鵺兄妹魔法学園奇譚   作:あるかなふぉーす

4 / 14
別作品の方をおざなりにしてまでこっちを書くのに嵌ってしまっています。

やはり自分にはこういう軽いのがお似合いなのでしょうかね?


第弐話 生徒会長 -unconsciousness-

 

 

生徒会長による祝辞を終えた今、残すプログラムは新入生代表による答辞のみとなっていた。

 

新入生代表、というのはこの魔法学園に入学するうえで最も重要なプロセス、即ち入学試験をトップで通過したも

 

のに与えられる肩書きだ。

 

魔法座学、魔法実戦、魔法技術、特殊機器による魔力保有量の観測。

 

これらすべての科目において受験者内で一位の成績を極めたものが選ばれる。

 

とはいっても新入生代表としてのお仕事は、この入学式の答辞でおしまいだ。

 

しかし、その生徒は今後の学園生活での地位・名誉を確約されたも同然なのである。

 

他人から敬われ、崇められ、目標とされ、

 

現代のカースト制とまで謳われた、このヒエラルキー(階級社会)の天辺(世界史でいうところの神官クラス)

 

に君臨することが確定される。

 

自分の下に多くの人を置かれ、しかし自分の上に人が存在せず、

 

誰に(おもね)る必要も、誰に媚びる必要も、誰に縋る必要も、誰に従う必要もなく、

 

阿諛追従(あゆついしょう)すべき義務も権利も必要も状況もなく、

 

頂点の玉座に悠然と坐り、意のままに見下し、操り、支配する。

 

なんてことを言ってみたが、相当なご身分の人間のように誤解されてしまいそうなので早々に否定しておく。

 

そいつだってまだまだ学生である。

 

自らの下に人を作るなんてのは数十年早いといえよう。

 

よって誇張なしにそいつを一言で言い表すならば、

 

ただの優等生だ。

 

どこのクラスにも居ただろう。

 

クラスにおいて他者より抜きんじて何かに優れていた生徒(世間一般では頭脳明晰、品行方正な人間のことを言う

 

らしいが)なんてごまんといた。

 

()()の場合、その何かが、一風変わった変てこな近未来技術だっただけだ。

 

そんなもので人間の地位・身分は確立できるわけでもなく、単に手品師紛いのことができるに過ぎない。

 

世の中には、それよりも尊重すべき才能がゴロゴロ眠っているのだ。金鉱山の如く。

 

一度掘り当てればその才能は磨かれ研ぎ澄まされ覚醒する。

 

ゴールドラッシュのように、それは数多の才能が見つかることもある。

 

しかし現在(いま)、その能力が掘り起こされることなく、岩石の中の金塊として埋もれてしまっている人たち

 

に対しては、もはや励ます他ないのだが、しかたあるまい。

 

原因は全て、今の社会が魔法産業社会なだけであって、この学校が『魔法学園』なだけなのだから。

 

 

1

 

長い前置きもほどほどに。

 

まあ新入生代表は入試トップの人。

 

という情報さえあれば、話は大体進むだろう。

 

新入生代表。入試一位。

 

といったわけで、そんな肩書き冠し、堂々たる態度で壇上に上がったのは

 

女子なのであった。

 

金髪の髪を真っ直ぐに腰までおろし、頭部の装飾品はカチューシャのみ。

 

透き通るような白い肌に、碧い眼を抱いた顔。

 

体型はスマート、スリムとでも言おうか、モデルのようなしなやかな体躯だ。

 

初見での総評は、美人認定。それも美人中の美人だ。

 

彼女は卓上にスピーチの原稿を置くと、マイクの位置を調整した。

 

 

「第23期新入生代表、『緋狩澤光(ひかりざわひかり)』です。

 

 本日は私たちのためにこのような――」

 

 

おお、声も美声だ。

 

まあ、イケメンでイケボの俺には負けるがな。

 

 

「えらい別嬪さんやのお…」

 

 

隣に着席した車座も同じ判断を下したようだ。

 

見れば、車座は彼女を嘗め回すが如く、矯めつ眇めつし、恍惚の表情で仰ぎ見ていた。

 

