君はヴァンガード   作:風寺ミドリ

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048 天使にありがとう

「スタンドアップ・THE・ヴァンガード!!」

 

 

ジャッジバウ・撃退者に私はライドする。

 

 

相手は…春風ユウキさんとエンジェルフェザーのユニット……

 

負けられない、そう思った私の頭の中で記憶が甦る。

 

私と、春風さんと…青葉クンのお姉さんの……

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

「春風ちゃん見ーっけ!!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

小学生の女の子が中学生くらいの女の子に抱きつく。

もう一人の女の子はそれを見つめていた。

 

「春風ちゃん、リアクション大きいなー」

 

「え、エンちゃん気付いてたの…?」

 

 

とある公園…二人の中学生と一人の小学生はよく集まって遊んでいた。

 

まぁ……その小学生は私だけどね。

 

 

とにかく集まって、走ったり、隠れたり、修行したりと沢山遊んだものだ。

 

 

「二人ともいつも娘と遊んでくれて…ありがとね」

 

「いえいえ、お構い無く~」

 

「まぁ春風ちゃんはいつも遊ばれてますけどね!」

 

「え、エンちゃん……まぁ事実だけど……」

 

「ヒカリちゃんは私らと同レベルですから!」

 

「……それは…娘があなたレベルってことよね……逆だったら…笑ってる場合じゃ無い……かなと…」

 

「やだなー冗談ですよ!!」

 

「エンちゃん……」

 

……うちの両親も、とても感謝していたと思う。

 

 

「ふっふっふっ…今日はこれだぁ!!」

 

エンちゃんが持っていたのは水鉄砲。

 

「わー!!!!」

 

「エンちゃん……私、体力持たない……」

 

「よーし、ヒカリちゃん!!二人で春風ちゃんをやっつけよう!!」

 

「おー!!!」

 

 

少なくとも三人、多いときは町内中のこども達を巻き込んで遊んでいた。

 

 

「ふふふっ、今日は春風ちゃん旅行でいないから、弟を連れて来たぞ!!」

 

「あ…青葉クンだ」

 

「え…俺、補欠?…ってか春風ちゃんって?」

 

「さあ!友達集めてサッカーだ!!」

 

「いえー!!!」

 

 

色んなことがあった。

 

 

「エンちゃん!エンちゃん!!」

 

「どうしたヒカリちゃん!!」

 

「春風ちゃんが……」

 

 

そこは春風ちゃんの家……あの時私と…エンちゃんはこっそりドッキリで忍び込んだんだっけ…

 

確か春風さんの家族が出掛けている時だった筈だ。

 

 

「部屋の隅っこで本読んで笑ってるの!!」

 

「それは恐いね…」

 

「それでね!その本でね!男の人同士で裸で抱き合ってるの!!」

 

「恐いね、腐ってるんだね…恐ろしいね!!」

 

「やかましいわぁぁぁぁ!!!」

 

 

面白可笑しい日々だった。

 

 

「さぁ竹刀を取れヒカリちゃん!春風ちゃん!!」

 

エンちゃんはプラスチックの剣を私たちの方に放り投げて言った。

 

「うん!!」

 

「やだね!!」

 

「はっはっはっ…敵を前にして武器を取らぬとはな」

 

神速と言うべき速さで、エンちゃんは春風ちゃんへの距離を詰める。

 

「貰った!!」「無駄だからね!!」

 

エンちゃんが振り降ろす竹刀(という名のプラスチックの剣)を春風ちゃんが見事に白刃取りする。

 

「どうだ!!」「どうかな…?」

 

「春風ちゃん後ろががら空き…だよ…!!」

 

私はてくてくと距離を詰める。

 

「しまっーー」

 

 

しかし、そんな時間はいつまでも続く物では無かったのだ。

 

二人が高校に入ったこと…はそれほど大した話では無かったのだが、その後春風さんが天台坂から北宮に引っ越してしまった。

 

やはり、別々の町となると会いづらいものだ。

 

自然と3人が揃う機会は少なくなっていった。

 

 

そして。

 

 

 

ーーミライが行方不明…?ミライだけじゃ無いの!?ワタルさんも一緒に……?

 

ーーとにかくヒカリちゃんのとこにミヨ送るからね!待っててね!!

