書いては消し、書いては消しを繰り返しやっと出来ました。
原作の時間軸なら材木座が登場したところです
川崎家のソファーに沈み込むように腰を掛け、カバンから厚いコピー用紙の束を取り出す。
本日、奉仕部に訪れた依頼人材木座義輝が執筆したものだ。
どれくらい掛かるだろうか?ライトノベルなら一冊2〜3時間位で読み終わるものだが…
しかし、その基準もこれに当てはまるかどうかは分からない。そもそもこれだけの原稿用紙の束を読むのは始めてだ。
勝手が違うのは当然のことだろう。
読む前にあれこれ考えても仕方ない。とりあえず読んでみることにしよう。
「はーちゃん、何してるの?」
そう意気込んだところで声がかけられた。
京華だ。川崎は確か晩飯を作っていた筈だ。暇になったからこちらに来たとかそんなとこだろう。
「ん?これか…宿題みたいなものだな」
「じゃあ、一緒にテレビ見れない?」
どうやら夕方に放送しているアニメが見たいようだ。
誰かと一緒に見たいのか。まぁ、そんな年頃なのだろう。偶にはそれに付き合うのも悪くはないだろう。
「そうだな……いや、一緒に見ようか。おいで」
「うん!」
材木座からの依頼は最悪は徹夜でもすればなんとかなるだろう。今は京華に付き合うことにしよう。
元気よく返事をした京華はソファーに腰掛ける俺の隣ではなく、膝の上に腰掛けた。
こうやって誰かと触れ合っているのが好きなようで、川崎家、比企谷家の面々に素直に甘えている。
これくらいの子供の特権だろう。こっちも悪い気はしないしな。
まぁ、まだ小町あたりの年齢ならならありかもしれんが…高校生ともなると無い気がする。
そもそも年齢関係無く、俺や川崎は甘えるとかキャラじゃないしな。
「何をみるんだ?」
「うーんとね。これ!!」
そういってリモコンでチャンネルを変えて京華が指差したのは、集金能力の高い某国営の放送局のチャンネルだ。
この時間なら幼児向けの内容が続くので京華にとっては楽しい時間帯なのだろう。
っていうかまだやってたのか100%勇気の忍者ものアニメは、懐かしいなー
ボーッとそれを見ている。手持ち無沙汰の手をなんとなく京華を抱くように回す。
小町もそうだった覚えがあるが、これくらいの子供は何故か体温が高いように思う。基礎代謝でも高いのだろうか?
その暖かさとソファーの柔らかさに自然と眠気を覚える。京華もウトウトとしていたので抵抗する理由も無く、その微睡みに身を任せた。
◆
「けーちゃん?」
姿の見えない妹の姿を探す。さっきまでは台所にいたのに、少し目を離した内にどこかに行ってしまったようだ。
どこに行ったのだろう?今の時間ならアニメでも見ている頃だろうか?