キモイ。

 

さすがはクルペッコだ。

 

俺らの期待を裏切らない。

 

でもまあ、美人というのは正しいっちゃ正しいので一応賛同しておく。

 

 

「ああ、そうだな。名花、麗人、シャン、八方美人といったところだな」

 

 

「自分、案外古い言葉使うのな。シャンとか普通に死語やぞ」

 

 

「地味に知ってるお前もすげえな。なんかこう…おっさんくさいというか、加齢臭がするというか…」

 

 

「せんわ!というか、言動のことやと思うてたら、いきなり体臭の話題になったから驚いたで!」

 

 

小声で見事にツッコミを決める車座さんマジスタイリッシュ。

 

結構な技術がいるぞ、それ。

 

 

「あと言うとくが、『八方美人』に『八方向いずれから見ても美人』的な意味はないで、

 

 褒める言葉いうより皮肉の言葉や」

 

 

車座に俺の国語力を舐められてた。

 

なんか普通にいやだ。

 

 

「知ってるに決まってる。しかし、美人の大抵が八方美人、ってのは案外否定しきれないだろ」

 

 

「ううむ、確かに。女子の皆さん方にゃすまないが、先入観でいうとそうなるわな」

 

 

「だろう?」

 

 

やはり男同士意見が合いそうであった。

 

 

「俺は美人を好きにゃなれない。そりゃ、美しい綺麗だ。なんて思ったりはするが、

 

 基本的にそういう部類の人間に対しては恐怖しかねえな。

 

 底が知れない、とでもいうのか。

 

 その美人の仮面の下には恐ろしい本性が隠されてるのじゃあないか。

 

 なんて思っちまうんだよ。

 

 故に、俺的には美人は企ててそうで怖いのさ」

 

 

底が知れない――底なし沼。

 

図れず、探れず、掴めない。

 

そういう人間は苦手だ。

 

なんてことを『底なし沼』の俺が言って、どうするのだという話だが。

 

 

「なんや、えらい難しいこというな、自分。

 

 やけど分かるで、それ。一理あるわな」

 

 

そうやって車座との美人トーク(ある意味、字面詐欺)を続けていると、

 

答辞の台詞も半分すぎたころになった。

 

その辺りに入ると、『皆平等に』や『切磋琢磨』、『団結し合い』、おまけには『優れた者は劣った者の手を取

 

り』などのいわゆる悪意あるフレーズが増え始めた。

 

完全に魔法使い(ウィザード)レベル下級の人たちを煽っている。

 

たとえ階級縦社会の学校とはいえ、こんな大規模の式の場でこんな棘むき出しの表現を言ってもいいのだろうか。

 

この台本。生徒会が書いたのか本人が書いたのか、その真相は知るところではないが、

 

言っているほうも言っているほうとして、もっと建前で包むなどということをしないのだろうか?

 

『オブラートに包む』という言葉を教えてあげたいところだ。

 

 

「なんやで、あの(アマ)!ちぃと黙っとったら好き勝手言うて…」

 

 

車座も先ほどとは態度を一転させ、怒りを露わにしていた。

 

ふと俺の左隣(全く知らないやつだ)を見ると、ソイツも悔しそうに下唇を噛んで両拳をぷるぷると握っていた。

 

しっかし、心配だな。

 

こんな生徒一同会する場で下級魔法使い(ウィザード)たちを揶揄する真似をして。

 

大問題に発展しないといいのだが。

 

 

「――以上を持ちまして、新入生代表による答辞とさせて頂きます」

 

 

かくして、並々ならぬ敵意と反感を抱かせたまま、入学式は終了した。

 

 

2

 

入学式会場を後にした俺と車座(妹と巫仙は俺を置いてどっかに行ってた。酷…)一行は

 

学園内の中庭のベンチに座っていた。

 

ちなみにここからだとテニスの朝練中の先輩方のスウェットとミニスカ姿が拝見出来て眼福です。

 

 

 

「畜生ッ!なんやアイツ!儂らをコケにしおって!」

 

 

「まあ、コケにしたかどうかはともかくとして、この学校に入学した時点でああいう差別的な扱いを

 

