カードショップアスタリアで、ゴスロリ姿の深見ヒカリと金髪の神沢ラシンによるファイトが行われていた。
自身のユニット達への愛を胸に戦うヒカリに対して、ラシンは何を思い、ファイトに望むのか…
ラシンのダメージゾーンが2枚である一方で、ヒカリのダメージゾーンはすでに4枚…さらにその内の2枚はヒカリのデッキの主力ユニットであるファントム・ブラスター・オーバーロード…。
だが、本当の問題は“そこ”では無かった。
「…何故…私が公開する前に…このカードの正体が分かったの…」
「気になるか…いや、…ごほん『気になるよなぁ!?俺が一体何をしたのかよぉ…』」
まるで一瞬出しかけた“素”を隠すようにラシンは言葉を続ける。
「…『イカサマ?疑うならどうぞ(笑)調べてみろよ…どうせ何も分からねぇぜ?』」
すでにヒカリの周りでは店のスタッフやジュリアンが調べ始めていた。
「確かに…何も見つからないっすね…」
ヒカリはラシンをじっと見つめる。
「…あなたは何者なの…」
「…ふん…さしずめ…“神秘の預言者”といったところかもな」
ラシンはスキルの発動したロゼンジ・メイガスを山札に戻しながら言う。
「例えば…お前が次にドローするカード…それは“ブラスター・ジャベリン”だ」
「……私のターン…スタンドandドロー……あ…!」
確かにヒカリのドローしたカードはグレード1のブラスター・ジャベリンであった。
「これが俺の…いや」
ラシンは自分のデッキ…そして手札を見つめる。
「俺“達”の力……“神の羅針盤”!!」
「「神のらしんばん!?」」
大きく反応するヒカリとジュリアンを見ながらチアキが呟いた。
「…自分の名前をもじった能力名って…ださいわね」
「…………」
「…………」
「…………」
今までとは別種の気まずい空気が流れる。
「……ちっ…お前のターンだぞ?」
「あ…えっと、Vの後ろに秘薬の魔女 アリアンロッド(7000)を……マスカレードの後ろに黒の賢者 カロン(8000)をコール……アリアンロッドのブーストでファントム・ブラスター・ドラゴンがヴァンガードにアタック……パワーは…」
「ノーガードだ」
「ドライブチェック…first、ブラスター・ダーク……second、暗黒の盾 マクリール……トリガー無し…」
ラシンのダメージゾーンにヘキサゴナル・メイガスが落ちる。
「カロンのブースト…マクリールで………ヴァンガードにアタック…パワー20000…」
「……」
ここに来てラシンは珍しく悩む表情を見せる。
「バトルシスター じんじゃーでガードだ」
「…ターンエンド」
ヒカリは自分の頬を軽く叩く。
その反動で、頭につけたヘッドドレスのリボンも軽く揺れた。
(頑張れ…私…デッキを、自分を信じるんだ!)
一方でジュリアンは必死に自分の中で高まっていく気持ちを抑えていた。
(特別な力を持ったファイター…ようやく見つけたっす!!……“ノルン”の情報…能力の詳細……デッキの中身は互いの物が見えているのか…どの程度…どんな風に見えてるのか…考えたいことが多すぎて脳がパンクしそうっすよ…)
「俺のターン…スタンドとドロー!…そしてダーク・キャットの前にステラ・メイガス(9000)…さらにクォーレ・メイガス(12000)をコール!!」
ラシンの前列に3体のユニットが並ぶ。
「ヴァンガードにヘキサゴナル・メイガスがアタック…フォーチュンパッセージ!!(13000)」
「守れ…ブラスター・ダーク!ブラスター・ジャベリン!(2枚貫通)」
「ドライブチェック…ゲット…オラクルガーディアン ニケ(クリティカルトリガー)…効果は全てステラ・メイガスに…もう1枚はクォーレ・メイガス……次だ!ダーク・キャットのブースト!ステラ・メイガスがヴァンガードにアタック!!(21000 クリティカル2)」
この攻撃は守るためにシールド値を15000も必要としていた。
「おっと…ステラのスキル!CB1!デッキトップを“テトラ・メイガス”と宣言する!」
そう言ってラシンはトップを公開する。
「…合ってる」
「このカードはドローする」
(やっぱり…自分のデッキも見えてるんだ……いや、今はそんなことより…)
「アビス・ヒーラーでガード!マスカレードでインターセプト!!」
「クォーレでアタック!(12000)」
「……っ…デスフェザー・イーグルでガード」
ヒカリはラシンが一瞬悔しそうな顔をしたことに気がついた。
「?」
「…ちっ…ターンエンド」
ヒカリとラシンのダメージ差は1点…ヒールトリガー1枚で展開の変わる状況だった。
「私のターン!スタンドandドロー!!」
(…これは…!)
