鵺兄妹魔法学園奇譚   作:あるかなふぉーす

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随分と開いたなぁ。

申し訳ない。まぁ亀投稿だからね。

寝惚けながら書いてたので文章ぐちゃぐちゃです。

お許しを。


第捨弐話 第零聖域 ‐The Zeroth Sanctuary‐

日射馬神社が、燃えている。

 

眼前にて立ち上る灼熱に気を取られ、油断を赦してしまった。

 

背後に忍び寄る気配に対し、だ。

 

——ッ!

 

零コンマ以下レベルで反応に遅れたが、すんでのところで、それの回避には成功した。

 

一閃。

 

身を翻し、バックステップの緊急回避を取ったところに、喉笛を掠めるような剣筋。

 

危なかった——ッ!

 

そうとしか謂いようの無かった。

 

危うく俺の喉から真っ赤な御花が咲き乱れるところだったぜ。

 

自身の心配はこれで終わりにして、俺は素早く正面を見据える。

 

そこにいるはずの()を視界に入れる為に。

 

だが、居ない。

 

視界の先では空しく風の過ぎるだけであった。

 

そして直感的に察知した。

 

背後を取られた、と。

 

 

「人間の最大の弱点って何だか知ってる?」

 

 

背中から声が聞こえた。

 

男のようにも、女のようにも聞こえる、不気味な声音だった。

 

俺の答えを聞くこともなく、声の主は勝手に語り続ける。

 

 

()()だよ。

 

呼吸は、肉体における相対的時間感覚を司る。

 

にも関わらず、呼吸というものは外的環境に影響されやすい。

 

戦闘における時間感覚の支配力は絶対だ。

 

そこに乱れが生じれば、それは自身の弱点に直結する。

 

わかるかな?」

 

 

声はまるで俺を諭すかのように語りかけてくる。

 

 

「学園からここまでの全力疾走御苦労。

 

素振りは見せないけど、そこそこ息、上がってるんじゃあないかな?」

 

 

図星だ。

 

思わず身体が緊張した。

 

 

「おっと、また呼吸が乱れたね。

 

筋肉も一瞬強張ったみたいだ。

 

駄目って言ったでしょ。

 

言われたことは一度で実践しないと——

 

君はそこらの木とおんなじだ」

 

 

液体窒素のような底冷えする温度で声は語る。

 

 

「惜しかったなぁ。あと0.14秒、筋肉の緊張が続いてたら、

 

今君死ねたのに」

 

 

恐ろしい。

 

戦わずとも分かる、仕合わずとも理解できた。

 

コイツは駄目だ。

 

俺なんかでは確実に勝てない。

 

恐らく一つ数えるうちに全身を百分割ぐらいにされてしまうだろう。

 

やばい、逃げないと、逃げないと死ぬ。

 

せめて今は、今だけはッ!

 

この場を直ちに離れなくてはッ!

 

直後、

 

 

 

ぬぷり、と。

 

甚だ厭な音を立て、左胸に冷たい感触が突き立った。

 

刀……?

 

そう気付いた頃には胸から既に刀は抜かれ、

 

代わりにワイン樽にナイフ傷を付けたかのように赤々とした鮮血が傷口から溢れ出ていた。

 

 

「カ……ハッ…………!」

 

 

吐血。

 

地面に血痕が数滴飛び散る。

 

しかし、それすらも胸から迸る流血によって掻き消される。

 

暫くして、俺の肉体は糸の切れたマリオネットのようにうつ伏せとなって地にくずおれた。

 

倒れざまに後ろをチラと振り返ったが、奴の手にあったのは刃渡り30センチ程度の小刀。

 

本振りと思われる大太刀は、奴の腰の鞘に収まっていた。

 

 

「死んだ、かな?心臓を一突きだし。

 

あれ、にしては出血量が少ない気が……」

 

 

声の主は不審に思い、地面に臥す俺を見下した。

 

だが、倒れ込んだ俺の下に出来た血溜まりは段々とその面積を拡大していた。

 

一向に止まる気配もない。

 

 