 

 

ーーヒカリちゃん…お祖母ちゃんの家…行こっか。

 

 

 

両親は消え、私は天台坂の町を去ることになった。

 

 

 

「ヒカリちゃん……」

 

当然、エンちゃんともこれでお別れだ。

 

「………………」

 

「…お別れじゃない……私はいつだってヒカリちゃんの側にいるからね!」

 

「……無理…………だよ」

 

「無理じゃない!!」

 

「お母さんもお父さんもそう言って帰って来なかった…!!!帰って来なかったんだよ!?」

 

そんなことエンちゃんに言っても仕方ないのに、私は叫んでいた。

 

「…いや、無理じゃない」

 

「……」

 

「私はずっとヒカリちゃんの隣に立つ、ヒカリちゃんが私のことを忘れないように…忘れられないように、何処にでもいる」

 

「エンちゃん…?」

 

「私とヒカリちゃんの縁は切れないし、誰にも切らせない」

 

その時のエンちゃんは決意に満ちた表情だった。

 

一つ大人になった…そんな…エンちゃんというより青葉お姉さんっていう感じがした。

 

「愛は隣にあるから…ね?」

 

「隣に……」

 

 

そして私は天台坂から北宮へと引っ越して行ったのだった。

 

一人、見知らぬ土地へ。

 

「………………」

 

その中学校は最悪だった……いや、もしかしたら中学というのは皆こういう物なのかも…知れないけど。

 

「アハハハヒャハハハハハ!!?」

 

常に廊下では狂った様な笑いが響き(後で調べた所、この頃学校では動画投稿サイトの投稿主が増えていたらしい……因果関係は不明だ)、校門では30人以上の学生がトラクターを乗り回しながらタバコを吸っていたり(後で調べた所、流行っていたのは“電子タバコ”の方であった)と…すごく狂っていた。

 

何より教師が働かない、とんでもない所に来てしまったと思ったものだ。

 

勉強の方は、通信教育を使っていたので他の中学生から劣るようなことは無かった…というか、殆んどのことは小学生の頃に春風さんや青葉お姉さんから教わっていた。

 

……それも恐ろしいな。

 

ともかく、私の問題はとにかく精神的に疲弊していくことだった。

 

そんな折に、偶然春風さんと再会し、ファントムブラスターを知る等が重なりカードゲームの…“そっちの道”に足を踏み込むこととなった。

 

「ヒカリちゃん……えっと…元気かな?」

 

「……まぁ……まぁ……かな」

 

 

私の方は相変わらず、暗く…落ち込んだままだったけどね。

 

心の支えになっていたのは、春風さんの笑顔とおばあちゃんがくれたゴスロリ、そしてファントムブラスターだけだった。

 

「仲間だね…今必要なのは」

 

「……へ?」

 

「いやもう……親衛隊かな!?」

 

「…!?……っ何それ…」

 

「これから私はヒカリちゃんのことを様付けするからね!」

 

「ちょっ……」

 

「ヒカリ様!……良い…実に良い…このシチュエーション……萌える、萌えますよ!!」

 

「…何が!?」

 

最終的に私は疲れすぎて、自分でもよくわからない方向性で生きていくことに……

 

「ああん…?じろじろ見てんじゃねーよ!!」

 

「貴様なぞ我が視界に入る価値も無い…去れ」

 

結局私は3年生の春まで、この狂った中学の狂った人の一人になっていた。

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

「……途中から完全に良い記憶じゃ無いな…」

 

「?…どうしました?」

 

(確かに春風さんがいてくれたのは嬉しかったし、心強かった上に色々気づかってくれたのはどれだけお礼を言っても足りないくらい……だけど!!)

