~真・恋姫†無双~軍師たちの三国会議   作:たたらば

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第四回議題『袁紹さんはきっとこんな喋り方』

「揃いましたね。では、第四回『大陸に救いをもたらしてやろう会議』を始めます」

「会議名そんな上から目線だったっけ?」

 

 

いつも通りな朱里と桂花のやりとりを合図に、会議が始まる。

席に座るのは変わらず五人だ。

 

「今回はちょっとまじめに話し合わないといけませんね」

「いっつも真面目にやってないって認めてるようなもんじゃないそれ」

「桂花さん人の発言中は静粛にお願いします。えー、理由はこれです」

 

そう言って、朱里が一つの書簡を円卓の上に置く。

それは朱里が持ってきたものだが、所属が違う他の面子もその書簡には見覚えが有るようで、思い思いに表情を輝かせたりうつむいたりしている。

 

「皆さんもお分かりのようですね。これは冀州一帯の大勢力の長、袁紹さんから発せられた檄文です」

 

書簡を広げながら、朱里が言う。

 

「内容を意訳すると……『お~っほっほ! ごきげんよう、名門袁家の宗主、袁本初ですわ! さてみなさん、現在、漢の都である洛陽が董卓という西涼の田舎者に占拠されているのはご存知ですわね? 黄巾党討伐からほどなくして、皇帝位であらせられた霊帝が崩御なさったとき、董卓さんはゴタゴタに紛れて都に軍を入れ、あろうことか朝廷の力を我が物にしようと画策したのですわ!なんと許しがたき暴挙でしょう!』」

「…………」

 

朱里のひどすぎる、だが不思議と違和感のない文章意訳に桂花が何か言いかけるも、ひとまずは黙して続きを促した。

 

「漢に忠義を誓う臣として、この袁本初、董卓さんの無礼な行いを見過ごすわけには参りません。よって、ここに華麗なるわたくしを盟主とした、反董卓連合軍の結成を宣言しますわ! 漢に忠誠を誓う諸侯のみなさんなら、間違いなく参加して下さいますわよね? というか参加しなければ、董卓に与する者と認識しこの袁本初自らが叩き潰して差し上げますわ! お~っほっほ!!』とのことです」

「……まあ分かりやすかったから良しとするわ」

 

偏見に過ぎるが、おおむねは朱里の言う通りの内容である。

つまり袁紹が言うには、漢の皇帝亡き後、その権力を強奪しようとして都を占領した董卓の軍勢を洛陽から駆逐するため、諸侯の力を結集して連合軍を結成しようと呼びかけたというわけだ。

参加しなければ逆賊として征伐するという脅し付きである。

 

「それで、この書簡が桃香さまの下にも届いたというわけですね。皆さんはどうです?」

「華琳さまのところにも届いたわ。まあ、華琳さまは袁紹のバカとは顔見知りみたいだし、当然よね」

「孫策さま個人には届いていませんが、州牧である袁術さまが連合に参加されるそうなので、孫策さまもそれに従って出陣することになると思います」

「ふむ、やはりほとんどの勢力が出陣するというわけですね」

 

桂花と亞莎の返答を聞き、朱里が頷く。

最後に、朱里が先程から無言のねねへと視線を向けた。

 

「というわけで、ねねちゃんは死ぬこととなりました。ご愁傷様です」

「切り捨てるの早すぎなのですっ!!」

 

ねねが叫ぶ。

が、朱里は表情を崩すことなく淡々と続けた。

 

「だって、いくら董卓さんの勢力が強大でも、大陸中の諸侯を相手にして勝てるわけがありませんし……そうなれば、董卓軍所属でしかも軍師などという重役に就いてしまっているねねちゃんは間違いなく死にますよ。良くて性奴隷です」

「死ぬほうがマシなのです! じゃなくて!」

 

あんまりな言い草に、ねねが涙目になる。

 

「朱里たちがねねを董卓軍に向かわせたのでしょう!? なら少しは責任を感じて助けてくれたっていいではないですか!」

「あーはいはい分かりました。じゃあ戦が始まったら、全裸で後ろ手に縛られながら一人で劉備軍まで来てください。気が向いたら保護しますから」

「それどうあがいても性奴隷になるやつなのです! 万分の一も助からないのです!」

「だから性奴隷として保護しますってば」

「それを助けたと言う気でやがりますか!?」

 

朱里の言葉に、ねねが喚く。

見かねた亞莎が、声をあげて立ち上がった。

 

「分かりましたねねさん! 私がねねさんを助けます!」

「おお、亞莎……!」

「性奴隷になる前に、楽にしてあげます」

「殺す気満々!? 現世で助けやがれです!」

 

誰も助ける気は無いようだった。

 

「さて、冗談はさておき」

「あ、冗談なのですね?」

「真実はどうなんですか? 董卓軍所属のねねさんなら分かるのでは?」

 