ヒカリは今、手札に来たカードをコールする。
「暗黒魔道士 バイヴ・カー(9000)をコール!スキル発動!…禁じられし魔術によって…来い!ブラスター・ジャベリン(6000)!!」
ヒカリはスキルによってデッキトップから登場したブラスター・ジャベリンをバイヴ・カーの後ろにコールした。
「アリアンロッドのスキル!自身をレストして…手札のファントム・ブラスター・ドラゴンをドロップ!1枚ドロー!!」
「……ふん」
「あ……!」
アリアンロッドのスキルによってドローされた1枚のカード…その名前はこう記されていた。
“ファントム・ブラスター・オーバーロード”
(ようやく…来てくれたんだね)
ヒカリはその姿を見て自身を奮い立たせる。
「ファントム・ブラスター・ドラゴンの……スキルを発動する!!バイヴ・カー!ブラスター・ジャベリン!アリアンロッド!……呪われし竜に、全てを任せろ!」
ヒカリはそう言って、名前を告げたリアガードの3枚のカードを優しくドロップゾーンへと置いた。
「そしてCB2!…ファントム・ブラスター・ドラゴンにパワー+10000そしてクリティカル+1!!」
ヒカリはVの後ろにアリアンロッドを…カロンの前にカースド・ランサー(9000)をコールした。
「アリアンのブースト…ファントム・ブラスターでヘキサゴナル・メイガスにアタックする…パワー28000、クリティカル2…打ち抜け!ダムド・チャージング・ランス!!!」
ファントム・ブラスター・ドラゴンの必殺の一撃が飛ぶ。
ダメージが3であるラシンは、クリティカルの乗ったこのアタックのドライブチェックで更にクリティカルトリガーが出た場合、一気に敗北する可能性があった…が、
「ノーガードだ」
(…迷わずノーガードを宣言した…!?……もう“見えてる”ってこと……?)
「……ドライブチェック…first…ブラスター・ジャベリン……second…!アビス・フリーザー…ゲット!ドロートリガー!カースド・ランサーにパワー+5000!1枚ドロー!」
ドロートリガーによってヒカリの手札に暗黒の盾 マクリールが加えられる。
「俺のダメージチェック…フローラル・メイガス…そして!……ロゼンジ・メイガス!…ヒールトリガーだ…裏向きのフローラル・メイガスをドロップゾーンへ、ヴァンガードにパワー+5000する」
5点目まで入ったラシンのダメージだったがヒールトリガーによって難なく回復されてしまう。
「カロンのブースト!貫け!カースド・ランサー!!(22000)」
「オラクルガーディアン ニケでガードだ」
「…ターンエンド」
ヒカリのダムド・チャージング・ランスでは致命傷を与えることができず、ラシンのターンが始まる。
ヒカリとラシン…二人のダメージは共に4点だった。
「行くぞ…スタンドそしてドロー!…ブレイクライド!!その祈りは幸運という花を咲かせるだろう!フローラル・メイガス!!(11000)………そして!ヘキサゴナルのブレイクライドスキル!山札の上の3枚から1枚選んでドロー!残りを山札の上に戻して、フローラルにパワー+10000!!さらにフローラルのリミットブレイク!!!」
ラシンは自分のデッキのトップを指差す。
「CB1…デッキトップは“フローラル・メイガス”、確認…的中!パワー+5000、そしてドロー……もう一度!CB1…デッキトップは“テトラ・メイガス”、確認…的中!パワー+5000でドローだ!」
それを見ていたチアキが口を開く。
「確認とか…的中とか…まるで茶番よね…最初からデッキトップは分かってるんだもの…ヘキサゴナルも意味あったのかしら…」
「…いやお嬢…茶番だとかは普通にメイガス使っても感じ……じゃなくて…ヘキサゴナルこそ“あの能力”には必要かもしれないっすよ」
「え?」
「おそらく…彼はデッキの中が見えてもそれを操作できる訳じゃないっすから…」
チアキがぽんと手を打つ。
「じゃあ…そこに攻略の鍵が?」
(まぁ…その弱点を補うのがヘキサゴナル、そして…)
ジュリアンはラシンが新たにコールしたもう一体のダーク・キャットを見つめた。
「ダーク・キャットのスキル…全てのファイターは1枚ドローできる…今度も俺はドローしない…さぁ…お前はどうする?」
ヒカリは思考する。
(…わざわざコールしてきた…自分は引いていない…)
「ここは…」
(でも…さっき彼は自分から能力を明かしてきた…なら!)
