「全く…兄貴はどこにいるんだ…………」
青葉ユウトは兄の姿を探していた。
(ヒカリもいないし……いったいどこにいるんだ)
意外と広い店内で、たまにストレージ内のカードを物色しながら、ユウトは歩く。
すると、すぐ近くのファイトスペースから声が聞こえてきた。
「…トの…ースト………モルドレッドでアタック!!パワーは17000!」
「…障壁の星輝兵 プロメチウムでガード!…………グラビティボール・ドラゴンをドロップして、完全ガードだ!」
「…兄貴と、ヒカリ…?」
そこでカズトはユウトがそばにいることに気がついたようだ。
「おお!ユウト、お前どこにいってたんだ?」
「どこって…というか、ヒカリはファイトしてくれたんだ」
「…………気まぐれ…だよ」
ヒカリが答える。本当はヒカリ自身考えていることがあったが、今は胸の内に秘めておくことにした。
「というかユウトよぉ…ヒカリちゃんについて後で話がある」
「え?何の?」
「だから…お前」
「ドライブチェック…」
ユウトとカズトの会話に割って入るようにドライブチェックを始めるヒカリ。
「first…マクリール…トリガー無し………second…厳格なる撃退者!…get!クリティカルトリガー…効果は全てリアガードのタルトゥに………… 」
現在、ヒカリのリアガードサークルは5体分全て埋まっていたが、ヴァンガードである“幽幻の撃退者 モルドレッド・ファントム”の左側にいたユニットは裏向きにして置かれていた。
(…………呪縛…“ロック”…だなんて…)
裏向きにして置かれいるユニットはこの“前のターン”にカズトの“グラビティコラプス・ドラゴン”によって“呪縛”されたものだった。
(こんな…効果………全く知らない)
「…………タルトゥ、カロンのブーストでアタック!!パワーは22000、クリティカル2!」
「うーん、“星輝兵 ヴァイス・ゾルダート”と“回想の星輝兵 テルル”でガードかな」
カズトの手札が削られる。
「…………ターンエンド…の前に、えっと“解呪(アンロック)”?が行われるんですよね…………」
「ああ!これは“普通の”呪縛だからな」
ヒカリが表に戻したカードはタルトゥだった。
ヒカリとカズトのダメージは互いに4点、ヒカリは自身がグレード2の時点ですでにここまで与えられていた。
原因はカズトのクリティカルトリガーとその時の手札にガードに使えるカードが無かったことにある。
ヒカリはルゴスにライドした後、タルトゥを使い、リアガードを展開。トリガーも乗り、同じ4点まで追いかけるも、今のターンはダメージを与えることができなかった。
(…手札は削った…………)
(…アニメもすっかり見なくなったし……ネット環境だって…………無い…………リンクジョーカーも…呪縛も知らなかったけど…………負けたくない…)
この時点でカズトの手札は残り1枚にまで減っていた。
ヒカリが猛攻を受けたようにカズトもまたしつこいほどの攻撃とトリガーを食らっていた。
「さぁ!ここからが俺のターン!スタンドとドロー!そして…………」
カズトは一枚のカードを手にすると言葉をためた。
「虚ろなる竜は汝を永遠の悪夢へと誘う!ライド!シュヴァルツシルト・ドラゴン!!」
「「……………」」
「ふっ…どうかな?」
カズトがどや顔で聞いてくる。
「えーあーどうだろ」
「…まぁまぁ………いいんじゃないですか……ね?(……どや顔じゃ……なければ)」
微妙に冷たい空気が流れる。
「えーっと(何か変な空気になったか…)ライド時のスキル!CB1で山札の上から5枚見て、“シュヴァルツシルト・ドラゴン”を1枚手札に…加える!!」
カズトはスキルを成功させた。だが、カズトの手札はやはり2枚しか残されていない。
彼はその手札の内、シュヴァルツシルト・ドラゴンではない1枚を手に取り宣言した。
「“シュヴァルツシルト・ドラゴン”の左!“魔爪の星輝兵 ランタン”の後ろに“凶爪の星輝兵 二オブ”をコール!!」
カズトはグレード1のランタンとグレード2である二オブの位置を入れ換えながら言う。
「今の俺の状況は正に壊滅寸前と言っていいだろう」
シュヴァルツシルト・ドラゴンの右にはここまでヒカリに手痛い攻撃を仕掛けていた“魔爪の星輝兵 ランタン”がいた。
ヒカリは前のターンで退却させておくべきだったかと考える。
「だけど!俺はあきらめたりしないさ、これは“カードファイト!!ヴァンガード”…………何が起こるかわからないゲームだからな!」