朱里がねねに問うと、憎々しげにねねが言う。

 

「檄文の内容はうそっぱちなのです。霊帝が崩御なさったあと、真っ先に都を占拠しようとしたのは袁紹。董卓さまは、それを阻止しただけなのです」

「なるほど、つまりそれに腹を立てた袁紹さんが、董卓さんを追い落とすために逆賊に仕立て上げたと」

「きっとそういうことなのです。月さま……董卓さまは、戦を嫌うとても優しいかたなのですから」

 

悲しそうに、ねねがうつむく。

会議室が重い沈黙に包まれた。

 

「うーん、これは由々しき問題だね雛里ちゃん。人を悪人に仕立て上げるなんて最低の行いだよ!」

「そうだね。部屋に隠してた房中術の本がみんなに見つかったとき、全部私が集めたものということにして逃走を図った朱里ちゃんが言うと説得力が違うよ」

「あれは笑ったね」

「笑えないよ?」

「まあとにかく!」

 

ばんと朱里が机を叩く。

 

「檄文が発された以上、董卓軍との戦いは避けられませんからね。ひとまずは、ねねちゃんをどうやって助けるかですが……そうですね、ねねちゃんは劉備軍で保護します」

「え、大丈夫なの?」

 

朱里の発言に桂花が言う。

 

「大丈夫です。私が提案しなくても、事のあらましを話せば桃香さまが助けると言いだすと思います」

「劉備って随分とお人好しなのね」

「桃香さまは頭と股がユルいお花畑な人ですからね」

「自分の君主にそこまで言う?」

「あ、間違えました。股はユルそうというだけですね。桃香さまは多分まだ処女なので」

「訂正になってないわよ」

 

桂花がジト目を向けるが、なおも朱里が続ける。

 

「ついでに、呂布さんもうちが貰っていきますね。捕獲には骨が折れそうですが、ねねちゃんが協力してくれれば何とかなるでしょう」

「あ、ずるいわよ朱里。華琳さまだって優秀な人材を欲してるんだから、呂布はうちに寄越しなさい」

「そ、それは孫策さまも同じです。優秀な人材なら引き抜きたいと……」

 

朱里の言葉に、桂花と亞莎が続く。

わーわーと言い合いが始まる中、話題の中心にいるはずなのに放置されたねねがふぅと溜息を吐いた。

 

「全く……もう董卓軍を撃破した後の話ですか。取らぬ狸の皮算用にならなければいいのですが」

「あわわ……だ、大丈夫じゃないかな。兵力差は圧倒的だし」

 

ねねの言葉に雛里が応える。

 

「しかし、ねねたちを匿うのも相応に危険な行為ですぞ?」

「それも、平気。匿う危険性よりも、ねねちゃんと呂布さんが来てくれた時の恩恵のほうが大きいから」

「そうですか?」

「うん。呂布さんは、最強の武官として。ねねちゃんは……」

「…………」

「……性奴隷?」

「頭脳を活かして欲しいのです!」

「でも、軍師は足りてるし……やっぱり、性奴隷で――」

「ねねを性奴隷にしていいのは桂花姉さまだけなのです!」

「あわっ!?」

 

元気に言うねねに雛里が驚愕する。

そうこうしている内に話し合いが終わったようで、

 

「それじゃ、決定です! 我が劉備軍にはねねちゃんと呂布さんを!」

「曹操軍には、瞬将と名高い張遼を」

「孫策軍には、武名あらたかな華雄さんを頂きますっ」

 

議論が決着し、全員が席に着いた。

 

「さてと、今回の会議はこんなところですね。黄巾党よりは楽だと思いますし、気軽にサクッと撃破しちゃいましょう」

「軽いわねぇ。本当に大丈夫かしら」

「大丈夫ですよ。劉備軍、曹操軍、孫策軍はもとより、攻撃目標である董卓軍ともある程度は連携が図れるんですから。そのために、さまざまな軍に軍師を送り込んだんです」

「まあ、半分は八百長試合みたいなものよね。……それでも、それぞれの君主は事情を知らず本気でかかってるんだから、そう甘くはないはずよ?」

「そこはほら、天才的頭脳で、ねっ!」

「何がねっ、よ。腹の立つ顔ね」

 

得意げに笑う朱里に、桂花が呆れたように吐息を漏らした。

朱里は特に気にした様子もなく、まとめの言葉に入る。

 

「ともあれ、最も不味いのはこの会議の存在が明らかになることですから。そこだけは皆さん注意してくださいね」

「分かってるわ」

「それでは、本日はここまでとします。お疲れ様でした」

「お疲れ様」

「お疲れ様でした」

「お疲れなのです」

「あわ……お疲れ様です」

 

 

 

反董卓連合が結成される、半月ほど前の出来事である。

 

 

 

 

 

 




今回は、話を進めるために少しまじめなお話となりました。
次回からはいつも通りのくだらないお茶会です。

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