「ここも!1枚ドローする!!」
「ふん…まぁ……そうでなくちゃな…どのみち“そいつ”はお前の所に行く運命だったんだろう」
「あ……」
ヒカリがドローしたのは“最後の”ファントム・ブラスター・オーバーロードだった。
「さて…行くぞ!フローラル・メイガス!フォーチュン・ブルーム!!(33000)」
強力な一撃がファントム・ブラスター・ドラゴンを狙う。
「頼むよ…暗黒の盾 マクリールで完全ガード!」
ヒカリはコストとしてアビス・フリーザーをドロップする。
それを確認するとラシンはドライブチェックを確認し始める。
「ドライブチェック!…オラクルガーディアン ニケ(クリティカルトリガー)!!効果は全てステラ・メイガスに!もう1枚もオラクルガーディアン ニケだ!!パワーはステラ、クリティカルはクォーレに!」
「ぐっ…」
2枚のクリティカルにヒカリは思わず身構える。
「ダーク・キャットのブースト!ステラ・メイガスでヴァンガードにアタック!…スキル!CB1!デッキトップはフローラル・メイガス!確認…的中…ドロー!パワー26000!クリティカル2だ!」
「もう一度!マクリール…ジャベリンをコストに完全ガード!!」
ヒカリの手札がどんどんドロップゾーンに飛んでいく。
「ダーク・キャットとクォーレ・メイガス!ヴァンガードに!!(19000 クリティカル2)」
「アビス・ヒーラーでガード!!」
「ふん…もう終わりだ…ターンエンド…」
ヒカリとラシンのダメージは互いに4点のまま動かなかったが、その手札の量の差は激しかった。
「…………」
ヒカリは自分の手札を見つめる。
そこにはファントム・ブラスター・オーバーロードが2枚……それだけだった。
逆にラシンの手札は12枚…どうやってそれを削るかが問題であった。
(今…自分にできること…か)
「私のターン…スタンドandドロー…そして」
ヒカリは少し息を吸う。
ヒカリの首元のリボンタイが揺れる。
「“悪夢”それは人の心に眠る呪い…絶望のイメージは形を変えて世界に降り注ぐ…明けない夜を数えながら、ひたすら死を待つがいい!!クロスライド・the・ヴァンガード!!ファントム・ブラスター・オーバーロード!!!(11000→13000)」
ついにその姿を見せた奈落の暗黒竜はクロスライドによって常にパワー13000となる。
ヒカリはその防御力にわずかな望みを託した。
「そして来るがいい!虚空の騎士 マスカレード!(9000)」
ヒカリはドローしたばかりのマスカレードをコールして攻撃体制をとる。
(何とか前列は揃えたけど…でも…)
ヒカリは迷いを振り払うように首を振ると、マスカレードに手を添える。
「マスカレードでリアガードのステラ・メイガスにアタック!(12000)」
自身のスキルで上昇したパワーでマスカレードはステラ・メイガスを攻撃した。
ラシンは黙ってステラ・メイガスをドロップゾーンに置く。
「力を貸せ!アリアンロッド!…ファントム・ブラスター・オーバーロードでフローラル・メイガスにアタック!(20000)」
「…ニケ、クォーレでガードだ(2枚貫通)」
(2枚貫通を要求してきた…!…相手はこちらのドライブチェックの結果をすでに知っている…つまり…トリガーは1枚ってこと?)
