自由大熊猫UNKNOWN ただしキグルミ 本編完結   作:ケツアゴ

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第十三話

「まったく、どうしろって言うのよ……」

 

 コカビエルの一件の事をサーゼクスに報告したリアスは頭を抱えていた。アンノウンの事である。まず通信に出たグレイフィアだが、アンノウンの名前を出した途端に何時もの冷静な儀礼フィアではなくなった。

 

「あの、グレイフィア。アンノウンなんだけど……」

 

「殺しましょう」

 

「いや、あの……」

 

「殺すしかありません。さあ、眷属の皆さんと協力して今すぐ奴に制裁を与えましょう」

 

  次に通信に出たのはサーゼクス。アンノウンの事を相談するも通信先のサーゼクスは笑っていた。

 

「あははははは。彼は邪悪じゃなくて悪戯好きなだけなんだ。何かやっても勘弁してやってくれ」

 

「でも、流石に今回の件は……。というより、お兄様はアンノウンの正体を知っているのですか!?」

 

「ああ、知ってるさ。……喋るパンダだろう? それも凄い長生きしてる」

 

「もうそれは良いわっ!!」

 

 マッハでストレスが臨界点に達したリアスは通信をブチ切った。

 

 

 

 

 

「三すくみの会談? そんなのがあるんだ」

 

 禍の団のアジトに戻ったアンノウンはオーフィスの蛇を作りながらヴァーリと話していた。

 

「ああ、俺があの後コカビエルを回収しただろ? その後でやつはコキュートスで永久冷凍の刑になったが、それだけでは終わらなくてね。取り敢えず事件現場である学園で話し合いを行うそうだ。……そうそう、俺と君が友人だと知ったアザゼルが君にも参加するように行っておけだとさ」

 

「……え~。面倒くさいなぁ」

 

 アンノウンは心底嫌そうな声を出す。面白い事しかしたくないアンノウンからすれば会談など興味はなく参加する理由はない。そもそも弄ると楽しいリアスや簡単に騙せるアーシアなどのお気に入りの前から姿を消したのもコカビエルを倒した事への追求という面倒事を避ける為なのだ。

 

「面倒臭いから連絡が付かないとでも言っておい……まてよ? たぶん悪魔側も僕の出席を望むだろうから……」

 

 アンノウンは暫く腕組みして考え込み、ポンッと手を叩くと荷物を纏めだした。

 

「僕、帰るね。オーフィスも一緒に来る? 打ち合わせとかしたいし」

 

 しかしオーフィスはパソコンから視線を外さずに手元のポテチに手を伸ばすと首を横に振る。マウスが油でベトベトだが気にした様子もない。

 

「行かない。我、ネトゲしていたい」

 

「課金の代金出してあげるからさ。それと焼肉奢ってあげる」

 

「なら行く」

 

 オーフィスは残ったポテチを口に流し込むとアンノウンの頭に飛び乗った。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~。いや~、北国の温泉街は良かったよ」

 

「……あら、早かったわねアンノウン。って黒っ!?」

 

 アンノウンが一誠の家に帰った時、彼は白黒から黒一色になっていた。

 

「日差しがきつかったけどパイナップルが美味しかってさ。自転車で五時間かかるのは大変だったけどね。はい、お土産の生八つ橋」

 

「結局何処に行ってたのよっ!?」

 

「禍の団のアジ……むぐ」

 

 余計な事を言おうとしたオーフィスは口の中に生八つ橋を押し込まれて黙り込む。オーフィスが口元に付いたアンコを指で拭って口に運ぶ中、アンノウンは妙に広くなった家の中を眺めていた。

 

「わあ! 改装したんだ。……僕の部屋は残ってるの?」

 

 一誠の家だが彼に惚れたリアスも同居を始めた事で手狭になり、隣家の土地を買い占めて地下室まである大豪邸に改築したのだ。

 

「……一応ね。それで貴方に頼みがあるんだけど。今度三すくみの会談があるから其れに貴方にも参加して欲しいそうよ」

 

「……面倒臭いなぁ。あ~あ、僕のお願いを聞いてくれたら行くのになぁ」

 

「アンノウン、お願い有るみたい」

 

 アンノウンはリアスの方をチラチラと見ながら呟く。オーフィスもそれを真似してリアスをチラチラ見ていた。

 

「ああ、もう! 分かったわよ! 私に出来るお願いなら叶えてあげるから言ってごらんなさい!」

 

 そしてリアスはこの言葉を後悔する事となった……。

 

 

 

 

 

 

 そして数日後、冥界にある撮影所でとある撮影が行われようとしていた。出演者は一人。魔法少女を思わせるフリフリの服を着た彼女は手に星型のステッキを持っていた。

 

「リリカルラジカル、トランスマジカルル~ルルル!」

 

 カメラに背を向けた彼女がステッキを振ると効果音と共に小さな星がステッキから飛び出し、片足でターンを決めるとスカートが翻りもう少しで中が見えそうになった。撮影を見学しているサーゼクスの視線は彼女の太ももに注がれるも何時も彼を叱るグレイフィアは居ない。

 

「あははは! 似合ってるよグレちゃ~ん」

 

 そう。今魔法少女っぽい格好でポーズを決めている女性こそグレイフィアその人なのだ。アンノウンが指定した会談への参加条件。それはアンノウンが指定した格好とポーズをノリノリの態度で撮影する事。魔法少女好きのセラフォルーの監修に撮影には膨大な予算が掛けられていた。

 

(後で覚えてなさい、サーゼクス、そしてリアス。……アンノウンは必ず殺してあげます)

 

「グレイフィア様ー。次のポーズ、次のポーズ!」

 

 監督の言葉に我に帰ったグレイフィアは溢れ出そうな殺気を隠し作り笑いを浮かべた。

 

