自由大熊猫UNKNOWN ただしキグルミ 本編完結 作:ケツアゴ
「やあ! 君達はカップルのようだね。ささ、このチラシをどうぞ」
それは兵藤一誠が初めて出来た彼女である夕麻とのデートの途中の事。二人はパンダに……いや、正確にはパンダのキグルミを着た人物に話しかけられた。全体的に丸っこいフォルムのパンダのキグルミの上から『日本代表』と書かれたタスキを下げており、渡されたチラシを見ると『厨二病教室 ~カオスに選ばれし前世の仲間と共に邪眼をコントロールし愚かな民衆を見返そう~』などと書かれており意味が分からない。
「……君、少し話良いかな?」
「悪いんだけどさ、それとって顔見せて」
当然その様な怪しいチラシを怪しい格好で配っていれば警戒され、誰かが通報したのか警察官がキグルミの肩を掴む。その手にはベッタリと白餡が付いていた。
「無許可なんで此処らで失礼。ふはははは! サラバだ、とっつぁん! そしてあ~ばよ、明智君!」
「逆だ逆! てか、待て!」
パンダのキグルミの肩は警官に触られた時に白餡がゴッソリと落ちてしまって欠けている。パンダのキグルミが口笛を吹くと何処からとも無くブランコをぶら下げた無数のカラスが飛んで来て、それに乗って何処か彼方に逃げていった。
「あ~、面白かった!」
パンダのキグルミは警察官から逃走すると廃ビルに隠しておいた魔法陣で家へと転移する。そのままクローゼットに向かうと無数のパンダのキグルミが並んでいた。
「さて、どれにするか。黒歌はどう思う?」
「どれも一緒なんじゃない?」
着物を着崩してソファーに寝そべった妖艶な女性はパンダのキグルミから話を振られて困惑している。その反応を見たパンダのキグルミは大袈裟に肩を竦めると深く溜息を吐いた。
「あ~あ、だから君は黒歌なんだよ。全く、この前も冷凍食品を冷蔵庫に入れるし、少し常識が欠けてるんじゃないのかい? それに、その格好。……恥ずかしくないの?」
「年がら年中キグルミのアンタが言うなっ!!」
「まあまあ、アンノウンに文句言っても疲れるだけだぜぃ」
黒歌を宥めるのは中国風の鎧を纏った青年。彼の名は美猴、斉天大聖孫悟空の子孫であり、この三人はテロリストの一員であった。
「それでさ~、見付けたよ。赤龍帝。黒歌の妹が居る学校で変態行為を繰り返してる三人の内の一人」
「よし、殺そう!」
「落ち着けって。お前さん、お尋ねもんだろがよ」
「ぶひゃひゃひゃっ! 相変わらずシスコンな~んだね。同じシスコン仲間としてどう思う? アーサー」
話を振られたのはメガネの美青年。その隣には彼の妹で魔女のルフェイが座っていた。
「……そうですね。私としては痴女の黒歌と一緒にして欲しくないですね」
「に、兄さん! いくら本当の事でも言って良い事と悪い事がありますよ!」
「そうだぜぃ! 黒歌は痴女かもしれねぇが、お前と同じシスコンだろうがっ!」
「……アンタ達、いい加減にしろや。誰が痴女にゃん?」
黒歌は先程からの痴女連呼に体を震わせ顳かみがピクピクと動いている。本気で激おこプンプン五秒前だ。
「「「「黒歌(さん)」」」」
「う、うわ~ん!!」
全員同時に発した言葉に黒歌は涙しながら去っていく。その姿をルフェイは申し訳なさそうに見ていた。
「あの、アンノウンさん。流石に可愛そうだったんじゃ……」
「じゃあ、これ約束の高級スイーツバイキングの入場券。いや~、中々手に入らなくて苦労したよ」
「有難うございます!」
「美猴は人気ラーメン店の店主への紹介状ね。これ見せたら裏メニュー出して貰えるから」
「うっひょっ! お前、マジ何者なんだぜぃ? アンノウン」
二人は約束の品を渡されるなり黒歌の事などすっかり忘れ上機嫌だ。パンダのキグルミ……いや、アンノウンは美猿の質問に対しクスクス笑いながら言った。
「だから何時も言っているでしょ?
「……兄さんっ!?」
魔女っ娘であるルフェイはアーサーから一気に距離を取る。その目には軽蔑が込められていた。
「誤解です、ルフェイ! 私はそのような物など……」
「ごめんごめん。魔女っ娘兼妹物だったね。ほら、要望全て当てはまる、実の妹である魔女っ娘を剣士である兄が犯すって内容だよ」
「……暫く話し掛けないでくださいね、兄さん。あっ、それと私は数日間は黒歌さんの所に泊まりますから」
其の時のルフェイがアーサーを見る目は道の真ん中に吐き捨てられた吐瀉物を見る目と同じだった……。
「……ア~ン~ノ~ウ~ン~!!」
「奴なら逃げたぜぃ」
なお、アーサーが頼んだのはエロゲーではなかった。全くの誤解である。
「ねぇ、一誠君。……死んでくれないかな?」
アンノウンによるチラシ配りの騒動から数時間後、夕暮れの公園で一誠は夕麻からその様な言葉を向けられた。呆然とする彼の前で夕麻は鴉の様な翼を広げ飛び上がる。そしてその手には光の槍が握られており、
「焼き芋~! ホックホクの石焼き芋だよ~!! 早く買わないっといっちゃうよ~」
二人の間を焼き芋の屋台を引っ張るアンノウンが通り過ぎる。急に現れたパンダのキグルミに二人が呆然とする中、アンノウンは立ち止まると懐から一枚の紙を取り出した。
「”三年一組 兵藤一誠 『将来の夢』 僕は大きくなったらアクション仮面になりたいです。何故なら凄く格好良いから女の子にもモテ……」
「わ~わ~! それ以上は止めてくれぇええええっ!!」
アンノウンが読み上げたのは一誠が忘れていた子供の頃の作文。今読まれるととても恥ずかしい。必死に止めにかかる一誠に対しアンノウンは右手を差し出した。
「一個六百円 早く買わないと
一誠は慌てて財布を取り出す。だが現実は非情で、デートの為に有り金を殆ど使い果たして三百円しか残っていない。アンノウンはその財布の中を見ると再び作文を読もうとする。この時、一誠は強く願った。
(頼む! 誰かお金を貸してくれ!!)
その時である。デートの前に渡された『あなたの願い叶えます』、というチラシが光り輝き、描かれた魔法陣から赤髪の美少女、リアス・グレモリーが現れた。
「貴方が私を喚びだしたのかしら?」
「グレモリー先輩っ!? ちょうど良かった……お金貸して下さい!」
「はいっ!?」
この時のリアスの顔は驚きで固まっており、何時の間にか自宅に『厨二病教室』と書かれた看板と入門希望者が集まった時に匹敵する間抜けさだった。
(……うん。この娘、グレちゃんと同じで弄りがいがありそう! あっ! またグレちゃん
アンノウンはリアスを見ながら北叟笑み、とあるメイドは底知れぬ悪寒を感じた。
「い、今嫌な予感が……。まさか奴がっ!? い、いえ、アンノウンなら百年ほど前に睡眠薬で眠らせた上で鎖で縛り、コンクリ漬けにして金庫に入れて
そして彼女の嫌な予感は的中していた……。
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