~真・恋姫†無双~軍師たちの三国会議   作:たたらば

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第五回議題『宴会芸のひとつくらい持っておくべき』

 

 

――――第四回の会議から幾ばくもしないうちに、檄文を受け取った諸侯のほとんどは連合への参加を表明、反董卓連合が結成された。

 

数十近い諸侯が参加しているだけあってその動員兵力は優に数万を数え、兵力だけならば都を抑える董卓軍を圧倒出来るだけの数が揃った。

決起のための集会を終えた諸侯は、いよいよ以て王都・洛陽への進軍を開始した。

洛陽へと至るには、都を守るために築かれた虎牢関と汜水関という二つの強固な関所を抜かねばならない。

連合軍はまず最初の難関である汜水関へと到着し、現在は明日以降の攻撃開始に備え、関にほど近い場所に陣地を築いて休息をとっている所である。

 

時刻は夜。

広大な連合軍陣地には無数の篝火が焚かれ、その一体をまるで昼のように明るく照らしている。

そんな陣地の中の、とある天幕にて。

 

「こんばんはー」

「あわ……こんばんは」

 

いつもの会議と変わらぬ調子で、天幕に朱里と雛里の二人が入ってくる。

 

「遅いわよ」

「こんばんは、二人とも」

 

これを出迎えるのは、こちらもまたいつもの調子と変わらない桂花と亞莎だ。

ねねを除いた初期のころの面子が、全員ひとつの天幕に集っていた。

 

「はわわ、食料庫から色々くすねてきたら遅くなってしまいました」

「あら、気が利くじゃない。あたしも持ってきたけど」

「あ、それなら私も」

 

四人がそれぞれ、持ち寄った酒や食料を机に並べていく。

準備が整ったところで、朱里がいつものように声をあげた。

 

 

「それでは、始めちゃいましょう」

 

 

 

 

 

 

「それにしても……良かったの? 前の時に『この会議の存在が知られるのは不味い』って言ってたのはアンタでしょうに」

 

杯に注がれた酒をあおりながら桂花が問うと、ぽりぽりと煎豆をつまんでいる朱里が答えた。

 

「バレるのは不味いですが、今は私たち味方同士ですから。軍師同士の交流会とでも銘打っておけば、馬鹿な諸侯の方々は気づきませんよ」

「アンタはそうやって息を吐くように人を見下すのやめなさい」

「だって、実際ここに連合軍内での最高位の頭脳は揃ってますし」

「華琳さまは軍師並みに頭も切れるわよ」

「じゃあ桂花さん必要ないじゃないですか」

「うるさいってのよ。多少は気にしてるんだから黙っときなさい」

 

少し語気を荒げ、桂花が言う。

もくもくとごま団子を頬張りながら、亞莎が口を開いた。

 

「そういう意味では、我が軍の周瑜さまも切れ者ですね」

「ああ、見ました見ました美周郎。デキる人って感じでしたね。ああいう気の強そうな女性はぜったい後ろの穴弱いですよ」

「で、では私が見よう見まねで習得した桂花さんの指技を駆使すれば、私でも周瑜さまに勝てるということですかっ?」

「そこは頭脳で張り合いましょうよ」

 

目を輝かせる亞莎に、朱里が微妙な顔をする。

 

「あ、そういえばウチの愛紗さん――関羽さんが、亞莎ちゃんのこと『なんか殺したい』って言ってましたよ」

「なんかってなんですか!? 雑すぎませんか!?」

「うーん。理由は本人にも良く分からないそうですが、なんか殺意が湧くそうです」

「え、えぇ……。私、関羽さんとは会ったこともないのに」

 

謂れのない恨み言に、亞莎がげんなりとうなだれた。

 

「殺意とか、よく分かりませんね武官の考えることは。たまに雛里ちゃんがいなければなーとか、その程度ですよ私は」

「私もおんなじだよ朱里ちゃん。気が合うね私たち」

「仲良しだもんね」

「…………」

「…………」

「(どかっ)」

「(ごすっ)」

「はいはいそこまで」

 

仲裁に入った桂花が言う。

 

「アンタたち見てると、なんで一緒にいるのか不思議だわ。どうみてもソリが合ってないじゃない」

「そうですね。……私と雛里ちゃんが仲良くなったのには、それはもう深い訳がありまして」

「へぇ、酒の肴に話してみなさいよ」

「はい。……あれはまだ、私たち二人が水鏡女学院で学問を修めている時のことでした」

 

真剣な顔で、朱里がかつての情景に思いを馳せる。

 

『ふんふ~ん。さて、今日も隠し持っていた房中術の本を読んで……』

『あわわ……』

『はわわ!? だ、誰っ!?』

『ご、ごめん。覗くつもりはなくて』

『違うの! こ、この本は――』

『その本……好きなの?』

『……う、うん。気に入ってるよ』

『私も、おんなじの持ってるんだ……』

『……!!』

『良かったら、いっしょに読もう?』

『うんっ』

 

回想終了。

 

「というわけです」

「どこが深いのよ。思春期の子供かアンタたちは」

「というわけで房中術関連の本を探しに行く時は仲良しです」

「普段は?」

「雛里ちゃんの服装って私のパチモンみたいですよね」

「よく分かったわ」

 

再びポカポカと殴り合いを始める朱里と雛里を放置して、桂花が杯に酒を注ぐ。

 

「ねねも来れれば良かったんだけどね」

「少し寂しいですね」

 

桂花のつぶやきに、亞莎が答えた。

流石に、いちおう敵方であるねねはこの会には参加していない。

 

「まあ、いたらいたでうるさいんだけどね。……最近、うっとりした眼で私の指を見つめてくるから気色悪いわ」

「桂花さんのことも桂花姉さまと呼んでいますよね」

「変ななつかれ方したものよ」

 

