君はヴァンガード   作:風寺ミドリ

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047 蒼海の神姫と青炎の預言者

「ハッハッハッハッハッハッハッ!!“真”究極次元ロボ…グレートダイカイザぁぁぁぁ!!!!これが俺のぉぉブレイクライドレギオンだぁぁぁ!!!俺の手にグレード3が舞い降りる時、お前のガーディアンを破壊するぅぅぅぅ!!!!!!!!!」

 

「ならノーガードだな」

 

 

天地カイトは目を丸くする。

 

 

「な……何だと?クリティカルは…2だぞ」

 

 

「ノーガード……だ」

 

 

 

「……ドライブチェック…ダイカイザー…グレートダイユーシャ」

 

「ダメージチェック…ダブルヒールトリガーだ」

 

「なっ…………」

 

 

 

続々と4回戦が終了していく。

 

 

 

「連続攻撃…行くで!“1”!!蒼嵐水将 スターレスでエーデル・ローゼにアタック!」

 

「退廃のサキュバスで~インターセプト~」

 

スターレスのスキルでスターレスは後列のグレゴリウスと位置を代わる。

 

「“2”!!グレゴリウスでリアガード…囚われの堕天使 サラエルにアタック!!」

 

「それはノーガードやねぇ」

 

「“3”!!タイダル・アサルトでヴァンガードのエーデル・ローゼにアタック!!」

 

「ノーガードやぁ…ダメージはドリーン・ザ・スラスター~」

 

タイダル・アサルトは自身のパワーを下げることで再びスタンドする。

 

「そして“4”!!!先陣のブレイブ・シューターのブーストした蒼嵐波竜 テトラバースト・ドラゴン!!レギオンスキルでCB1…パワーとクリティカルを増加させれんねん!!パワー36000の☆2や!!」

 

「あらあら、悪夢の国のマーチラビットで完全ガードや」

 

ドライブチェックは…ダブルクリィティカル。

 

「これで終わりや!!“5”!!蒼嵐兵 テンペスト・ボーダーのブーストしたタイダル・アサルト!!パワー21000……クリィティカル3!!」

 

「あ~これは防げんわぁ~」

 

 

 

勝負に決着がつき、二人は握手を交わす。

 

 

 

「レイナちゃん前より強ぉなっとんなぁ、驚いたわぁ」

 

「まぁね!…じゃない……まぁねん?…まぁやねん?………ま、まぁ…まぁや?」

 

「無理して関西弁っぽくせんでええんとちゃうん?」

 

「まぁそうなんだけど……って言うか“驚いたわぁ”って言ってたけどそれはこっちのセリフ!!あんなダークイレギュラーズと…それも4回戦で出会うなんて思ってなかった……えっと……やんね?」

 

あんなダークイレギュラーズ……レイナが指すのはそのデッキに入っていた、エーデル・ローゼや囚われの堕天使 サラエルのことを言っていた。

「“あんな”とは失礼やわぁ…まぁ、全然勝てへんけどなぁ……たまには大舞台で活躍させてやらへんと可哀想やろぅ?」

 

レイナ達はデッキを片付ける。

 

試合はレイナ達のチームが勝利…5回戦の準決勝に進むこととなる。

「それにしても今年の大会は華やかやなぁ」

「……そうね」

 

レイナは辺りを見回す…今ここにいる半分の人間が次の準決勝に進むのだ。

 

「黒髪ゴスロリ娘、何か痴女っぽいのに加え、タンクトップの暑苦しい奴…そして舞原ジュリアン」

 

「今年は女の子が多いなぁ…レイナちゃんのチームに、その…痴女さんのとこは全員女子や……それにほら……あそこに何か可愛い金髪の娘が」

彼女がロリータファッションで金髪の……少年を指差して言う。

(……スクルド…)

 

 

その少年はタンクトップの男に絡まれていた。

 

「交換だぁぁぁ!!俺のフルバウ・撃退者と…」「フルバウ・撃退者なんて出てないだろ」

 

ご愁傷さまとしか言いようがない。

 

 

「とにかく頑張りや、応援しとぉから」

 

「…うん、カレン…私、頑張るよ」

 

カレンと呼ばれた女性は手を振りながらゆったりと歩き出す。

「さぁ、行こか…レイナ!!」「うちらの優勝は目の前や!!」

 

「うん……行くで!!」

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

4回戦が終わり、5回戦の組み合わせが発表されようとしていた。

 

 

「しかし…ここまで来たんだね…」

 

私はしみじみと呟く。

思えば私は数ヶ月前まではヴァンガードなど辞めていたのだ。

それが今、公式大会に出て準決勝で戦ってるなんて4月の頃の私に言っても信じてもらえなさそうだ。

 

 

「何落ち着いてるんすか……これからっすよ?」

 

 

舞原クン……そして天乃原さん、青葉クン…こんな仲間がいるなんて……ね。

 