「…ドライブチェック!first…アビス・フリーザー!ゲット…ドロートリガー!1枚引いてパワーはカースドに与える!」
ヒカリは髑髏の魔女 ネヴァンをドローすると2枚目を確認する。
「…second……!?アビス・フリーザー…同じくドロートリガー…」
ジュリアンが呟く。
「なるほど…相手が自分の能力を知っているから…相手のトリガーの振り方も操作できるんすね」
「でも…やってることは普通のファイトと同じよね?2枚貫通で守ってるだけだもの」
「あ……それは……そうっすね」
ヒカリはトリガーの効果を全て乗せたカースド・ランサーとカロンでフローラル・メイガスにアタックを仕掛けた。
「テトラ・メイガスで完全ガードだ…コストはヘキサゴナルでな」
「ターンエンド……」
動かないダメージ…だが結果として先程よりヒカリとラシンの手札差は縮まっていた。
ヒカリはそこに希望の光を見出だす。
だが
「スタンドそしてドロー…」
その光を遮るようにラシンは言う。
「俺の…ファイナルターンだ…」
「…っ!?」
「うわ…言っちゃったわよ…」
「…そうっすね」
ファイナルターン…それはこのターン中に相手を倒すことを宣言する言葉である。
同時に宣言を外すと結構恥ずかしく、言うだけでもかなりの自信がいる言葉でもある。
ラシンはその言葉を告げるとメインフェイズに入っていった。
「フローラル・メイガスのリミットブレイク…デッキトップはクレセント・メイガス…確認…的中!パワー+5000とドロー!…サイキックバードをコール…ソウルに入れて1枚ドロー…ダーク・キャットを前列へ移動してから、その後ろとVの後ろにロゼンジ・メイガスをコールする」
(オラクルのヒールトリガー…また山札に戻す気なんだ……厄介……)
「ロゼンジのブースト!ダーク・キャットでリアガードのカースド・ランサーにアタック…(13000)」
「………カースドは退却…」
そして遂にVへの攻撃が始まる。
「ロゼンジのブースト…フローラルのフォーチュン・ブルーム!!(24000)」
「……マクリールで完全ガード…コストはアビス・フリーザー…」
ヒカリは手札を見つめる。
(大丈夫…まだインターセプトを合わせて15000のシールドが残ってる…クリティカル入りのダブルトリガーが出なければまだ…!)
「…悪いな…クリティカルとドローのダブルトリガーだ…」
「っ…」
ラシンはそう言って山札をめくり始める。
その宣言通り1枚目がクリティカルトリガーの“バトルシスター じんじゃー”そして2枚目がドロートリガーの“バトルシスター てぃらみす”だった。
その効果はリアガードのクォーレ・メイガスに集められる。
「さぁ…終わりの時間だ…ダーク・キャットのブースト…クォーレ・メイガスのハートアタック!!(29000 クリティカル2)」
ヒカリの手札は
G3 ファントム・ブラスター・オーバーロード
(シールド値0)
G2 髑髏の魔女 ネヴァン
(シールド値5000)
G0 アビス・フリーザー
(シールド値5000)
の3枚…
(…アビス・フリーザーを残してPBOを完全ガードのコストにしたらよかった…?ううん、あそこでPBOを失ったらもう反撃の術が無い……後悔は…無い)
「ノーガード…ダメージチェック……」
ヒカリが山札に手を伸ばす前にラシンが告げる。
「1枚目は“ファントム・ブラスター・ドラゴン”…だ」
「……ファントム・ブラスター・ドラゴン…トリガー無し」
(でも…けど……)
「セカンドチェック……」
「ヒカリさん……」
「……」
(これで…終わり…なのかな)
(『まだ…私は負けない』)
その時、どこからかヒカリにとって懐かしい声が聞こえた気がした。
(『私はあきらめない』)
それはいつか夢で見た少女の声だった。
(『絶望するには…まだ早い』)