 

私は自身のゴスロリを改めて眺める。

 

(このゴスロリが変な意味を持っちゃったのも、私が変な事(自覚有り)を口走るようになった切っ掛けも…全部…春風さんが原因…だよね一応)

 

 

今の自分を否定するつもりは無いし、春風さんのように“腐”の道に落ちることも無かったけど…さ。

 

「やっぱり春風ちゃんその性癖直した方がいいよ!無常の撃退者 マスカレードでアタック!!」

 

「何の話!?…ノーガード!!」

 

 

 

2ターン目、後攻だった私は督戦の撃退者 ドリン(7000)にライドし、リアガードに無常の撃退者 マスカレード(7000)をコールした。

 

春風さんの盤面にはFVの突貫の守護天使 ゲダエル(5000)に介護の守護天使 ナレル(7000)…おそらくデッキはエンジェルフェザー、“守護天使”…

 

天使とは名ばかりの力isパワーな集団だ。

 

「ダメージチェック…投薬の守護天使 アスモデル」

 

マスカレードの攻撃で春風さんに1点のダメージが入る。

 

「続けて!ジャッジバウでブーストしたドリンでアタック!!(12000)」

 

「ノーガード!」

 

ドライブチェックでは氷結の撃退者…ドロートリガーが捲れ、春風さんのダメージにもドロートリガーが落ちる。

 

「ターンエンド…」

 

そう宣言した私の耳に天乃原さんや、舞原クンの声が聞こえる。

 

「プロメチウムでぐりんがるにアタックっす!!」

 

「友愛の宝石騎士 トレーシーでインターセプト!」

 

皆…頑張ってるんだ…私も!

 

 

「私のターンですね…スタンド、ドロー…良い仲間に出会えましたね…天罰の守護天使 ラグエル(9000)にライド!!」

「うん…」

 

不満も感謝もあるけど、今の私があるのは春風さん達のお陰だ。

 

「でも、今の私が在るのは春風さんに…青葉お姉さんが友達だったから……」

 

「そんな照れ臭い!!ナレルをコール!スキルで手札のラグエルをダメージのアスモデルと交換!アスモデル(9000)をコール!!」

 

そして、ヴァンガードによるアタックを通した私は、春風さんの引いたクリティカルによって2点のダメージを受ける…ファントム“Abyss”、シャドウランサーが落とされる。

 

「ナレルのブースト!アスモデルでアタック!(21000)」

 

「……ノーガード」

 

ダメージは暗黒の撃退者 マクリール…完全ガードだ。

 

「アスモデルのスキル!CB1(ランディング・ペガサス)…ダメージのラグエルとリアガードのアスモデルを交換!!ラグエルでアタック!!(12000)」

 

「……暗黒医術の撃退者でガード」

 

ダメージは3vs1。

 

「……私のターン…スタンドandドロー…ブラスター・ダーク・撃退者(9000)にライド、ブラスター・ダーク・撃退者“Abyss”(9000)をコール…スキル発動」

 

ブラスター・ダーク・撃退者“Abyss”のあだ名はFV殺し…春風さんのFV…突貫の守護天使 ゲダエルを退却させる。

 

ブラスター・ダーク・撃退者“Abyss”の後ろにはマスカレード…これで16000ラインの完成だ。

 

「ジャッジバウのブースト!ブラスター・ダーク・撃退者でヴァンガードにアタック!!(14000)」

 

「ノーガードで」

 

「ドライブチェック…ゲット!クリティカルトリガー!!」

 

そこには撃退者 エアレイド・ドラゴンがいた。

 

「効果は……全てAbyssへ」

 

春風さんのダメージに螺旋の守護天使 ヘルエムが落ちるのを見届けてから、私はパワーとクリティカルというプレッシャーを乗せたAbyssでアタックする。

 

「それは…ノー…ガード……ダメージチェック!!ラムエル!そしてラムエル!!ダブルヒールトリガー!」

 

「嘘……」

 

だがしかしヒールトリガーがこの序盤のターンで2枚もダメージに落とせたと考え……てもなぁ。

 

ターン進行は私から春風さんに移る。

 

「天使の愛は貴方のためにある……ライド!!切開の守護天使……マルキダエル(11000)!!」

 

(守護天使の…新しいグレード3!!)