 

「俺ももっと頑張んないとな」

 

青葉クンのことも私は意外に思っている、ヴァンガードを始めたと聞いた時には3ヶ月くらいで飽きるのではと思っていたのに、今もこうして続けているんだ…本当に……未来というのはわからない。

 

「……」

 

皆が思い思いのことを口にする中、天乃原さんだけが苦しそうに俯いていた。

 

「…天乃原さん?」「…ヒカリさん…何かしら?」

 

どう見ても様子がおかしい。

 

「……休んだ方がいいんじゃ…」

 

前の試合が終わってからどこかふらふらしている気がする。

 

「何言ってるのよ、戦いはこれからじゃない……私は全然元気よ」

 

天乃原さんの顔は若干赤い…本当に大丈夫なのだろうか……

 

 

「お嬢……まさか本当に寝不足で体調不良とか…笑えないっすよ」「…うるさいわね」

 

……まだ舞原クンの軽口に言い返せるくらいは元気…なのかな。

 

 

「不安な顔なんか…しちゃ駄目よ?…もう回りは敵だらけなんだから」

 

「敵だらけ……」

 

 

私は周囲を見渡す。

 

 

少し離れたテーブルに、見覚えのある金髪が見えた。

 

(神沢クン…やっぱりここまで来たんだね…)

 

そのまま視線を変えるとちょうど、ウェーブのかかった茶髪の女の子が目に止まった。

 

「天海レイナ…彼女も参加してたんすね…」

 

舞原クンが呟く…どうやら同じ人を見ていた様子だけど……

 

「知り合い…?」

 

「…彼女はね、ヒカリさん」

 

私に説明してくれたのは、天乃原さんだった。

 

「今年度“ヴァンガードクライマックスグランプリ全国大会”の準優勝者なのよ」

 

「全国大会の…準優勝者……」

 

ヴァンガードクライマックスグランプリといえば、毎年春に行われるというヴァンガードの個人戦の大会だ。

 

VFGP…ヴァンガードファイターズグランプリが割りとお祭り要素のある大会とすれば、ヴァンガードクライマックスグランプリ…通称VCGPは真剣勝負…真に最強のファイターを決める大会である。

 

「来年の全国大会に向けての肩慣らしか…それとも本気かしら……」

 

「……たぶん本気っすね…今年の景品“MFS”の試遊はそれほどまでに魅力的ってことっす」

 

神沢クンに、全国2位の女性か……

 

「強いの……?」

 

「強いっすよ、彼女はメガラニカの使い手で今年度はアクアフォースで出場、トランスコアとメイルЯのコンボを使ってたっす……でも本当に“強い”のは彼女自身のヴァンガードの知識っす……相手がどこをつかれたら痛いのかよくわかってるんすよね…」

 

「へぇ……」

 

もうこの大会も準決勝だ…流石に強いファイターが集まる…という訳だ。

 

「…あのさ」

 

ずっと黙っていた青葉クンが口を開いた。

 

「あの人が準優勝なら優勝したのはどんな人だったんだ?」

 

 

 

「そろそろ組み合わせが発表ね…」

 

「……うん」「よっし!やる気も十分!何時でも行けるっすよ!!」

 

これを勝てば…次は決勝だ!!

 

 

 

「……聞いてくれよ…」

 

 

 

 

そして、大会の運営スタッフから、次の試合の組み合わせが発表される。

 

 

 

 

5回戦(準決勝)

 

 

チーム旋迅烈波vsチームゴルディオン

 

チームシックザールvsチームアスタリア

 

 

 

 

 

 

「……チーム…“アスタリア”!?」

 

「その通りですヒカリ様!!」

 

私はよく知ったショップの名前………そして声を聞いた。

 

「は……春風さん!?」

 

「あら……まぁ」「驚きだな」「まったくっす」

 

今まで…影も形も見えなかったのに……

 

「ふっふっふっ…勝負ですよ~ヒカリ様!」

 

私たちの前に現れたのはカードショップアスタリア常連客チーム……私のよく知る相手だった。

 

 

 

「…参加してたんだ」「ええ!」

 

 

私は神沢クンの方を見る…ならおそらく彼らが“チームゴルディオン”…

 

ここで当たらなかったということは、彼らと戦うのは決勝……

 

 

「いい…この試合はジュリアン、私、ヒカリさんで行くわよ」

 

「うん…」

 

「了解っす」

 

「……ああ」

 

 

何にせよ…ここまで来て負ける訳には行かない…

 

 

「勝負だよ…春風さん」

 

「ええ、あなたの本気の表情…見せてもらいます」

「それ私のセリフなのに……」

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

早くも5回戦が始まろうとしていた。

 

 

「今日、こうして向かい合うのは2回目やんな…なぁ“スクルド”さん……」

 

「……」

 

天海レイナ…神沢ラシン……二人のファイターの間に重たい空気が流れる。

再びレイナが口を開く。

 