 受けるのは覚悟しとくべきじゃないのか?」

 

 

「何言うんや、ドアホ!なら自分、あんままあの(アマ)に馬鹿にされたままでおんのか?!」

 

 

「いんや、そのつもりはねーよ。少なくとも俺にだって矜持…つーか自尊心ってものはあるからな」

 

 

それより何より、こっちは愛しの彼女・巫仙さんまで侮辱されたんだからな。

 

許すまじ。

 

 

「なんや、自分もやる気やったんかいな。じゃあ話は早いで。早う、あの(アマ)に一矢報いるで」

 

 

コイツ地味に血の気多いな。

 

 

「何だよ車座。一矢報いるってのは『闘う』と捉えていいのか」

 

 

「構へん。そもそもここじゃ『魔法』ででしか奴らを見返せんじゃろ」

 

 

ま、その通りだな。

 

 

「しかし車座。落ち着くんだ。一矢報いる、もとい『闘う』にしても、その手段を考える必要もあるわけだし。

 

 それに相手の情報が一切ない状態で闘おうとするのはこちらとしても分が悪い」

 

 

闘いにおける第一段階は情報戦。

 

如何に相手にとって不利となる情報を掴めるか。

 

勝負はそこから始まっている。

 

 

「なんや、情報収集かいな。やったらネットでちゃちゃっとしようや。

 

 魔法学園トップ通過の実力やったら、どっかの有名なとこ卒業しとるか、あるいは『魔法使い(ウィザード)』組織で戦果挙げとる可能性が高い」

 

 

車座はポケットからスマホを取り出して言った。

 

 

「おいおい、ネットっつってもウィ〇ペディアとかはやめてくれよ?あれはあくまでも民間人が書いてる奴だから 

 な」

 

 

「分かっとる。『国際魔法使い連盟(the Wizard of Leaque of Nations)』――WLNの公式のサイトに絞って検索するで」

 

 

車座がそう言って、スマホを何回か操作する。

 

 

「おお、出おった。『国際魔法使い連盟(WLN)』駐日支部が運営しとるサイトや…

 

 なんやアイツ。雑誌で何度もされとって結構有名みたいやで。WLNの看板娘のような真似しとる」

 

 

へぇ~。

 

ま、あんだけ美人だったら当然つっても当然か。

 

 

「で、何か情報は?」

 

 

「ああ、今読む。何々?

 

 『「緋狩澤光」。本名「緋狩澤光=シャルンホイスト」。S級魔法使い(ウィザード)

 

 7歳の時に魔法開発を受け、8歳にてS級魔法使いに公認される』…

 

 8歳で最上級魔法使い(ウィザード)やとォ!?」

 

 

だ、大丈夫だ。

 

その程度だったら、まだ太刀打ちできる。

 

 

「『10歳でミュンヘンの士官養成学校に入学。』…って、10歳!?」

 

 

車座の顔が驚愕に染まる。

 

ヤバい。俺でも勝てないかもしれない。

 

 

「ゴホン。気を取り直すで。

 

 『その後、僅か12歳でドイツ空軍の「第300魔装降下猟兵部隊(Wizarding armed-Fallschirmjäger 300)」、通称「WAイェーガー」の少佐に昇進』…

 

 って、12歳!?しかも少佐やてェ!?」

 

 

何だろう。彼女と俺らとでは棲む世界が違うとでも言うのか…

 

というか、12歳ってなかなかのロリ成熟期でしょ?

