自分でも勘違いしていました。すみません。
翌日、放課後。
俺は川崎に連れられ平塚先生と対面していた。
「これには色々とやってもらいたいことがあるんで、部活とか困るんですけど」
「し、しかしだなぁ…」
川崎は昨晩、俺から事の顛末を聞いて平塚先生に断りを入れに来たのだ。
現在のところ川崎が有利。川崎は態度崩さないし、何故か平塚先生はやや挙動不審だ。
このままいけば部活に入るどうこうの話はなくなるだろう。いいぞ川崎。その調子だもっとやれ。
「き、君も比企谷の性格は知っているだろう?
これは、どうにかしなければならないとは思わないかね」
「……それはそうですけど」
あれれー?川崎さん?
そこは肯定しちゃ駄目なところじゃないですかねぇ…
「そうだろう!
比企谷の性格は直さなければ今後の社会生活で苦労をする類のものだ」
「…」
そこで悩まないでもらえますか。
何か旗色が怪しくなってます。いや、ほんと勘弁してくれ。
あの部活に入るってことはあの変な女と一緒ってことじゃないですか。それは避けたい。
「けど、こいつには色々と手伝ってもらってるんでやっぱ部活とか無理です。
そりゃ、毎日じゃないですけど…結構助かってるんで、いなくなるのは困ります」
「…ふむ、なるほど
ならばこうしよう。何も毎日が忙しい訳ではあるまい?
比企谷は自分が参加可能な日に奉仕部に行けば良い。そして川崎沙希、君も奉仕部に参加すべきだと私は思う。
比企谷の性格を直すためとは言ったが、君の協調性の無さも看過する訳にはいかないレベルだ。
比企谷と一緒に奉仕部で過ごすといいだろう」
確かに川崎は協調性が無い。
しかし、それは問題なのだろうか?
昨今、日本社会では必須とされる協調性。しかしそれは一方的なものではないだろうか。
協調性がある人間がいるのならば、協調性の無い人間がいても問題が無い筈なのだ。それがあるならば、無い人間にもあわせられるのが本来の形である。それでも協調性の無い人間が責められるのは求める側が己にとって都合の良い協調を望んでいるに他ならない。
「…別に困って無いですけど」
その通りだ。別に俺達は困っていない。
困っているのなら変わるのも良いだろう。しかし、俺は…俺達は今が良いのだ。
心地良く過ごせているのに変われと言う。
それは傲慢で酷く醜悪な言葉では無いだろうか。
「何も協調性を持てとは言っていない。
君達は不器用過ぎる。今は良くてもいずれ、問題に直面するだろう。
そうなってから遅かった、では困るだろう?協調性をさっさと身につけろとは言わない。
だが、君達は自分達以外と上手く付き合う術を覚えたほうが良い」
「それで奉仕部ですか…?」
以外と納得のいく説明で奉仕部へ勧誘される。
確かに、自分達以外と上手くやる術は覚えるべきではある。
けど、奉仕部に入るかどうかは別の問題だ。
「……わかりました。
けど、家の用事が無い日だけですから」
「いや、ちょっと待て!
確かに先生の言い分は納得は出来るが、部活に入るのとはまた違うだろう!」
「はぁ…比企谷。
君はどうも往生際が悪い。君の保護者も入部を認めたんだ。大人しく君も認めたまえ」
誰が保護者だ誰が…
俺の保護者は両親と将来俺を養ってくれる奥さんしか認めませんよ!
「まぁ、別にいいじゃん。
週に2、3日程度なんだし、私の家来ない日はどうせ暇なんでしょ?」
バッカおまえそんなこと言えちゃったら…
「ほう…川崎の家になぁ…」
ほら、怒ってんじゃん。
この手のタイプの人の前でそういう話はタブーなんだって…
「入ります。入りますよ!」
だからその握りしめた拳を降ろしてください!
「そうかそうか!
入ってくれるか。ならとりあえず部室に行ってきたまえ。
用事があるのなら挨拶だけで構わない。とりあえず顔だけでも合わせて来るといい」
◆
こうして奉仕部に所属することになった川﨑と俺は特別棟のあの教室前に来ていた。
小さく乾いた音が響く。川崎がノックした音だ。
「…どうぞ」
中から返答が聞こえた。
「失礼します」
「昨日の…」
「うっす」
「また来たのね。
てっきりもう来ないものだと思っていたわ」
「俺だって来たく無かったよ。
けどな…」
「雪ノ下だっけ?