「ん、結構血ィ出てるじゃん。

 

なら重畳。いずれ死ぬね。意外と手応えなかったなぁ。

 

まあ、『空断(からたち)』を使わなかったのは恩情と思いなよ」

 

 

良かったね、死体は遺るから。

 

何て、死体に言っても無駄か。

 

口も無ければ、耳も無いし。

 

声は続けた。

 

そう言って、男か女かも分からない未知(アンノウン)の敵は去っていった。

 

数秒後、

 

 

「ケホ……ッ」

 

 

口から血の塊を吐きながら俺は起き上がった。

 

力無く震える脚に鞭を打って立ち上がる。

 

ぶじゅり、と、

 

俺は傷口から人差し指、中指、薬指の三指を抜いた。

 

只でさえ血が(つゆ)だくに溢れ出ていたのに、指を抜いた途端、

 

堰を切った貯水池のようにどばどばと鮮血が零れ出てきた。

 

糞……ッ!意識が遠のく。

 

だが、此処で意識を失うのは危険だ。

 

いつ奴が戻ってくるかも分からん。できれば、即時撤退したいところだが、

 

如何せん血を失いすぎた。

 

力がでない。

 

と、ここで健全なる読者諸氏は何故俺が生存しているのか気になっているところだろう。

 

例え気になっておらずとも是非聴いていただきたい。

 

奴が俺の左胸を貫いたとき、奴の脇差は、生物学的に寸毫の狂いもなく心臓の位置を確実に貫いていた。

 

そう、生物学的には。

 

要するに、俺は違うということである。

 

俺の心臓はその位置に無いということである。

 

ついさっきの極限状態だからこそ咄嗟に思い付いた作戦だが、

 

俺は内臓逆位なのだ。

 

内臓逆位——その名の示す通り、内臓が左右()になる先天的症状のことだ。

 

まるで鏡写しのように、左右が反転する。

 

この内臓逆位だが、普段の生活をしていて困ることは何らない。

 

ただ病院に罹るとき、既存の身体構造知識が通用しないため、

 

手術や診療が困難でありはするが。

 

今回ばかりはこの内臓逆位に救われたと言えよう。

 

何せ俺の心臓は、通常の人間と違って左ではなく()にあるのだから。

 

しかしそれでは奴を誤魔化すには足りなかった。

 

現に、さっきも死亡を疑われたしな。

 

だから一芝居打ったって訳よ。

 

具体的に言うなら刀で刺された傷口に三本指を突っ込んで、取りあえずやたらめったらに掻き回したのだ。

 

うまくうつ伏せに倒れたので、その様子を窺い知ることはできない。

 

お陰で血がたっぷり出て、奴を騙すことに成功したぜ。

 

たった一つ厄介なことは……

 

 

「うぇっ……、ちっとばかし血ィ、出し過ぎたぁ……」

 

 

演技とはいえやりすぎたか?

 

だが、あのくらいしないと冗談抜きで俺は死んでいた。

 

いや今も現在進行形で死にそうなんだけどな。

 

するとやや遠方からサイレンの音が木霊してきた。

 

あちゃぁ……消防車に、パトカーまで居るぜ。誰かが通報したんだな、そらそうか。

 

何せ神社の本殿をまるまる焼き尽くした大火だ。

 

市街地から見えていてもおかしくない。

 

コイツは余計にヤバいね。

 

このまま此処でぶっ倒れたら後々厄介なことになりそうだ。

 

被害者とした処理されそうなものだけども、どちらにせよ面倒くさいことに変わりはない。

 

さて、長らくやる機会が無かったが、今でも出来るかねぇ。

 

俺は今にも切れそうな意識の糸を必死に繋ぎ止め、直立の体勢をとる。

 

 

唵阿毘羅吽欠蘇婆訶(おんあびらうんけんそわか)唵阿毘羅吽欠蘇婆訶(おんあびらうんけんそわか)唵阿毘羅吽欠蘇婆訶(おんあびらうんけんそわか)……」

 

 

それは、真言(マントラ)

 