(そうだ………あの頃の私はこんな状況でも挫けなかった……ううん、違う…)
(あの頃の私は“漆黒の少女”にこんな所であきらめないことを“強要”していた…)
(当の自分は…あの頃も…今も…心の奥にずっと引きこもったままで…)
ラシンが告げる。
「ダメージは…“ブラスター・ダーク”だ…」
(私は…このまま…?……いや)
「いや…認めない」
ヒカリは振り絞るように言う。
(私は“私の言葉”で…この言葉を言うんだ……)
「まだ…私は負けない!私はあきらめない!!」
私は山札に手を添える。
「私“達”は!戦い続ける!!」
私に当たるスポットライトの数が増える。
「だから……!」
そして私はそのカードを引いた。
ラシンはヒカリの瞳が一瞬、宝石の様に輝くのを目にした。
「………いい…瞳だ…」
「ゲット!!アビス・ヒーラー!……ヒールトリガーだよ!!!」
ヒカリの手に握られていたのは、ラシンによって宣言されたカードではなく…ヒカリを救う1枚のヒールトリガーだった。
ヒカリはスカートを揺らしながら喜ぶ。
そのカードを見て…そんなヒカリを見て思わずその場にいた3人は笑ってしまった。
「どう…これが私とこのデッキの底力なんだよ!」
「ああ…すごいよ…あんたらは……兄さんの見込み通りか……」
「何かよく分からないけどヒカリさんすごい!」
一方ジュリアンは頭を抱えていた。
(…結局…今回彼にはどうデッキが見えていたんすか…ヒカリさんが預言を覆したんすか?それとも彼が間違えただけなんすか?そもそも覆るような預言なんすか?)
ラシンがロゼンジを山札に戻す。
ヒカリもまたヒールトリガーでダメージのカードを1枚ドロップへ置く。
「ターンエンド…さぁ…あんたの全てを俺にぶつけてみろ…!!」
「スタンドandドロー…言われなくても!アリアンロッドをレスト…アビス・フリーザーをドロップして1枚ドロー!」
ヒカリはマクリールを手札に加える。
「カロンの前に立ち上がれ!友よ!ブラスター・ダーク!!(9000)」
カースド・ランサーのいなくなったリアガードサークルに覚悟の剣士が立つ。
「ファントム・ブラスター・オーバーロード……」
ヒカリはその竜をレストする。
「ペルソナブラスト!!」
ヒカリは手札のもう1枚のファントム・ブラスター・オーバーロードをドロップゾーンへ置く。
「CB3!パワー+10000、クリティカル+1!!……あなたの絶望した顔……見せてよ!ファントム・ブラスト・ストライク!!(23000 クリティカル2)」
「ふっ…残念だったな…テトラ・メイガスで完全ガードだ!」
ラシンはコストにフローラル・メイガスを使う。
それを見てヒカリは笑う。
「あなたが完全ガードを使うってことは…」
「……」
「ダブルトリガーってことかな?……ドライブチェック!first…デスフェザー・イーグル!クリティカルトリガー!!効果は全てブラスター・ダークに!そしてsecond!グリム・リーパー!!クリティカル!効果の全てをマスカレードに!!」
「マスカレードでヴァンガードにアタック!(17000 クリティカル2)」
「無駄だ!バトルシスター じんじゃーでガード!」
「カロンのブースト!ブラスター・ダークが行く!(22000 クリティカル2)」
「甘いな!バトルシスター てぃらみす!オラクルガーディアン ニケでガード!!」
「ターンエンドだ」
攻防を終えてヒカリは今無理にPBOのスキルを使う必要が無かったことに気がつく。
(……まずかったかな)
ヒカリのダメージは5点、ラシンは4点…二人とも今使えるCBは全て使いきり…手札も共に4枚…山札も残り10枚程度に近づいていた…決着の時は近かった。
「俺のターン……スタンドとドロー!……切り札ってのは後から出すものだ…」
「……え?」
「紅き瞳は未来を見つめる………愛する全てを守る…その術を探すために!!ライド!ペンタゴナル・メイガス!(11000)」