 

 

「へっくちっ!」

「あら、風邪?」

 

董卓軍の陣地にて、ねねと董卓軍軍師である賈駆(真名は詠)が話し合いをしていた。

 

「うー、なんだか鼻がむずむずと……」

「誰かアンタの噂でもしてるのかしら」

「ついでに後ろの穴もむずむずするのです」

「は?」

「うぅ、久しく桂花姉さまにお会いしていませんからな……。詠、ちょっとここに指を入れて欲しいのです」

「イヤよ気持ち悪い! アンタいったい何に目覚めたの!?」

 

 

 

閑話休題。

ようやく喧嘩を終えた朱里と雛里が席に着く。

結果はいつもの通り朱里の完全敗北である。

 

「惜しいですね、あそこで私の右が入っていれば……」

「はいはい、負け惜しみはいいから」

 

ボロボロになってなお強気な態度を崩さない朱里に、桂花が嘆息する。

 

「それで、明日以降はどうするのよ?」

「そうですね……汜水関を守ってるのは孫家が捕らえる予定の華雄さんですから、明日は亞莎ちゃんたちに頑張ってもらいましょう」

「はいっ、お任せ下さい!」

 

亞莎がぐっと拳を握る。袖で隠れて見えないが。

 

「何か策はありますか? 亞莎ちゃん」

「華雄さんは昔、とある戦で孫策さまの母君であらせられる孫堅さまに手痛い敗北を喫したことがあるそうです。本人も頭に血が上りやすい将であるとのことなので、孫策様が挑発をすれば関から出てくるかと」

「ああ、脳筋ですか。扱いやすいですよねそういう人種って。ウチにも一人、『なのだ!』が口癖の暴食少女がいますよ」

「ウチにも突撃しか能のないデコハゲ暴力女がいるわね」

 

思い当たる節のあるらしい二人が言う。

 

「まあ、ねねちゃんの密書によると呂布さんは虎牢関に配置されているそうなので、華雄さんさえどうにかすれば汜水関は落ちるでしょう」

「どうせ袁紹や袁術は前に出たがらないだろうし、孫家が出張るならちょうど良いわね」

「あ、袁紹さんといえば」

「ああ、あれでしょ」

「「「「喋り方」」」」

 

朱里が言うと、全員が声を揃えて言う。

 

「いやー、この間の袁紹さんの真似は適当だったんですけど……まさか本当に『お~っほっほ!』と笑う人が居るとは……」

「すごく高圧的だしね」

「腹が立ちましたね。ちょっと桂花さん、袁紹さんと領地近いんですからこれが終わったら滅ぼしてきて下さいよ」

「そうねぇ。どうせ、華琳さまが勢力拡大するとなったら必ず当たらなきゃいけない相手だけど……。でもまあ、当分先じゃない? 袁紹の領地の北方にはあれがいるじゃない、あの…………あれよ」

「あれですよね、あの……こ、こんそう……?」

「こうそんじゃなかった? こうそん……す、さ……」

「…………」

「……ゆ、幽州の普通っぽいのがいたじゃない! あいつがいるから戦うならあっちが先でしょ」

 

結局思い出せなかったらしく、桂花が言う。

ちなみに幽州の普通っぽいのとは、幽州一体を治めている公孫賛という領主である。

秀才でなんでも卒なくこなすが、そのせいか他の諸侯と比べると特徴に乏しく、影が薄いと言われている残念な将である。

 

「でもなんかこう、あの幽州の人って気づいたら滅んでそうじゃありません?」

「まさか。流石にそこまでは……ねぇ?」

「…………」

「…………」

 

天幕内に微妙な沈黙が流れる。

話題を変えようと、朱里が無理やり笑って口を開く。

 

「し、しかしあれですね。袁紹さんと袁術さんは、従姉妹どうしなだけあって似てましたね。そういえば、亞莎ちゃんは袁術さんのことは知ってたんですよね?」

「そうですね。袁紹さまに負けず劣らず高圧的で、でも無邪気な方です」

「そうですねー。じゃあ袁術さんを滅ぼすのは孫家に任せちゃいましょうか」

「お任せ下さい。必ずやあの可愛らしい細首をねじ切って持ってきます」

「あ、持ってこなくていいです」

「これまでの鬱憤晴らしも兼ねて、生きたままこう、少しずつ首をひねっていくというのはどうでしょうか。きっと激痛が――――」

「亞莎ちゃん、この話はやめましょう」

「でも」

「いいから」

「……はい」

「…………」

 

またしても重い沈黙が流れる。

 

「あーもう辛気臭いわね! 話すことは話したんだから、あとは飲むわよ!」

 

妙な空気を嫌い、桂花が酒瓶を掲げる。

渡りに分とばかりに、他の三人もそれに乗った。

 

「そうですね、飲みましょう! そうだ、雛里ちゃんが一発芸やりますよ!」

「あわわっ!?」

「ほら、あれやって雛里ちゃん。眼からお酒飲むやつ」

「そんなの挑戦したこともないよ! 止めてって、ちょっと」

「ほらほら、雛里ちゃんならできるから」

「い、痛いっ。お酒が眼にしみるから……あわわっ」

「頑張れ頑張れ雛里ちゃん」

「あわっ……あわわ、あわわわわわわ……………………やめろぶっ殺すぞ」

「!?」

 

ドスの聞いた声に、思わず朱里が手を離す。

 

「やめて」

「……ご、ごめんなさい」

「…………」

「…………」

 

「「「「………………」」」」

 

とてつもなく微妙な空気のまま、臨時会議は終了したのだった――――。

 

 

 

 

 

 




雛里ちゃんは毒舌。これは公式だからしかたないね。

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