 

私がまだグレード2であるため、春風さんはまだ“双闘”を使うことはできない。

 

「リアガードにサウザンドレイ・ペガサス(7000)をコール!!」

 

新たにV裏に置かれたユニット…サウザンドレイ・ペガサス……このユニットこそエンジェルフェザーの馬鹿力ユニット…ダメージを操作する度に自身のパワーを+2000するのだ。

 

春風さんがヴァンガードによる攻撃を仕掛けてくる。

 

「エアレイド・ドラゴン…氷結の撃退者でガード!!」

 

ドライブチェックはナレルとラグエルでトリガー無しであった。

 

「ナレルのブースト…ラグエルでアタック!!」

 

「ブラスター・ダーク・撃退者“Abyss”でインターセプトして、氷結の撃退者でガード!!」

 

そして春風さんのターンが終わる。

 

ダメージ……3vs3

 

「私のターンだね…スタンドandドロー…」

 

 

今、私の手札にグレード3は2枚…2種存在する。

 

1枚はファントム・ブラスター“Abyss”

 

そしてもう1枚は私がデッキの構築を変えた時に1枚だけ入れておいた、Abyssでもモルドレッドでも無いカード。

 

ここは……やっぱり。

 

 

「絶望のイメージにその身を焼かれ尚、世界を愛する奈落の竜!!…今ここに!!ライド・THE・ヴァンガード!!」

 

春風さんの前で使うのは初めてだ。

 

「撃退者 ファントム・ブラスター“Abyss”!!!」

 

「やっぱりというか…やはりそれで来ますか」

 

「うん…」

そして私はファントム・ブラスター“Abyss”(11000)のスキルを発動させる。

 

「常闇の深淵で見た光…来たれ!!シークメイトand双闘!!ブラスター・ダーク・撃退者“Abyss”!!」

 

これが…今の私だ。

 

「なるほど…“深”淵で“見”た“光”…自身の名前をもじっているんですね!!」

 

「か…解説しないで……」

確かに意識してる、意識して言っているけれど!!

 

 

「うー…詭計の撃退者 マナ(8000)をコール!…スキルで雄弁の撃退者 グロン(4000)をスペリオルコール!そしてこの2体でラグエルにアタック!!(12000)」

 

手札、CB、山札のことを考えると今はこのくらいの展開しかできない……

「ノーガード!」

 

ラグエルが退却される……アタック回数はあるんだ…次のターン…マルキダエルのスキルを考えるとリアガードを…

 

ーー自身の名前をもじってるんですね!!

 

改めて言われると色々恥ずかしくなってきたよ!!

 

「ジャッジのブースト、Abyssのアタック!!(27000)」

 

「ノーガード!」

 

CBの数を考えると私はこの後ジャッジバウ、Abyssのどちらかのスキルしか発動できない訳だけど…

 

「ドライブチェック…first…暗黒の撃退者 マクリール……second……厳格なる撃退者!!ゲットクリティカルトリガー!!!」

 

私はその効果を全てAbyssに乗せる。

 

クリティカルが乗った…この事から私の次の行動は決まった。

 

「ダメージチェック…治癒の守護天使 ラムエル…ヒールトリガーなのでダメージを回復…パワーはヴァンガードに…もう1点は聖火の守護天使 サリエル…ノートリガーですね」

 

またヒールトリガーが発動する。

 

「Abyssのレギオンスキル!!CB2!!マナ、グロン、ジャッジバウを退却!!」

 

ジャッジバウを退却させる時に一瞬私の手が止まる…が、私はこの時点でこのゲーム中にジャッジバウのスキルを使う場面は現れないと考えていた。

 

ダメージは3vs4だった。

 

「再び立ち上がったAbyssでアタック!!(27000)」

 

「磐石の守護天使 アニエルで完全ガード!!」

 

私の二回目のツインドライブはモルドレッドとダークボンド……

 

「……ターンエンド」

 

 

私は春風さんを見る。

 

あの頃から変わらない……いや、ちょっと老けた?

 

「ヒカリちゃん?」「すいません」

 

春風さんと青葉お姉さん……年は離れているけど二人共、私を支えてくれた大切な友達だ。

 

これまでも、これからも。

 

 

* * * * *

 

 

 

2年程前

 

「春風さん……このカード…」

 

「うん?ブラスター・ブレード?」

 

「うん……春風さん、オラクルばっかりなのに何でロイパラのカード持ってるのかなって……」

 

「いやいや…これは櫂君とアイチきゅんの…」

 

 

* * * * *

 

 

 

「何か良い回想シーンは無いんですか!?」

 

「え……ええ!?何の話ですかねヒカリ様!?」

 

 

青葉お姉さんと離れてから春風さんは絶対自由度が増している気がする。

 

 

「では、私のターン…!スタンド、ドロー……シークメイト!!」

 

守護天使のレギオンがその姿を見せる。

 