ラシンのVに立ったのは“五角形”をモチーフにした服に身を包む女性だった。
「切り…札…?」
「Vの後ろにクレセント・メイガスをコール!(6000)そしてダーク・キャットの後ろにロゼンジをコール!」
ラシンが流れるようにバトルフェイズに入る。
「クレセントのブースト…スキル発動!デッキトップはステラ・メイガスと宣言…的中!パワー+3000!ペンタゴナルのリミットブレイク!!デッキトップはステラ・メイガス!確認…的中!パワー+5000、クリティカル+1!アタックだ!フォーチュンパニッシュ!!(25000 クリティカル2)」
(…この威力を…CB無しで…でもドライブチェックは公開された…でも…手札的に…)
「マクリールで完全ガード!コストにネヴァン!」
「ドライブチェックはステラ・メイガスと…ロゼンジ・メイガス!ヒールトリガーだが回復せずにクォーレにパワーを与える!…ダーク・キャットのブースト…クォーレ・メイガスのハートアタック!!(24000)」
「デスフェザー・イーグルでガード!マスカレードでインターセプト!」
「ロゼンジとダーク・キャット!(13000)」
「…グリム・リーパーでガード!!」
ヒカリは手札を使いきる、全てを今サークルの上にいるユニットに委ねるつもりだった。
ラシンがロゼンジを山札に戻し、ヒカリに再びターンが来る。
「スタンドandドロー!アリアンのブーストでファントム・ブラスター・オーバーロードがアタック!(20000)」
「ステラ・メイガスとロゼンジ・メイガスでガード!(2枚貫通)」
「ドライブチェック!!first、カロン!second、グリム・リーパー!クリティカル!効果は全てをダークに与える!ブラスター・ダーク…カロンと共に我らに勝利をもたらせ!!」
「ステラ・メイガス!ロゼンジ・メイガス!この2枚でガードっ!!」
「ターンエンドっ!」
ヒカリの手札が増え…逆にラシンの手札が無くなる。
「今度は俺のターン!!スタンドそしてドロー!ダーク・キャットを後列に移動してテトラ・メイガスをコール!!」
ラシンがコールしたのは完全ガードだった。
(このターンで決めに来る…!?)
ラシンは防御さえも捨て攻撃に集中する。
「クレセント、ペンタゴナルのフォーチュンパニッシュ!!(25000、クリティカル2)」
そのスキルでヒカリが目にしたのはクリティカルトリガー…この時点でヒカリは自身がこれ以上守ることができないと悟った。
「みんな……」
ヒカリはここまでのファイトを思い返す、思えばこのデッキを使うのは約2年振りのことだった。
(…また…一緒に戦ってくれてありがとう…そして)
「…ごめん…ここまでみたい…ノーガード…」
「…ああ…ドライブチェック…サイキックバード、クリティカル…効果は全てペンタゴナルに…もう1枚はロゼンジ・メイガス…ヒールトリガー…回復はしない…パワーはVだ」
その攻撃のクリティカルは3…すでにダメージが5点であり、山札のヒールトリガーは残り1枚であるヒカリにはもうこの状況を覆す術がなかった。
「ダメージチェック…」
「…一言いいか」
「…何?6点目のダメージがどのユニットか…とかかな?」
「いや…戦えて良かった、非礼を詫びたいと思う…お前たちは強い……」
「…そう……でも、ダメージはファントム・ブラスター・ドラゴン…私の負けだよ…」
ヒカリが自身の負けを認める。
このファイトはラシンの勝利という形で締め括られるのだった。
「…また会おう」
ラシンが告げる。その表情は清々しかった。
「その時は私が勝つよ…絶対に」
ヒカリが言い返す。
その目には強い意志が感じられた。
「…ふっ…そうだな…VFGPだ…」
「……VFGP…?」
それはチアキ達と共に出場する秋の大会…。
「そこに俺は出場する…大将でな」