 

そんな時期にドイツ軍の佐官クラスって何やってんの。

 

 

「もう驚かへんぞ。

 

 『その後、15歳にて退役。同時に来日し、今年度より日本・東京の「魔法学園」にて修業過程を積む』…

 

 ふう、これ以上驚かし要素は無かったな」

 

 

「これ以上あっても困るだろ」

 

 

「むしろここまでくると、もうちょいあった方が清々しいわ」

 

 

「なら面白い情報(ゴシップ)を差し上げますわ」

 

 

「へー、どんなのや…って、うおッ!」

 

 

いつの間にか俺らの正面には巫仙が立っていた。

 

俺はさっきから気づいていたが、話に集中して全く気付いていなかったであろう車座は今日一番の驚きを示した。

 

 

「巫仙、やめとけよ。初見さんには刺激が強すぎるぜ」

 

 

「唐突すぎましたでしょうか」

 

 

「以降、自重しろ」

 

 

「はい、自嘲しておきますわ」

 

 

「何か違う!?まあいい。

 

 それより我が愛し妹(マイラヴリーシスター)はどこだ?」

 

 

「校門で放置、もとい待機させてますわ」

 

 

「今何気に酷いこと言わなかった!?」

 

 

そんな日常的な茶番を繰り広げていると、車座が居心地が悪そうに俺に訊いてきた。

 

 

「なあ、あのお嬢ちゃん誰や?」

 

 

「ああ、コイツは夜鳥巫仙」

 

 

俺の紹介とともに、巫仙が「どうも」と会釈する。

 

 

「俺の幼馴染み、兼俺の彼女だ」

 

 

その言葉に、車座が「マジか」といった表情をした。

 

イエス、マジす。

 

 

「自分、まさかの入学時点での勝ち組ルートかいな!しかも幼馴染み設定も付与されとる。

 

 昨今でもあんま見ぃへんでそんなパターン!」

 

 

「そうか、なら車座。貴様をさらに絶望の底に叩き落してやる」

 

 

「…なんや」

 

 

俺は邪悪に笑んで、

 

 

「俺にはブラコンの妹がいる」

 

 

殺戮のワードを撃ち放った。

 

直後、車座が白い灰に見えたのは決して錯覚ではないだろう。

 

 

3

 

さて、話しを戻そうか。

 

なんやかんやあってお互いに自己紹介、ご挨拶を終えたお二人(車座は終始俺を恨みがましい目で見てきた。へッ、非リアが)。

 

 

「で、その情報(ゴシップ)ってのは何だ?」

 

 

俺が訊く。

 

 

「いえ、一応の自他の戦力比較の為に、と一部のゴシップ誌の他愛もない情報(ゴシップ)を持って参りました

 

 わ」

 

 

「なんだよお前、聞いてたのか?」

 

 

確かあの場に巫仙はいなかったはずだが…

 

 

「陵さんの考えることは大体わかりますわ」

 

 

何その萌える発言。

 

隣を見やれば車座が嫉妬の炎に燃えていた。

 

 

「で、一体全体どんなのや?」

 

 

車座が訊く。

 

 

「数年ほど前にドイツと周辺国を巻き込んだ憂国テロ組織による内乱がありましたでしょう」 

 

 

「ああ」

 

 

あったな。そんなこと。

 

しかしその時、俺は13歳だったので記憶は朧げだ。

 

 

「その時に彼女は鎮圧部隊の前線として駆り出され、テロ組織の陸上最大戦力である88mm砲(アハトアハ

)

 

 搭載のティーガー14台、B1戦車20台を単騎で全滅させた、という伝説がございますわ」

 

 

「「もうソイツ人間じゃねえだろ(ないやろ)?!」」

 

 

何だソイツ。

 

新種の汎用人型決戦兵器か?

 

 

「わ、儂やめたろかな」

 

 

早くも車座が弱腰になっていた。

 

オイ、さっきまでのケンカ腰はどうした。

 

 

「諦めが早えーよ、車座。

 

 意志薄弱児童監視指導員つけるぞ」

 

 

「え、それって、ドラえ〇んじゃ…」

 

 

よく知ってたな、車座。

 

褒めてやる。

 

 

「それにな、あくまで相手は機動力に欠ける戦車だぜ。

 

 いくら馬鹿でけぇキャノン持ってたとしても人間と同次元に考えちゃいけねーさ」

 

 

そう、特に俺ら『魔法使い(ウィザード)』の中にはスピードに特化した輩もいるからな。

 

噂によると新幹線よりも速く走れるらしい。

 

 

「そうやけどなあ、しかし…」

 

 

「ならしばらく鳴りを潜めておくべきですわ。ああいう上級の魔法使い(ウィザード)は刺激したりしないの

 