「悪いけど…ここは勝たせ…」

 

「悪いが、ここは勝たせてもらうぞ」

 

金色の髪の奥…金色の瞳が輝いていた。

 

 

「“この向こうで”戦わなければならない相手がいるのでな」

 

「はっはーん…うちらは眼中に無い…か」

 

 

 

火花散り、風が叫ぶような緊張感が場を支配す…

 

 

「ごめんよ、僕の弟生意気でねー」

 

「かまへんて、うちらは別に…」

 

「ラシン兄はちょっと誰に対しても強気すぎるんですよー」

 

「ほへぇ…姉妹…いや兄妹かぁ…ええねぇ」

 

 

「「お前らもう少し緊張感持て!!」」

 

 

二つのチームのリーダー…その声がハモる。

 

“緊張感を持て”…この戦いを乗り越えた先に決勝戦が待っているのだ……この場にいる誰もが優勝が手に届く範囲にあることを意識していた。

 

運営スタッフの合図が入り、チームゴルディオンvsチーム旋迅烈波……VFGP準決勝の戦いが幕を開ける。

 

 

「スタンドアップ!!ヴァンガード!!」

 

「スタンドアップ・my・ヴァンガード!!」

 

 

ころながる・解放者、先陣のブレイブ・シューター…ラシンとレイナ、二人のFVが睨み合う。

 

「五月雨の解放者 ブルーノにライド!!」

 

「蒼嵐戦姫 クリスタ・エリザベスにライドや!」

 

 

 

 

 

ーー楽しそうですね。

 

 

 

会場の奥…誰にも気づかれず、静かにVFGPを見つめる影があった。

その人間は“仕事”でここに訪れており、試合の観戦も“仕事の一環”であった。

 

「まさか…何もできないなんて…これが…いやでもこんなに安定しているなんてプロキシで回した時は…」

 

「ふふっ、それは僕の運の良さ…かな?」

 

敗北を喫した少女は、今の試合を真剣に考察する。

 

それを神沢コハクが2枚のクリティカルトリガーをひらひらと振りながら見守っていた。

「くっ…暗礁のバンシー!!クインテットウォール…」

 

「そんなんじゃ…この“ヴェラ”の猛攻は止められないから!!」

 

 

神沢マリのリアガードはどれも強大なパワーを供えていた。

 

少女の手札では…押さえきれない。

 

 

「そんな…」

 

 

一人、また一人と旋迅烈波のメンバーは倒されていく。

 

 

「…あんた……なかなかやるようだな…」

 

「何や、突然」

 

既に敗北が決まっていても、レイナの目から炎は消えていなかった。

(ここに来て、デッキとの“つながり”が異様に強くなっている…ただ者ではないな……)

 

「だが、俺の本気もここからだ!!エルドルでガード!!」

 

テトラバースト・ドラゴンの地味だが、堅実な一撃をラシンは完全ガードで受け止める。

 

 

 

ーーどうして…戦っているのに、あんなに楽しそうなのでしょう。

 

ーー他人と…それも敵と一緒に……

 

 

 

「蒼く、青く、輝け!!その火は決して消えず、その炎は竜に宿りて我が道を照らす!!ライド・my・ヴァンガード!!」

 

 

「それが……あんたの本気!!」

 

「ああ!!青き炎の解放者 プロミネンスグレア!!」

 

 

 

 

ーー『良きライバル』……私には縁遠い言葉です…

 

 

 

少年少女、青年、中年、学生、会社員、無職……様々な世代、様々な境遇の人間がヴァンガードというカードゲームに熱中する中、その人間はどこか“冷めて”いるのだった。

 

「テトラバーストに再びライド!そして双闘!!スターレスでアタックだ!!」

 

「…アグロヴァル、インターセプトだ!!…へぇ本気になると変な関西弁が抜けるんだな」

 

「あ……う…うるさい!!」

 

 

 

数えきれない程の人間が叫んでいる。

 

 

「カスミローグのCB1!バイナキュラス・タイガーをスペリオルコール!!その後ろにカローラ・ドラゴンをコールする!!3つのクランの力を見よ!」

 

「かかったな!!フリーズレイのスキル!!ダメージを喰らう度にあんたのリアガードを呪縛する!!」

 

「へへっこれが決闘竜だ!」「テラワロス!!」

 

 

 

 

笑顔…その人間は彼らがどうして笑っているのか、理由は様々な人から嫌というほど聞いた、確かに自分の価値観も広がったようにも思う。

 

しかし、自身がそう思ったことは無い。

 

 

ーーもう一度…私は問う……

 

 

 

 

ーーヴァンガードは本当に楽しいですか?……ヒカリさん。

 

 

 

 

 

一瞬、青く輝いた瞳は…春風ユウキとファイトする深見ヒカリへと向けられていた。

 

 

 

 


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