陣中での飲み会から二ヶ月ほどのち。
いつもの別荘には、いつも通りの軍師たちが顔を揃えていた。
「はーい……それでは、第六回の会議を始めます……」
どんよりとした声で朱里が言う。
いつものような元気が無いことを心配した亞莎が声をかけた。
「ど、どうしたんですか? 何やら気落ちされてるみたいですが」
「あー……それはおいおい話しましょう。ひとまず皆さん、洛陽での戦いはお疲れ様でした」
朱里が言うと、全員がそれに答えるように頷いた。
結果から言えば、反董卓連合軍と董卓軍の戦いは、連合軍の辛勝に終わった。
虎牢関と汜水関、二つの関で頑強に抵抗した董卓軍は、将兵の質の高さもあって大いに連合軍を苦しめたが、守将が敗れ、捕らえられたことにより指揮系統が崩壊。
結果、二つの関はほどなくして陥落した。
最後の砦である洛陽でも董卓軍は徹底抗戦したが、衆寡敵せず敗退。双方に甚大な被害を出しながらも、こうして洛陽の戦いは連合軍の勝利で終結した。
「ま、私たちには董卓軍との繋がりもあったわけだから手放しでは喜べないけど、ねねも無事に保護できたし、それぞれの目標は達成できたんだからいいじゃない。何をそんなに沈んだ顔してるのよ?」
「それだけで済めば良かったんですけどね……」
「なに、何か不味いことでもあったの?」
桂花の問いに、朱里が頷く。
「桂花さん、乱の首謀者と目されていた董卓さんは、どうなりましたか?」
「はぁ? そんなのアンタも知ってるでしょ、消息不明よ。逃げられた可能性が高いわね」
「そうですね、逃げられました。……逃げられたということになっています」
「……どういう意味?」
「…………うちに居るんです」
「は?」
「だから! うちに! 劉備軍に居るんですよ保護したんです!」
朱里が叫ぶ。数秒の沈黙ののち、
「はぁぁぁぁぁぁぁッ!!??」
桂花が絶叫した。
亞莎も驚いた顔をしているが、雛里とねねは事情を知っていたようで、気まずそうに視線を逸らしていた。
「いや、何でそんなことしたのよ!? バカじゃないの!?」
「バカじゃないもん、天才だもん」
「拗ねてる場合か! 世間では都を乱した大罪人として認知されてる董卓を保護してるなんて他の諸侯にバレたら、次はアンタたちが討伐されるわよ!」
「分かってますぅー! 私天才だからそのくらい分かりますぅー!」
「はいはいアンタは天才よ! それでいいから早く理由を言いなさいこのバカ!」
「だから私が実行したんじゃないんですよ! うちのゆるふわ君主が言い始めたことなんですよぉ!」
涙目になって、朱里が喚く。
「劉備が? どういうこと」
「……事情を、桃香さまに説明したんです。董卓さんは袁紹さんによって濡れ衣を着せられているだけだって。だから、私と繋がりのあるねねちゃんを保護して欲しいと」
「作戦通りね。それで?」
「そしたら桃香さまが、『じゃあ、董卓ちゃんも保護しよう! 濡れ衣なのにこのまま討ち取られちゃうなんて可哀想だよ!』って」
「…………」
目眩のしそうな話に、桂花が絶句する。
「そしたら、関羽さんや張飛ちゃんもそれに賛成して。私と雛里ちゃんは反対したんですが、巷で『人徳の劉備』なんて呼ばれてる桃香さまにそれが通じるはずもなく……」
「で、保護したと」
「私は悪くないです。最善を尽くしました」
「開き直ってんじゃないわよ。……はぁ、とんだ火種を抱え込んだわね」
桂花が嘆息する。
そんな様子に、もともと董卓軍に所属していたねねが申し訳なさそうな顔で小さくなっていたが、桂花はそんなねねの頭を優しく撫でた。
「辛気臭い顔してんじゃないわよ。終わったことは仕様がないでしょ」
「桂花姉さま……」
「ましてアンタのせいでもないんだから、堂々とふんぞり返ってなさい。しおらしいねねなんて気持ちが悪いわ」
「……桂花姉さまぁっ」
感極まったねねが、桂花に抱きつく。
「ねねはっ……ねねは嬉しいです桂花姉さまぁ! ねねを庇ってくれるなんて……!」
「あーもう、鬱陶しいから抱きつくんじゃないわよ」
「桂花姉さま……桂花姉さま…………うふ……うへへへへ」
「ぎゃーこの糞餓鬼! 変なとこ触ってんじゃないわよ!」
桂花がねねを蹴り飛ばす。
「痛いっ! 桂花姉さま、もっと! もっと蹴ってください!」
「気色悪いわね! 女相手に発情してんじゃないわよ変態!」