「だったら私たちのチームの大将もヒカリさんよ」
「天乃原さん!?」
明らかに今考えたばかりのようなチアキの発言にヒカリは驚く。
「いいの…?」
「うちのジュリアン以外に反対する人間なんかいないと思うわ」
ヒカリとチアキのやり取りを聞きながら、ラシンは自分のデッキをケースにしまう。
「…ふっ…願わくば…その決勝で再び会おう…」
「……そうだね、そこで…もう一度戦おう」
ラシンはヒカリ達に背を向け歩き出す。
いつのまにか一緒にいた金髪の女性もいなくなっていた。
チアキが呟く。
「一体何だったのかしら…ファイトの序盤と終盤でキャラが変わったわよね…」
「うん…本当にね…まあ私も途中からメッキが剥がれちゃったんだけど…ね」
チアキはスタンディングテーブルの下であるものを見つける。
「あ、あいつなんか落としてったわよ」
「?」
それは普通のメモ帳だった。
「これ…メモ帳?……って!?何よこれ!?」
「…どうしたの?」
チアキがその中身を読み上げる。
「『目標を発見しだい僕と一緒に「そんな弱っちぃデッキ~」の話題から演技を始めるように(イメージはカオスブレイカー)』『補足:ここでアルフレッド・アーリー、ソウルセイバー・ドラゴンの悪口を言え』『とにかく煽れ、頑張れ、困ったら舌打ちをするか、(笑)をつけろ、それでだいぶ相手を煽ることができるだろう』『これで彼女もお前と戦いたくなるだろう』……え…つまり最初のあのやたら煽ってくるキャラは演技だったってこと…かしら??……」
「じゃあ…あの時の言葉も…全部…本心じゃ無かったの??」
その言葉を聞いて、ヒカリは疲れたように呟く。
「何それ……訳わかんな……い」
体の力が抜けたヒカリがゆっくりと崩れ落ちる。
「ヒカリさん!?」
「任せて!」
チアキよりも先にヒカリを受け止めたのは、チアキよりも離れた位置にいた春風さんだった。
「ヒカリさんは!?」
「問題ありませんよ」
春風さんはすーすーと寝息をたてるヒカリを見つめて言う。
「朝の5時近くに起きてそれから今までずっとファイトしてたみたいなものでしたからね…」
「え…?そんな朝から?ファイト?」
「…どうせ私のせいですよ!!はぁ…とりあえず私は店のベッドにヒカリ様を寝かせてきます」
春風さんがゴスロリ姿のヒカリをお嬢様抱っこで運んでいく。
え、この店…店内にベッドあるの?ーと思ったチアキだったが口には出さなかった。
「しかし一体本当にあいつはなんだったのかしら…」
「あれ…?」
そんなチアキの耳に入ってきたのは先程までここにいなかった人間の声だった。
「あれ!?ジュリアンがいない!?ヒカリ向こうで寝てる!?一体どうなっているんだ?リーダー」
「青葉君…えっと…遅かったわね…って…え?ジュリアン?」
チアキはそこで先程までここにいた人間がいなくなっていることに気がついたのだった。
* * * * *
「…はぁ……」
「いや…序盤は“僕のシナリオ”通りのいい煽りっぷりだったよ…さすが最高の僕の、弟だ」
「そこで切るなよ…」
3人の人間が道を歩いていた。
「しかし…やはり彼女はあの時倒し損ねた“二人”の内の一人のようだね…顔は覚えていたけど…別人の可能性もあったからね」
「というか、シン兄ーコハク兄ー深見ヒカリさんってあれだよね、二人の中学で伝説になってるあの人だよね」
「…まさか、校長の言ってた一人で学校の全ての不良と腐敗した教師を更正させたっていう?…あれはどうせ校長の作り話だろ」
「…でラシン、ファイトはどうだった?」
「…あの人がPBOのスキルを使わなかったら…俺は負けていた…ガードに必要なユニットが少なくなって…きっとクォーレでインターセプトしたことだろう」
「そして、お前はアタッカーを失った上に彼女は完全ガード用のグレード3を確保…シールド値も5000の余裕ができて最後の攻撃も防げたと」