 が、最善の手ですわよ」

 

 

巫仙が指摘する。

 

 

「…………」

 

 

ついに車座は三点リーダーを無駄遣いして黙り始めた。

 

 

「だがよ、車座。俺たちだって上級魔法使い(ウィザード)どもに好き勝手言わせはしねえさ。

 

 そのうち反逆でも起こしてやんよ」

 

 

「自分、マジかよ」

 

 

「マジだ。大マジ。真面目で、大真面目だ」

 

 

冗談は一切抜きだぜ。

 

 

「だからよ、車座クン。お前も上級魔法使い(ウィザード)に馬鹿にされたくなけりゃあ少しは抗ってみること

 

 だな」

 

 

「…おうよ、頑張る」

 

 

車座は少し意気消沈した風だったが、努めて明るい言葉を返した。

 

そんな時だった。

 

 

「――陵さん」

 

 

急に巫仙が声色を変え、あらぬ方向を向いて俺に呼びかけた。

 

既に巫仙は身構えている。

 

 

「ああ」

 

 

俺もそれに応じ、警戒を怠らずに構える。

 

 

「なんやなんや。何が起こっとんのや!」

 

 

ただ一人、状況を飲み込めてない車座だけがあたふたと慌てている。

 

 

「人の気配だ。ついさっきまで無かったものが突然」

 

 

「な、なんやて」

 

 

それこそ突然。

 

距離にして5メートル。

 

俺らの目の前に人影が現れた。

 

否、その服装、顔立ちから表情まで読み取れる以上、それは『人影』ではなく『人物』と表現した方が良いだろ

 

う。

 

どうやら車座もその存在に気付いたらしい。

 

()()は、今まで見えていなかった物が急に見えるようになったかのように。

 

あるいは()()()()にあったものが突然意識的に認識できるようになったかの

 

ように姿を見せた。

 

 

「誰だ」

 

 

俺がそう問いかける。

 

しかし、その問いに対する答えは相手の返答を待つまでもなく判明した。

 

 

「愛神繚乱――生徒会長…」

 

 

それは、ついさっき入学式で祝辞を務めていた、十神眷属『愛神』の令嬢。

 

愛神繚乱だった。

 

 

「へえ、おもしろいね君。まさか私の()()に気が付くとはね。

 

 それよりも、何か面白いこと企んでるそうじゃない。

 

 私に聞かせてみてよ。場所は生徒会室を貸すから」

 

 

「ついてきて」と愛神生徒会長はおそらく生徒会室があるのであろう方向に、俺たちを連れて歩き出した。

 

 

「な、なんかやばいんちゃう」

 

 

車座はこわごわと訊く。

 

もしや緋狩澤光打倒作戦のことだと思っているらしい。

 

 

「それはねえだろ。まず俺たちじゃあ緋狩澤光どころかランク一つ上の下級魔法使い(ウィザード)にすら

 

 勝てないと思うだろうし、仮にそうだとしたら俺らはここで拘束されてんだろ」

 

 

「そりゃ、そうやな」

 

 

車座も渋々といった感じで歩き出した。

 

 

3

 

「はははは、ははは、きゃははは」

 

 

爆笑された。

 

生徒会室に入るやいなや愛神生徒会長にソファに座るよう勧められ、自己紹介をさせられ、

 

「企みを話して」と言った旨の内容を問われた俺はそれに一切の誤魔化しを加えず正確に答えたところ…

 

今に至る。

 

 

「酷くないですかね」

 

 

「きゃはは、は、はーはー」

 

 

愛神生徒会長はやっと笑いを落ち着かせ、俺に向き直って離し始める。

 

 

「まさか君たちFクラスが緋狩澤光相手に闘おうとしていたとはね」

 

 

「い、いや、やけんそれは、あくまでも計画ゆうか、理想であって…」

 

 

「ノンノン。悪くないよ。正直、私もこの学校の『カースト制』にはうんざりしてたし、

 

 誰かが一発どデカいこと、バコーンとやって覆してほしかったんだよね~。

 

 下剋上って奴かな。それともハングリー精神?」

 