「切開の守護天使 マルキダエル!!投薬の守護天使 アスモデル!!双闘!!!」

 

春風さんはさらにリアガードをコールしていく。

 

「天罰の守護天使 ラグエル、サウザンドレイ・ペガサスと介護の守護天使 ナレルをコール!ナレルのスキルで手札のクリティカルヒット・エンジェルとダメージゾーンのサリエルを交換!!2体のサウザンドレイ・ペガサスにパワー+2000…聖火の守護天使 サリエル(8000)をナレルの上からコール!CB1(ランディング・ペガサス)!!ダメージゾーンにいる治癒の守護天使 ラムエルと山札のマルキダエルを交換!!サウザンドレイに再びパワー+2000し、マルキダエルのレギオンスキルを参照します!!私のターンの永続効果!前列のユニット全てにパワー+4000!!」

 

細かく、目まぐるしくパワーが上がる。

 

リアガードサークルは埋まり、攻撃の準備が整っていた。

 

「行きますよ!!」「……うん!」

 

 

「サウザンドレイのブースト……ヴァンガードにマルキダエル、アスモデルのレギオンアタック!!パワー42000!!」

 

「暗黒の撃退者 マクリールで完全ガード!!コストはモルドレッド!」

 

「ツインドライブ…懲罰の守護天使 シュミハザ!!ゲットクリティカル!効果はラグエルに!そしてセカンドチェック……守護天使 ランディング・ペガサス!ゲットドロー!!1枚引いてパワーはサリエルに!」

今日の春風さんはトリガー運がいい…。

 

「パワー24000!ナレルとサリエルでヴァンガードにアタック!!」

 

「ダークボンド・トランペッターと厳格なる撃退者でガード!!」

 

「パワー32000!!サウザンドレイのブーストしたラグエルでヴァンガードにアタック!!クリティカル2!」

 

「ノーガード!」

 

 

私のダメージにドロートリガーの氷結の撃退者と幽幻の撃退者 モルドレッド・ファントムが落とされる。

これで私と春風さんのダメージは5vs4。

 

ターン進行を春風さんから受け取った私は盤面を見つめる。

 

現在、ヴァンガードとして中央に立つファントム・ブラスター“Abyss”は既に能力を使い果たしており、Vスタンドを使うには別のAbyssに乗り直す必要がある。

 

(でも……ここは…)

 

私は頭の中で“ファイナルターン”を組み上げていく。

今、私の手札にある唯一のグレード3…そして、序盤から展開していったことによって薄くなっている春風さんの手札……

 

「見えたよ……ファイナルターン」

 

それは勝利への道。

「スタンドandドロー…誰よりも世界を愛し者よ…奈落の闇さえ光と変え…今、戦場に舞い戻る!!ライド・THE・ヴァンガード!!」

 

天乃原さんがいつもデッキにジュリアを1枚だけ入れているのと同じ…外せなかった私のユニット。

 

 

「撃退者 ドラグルーラー・ファントム(11000)!!」

 

 

もう春風さんの手札は3枚だけ…こちらも手札は少ない…だからここで決める!

 

 

「マナからダークボンド、そしてCB1で氷結の撃退者までスペリオルコール!!!」

 

1枚のカードから2枚のカードが呼び出される。

 

 

 

「だったん、氷結の撃退者…ありがとう…君たちの思いを刃に乗せて…撃ち抜け!ミラージュストライク!」

 

 

 

CB1と2体の撃退者を退却させることによる強制ダメージと自身のパンプ…Abyssが詰めの局面で有効なユニットだとするのなら、ドラグルーラーは詰めの局面まで無理矢理押し込むユニットだった。

 

「ダメージチェック…磐石の守護天使 アニエル」

 

「……」

 

5点目のダメージが入っただけじゃ無い。

 

あのアニエル…完全ガードの上にあったのは春風さんがドロートリガーで引いたカード…2枚連続で完全ガードが重なっていたとは考えにくい。

 

ファイト開始時に触った感触的には春風さんのデッキは新品の二重スリーブ…カードが固まっている可能性は低い。

 

「マスカレードの後ろにマクリールをコール!!」

 

完全ガードも攻撃のためにコールする。

「行くよ……マナでリアガードのサリエルにアタック!!(8000)」

 

「ノーガードで!」

 

「パワー21000…ドラグルーラー・ファントムでヴァンガードにアタック!!」

 

「ラグエルでインターセプト!!シュミハザとランディング・ペガサスでガード!!(2枚貫通)」

 

私は山札に手を伸ばす。

 

「ドライブチェック…first…督戦の撃退者 ドリン……second…撃退者 エアレイド・ドラゴン!クリティカルトリガー!!」

 

効果は全てマスカレードに…このラインのパワーは21000…春風さんの手札は1枚、エンジェルフェザーでこの攻撃を1枚で防げるカードは…無い!!