「兄さんの洞察力は怖いな…ああ、そして俺が守れない次のターン…そのドライブチェックでクリティカルトリガーが出て、俺はヒールできずに敗北する…そこまで考えられた。」
一人はつい数分前までヒカリとファイトしていた神沢ラシン。
「まぁ…でも、コハク兄も相変わらずえぐいよねぇ…シン兄にアルフレッドをディスらせるなんてさ…シン兄今でも騎士王 アルフレッドでたまに大会でてるくらいなんだよー?」
もう一人はカードショップアスタリアでラシンと共にいた金髪の女性だった。
「すまなかった…アルフレッド…」
ラシンがさっきまで使っていたのとは違うデッキを出して大切そうに撫でていた。
「まぁまぁ…ああいう出会い方をしたら最初から“本気”のファイトが出来ると考えたんだよ…悪かったねラシン」
「でもアルフレッド達の悪口言わせる必要は無いよねぇ」
「まぁそこはね、ラシンがどんな顔するか見たくてね(笑)」
そう呟く3人目の人物は、ショップでラシンに罵られていた童顔で女顔の少年だった。
「……なるほど…全員グルだったんすね」
「…君は…」
「…さっきファイトを見ていた奴か…」
3人の前に立ちはだかるのは舞原ジュリアンだった。
「色々聞きたいことはあるっすけど…まずは!」
ラシンが金髪の女性の方を指差す。
そして自信満々に言い放つ。
「もしや君が“スクルド”なのでは!?」
女性はひらひらと手を振り答えた。
「…やだな…“私の方じゃない”よ…」
「え…?」
ラシンが一歩前に出る。
「…俺が“スクルド”だ」
「…いやいやいや」
その言葉をジュリアンは笑い飛ばす。
「いやいや…“ノルン”は全員女性だって話っすし、ましてや“スクルド”は金髪で幼女っすよ?さすがに成長して男になったとか止めて欲しい…」
もう一人の少年が真剣な表情でジュリアンに話しかける。
「…僕らの親はね…よく女顔の僕らに女物の服を着せて来たんだよ」
「え…」
「女の子は一人の家なのに私の着てる服は兄達のお下がりなんだよね」
「ええと…え?…いやいや」
ラシンが強く断言する。
「とにかく…俺がスクルドだ…聞きたいことはそれだけか?」
「…スクルドは変態女装男…ってことっすか」
「その流れだと僕も変態女装男ってことかな、ふふっゾクゾクするね」
「…兄さんは黙っててくれ」
「…」
コハクだけでなくジュリアンも黙り込む…何かを考えているようだ。
「だったら…実際に僕とファイトしてもらうっす!…そしてスクルドだって言うなら、その力ごとぶっ倒してやるっすよ!!」
「……折角、気分よく家に帰れると思ったんだがな」
ジュリアンは折り畳み式のファイトテーブルを取り出す。
「僕は舞原ジュリアン!最強を目指すカードファイターっす!」
「…俺は神沢ラシン……そうだな、敢えてお前に合わせて名乗るのなら“最強であることを証明したいファイター”だ…」
「あ、私、神沢マリ、ちょっと大人っぼいってよく言われる小学6年生だよ」
「僕は神沢コハク…見た目と中身のギャップがすごいってよく言われる中学3年だよ」
ファイトテーブルの周りの二人も流れで名乗った。
二人はデッキをシャッフルし並べる。
「…お前が無理矢理挑んできたんだ…俺が先行を貰うぞ」
「…別にいいっすよ…」
ラシンのデッキを見たマリが呟く。
それは騎士王 アルフレッドのデッキでも、メイガスのデッキでも無かった。
「そのデッキで先行…シン兄“あれ”をやるんだね」
「…ああ、“運が良ければ”な」
マリガンまでを終え…二人はFVに手を添える。
「スタンドアップ!ヴァンガード!!」
「スタンドアップ!my!ヴァンガード!!」
「そのユニット…」
レッドパルス・ドラコキッドにライドしたジュリアンが見たのは“幼き黒龍 ヴォーティマー”…
それはゴールドパラディンのユニットだった。
ラシンが言い放つ。
「お前には悪いが…速攻…決めさせてもらう!」