俺はその超自然の呪文を紡ぐ。何度も、何度も。

 

次第に、血が凝固し、流血が止まった。

 

傷口からは神秘の燐光が立ち上り、徐々に刀傷を癒やしていく。

 

三分経った。

 

あったはずの創傷は見る影もなく、表皮質まで張ってある。

 

しかし、これはあくまで外面のみの回復にすぎない。

 

未だに中身はズタボロだ。

 

直ちに病院へ行くべきだろう。

 

パトカーのサイレンが止んだ。参道の前である。

 

対して消防車のサイレンは鳴り止んではいない。

 

裏の山道から回り込むのだろう。

 

ならば俺も山道から下山すべきだろう。

 

参道から降りた方が幾許か距離が短いが、警察と鉢合わせにはなりたくない。

 

それなら、消防隊員に姿を見られるかもしれないが、山道の方から下りた方がマシである。

 

万一、声を掛けられたとしても『転逆』で逃げればいいし。

 

そしたら多分傷が開くけど。

 

痛みをこらえ、一歩脚を踏み出す……と。

 

おっと、忘れてた。

 

地面に垂れ流した血をそのまんまにしてた。

 

これじゃ、犯人が殺人現場に被害者の血が付いた身分証を置いてってるようなものだ。

 

別に俺が何か犯罪者って訳じゃないが、神社の火災現場に俺の血が残ってしまっていたら、

 

俺は何らかの形で警察機関に出頭を命じられるのは必至。

 

それはかなり面倒くさい。

 

 

「俗の血肉に穢れし、母なる神輿、祓い給え、浄め給え、『坤輿清浄(こんよしょうじょう)』、喼急如律令」

 

 

唱えると、一面に広がっていた血の海がみるみる浄化され、血風として散滅した。

 

俺は今無き神社に背を向けると、

 

俺は内側から張り裂けるようにズキズキと電気的痛覚を響かせる左胸を押さえ、山を下った。

 

 

2

 

 

下山すると、すぐに市立の病院へ直行した。

 

神城市による外出規制が発令されたが、医療機関は平常運転の必要があった。

 

外出規制があったとはいえ、外来患者は相当数いた。

 

受付で、「左胸刺されたんですけど早急に看ていただけませんか?」と無理を述べたものの、

 

当の傷口はとっくに塞がっており、第一、左胸を刺されたのにも関わらず、俺は割とピンピンしてる。

 

受付のお姉さんは多量の疑問符を頭上に浮かべた結果、「順番をお待ち下さい」と丁重に窘めた。

 

健康保険証(IC仕様)を突き返され、結局それ以上は何も言えずに、俺、すごすご退散。

 

ちくしょう、こんなことなら半端に治療しなきゃよかった……

 

くそぉ、いてぇ……泣く。

 

ようやく俺の名前が呼ばれて、診療室に入り、医者に俺の身体の現状況を事細かに伝えると、

 

医者は数秒硬直し、困り顔をしていたが、なくなくレントゲンは撮ってもらえた。

 

そしたら俺の左胸で凄まじい内出血が起こっているではないか。

 

真言での治療は所詮、バスタブに申し訳程度のカバーを被せただけであり、水を入れ続ければいずれ溢れ出す。

 

というわけで手術。

 

んで無事終わり。

 

からの病室に入れられた俺はベッドの上で回復力上昇の祝詞を詠じる(治癒ではなく回復力だ)。

 

まるまる一時間使ってやっとこさ回復した俺は昭和の少年漫画みたいに病室を抜け出し、病院を後にした。(ちゃんとお金は払った)

 

さて、傷も治ったことだし、

 

いっちょ犯人見つけて『仕返し』と相成りますか。

 

 

2

 

 

犯人を見つけるに当たって、まぁ取り敢えずは帰宅したわけだが、俺の制服の胸部が血みどろになっているのを見た我が愛し妹(マイラヴリーシスター)が、

 

 

「おにーちゃん!?大丈夫!?服が血で真っ赤っかなんだけどっ!?えっ、死ぬの?じゃあ今からお坊さんに戒名貰って葬儀会社に葬儀の依頼して墓石も買わなきゃ!」

 