 

「下剋上の方が正しいと思いますよ」

 

 

ハングリーにされるほど酷い仕打ちは受けてないつもりだ。

 

 

「にしてもお咎めとかはないんですね」

 

 

「え、なんで?」

 

 

愛神生徒会長は本気で分からないご様子だった。

 

 

「私は自分の愉しみを自ら壊すほど馬鹿じゃあないわよ」

 

 

「愉しみ?」

 

 

「そうよ。一種のエンターテインメントじゃない?これ。

 

 『差別視されてた最下級魔法使い(ウィザード)が己の尊厳のために最強の上級魔法使い(ウィザード)

 

 ちに戦いを挑む!』。これほどのドラマはないわ」

 

 

どうやらうちの生徒会長のお考えは察しにくい。

 

まあいいか。それよりも一つ聞きたいことがあったのだ。

 

 

 

「ところで、愛神生徒会長――」

 

 

「ちょっとまって陵くん。『生徒会長』ってのは堅苦しすぎるから『愛神先輩』でいいわよ」

 

 

「そうすか」

 

 

本人が言うのなら遠慮なく。

 

 

「なんなら『繚乱』でもいいわよ」

 

 

「やめときます」

 

 

先輩をファーストネームで呼び捨てとか恥ずかしすぎて死んでもできねえよ。

 

 

「で、愛神先輩。あの時使った『術』。何ですか?」

 

 

瞬間。生徒会長の目つきというか、顔つきというか、オーラみたいなものが変わり、

 

真剣そのものの雰囲気を出し始めた。

 

 

「へえ。君見抜いてたんだ」

 

 

「いや、どんな魔法を使ったのかは特定できません。そこまで魔法の知識ないんで。

 

 強いて挙げるとするなら『光学迷彩』魔法かなんかですか?」

 

 

俺の言葉に愛神先輩は首を振って否定した。

 

 

「違うなあ。『光学迷彩(ギリー)』みたいな屈折を利用した光学系の魔法とは、またタイプが違うのよ」

 

 

「と、言いますと?」

 

 

その問いに愛神先輩は出し渋ることも、含みを持たせることも、

 

意味ありげにいうことも、もったいぶることもせずにあっさりと解答した。

 

 

「私の場合、人の意識に介入して『無意識状態』を引き起こしてるのよ」

 

 

あれ、それ結構な奥義じゃね?

 

 

「あ、あのお…もうちょい詳しくいいかいな」

 

 

先輩の前でも一切崩れない関西弁スタイルで車座は問うた。

 

 

「一言じゃ理解に苦しむかな?じゃあ簡単に説明するよ?

 

 人の心の中には『意識』というものと、通常は意識されない心の識閾下領域である『無意識』というものがあ

 

 る。

 

 相容れない、水と油のような二つだけど、夢・瞑想・精神分析などで無意識が意識として昇華されるように

 

 確かにその二つは同時に心の中に存在している。

 

 だから私の魔法は、通常『意識』で認識しているはずの私の存在を『無意識』に移動(トランスファー)

 

 ちゃうのよ。つまり私が無理矢理相手の無意識下に入っちゃうの。

 

 これによって相手は私を認識できない。存在自体、無意識化に移動してるから気配すらないはずなんだけど…」

 

 

「普通は気づかないものなのでしょうか?」

 

 

ここで初めて巫仙が口を開く。

 

良かったね巫仙さん。危うく空気になりかけてたよ。

 

 

「いえいえ、気づく人もいるわよ。むしろ私が近づきすぎたせいでもあるかな。

 

 でもあんな状態で私の気配を感じとれるなんて貴方たちかなりの手練れね。

 

 何?武術でもしてたのかしら?」

 

 

「ええ、昔のこと、ですけれども」

 

 

「というか先輩。その魔法ってかなりチートじゃないすか」

 

 

好きなだけ盗撮とか覗きとかスカートの中身見たりとかセクハラとかし放題じゃん。

 

いや、もともとそういう用途で使用する魔法じゃあないとおもうけども。

 

 

「それが、そんなわけでもないの」

 

 