カズトは手札のシュヴァルツシルト・ドラゴンをヒカリに見せる。
「“リミットブレイク”発動!………CB3…そして、シュヴァルツシルトの“ペルソナブラスト”!!」
カズトはダメージゾーンのカードを3枚裏返すと、手札のシュヴァルツシルトをドロップゾーンへと置いた。
「シュヴァルツシルトのパワー+10000、クリティカル+1…………そして」
カズトの指がヒカリのユニット達に向けられる。
「“黒衣の撃退者 タルトゥ”を2枚…そしてモルドレッドの後ろにいる“クリーピングダーク・ゴート”をまとめて…………“呪縛”!!」
モルドレッドを中心にVの字のように呪縛されたカードが置かれる。
呪縛されたカードは何もできず、置き換えることも出来ない…………これでヒカリは次のターンに“ヴァンガード”でしかアタックできない。
「リアガードの二オブやランタンのスキル発動!君のリアガードが呪縛されるたびにパワー+2000…つまり、3体呪縛された今!二オブはパワー15000!!そしてランタンもパワー13000だ!!」
カズトの頭の中ではユニットを3体呪縛したことで愉悦にひたるシュヴァルツシルトの姿が浮かんでいた。
「全く…状況は楽じゃないってのにコイツは…」
そう呟くカズトの方が周りから見たら、悦に入ってしまっているようだ。
「……………青葉クン、あなたのお兄さんは…どうやら“相当”ね…………」
「…ヒカリに言われるほどだもんなぁ」
「…青葉クン、それどういう意味………?」
こんな会話もカズトの耳には入っていなかった。
「さぁ…行くよ!パワー21000、クリティカル2!シュヴァルツシルトでモルドレッドにアタック!!」
「…………っ!マクリールで完全ガード!コストにするのは…………“冒涜の撃退者 ベリト”」
カズトが山札に手をかける。
「ふっ運命の…ドライブチェック!!…ファーストチェック……………よし!“星輝兵 ヴァイス・ゾルダート”で、ゲット!クリティカルトリガー!!効果は全て二オブに与える!」
この時点で二オブのパワーはブースト込みで計算してパワー33000…さらにクリティカルが2。
ヒカリは自分の手札を確認する。
「セカンドチェック!……………“連星のツインガンナー”…………トリガー無しだ」
カズトは二オブに手をかける。
「むしろここからが勝負!ラドンのブーストで、二オブがモルドレッドにアタックする!!パワー33000のクリティカル2だっ!!」
(…完全ガードはこっちに使うべき…だったかな)
ヒカリは手札から3枚のカードを出す。
「……“撃退者 エアレイド・ドラゴン”!!“厳格なる撃退者”!!“暗闇の撃退者 ルゴス”!!……………この3体でガード…………!!」
カズトの最大の攻撃は完全に防がれてしまう。
「…………ランタンでヴァンガードにアタック…」
「…ノーガード、ダメージは…モルドレッド・ファントム」
「…ターンエンドだ」
カズトの苦し紛れの攻撃でヒカリのダメージが5点になる。
(これでブレイクライドが発動されちまうか…?)
ヒカリのダメージゾーンにすでにあった4枚のカードは全て裏向きであり、カウンターブラストとしての使用はできず、ダメージを与えなければ“ブレイクライド”にCB1を消費するモルドレッドのスキルは使えないはずだった。
(いや…モルドレッドのブレイクライドはクリティカルを増やすものじゃない…クリティカルトリガーがでなければ、まだチャンスはある…)
(モルドレッドの他に入れたG3…“撃退者 デスパレート・ドラゴン”…こいつはクリティカル上昇スキルを持っている……………が自分のリアガードが相手より多くなけりゃ使えない、ヒカリちゃんのリアガードは呪縛してあるし、第一…今のヒカリちゃんにはコストの都合でブレイクライドと併用が出来ない)
「…………乗りきれる…か?」
ヒカリは少なくなった手札を見つめる。
(この緊張感…駆け引き…全てが懐かしい)
ヒカリはカズトのターンエンドを確認すると、ユニットをスタンドさせ、ドローを行う。
(…でも…それもここまで)
ヒカリが手札から出そうとしているカード。
それは前回のユウトとのファイトでは使われなかったG3…………
カズトはその時、思い出したことがあった。
(そうだ、あのデッキにはあいつが1枚だけ入っている…でも、まさか…このタイミングで?)
「…“ブレイクライド”!!呪槍の撃退者…………ダーマッド!!」