 

「この一撃で…奈落へ落ちよ!!行け…マスカレード、マクリール!!」

 

春風さんは笑顔でノーガードを宣言する。

 

その笑顔は初めて会った時と変わらない。

 

そう、変わらない。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

「タンエ~タ~ン♪タンエ~タ~ン♪タ~…?」

 

ランドセルを背負い、小声で歌いながら歩いていた春風さんの服を真っ赤なランドセルを背負った小さな女の子が引っ張っていた。

 

「……どうしたの?」

 

 

「おうち…………わかんない……」

 

その時、私は完全に迷子になっていた。

 

小学校に入って数日…すっかり通学路に慣れてきていた私はつい…調子に乗って“冒険”してしまったのだった。

 

「そいつは大変だ!…お姉ちゃんが一緒に探してあげるよ」

 

 

優しい笑顔で春風さんはそう言った…これが私と春風さんの出会い。

 

 

テッレー,テレレ♪テッレー,テレレ♪

 

「……なんのおと?」

 

「これ?たまごっちぷらすだよ!見てみる?」

 

「……うん」

 

 

その後、たまごっちを見せてもらいながら私たちは歩くのだが……

 

 

「…私も迷った」

 

「…………ううぅ」

 

「な、泣かないで!!もう少しでつくから!!」

 

 

そんな私たちに一人の少女が話しかけてくる。

 

 

「…どうしたの?大丈夫?1組の春風さんだよね」

 

「あ……2組の青葉さん…?」

 

「…ふむ、エンちゃんでいいよ、見たところ迷子の娘と一緒に迷子になっちゃった…かな?」

 

「ま、迷子じゃないよ!!」

 

「よーし、二人とも私が家まで連れていってあげよう……さて、君の名前…聞かせてもらえるかな?」

 

私は突如現れた少女を少し恐れながら…答えた。

 

「ふ……ふかみ…ひかり」

 

「ならヒカリちゃん!春風ちゃん!行こう!!」

 

「ちょっ……あ、青葉さん?どこに…」

 

私たちの前を歩き出した彼女は春風さんの問いに振り返った。

 

「エンちゃん…だよ、二人とも学校まで戻れば帰り道も分かるんじゃないかな?」

 

「あ……」

 

「が、がっこうがどこにあるか…わかるの?」

「もちろん!!ヒカリちゃん!私に任せて!!」

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

「春風さん……ありがとね」

 

「……ヒカリ様?」

 

 

いつも春風さんと青葉お姉さんは私の両隣にいてくれていた。

 

青葉お姉さんは私の手を引いてくれる。

 

そして、春風さんの笑顔は私をいつも安心させてくれた。

 

 

「今までありがとう、これからも…よろしくね」

 

「こちらこそ……ヒカリちゃん」

 

春風さんのダメージゾーンにマルキダエルが落とされる。

 

これで私の勝利……そして…

 

いつの間にか席を離れていた舞原クンは私の隣に立ってピースサインを出していた。

 

後は天乃原さんのファイトが終われば…決勝。

 

そう思った私は、

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと床に崩れ落ちる天乃原の姿を

 

 

黙って見ていることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 




突然のキャラ紹介(2)

深見 光 (その2)


運動のセンスはある方で、小学生の頃は青葉ユウトの姉との遊び(修業)のおかげでカードゲーマーらしくリアルファイトにもある程度対応できる(実際、作中でも天地カイトを手刀で気絶させる等のことをしている)。

甘い物が全般的に好きであり、喫茶ふろんてぃあの常連客でもある。

また、ヒカリはまだ気づいていないが神沢ラシン、神沢コハクは中学校の後輩である。


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