そう言って、愛神先輩は人差し指、中指、薬指の三本指を立てた手を前に出して見せた。

 

 

「この魔法には決定的に三つの弱点、というより欠点があるの」

 

 

「欠点」

 

 

「そう」と愛神先輩は言う。

 

それからたてた指を人差し指を残して全て下ろした。

 

 

「まずは一つ目。『同じ人間には長時間使えないという点』。

 

 心の中では無意識領域に入っている私の存在なんだけど。

 

 一応、視細胞、脳の視覚野は私の存在を認識しているわけね。

 

 つまり、脳では私の存在を認識できるのに心では認識できない。

 

 そんな相反する状況が発生するわけ。同じ身体の中で起きた判断の不一致に心が不審に思い始めて、

 

 徐々に私の姿が認識されてしまうようになるらしいの」

 

 

 

「『判断の不一致』ねぇ…」

 

 

心と体は同じく一つ。

 

まさに一心同体ってわけだ。

 

つづいて愛神先輩は中指も立てる。

 

 

「次に二つ目。『一度魔法を使用した人間に対しては続けて魔法を使用できない』。

 

 ま、これは、マジックとかの『同じネタには引っかからない』ってのと同じかな。

 

 魔法をかけられた人間に抵抗がついてしまうわけね。まあ、時間を置けば大丈夫みたいだけど」

 

 

至極分かりやすい説明だった。

 

そして愛神先輩は薬指を立てる。

 

 

「最後に三つ目。『魔法をかけた対象と身体的な接触をしてしまった場合、また他の物体が私と接触した状態

 

 が物理的な法則に反する場合、それを見られてしまった場合、相手に認識されてしまう』という点」

 

 

「長いですね」

 

 

「そうだね」

 

 

愛神先輩は手を下ろしつつ、あははと笑う。

 

 

「難しすぎたか。分かりやすく言うとね。

 

 まず前者は、対象と接触した場合、『そこには何もないはずなのに一体何と接触したんだ』っていう、

 

 『事実の不一致』が起こるわけ、だから認識されてしまう。

 

 次に後者、例えば私が相手の無意識領域に入っている状態で飛んできたボールにぶつかったとしよう、

 

 無論ボールは私に当たり、跳ね返る。

 

 しかし、魔法をかけた相手からしてみればどうだ。何も無いところでボールが跳ね返ったように見えるはず

 

 だ。それはおかしい。物理法則に反する。そんな『事実の不一致』から存在が認識されてしまう

 

 …と、いったところかな」

 

 

「つまりは某団長さんの『目を隠す』能力みたいなもの、という認識でいいんですかね」

 

 

「それでいいと思うよ」

 

 

そうすれば一言で説明がつく。至極単純だ。

 

しかし、だとするとセクハラは駄目か。

 

セクハラするには相手に接触する必要があるから即バレる。

 

悲鳴なんてあげられたら一斉に周りの奴らに見つかって俺、社会的死んでまう。

 

人生オワタだ。

 

 

「そう、だから君の思うような便利な魔法ってわけでもないのよね」

 

 

だがそれでも。

 

相手の意識に介入し、自分を相手の無意識領域に移動(トランスファー)する。

 

気配を消すのではなく、存在を消し去る。

 

無意識の魔法使い(ウィザード)・『愛神繚乱』。

 

知人になれただけでも儲けものかな。

 

なんなら俺の学園ハーレム計画の一人にしてやってもいいぜ。

 

すみません、調子乗りました。

 

 

「そういやあ、他の生徒会の人たちってどこ居りますの?」

 

 

さっきまで挙動不審に辺りをきょろきょろと見回していた車座が何気なく訊いた。

 

確かに俺のイメージとしては副会長や書記なんかがいてもおかしくないはずだ。

 

 

「ああ、皆なら今頃、入学式のお片付けに邁進している頃よ」

 

 

へえ、そうなんだ。

 

生徒会って大変だな。

 

なんかほのぼのしてて楽しそうってイメージがあった。

 

いや、普段はそうなのだろうか?