と殊勝にも心配してくれた。

 

良い妹を持った兄は幸せだ。

 

 

「そんなことよりも我が妹よ(ディアマイシスター)。事件だ」

 

 

そう口火を切ってから、俺は事のあらましを話した。

 

 

「なるほど……神社を焼く男。それにおにーちゃんが不覚を取るほどの手練、かぁ。はてさっぱりだよ……」

 

 

「さっぱり、か」

 

 

「そうだね。少なくとも私の情報網には引っ掛かってない。恐らく鵺家の対立派閥ではないと思うよ」

 

 

そうか……。

 

とうに鵺家を出奔し、家元に帰属していない俺でも度々、鵺家に対立感情を持ってる奴らに付け狙われることがある。(そんな方々には丁重にお帰り頂いているが)

 

ということは単純に神社の放火目的。

 

愉快犯にしては余りに能力と才覚を持て余している気がする、が。

 

 

「いやしかし、正面から闘って負けるならまだしも背後を取られるとは……、俺もまだまだだな」

 

 

「最近、修行サボってるからね〜」

 

 

「はぁ、何だっけ?『これからお前が出会う災いは、お前が疎かにした時間の報いである』とか何とか」

 

 

「ナポレオンかな?」

 

 

「そうそれ」

 

 

流石だ、我が妹よ(ディアマイシスター)。一般常識は欠如している割に変な所で博識である。

 

そう俺らが取り留めのない会話をしていると、

 

prrrrrrrrrrrrr♪

 

着信音だ。それも俺と我が妹、二人の携帯に同時に着信である。

 

 

「どうやらメッセージみたいだね」

 

 

俺よりも携帯の操作技術に長けた妹がいち早くその内容を読み上げる。

 

 

「禍酒先生からだ……。『緊急召集。このメールを受け取った者は、各自警戒を怠らず本学園学園長室まで来るべし。』か」

 

 

「学園長室まで、ってことはこの下達の主体は学園長と見ていいな。これは相当な事案と見える」

 

 

「そうだね。急ぐべきかも」

 

 

そう言って俺らは辺りを警戒しつつ学園に再度向かうこととなった。

 

 

3

 

 

学園長室のドアを開けるとそこには、

 

担任の禍酒先生、合法ロリ学園長・舞神千歳、今宵も見目麗しき夜鳥巫仙、今宵も幸の薄そうな時椿叶深、それに知らないおっさんと、そして、

 

 

「げ、貴方……」

 

 

物凄い嫌そうな顔をして嫌そうな台詞を口にした、誰あろう緋狩澤光が居た。

 

 

「よく来てくれた二人共、まぁ色々言いたいことはあるだろうが、掛けてくれ」

 

 

禍酒先生に促され、俺達も学園長室の高級そうな(実際高級なのだろう)ソファーに座る。

 

 

「君達に集まってもらったのは他でもない」

 

 

禍酒先生がそう切り出す。

 

 

「此度の第Ⅱ種警戒態勢(コード・オレンジ)についてだ。一度帰した手前、再度召集するのは忍びなかったが、あれは他の生徒も居たからな。許してくれ。そして本件に関してだが、極めて重大な案件だ。口外はしないで欲しい」

 

 

その言葉に場の空気が一斉に張り詰める。

 

 

「詳しい話はこちらの方がしてくれる。嶽業(たけごう)さん。では、宜しくお願いします」

 

 

嶽業さん、とそう呼ばれたおっさん――年齢は五十前後、体格はガッシリとしていて、その顔の彫りは深く、眼光は研ぎ澄まされた刃のようである――が禍酒先生の話を継ぐ。

 

 

「どうも、皆さん。私は総務省魔法局局長の嶽業胤仁(たけごうかずひと)です。以後、お見知りおきを。まず皆様方に話をする前にこちらに一筆願いたい」

 

 

総務省って……政府のお偉方じゃねぇか。しかも魔法技術の浸透に伴い新設された外局・魔法局。魔法先進国の日本故に強権を持つ組織だぞ。

 

