そんな時、服の裾が引っ張られている事に気が付いた。
足元には、灰色の四角いロボット。キャタピラ足のモノアイ。
「どうしたんだ?」
俺は屈み、ロボットと同じ目線になる。ロボットはモノアイを点灯させている。
『コンニチワ、デス』
ロボットは律儀にお辞儀し、俺も釣られお辞儀を返した。
『ソレデハ、ココニテヲオイテクダサイ』
ロボットは体からアームを出すと、そのアームを差し出す。
別に断る事も無い俺は、出されたアームに手を乗せる。すると、学園長が「あーっ!」と叫んだ。
「へっ? どうしたんだ」
「お主、何故わざわざ旧型を選んだのじゃ!?」
学園長はそう言いながら顔を近づけてきた。彼女も出来ず十八年過ごしてきた俺は、
女性への免疫が無い。だから、顔を背ける。
きっと、顔が熱いのは気のせいでは無い。
「世界で一人しかいないお主には、最強の新型ギアーズを渡すつもりじゃんたんだぞ!」
それは、理不尽じゃないか? と思っていると学園長は横目でロボットを一瞥する。
「こんなガラクタ、どこが良いのじゃ。今ならまだ契約破棄が可能じゃぞ!」
「黙れ」
学園長の言いように、頭に来た。そして、口から自分でも驚くほど冷たい声が出た。
「使かってないのに、最初から駄目扱いはいけないだろう」
「……このガラクタを使った者は死んだのじゃ」
学園長は辛そうに顔をしかめる。
だけど……。
「使ってみなきゃ解らないだろ。前の奴は、コイツの所為で死んだとは限らない」
ロボットはモノアイを忙しく、左右に動かしている。
一方の学園長は顔を背け。ケイトは無表情で俺を見ていた。
「なら、それを使えばいい……ケイト、あやつを部屋に連れて行くのじゃ」
後ろに控えているケイトに指示する。ケイトは俺の前に立ち「変態、行きますよ」と。
「ちょ、ちょっと待て!」
さっさと行ってしまうケイト。
だが、俺はこの学園の地形を全く知らない。だから、はぐれたら迷子になってしまう。
俺は早足でケイトの後ろを付いて行った。
ロボットは器用にお辞儀をして、学園長室の扉を閉めた。
・
純白の壁に、均等的に付けられている電球。その廊下を歩いていた。
「ちょっと待ってくれよ! ケイト」
「気安く名前を呼ばないで下さい、変態」
ケイトに一瞥される。
というか、何で俺はこんな扱いなんだ……?
あっ、原因は俺じゃん。
「せ、せめて普通に呼んでください」
何故か、敬語になっている。
というか、変態という名から変えてもらえるなら、俺は土下座でも出来る覚悟だ。
ケイトは考える素振りをすると「分かりました」と、頷く。
「じゃあ――」
「では、今後から変態さんとお呼びしますね」
あまり変わってない自分の呼び名に絶望した。
俺は地面に膝を着き、頭を下げる。言うなれば土下座、というやつだ。
「本当に変態以外でお願いします!」
頭が痛くなるほど、地面に打ち付ける。
この世界に俺以外の男がいない。それで、もし変態と言われ続けていたら、
男は変態という方程式が出来上がってしまう。
「しょうがないですね……じゃあ、Tさんとでも呼びましょうか?」
「俺は容疑者か! って、驚いた顔をしない」
ケイトは驚いた顔をする。
だけど、変態よりはマシかと納得する。変態よりはね……。
「じゃあTで構わないよ」
「分かりました。へ……Tさん」
「今、変態って言いそうになってたな」
俺が詰め寄ると、ケイトは顔を反らす。そして、会話を変えることを思い出したのか、
手を叩き「そうでした」と言う。
「ここが、Tさんの部屋ですよ」
ケイトは足を止め、木製の扉を指さす。
「本来は物置部屋でしたけど、急ピッチで片づけました」
「ここが、俺の部屋か……って物置?」
この部屋が物置。しかも、急いで片づけた。ならこの学園の生徒は? まさか……。
「後、本来なら同部屋なんですが、変態と一緒では可哀想なので、独断で
この部屋を案内しました」
「ちょっと待て、相部屋の子に確認したのか?」
「はい。貴方との相部屋の方は、突然いやらしい笑みを浮かべ、一人で頷き変態だから嫌です、と」
「成程な」
俺はもう変態の角印を押されたのか。でも、まだ会ってない子にまで変態……って。
「それって、相部屋ってお前じゃねーか!」
そうツッコミを入れると、ケイトは舌打ちをする。俺にも聞こえる位の高さで。
「では、明日の早朝迎えに行きますから。身勝手な行動は慎んで下さい」
無視をして、話し続けるケイト。
ケイトは淡々と明日の事を話すとその場を後にしていた。
俺は溜息を吐きながら木製の扉を開いた。
「アイツはツンデレか」
俺は部屋を見て、そう呟いてしまった。何故なら……。
物置部屋と思わせないほど綺麗で、一片の汚れもない。しかも広い。
家具はベットと机だけだが、満足ものだ。
「というか疲れたな」
今日は色々とあり過ぎた。
獣人族のケイトに銃を突き付けられたこと。
なんやかんだで、このローテイア学園に入学すること。
「帰れるのか? 元の世界に……」
ベットの上で横になる。
まだ、気持の高ぶりはあるが、それでも睡魔の方が勝っていた。
俺は、意識を睡魔に委ねた。
感想、アドバイスなどドシドシ下さい。