 

その瞬間、俺は決定的な違和感と疑問を覚えた。

 

 

「ところで愛神先輩。先輩はお片付け手伝わなくてもいいんですか」

 

 

「…………」

 

 

ところが、先輩は沈黙していた。

 

 

「先輩?」

 

 

心配そうに車座も訊く。

 

 

「手伝わなくてもいいんですか?ってさっき話したばかりじゃない」

 

 

さっき話したこと、といいますと先輩の無意識の魔法のことだが――

 

 

「先輩、もしや!」

 

 

「ええ、私の魔法で私自身の存在を無意識のものにしてあるわ。

 

 彼らは今、無意識に私なんて元からいなかったと思い込んでいることでしょう」

 

 

会長は何事も無かったかのようにあっけらかんと自白した。

 

 

「最低だ!」

 

 

「何が最低なのよ。持てる能力と職権は最大限利用するのが吉でしょ」

 

 

愛神先輩は飄々として答える。

 

彼女には今、罪悪の片鱗すらないことだろう。

 

 

「それは時と場合による!アンタが今やってることは絶対的に悪だ!」

 

 

「まあまあ陵くん。そうカッかしてないで。

 

 怒りを鎮めたまえ」

 

 

なんで俺、祟り神みたいな扱いされたの。

 

まあ俺も溜飲を下げて、

 

 

「それより大丈夫なんですか?バレたときとか」

 

 

「ええ、大丈夫じゃないわ」

 

 

「即答!?」

 

 

「今まで書かされた始末書と反省文は数知れず」

 

 

「それは声を大にして言えることでは決してない」

 

 

「書記の子たちから受けた折檻は数知れず」

 

 

「それは結構な問題だろ!?」

 

 

生徒会の内部構造が猛烈に怖い。

 

 

「ふぅ――」

 

 

「勝手に会話を途切れさせないで下さいよ」

 

 

「会話というより漫才でしょ、今の」

 

 

まあ、確かに。

 

漫才というより茶番でもあったがな。

 

 

「でもそろそろ彼らも帰ってくる頃かしら」

 

 

「無間地獄にならないよう心からお祈りします」

 

 

「ちなみに去年の卒業式のときはガチの魔法戦争になって生徒会室が半壊したわ。

 

 は~、予算の捻出が大変だった」

 

 

「お前ら、一時撤退だ」

 

 

「サー、イェッサー」

 

 

俺が席を立つと、車座も同意して、即座立ち上がった。

 

普段、鮮やかで切れ味抜群のツッコミの雨あられを撃ち放つこの俺だが、

 

上級魔法使い(ウィザード)の先輩方の戦争に首を突っ込むほどに俺は愚かな人間ではない。

 

 

「それでは愛神先輩、失礼しました」

 

 

「失礼しました」

 

 

「ごめんあそばせ」

 

 

俺、車座、巫仙の順に独特の別れの言葉を言う(車座はイントネーションが独特だった)。

 

生徒会室のドアを開け、廊下に出て、校舎の外に出る。

 

その途中、怒り心頭に発したご様子で鬼気迫った形相の先輩方数名が、

 

ドタドタと今まで俺らがいた方向――即ち生徒会室の方向に駆けていくのを見たのは決して錯覚ではないだろう。

 

校舎から出た先は正門前の、先ほどいた中庭よりも広い中庭だった。

 

隣は第一グラウンドと面している。

 

正門前では完全に放置されて激おこぷんぷん丸状態の我が妹が憤怒と憎悪の恨み言を撒き散らしながら、

 

俺に向かってローリングソバットを放ってきた。

 

あぶねぇ。避けれてなかったら首から上が吹っ飛んでた。

 

確実に殺しに来てる。

 

その後、車座に妹を紹介し、正門を出た4人は、帰る方向が逆の車座と別れ(異常に悲しい目をしてた)、

 

件の田舎道を通り、帰路についた。

 

 

 

――今日の感想。

 

うちの生徒会長は面白い。

 

 

 

 

 




はい、ゆっくりできましたか?

この作品は深夜の勢いとノリで書いてるので、

プロットとか設定がめちゃくちゃ適当です。

でも一応そのうち設定はまとめてあげますので。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。