とんでもない人が来たな。

 

そう言って嶽業さんは漆黒の鞄の中から人数分の紙面を取り出す。

 

 

「これは……」

 

 

叶深が思わず声を漏らす。

 

 

「契約書です。契約内容は書いてある通りです」

 

 

書いてある内容を要約すると、これから話す内容を決して他言するな。違反した場合、厳しい沙汰が下ると思え、とのこと。おおこわ……ちびっちゃうね。

 

俺達はその文面に多少の恐懼を抱きつつもペンで自分の名を走らせ、拇印を()す。

 

 

「これで契約に同意したと見て宜しいですね。では話を始めましょうか」

 

 

而して嶽業さんは切り出す。

 

 

「君達に集まってもらったのはこの学園の優秀者であり、高い魔法戦闘スキルを持つからです」

 

 

その言葉に、俺はおずおずと手を挙げた。

 

 

「どうされましたか?陵君」

 

 

「あの、俺、いえ私黒鵺陵はFクラスなんですが……」

 

 

(とぼ)けてもらっては困りますよ……陵君。魔法学園は魔力保有量や魔法技術など、いわゆる形而下の基準で評価しますが、我々魔法局は各自生徒の戦闘能力――形而上の基準による評価も行っているのですよ。君の実力は()()()()の折り紙付きです。」

 

 

クソう……完全に握られている。やっぱ政府の諜報能力を舐めたらあかんなぁ。

 

 

「それに君が呼ばれた理由はもう一つあります。寧ろこちらの理由が大きいんですがね。君も分かっているのでしょう。ねぇ」

 

 

嶽業さんの一言で皆の視線が俺に集まった。

 

 

「古代魔法……ですね」

 

 

その言葉に俺が陰陽術遣いであることを知らない叶深と緋狩澤が反応した。

 

 

「え、陵さん……!」

 

 

「古代魔法遣い、だったの……!」

 

 

二人共、俺のことを唯の、若干強いだけの魔法使い堕ち(ワースト)と思っていたようで驚いたように俺を見る。うーむ、参った。できるだけこのことは秘しておきたかったが……。

 

 

「そうだ。別に知られて困ることではないし、できればシークレットにしておきたいというだけのことだったから、この際はっきりさせておくが、俺は古代魔法――陰陽術の使い手だ」

 

 

俺の暴露に先程まで衝撃は受けなかったようだが、古代魔法使いというのは割と希少なものらしく驚きの混じった視線を向けられる。

 

俺はその空気を断ち切るように、

 

 

「嶽業さん。こんなこと、どうだっていいでしょう。早く、話の続きをしてください」

 

 

と促す。

 

 

「失礼。では、続けようか。諸君、此度の事件は本国の魔法社会を大きく揺るがすものだ。最悪の場合、魔法先進国としての日本が失墜する可能性も大いにある」

 

 

空気が変わった。

 

余りに誇大な表現故に冗談のように聞こえてしまうが、目の前の男の声音は真剣そのものである。

 

 

「魔法的観点において、寺社仏閣などの霊的魔的オブジェクトの効果とは、分かるかね」

 

 

「不規則的に散逸している魔力エネルギーに規則性を付与し、集合性を持たせるよう統御(コントロール)する、です」

 

 

緋狩澤が答える。

 

 

「その通りだ。魔力を拠り所とする魔法は、常に魔力のエネルギーに晒されていなければならない。故に魔法の起動自体は脳から分泌される魔力で行えるが、その魔法の維持は大気中に漂う魔力が極めてエッセンシャルとなるのだ。

さて、君達はこの寺社仏閣を魔力の統御能力の多寡によってランク付けしているのをご存知かね」

 

 

嶽業さんは質問形式で俺達に呼び掛けた。

 

 

「はい。知ってます。『聖域システム』でしたよね」

 

 

それに答えたのは叶深である。

 

 

「然り。魔力集合能力を持ったオブジェクトを『聖域』と看做し、第一〜五にランク分けして国あるいは地方自治体で保護しているのだ。それくらいは君達も知っているだろう」

 