「いた」
どうやら考えは当たっていたようで、リビングにその姿を見つけた。
そこには眠る比企谷に抱っこされながら同じように眠るけーちゃんの姿があった。
成る程、だから静かだったんだ。起こさないように静かに気をつけながら隣に腰掛けた。
2人とも本当に良く眠っている。最近、比企谷がこうして寝ているのを見かける場面が増えた。教室なんかでしている寝たふりなどでは無く、本当に気を抜いて眠っている。
この家に来始めた頃は、借りてきた猫みたいに緊張してたのに今となってはこの有様だ。きっと私たちに気を許してきているとは小町の弁だ。小町が言うのだからきっと間違いないのだろう。その事実が素直に嬉しい。この面倒臭い男が自分には気を許している。その事実を川崎沙希は嬉しく想っている。
ふと視線を比企谷から外すと、目の前には今日は奉仕部に来た材木座とかいうのから評価して欲しいと持ち込まれたライトノベルと呼ばれるジャンルの小説があった。どうやら奉仕部の依頼は後回しにしてけーちゃんに付き合ってあげたようだ。
「ふふ、意外と面倒見はいいんだよねアンタは」
最近知った一度寝ると中々起きないということを良いことに頬っぺたを突つく。
柔らかい。ヤバイ癖になるかも…
起きないことを良いことに軽く抓ったりもしてみる。
「良いちちお…」
「姉ちゃん…リビングでイチャイチャすんのは止めてくれる?」
「ひゃあっ!?」
振り向くと大志が呆れ顔で此方を見ていた。小町も一緒だ。
不覚にも夢中になっていて気付かなった。見られた事に顔が熱くなる。
「小町的には続けて頂いて構わないんですけどねー。
せっかく沙希さんが作ってくれた夕飯がこのままだと冷めてしまうので…すいません」
小町は謝っているが、にやけ顔を隠す気も無いようだ。
両親や比企谷達の親御さんに見られるよりかは遥かにマシだが、それでも恥ずかしものは恥ずかしい。
「ほら、起きなよ」
「イッテ!!?」
下2人にこんな目に合わされているというのに起きずにいる比企谷を頬を抓って起こす。
情けない照れ隠しだとは自分でも思う。そういう性分なのだろう。
きっと少し考えを変えたくらいでは治らないだろうけど、それでも少しは頑張って治そうと思う。
「抓るなよ。痛いだろうが…何か用かよ?」
「…晩御飯できたよ」
この面倒な性格をした男が変な勘違いを拗らせて私に嫌われているだんて勘違いしなように、素直に頑張ろう。
そう思ったけれどこれ以上は一緒にいるのも恥ずかしくて、逃げるようにリビングを後にした。
◆
「…なんだ。機嫌悪いのか?」
「いや、むしろ良かったくらいっすよ」
そんな風には見えなかったが…
「そうか?…まぁ、気にしても仕方ないな。飯か?」
「うん、沙希さんが作ってくれたよ。小町の希望で今日はお兄ちゃんの好きなものだよ。やったねお兄ちゃん。
今の小町的にはポイント高い!」
「はいはい、世界一可愛いよー」
「適当っすね」
「むぅー、お兄ちゃん小町的にポイント低いよ」
「知らねぇよ。遊んでないで手伝ってこい。
けーちゃん起きな。晩御飯できたよ」
大志は素直に手伝いに向かったが、小町はもうやること殆ど終わらせたよ、お兄ちゃんが寝てる間にと少し冷たい目で答えた。
ふぇぇ…妹の視線が怖いよぉ……馬鹿やってないでさっさ行くか。腹も減ったしな。
「うぅん、ごはん?」
「そうだ。晩御飯だ。一緒に行こうか」
「はーちゃん、だっこー!」
膝上に座っていた京華はくるりと180度回ると首に腕を回して来た。
素直に可愛いなと思う。これくらいの年齢の子は少し卑怯だなと思う。
「はいはい、それじゃ行くぞ」
こう無邪気に甘えられると断れるものも断れない。仕方なく抱っこし夕御飯が待つ部屋に向かう。
「最近、けーちゃんの妹力の高さに危機感を覚えるよ小町は…ねぇ、お兄ちゃん」
「そんなこと無いぞ。世界一可愛いよ」
「気持ちが篭ってないなー」
「ちーちゃんが1番ならけーちゃんはなんばーん?」
「…けーちゃんは2番だな」
「やったよちーちゃん!2番だよ!」
「良かったねけーちゃん!小町には及ばなかったけど中々なもんだよ」
京華は抱き着くために回していた手の力を少し強めて喜んだ。
「じゃあ、さーちゃんは?」
……どう答えれば良いだろうか?まぁ。順当に行けば3番になるのだろう。
そもそも近しい知り合いで思いつく女子=川崎みたいな現状、当然の帰結だろう。
「はーちゃん?」
「そうだな…1番は小町で2番はけーちゃんだから、さーちゃんは3番だな」
恥ずかしい。死にたい…
無言でこちらを見つめるニヤケ顔の小町に腹が立つ。しかし、素直に喜んでいる京華がいる手前、どうしようもない。
らしくない。と考えながらもこの日々を好ましく感じている自分を自覚しながら小町を無視してリビングに足を向けた。
材木座回(登場するとは言っていない)