「えぇー……それを桂花さんが言うんですか……」
朱里が微妙な表情で桂花を見やる。
桂花が数発蹴りを入れると、ねねはようやく大人しくなった。
ひと段落したところで、改めて朱里が口を開く。
「とにかく、董卓さんが劉備軍に居るということは秘匿する方向で。こちらでも情報の隠蔽には全力を注ぎますが、皆さんのほうでもある程度の情報操作はお願いします」
「はいはい」
「了解しました」
桂花と亞莎が頷く。
「他に、何か報告事項はありますか?」
「あ、そういえば」
「はい、どうぞ亞莎ちゃん」
「孫家が捕獲することになっていた華雄さんなのですが、勢い余って殺してしまいました」
「……いちおう聞きますが、誰が?」
「私です。すみません、ドジを踏んでしまいました……」
「いや、そんな可愛らしく言われても……。ドジで猛将を殺害とか笑えないんですが」
「笑えませんか……?」
「だ、大爆笑です! もう腹がよじれそう! あはははははっ!」
瞳に怪しい光を宿した亞莎に見つめられ、朱里が冷や汗をダラダラ流しながら笑う。
「ほ、他に! 他に何か!」
「ああ、そういうことならウチからも報告だけど」
「はいどうぞ、貧乳さん」
「アンタ自分がどんな胸板してたらそんなこと言えるわけ」
「私より身長あるぶん余計に哀れですよね桂花さん」
「後で覚えてなさい」
青筋を浮かべ、桂花が朱里を睨む。
「そうじゃなくて。ウチはちゃんと張遼の拿捕に成功したわよ。張遼も、華琳さまの下で働くことに納得してくれたわ」
「ああ、あのサラシと袴だけで戦場を歩いてた痴女ですか」
「間違ってはいないけど、もっと他に言い様ないわけ?」
「おっぱいでかい」
「あっそう。私からは以上よ」
溜息を吐いて桂花が座る。
「そういえば、おっぱいって揉めば大きくなるらしいですね」
「…………」
「雛里ちゃん、私のおっぱい揉んで」
「あわわ……触りたくない」
「頬を染めながら辛辣なことを言うね。こないだ買った房中術の本貸してあげるから」
「分かったよ朱里ちゃん。吐くほど嫌だけど頑張る」
「なんでそんなゴミを触るみたいに嫌がるの? 解せない」
「ゴミって朱里ちゃんにそっくりだよね」
「解せない!」
というわけで実行。
どすっ
「……ねえ」
どすっ
「雛里ちゃん。ねえってば」
どすっ
「これ、揉み揉み違う。正拳突き」
どすっ
「痛いから。鳩尾えぐらないで」
どすっ
「雛里ちゃんの腐れワレメ」
がすっ!
「まさかの顔面」
閑話休題。
鼻血を垂らした朱里が話を進める。
「ともあれ、董卓さんが諸侯によって征伐されたことで、董卓さんを押さえ込めなかった漢の力がすでに形骸化しているということが大陸中に喧伝されました。これから先は、力を持った諸侯が争う群雄割拠の時代になるでしょう。これからが私たちにとっての本番ですよ」
「ああ……桂花姉さまに蹴られたところが熱を持って……気持ちいいのです!」
「ねねちゃんうるさいです。……なので、これまで以上に連絡は密に。外交でも私たち同士が関わりを持つ機会が出てくると思いますが、そのときは上手く連携して対処していきましょう」
朱里の言葉に、全員(ねね除く)が首肯した。
「それでは、今回はこんなところで。お疲れ様でしたー」
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
「お疲れさまでした……」
「はぁ、はぁ……体が、熱いのです」
これにて、会議終了。
「あれ、でもなんだか雛里ちゃんに殴られたところがジンジンして膨らんでる気がする! 雛里ちゃん、もっと殴って!」
「(ごすっ)」
「顔じゃない」
「あわわ……でも、膨らんでるよ?」
「それ腫れてるだけだよ!」
「じゃあ、胸もそうなんじゃない?」
「あっ…………」
ねねがどんどん変態に。いいと思います(真顔)
今更ですが、前回で関羽が亞莎を殺したいと言ってたのは、史実において関羽を打ち取るのが呂蒙だからです。原作にもあったネタですね。
こんな感じで原作ネタはなるべく解説しますが、キャラの見た目くらい調べておくと想像しやすいかもです。
まあこんなSS、プレイ済みの人しか見てはいないでしょうが。
堅苦しいので主君だけは真名で呼ばせています。孫策もそのうち。
桃香⇒劉備
華琳⇒曹操
雪蓮⇒孫策
です。他の人は基本的に名前呼びで。面倒くさいので。