「華麗に変身マジカル・パッフェ! 貴方のハートにチェックメ~イト!」

 

 グレイフィアはステッキを構えて横チェキと共に前屈みになってポーズを決める。その際ピチピチの服に包まれた胸が揺れ、男性陣の視線が奪われる。

 

「魔法少女プリティ・グレイフィア! 月光の下に只今参上!」

 

 最後にウインクをして笑みを浮かべたグレイフィアの背後にハートのエフェクトが出現した。

 

 

 

 

 

「ぶわっはっはっはっはっ! まじ最高! ほらオーフォスも笑ってあげて」

 

「我、笑う。ははははは」

 

「……っぷ」

 

 撮影所にアンノウンの爆笑とオーフィスの棒読みの笑いが響き渡る。サーゼクスもそれに釣られて吹き出した時、謎の悪寒を感じハッと気付いてグレイフィアを見ると静かに微笑んでいた。だが彼女の顔を見続けると嫌な汗が流れ落ち、唇だけでこう告げているのに気付いてしまった。

 

『後でお仕置きです。分かっていますね?』

 

 この時、サーゼクスは死を覚悟した。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、約束だしこの動画は動画サイトにはアップしないでおくね」

 

「それでは約束通り会談への出席をお願いします」

 

 アンノウンは時折吹き出しながら先ほどの映像が録画されたディスクを抱える。グレイフィアは屈辱で震える拳を隠しながら無表情でお辞儀をする。スカートの下に隠れた足には誰かの血液がベッタリと付着していた。

 

 

 

 

「じゃあ、息子のミリキャス君が思春期になったらこれを見せに行くね」

 

「それは絶対やめてくださいっ!」

 

 

 

 

 

「祐斗先輩、……あ~ん」

 

「あ、あ~ん」

 

 その日、小猫は無表情で何とも形容し難い物体を祐斗の口に運ぶ。死を覚悟した顔でそれを口に入れた祐斗の顔の色が青くなりやがて紫になり、最後には黒くなった。

 

 なぜこの様な事になっているかというと、禁手に至ったのは良いのだが発動中は何故か非常に不味い味が口に広がる事が有り、それを克服する為にメシマズ属性持ちの小猫の手料理で慣らしているのだ。訓練がしやすいように二人は同じマンションに住んで家事も分担している。さながら同棲カップルのような生活だが、祐斗の胃はリアスとは別の原因でダメージを受けていた。

 

「……あの、やっぱり食べたくないですよね」

 

「い、いや、そんな事ないさ、小猫ちゃん」

 

 縛られて無理やり食べさせられていた祐斗だが、流石に可愛い後輩が涙を浮かべながら上目遣いに見て来たら進んで食べるしかないだろう。祐斗は死刑台に自ら登る死刑囚の心境を味わいながら小猫の手料理に口を付けた。

 

 その時である。オーフィスを背中にくっつけたアンノウンが窓から入ってきた。

 

「お邪魔しま~……した」

 

「我、帰る」

 

 そして小猫の手料理を見るなり帰ろうとする二人。だが、それよりも早く祐斗が回り込んだ。

 

「やあ、二人共久しぶりだね。どうだい? ご飯でも食べていきなよ」

 

「……沢山、有ります」

 

 この時、オーフィスは恐怖を浮かべながらアンノウンの背中をギュッと握り締めた。

 

 

 

 

 

 

「……なんかさ、不味いとか酷いとかじゃなくて……テロいね」

 

「ふふふ、君なんか良い方さ。僕はアレを毎食だよ?」

 

 奇跡的に生還したアンノウンと祐斗はリビングでテレビを見ながら話をする。その間小猫とオーフィスは風呂に入っていた。

 

 

 

 

「……あまり動かないでください」

 

 小猫は前に座ったオーフィスの髪に付けたシャンプーを泡立てるとシャワーで流す。その間オーフィスは壁に付けられた鏡をジッと見ていた。

 

「小猫、胸小さい」

 

「……放っておいて下さい。貴女は姿を自在に変えられるそうですが、私は無理なんですから」

 

 怒りを感じながらも目の前の存在は自分など到底かなわないと分かっているので拳を振るえない小猫のストレスは溜まるばかりだ。そしてオーフィスの髪を洗い終えた時、オーフィスがスポンジを差し出してきた。

 

「我、背中洗ってあげる」

 

「……お願いします」

 

 最強のドラゴンに背中を流してもらうという貴重な体験に緊張しながらも小猫が背中を向けるとボディソープを含ませて泡立たせたスポンジが小猫の背中に触れる。絶妙な力加減でスポンジは小さな肢体を動き回り、今度は前側に伸びてきた。

 

「……前は自分で洗います。それかせめて其方を向くので離れてください」

 

「我、待つの面倒くさい」

 

 小猫の背中に密着したオーフィスは短い手を伸ばして小猫の前面に泡を着けていった。

 

 

 

 

 

「小猫、胸ないから何とか届いた」

 

「……余計なお世話です。先程から口が悪いですが、アンノウンの影響ですか?」

 

 若干涙目になって自分の胸元を手で隠す小猫の問いに対しオーフィスは首を微かに捻った。

 

「我、分からない。アンノウンとは付き合い長い。でも我、アンノウンの本名も正体も知らない」

 

「喋るパンダ、じゃなかったんですか?」

 

 オーフィスはフルフルと首を横に振ると無表情で答えた。

 

 

 

 

 

「……違う。アンノウン、パンダじゃない。でも、それ以上知らない。我知ってるの一つだけ。アンノウン、我より強い、それだけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




意見 感想 誤字指摘お待ちしています


ミリキャスくん、可哀そう。でも、私の別作品の主人公は・・・・・・

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