 

俺達が生まれて間もない頃に制定されたものだが、魔法学園生徒なら誰もが知るものだろう。ましてや古代魔法サイドの俺は尚更である。この『聖域システム』によって各地の寺社の所有権を巡って古代魔法勢力(特に僧や神官一族など)と現代魔法勢力が激突したのは俺も幼いながらに記憶していた。

 

 

「そしてここからが対外秘事項だ。これは政府の中でもトップに近い人間までにしか知られていないが、その『聖域システム』のランクには第零というものが存在する」

 

 

皆はそれほど驚いた様子ではない。そりゃそうだ。突然、第0十刃(セロ・エスパーダ)ってのがあったんだぜ!って言われてもどう驚けばいいのか分からない、あれと同じだ。

 

 

「そしてその『第零聖域』がこの神城市には二つあったのだよ」

 

 

二つ、()()()?過去形ということは、つまり……

 

 

「日射馬神社はその一つだった」

 

 

やはり……!

 

俺の頭の中でパズルのピースが嵌った音がした。

 

 

「日射馬神社ってあの……初詣とかによく行く?」

 

 

叶深が信じられないというように問訊する。

 

 

「そうだとも」

 

 

「何故、あんな一般に開放しているような神社が第零聖域ですので?普通ならもっと厳重に封鎖すべきですのに」

 

 

ここで巫仙が初めて声を発した。

 

 

「木を隠すなら森の中、という訳ではないが、今の君を見れば分かるだろう?よもや大衆に開けっ広げにしている神社が第零聖域とは誰も思うまい」

 

 

「確かに、確かにそうですが……にしてもリスクが高いのでは」

 

 

俺も思わず尋ねた。

 

 

「無論、厳重な警護は行っていた。神社内のあらゆるオブジェクトに最上級の防護結界を十重二十重に張り巡らせてある。それにあそこに常駐していた神主や巫女は政府機関に務める日本国トップレベルの魔法使い(ウィザード)だ」

 

 

「でもそれは大火に焼かれてしまった」

 

 

俺がそう発すると全員がぎょっとしたようにこちらを向いた。

 

 

「彼の言う通りだ……日射馬神社は跡形もなく焼失している。現在、神城市の魔力均衡は極めて不安定だ」

 

 

「で、でも!神社って物凄い防御結界が張られていたんですよね!」

 

 

叶深が叫んだ。

 

 

「でもそれが破られたってことは……」

 

 

我が妹が恐ろしい予想を口にしようとする。

 

 

「そうだな。犯人は恐らく唯の愉快犯ではない。それどころか、国家転覆レベルの極々強大な魔法使いだ。それも古代魔法使い……」

 

 

その言葉に俺の息が詰まる。まぁ、やはり身内の犯行か。

ガキの頃から思っていたが、ろくな奴がいないなぁ。

 

 

「そ、そんなの……」

 

 

「それで、私達はどうすればいいんですか?まぁ、何となく分かりますけど」

 

 

叶深が戸惑う中、我が妹が極めて冷静に問うた。

 

 

「君達に頼みたいのは本事案の犯行者の拿捕です」

 

 

嶽業さんは声音を一層強めて言った。

 

 

「そんな……国家転覆級の魔法使いなんて、私達に」

 

 

「降りても結構ですが、その場合、我々――いやこの日本は滅びます。まず間違いなく」

 

 

「!!何で……」

 

 

「当然です。今回の犯人――いえ、最早単独のテロリストとでも呼びましょうか。テロリストの目的が第零聖域の破壊ならばほぼ確実に他の第零聖域を破壊しに行くでしょう。第零聖域は日本に三つしかありません。神城市の日射馬神社・潜銜寺(せんげんじ)、そして北海道のノチィ・ナレ寺院です」

 

 

「でも第零聖域が無くてもその他の聖域があれば……」

 

 

「とんでもない。第一以下の聖域の魔力統御能力は第零聖域の0.1%以下です。もし全ての第零聖域が破壊されれば君達は皆ただの一般人になります」

 

