って来たのは確かに可愛い系。正そそれは動物的な意味だった。

 

「ア、アンノウンっ!? 何でお前が此処にっ!?」

 

「だから、田中先生の代役だって言ったじゃん。それよりも一誠君。授業中に立ち上がって叫ぶなんて感心しないよ。はい、罰としてこの問題を解いてね」

 

『3 以上の自然数 n について、xn + yn = zn となる 0 でない自然数 (x, y, z) の組が存在 しない。これを証明せよ』

 

 その問題の名は『フェルマーの最終定理』。完全証明されるまで三百年以上かかった数学界の難問である。まかり間違っても一高校生が解けるような問題ではないだろう

 

「解けるかっ!」

 

「え~! じゃあ、もっと簡単なのにする? 三×四÷十二(三×四)は?」

 

「巫山戯んなっ! 馬鹿にしてんのかっ!?」

 

「巫山戯てないけど馬鹿にはしている」

 

 案の定、授業中おちょくられ続ける一誠。なお、他の生徒に対しては比較的マトモに授業が行われたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ~、マジで大変だった」

 

「アンノウンちゃん、先生も出来るなんて凄いですね!」

 

 午前の授業終了後、自動販売機の前で疲れた顔をした一誠に対してアーシアは瞳を輝かせて数学の授業の事を語っている。一誠がさんざん弄られていたにも関わらずこの態度なのからして、だいぶアンノウンに染められているのだろう。感覚がマヒするか間違った常識を教え込まれているようだ。

 

「ア、アーシア……ん? なんだ?」

 

 その事に気付いた一誠が嘆いた時、何やら人が体育館の方に向かっていくのを発見する。丁度祐斗も向かっていたので呼び止めた。

 

「どうも魔法少女が居るみたいだよ」

 

「魔法少女っ!? ……まさか猫耳つけたマッチョじゃないよな!?」

 

「え~と、イッセー君の契約の常連でミルたんだったっけ? 多分違うんじゃないかな」

 

「だったら見に行こうぜっ!」

 

 期待していた可愛い教師は別の方向で可愛い教師の上に授業中非常に疲れさせられた一誠は心を癒すべく魔法少女が居るという体育館へと向かった。

 

 

 

 

「「あはははは! とう!」」

 

 そして入った時、一誠の目に飛び込んできたのは互いの手をとってクルクル回る魔法少女とアンノウンの姿だった。一旦手を離した二人は後ろに飛んで距離を取る。

 

「「しゅたたたたたった! あちょー!」」

 

 そして掛け声を上げながら急接近し、互い相手に向かって飛び掛った。

 

「「仲良し~!!!!!」」

 

 そのまま抱きしめ合う二人。そして一誠はクルリと背を向けた。

 

「……帰ろう」

 

 この時、一誠は直感で察したのだ。あの組み合わせに関わったら大変だと……。

 




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