 

室内の全員に戦慄が走る。

 

 

「それだけではありません。魔法国日本の失墜は、即ち高い魔法技術を有する諸外国からの蹂躙を意味します。独立した自衛権を獲得していた日本は、忽ち片務的な防衛条約を結ばされ、国防の代償に大量の魔法技術を盗まれてしまうでしょうね」

 

 

確かに、そうなれば日本という国家はほとんど傀儡と同じに成り下がる。

 

 

「故に、君達には必ずテロリストを拿捕してもらいたいのです」

 

 

俺達サイドの奴の所為で国家崩壊なんてのは最悪のシナリオ過ぎる。

 

 

「ところで、良いですか?」

 

 

「何故、愛神先輩や東破魔先輩などをお呼びにならないので、それに他の先輩方も。何故この五人を……?」

 

 

「十神眷属や四神の一角である彼らは彼らなりの対応に追われているんだ。それに君達はそこらの先輩達よりも遥かに強い。小手先の技術力では彼らに分があるだろうが、実質的戦闘能力は君達の方が格段に上だ」

 

 

そうか。

 

 

「ここは明確にしておくけどね、君達はこの国の学生魔法使いでトップに君臨すると思って貰って構わないよ。だからこうして頼んでいるのだ」

 

 

そこまで買われているのか。

 

 

「そこで君達に頼みたいのはテロリストの次の目標と思われる潜銜寺の防衛だ」

 

 

潜銜寺(せんげんじ)――――

 

確か平安末期頃に台密の影響を受けて建てられた山岳寺院だったか。

 

 

「あそこには『無色界の錫杖』と呼ばれる宝具も奉納されている。潜銜寺の魔力統御能力の大部分を占めるものだ。あれさえも破壊されれば君達魔法使いは本州を捨てて皆北海道に移らねばならないだろうな」

 

 

「というわけで、だ」

 

 

そこで初めて学園長が口を開く。

 

 

「嶽業殿は立場上、君達に強制はできないだろうから私から言わせて貰う。

 

『やれ』

 

やらなきゃ日本国民総共倒れだ」

 

 

おいおい、それは教育者としてオーケーなのか?舞神ちゃん。

 

 

「はッ、反面教師とでも悪魔とでも、何とでも思うがいいさ。この学園に居る以上お前達は私の指みたいなものだからな。『やれ』と言われたら『やる』のだ」

 

 

余りに専横極まるお言葉だ。

 

 

「安心し給え。今回の事案に際して、首相は警察と自衛隊の出動命令を発動した。魔法三十年戦争後初のね。彼らも一緒に戦ってくれる」

 

 

嶽業さんの念押しに、皆は一斉に溜め息を吐き、

 

 

「やります」

 

 

「や、やらせて頂きます」

 

 

「やりますわ」

 

 

「やるやる」

 

と依頼を受諾していく。

 

 

「えぇ、やりますよ」

 

 

同調圧力とか、そんなんじゃない。単純にそういう責務なのだ。責任だ。使命と言ってもいい。俺達サイドの馬鹿がやらかした事で国家滅亡とか最悪の筋書き過ぎるぜ。まぁ、身内の尻を拭うだけの簡単なお仕事さ。

 

それに――――

 

 

ロリに命令されるとかやる他ないじゃないか。

 

 

「では君達に依頼する。テロリストの狙いは第零聖域・潜銜寺の破壊。君達の任務は、その防衛、そしてテロリストの拿捕だ。テロリストはいつ襲撃を掛けてくるか分からない。常に警戒を怠らない様に」

 

 

「安心しろ。長引くようなら欠席も免除してやる」

 

 

二人の声を受け、俺達は決意を抱く。

 

国家転覆を目論む諸悪を滅ぼす、と。

 

 

空に決戦の風吹く。

 

我ら兄妹の安寧貪る、害悪の心臓を、

 

喰い滅ぼす刃の風が。




途中から地の文スカスカですいません。

頭溶けてきちゃいまして。

次も未定。

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