こいつと一緒に奉仕部に入った川崎沙希。よろしく」
そうぶっきらぼうに自己紹介をした川崎を値踏するように見つめる雪ノ下。
「へぇ…そう歓迎するわ川﨑さん。
ただ、そこの男とイチャつくのに都合の良い場所を得るためだったとしたら相応の対応をとるわ」
「へ!?ば、ばっかじゃないの!!なんで私がこいつと!!」
顔を真っ赤にして声を荒げる川崎。
いくら俺と恋人関係に疑われたからってそこまで怒らなくてもいいんじゃないですか?
八幡的にポイント低いよそれ。
「…ごめんなさい。
昨日の雰囲気からそういう関係なのかと…謝るわ川崎さん。
本当に失礼なことをしたわ」
おう、本当に失礼だぞ俺に。
謝りながら人を傷つけるなんて器用なやつだな。
「まぁ、分かってくれたならいいけど…」
「それで?
そこの男は昨日入部の理由を聞いたけれども、貴方は?川崎沙希さん」
「…協調性が無いから他人と上手くやる術を身につけろって先生が」
「そう、可哀想に…
そこの男と関わってしまったために協調性を失ってしまうだなんて…協調性だけだからまだ被害は少ないのかしら?」
そういって小首を傾げる雪ノ下。
俺に聞くな俺に。
「ちょっとあんた。
言い過ぎじゃない?確かにこいつは目が腐ってどうしようも無いやつだけど…」
フォローになってないことに気づいているだろうかこいつは?
「そうかしら?
昨日はこんな扱いのほうが調子が良かったわ。今日はだんまりだけど昨日は調子良く喋っていたもの。
ひっとしてあなたMなの?気持ち悪い」
「えっ…そうなの?」
「はぁ…いちいち間に受けるな。
とろあえず今日は挨拶に来ただけだ。平塚先生に言われてな」
「そう、2人とも一応歓迎するわ。
奉仕部部長の雪ノ下雪乃よ。よろしく」
「…よろしく」
「おう」
「奉仕部は依頼主が来て始めて部活動になるわ。
依頼主がいない現在は当然ながらすることは無いわ。依頼主がいない以上、あなた達は好きに時間を潰してくれて構わないわ」
「いいのかそれは…」
もはや部活動の形を成していないのではないだろうか。
いや、待てよ。特にすることが無いのならば俺にとって都合が良い。
川崎に何故かやる気があるため適当な言い訳をして逃げるのは難しいだろう。
参加せざるを得ないのならいっそのこと無駄な抵抗はやめて、恐らくは殆ど活動していない部活に所属するのを甘んじて受け入れてもいいのではないだろうか?
「そうなんだ。
積極的に依頼主を探す訳じゃないんだ」
「えぇ、奉仕部は飢えたものに魚を与えるのではなく、捕り方を教えることを理念としているわ。
奉仕部が自ら依頼主を探すのは理念に沿っていないもの」
「ふーん」
「大抵の場合はあなた達のように平塚先生に紹介されてという形になるのかしら」
紹介…だと…?
世間では昨日のアレを紹介と呼ぶらしい。いや、呼ばねぇだろ。
「とりあえず明日以降でいいだろ。
今日は挨拶だけが目的だし、部活もすることが無いなら都合が良い。帰ろうぜ」
「まぁ、そうだね」
「そう…ではまた明日ということになるのかしら」
明日は都合が良いいのかはわからない。
大抵の場合は朝方に川崎からメールか、小町から直接に言付けられるため当日まで俺にはわからない。
確認の意味をこめて川崎に視線を向ける。
「親に聞かないと分からないね。
これるかもしれないし、これないかもしれない私もこいつも」
川崎の説明に雪ノ下は怪訝な視線を俺に向ける。
そりゃそうだ。今のは川崎が休む理由足り得るが、俺達の関係性を知らない雪ノ下には俺が休む理由足り得ない。
「まぁ、細かい説明は後日する。
大雑把に言うと俺と川崎の両親に交流があってだな。その関係上、俺と川崎はお互いに放課後にしなきゃならないことがあるわけだ」
「…わかったわ。
細かい説明も構わないわ。ご両親の都合なのでしょう?
仕方の無いことだもの」
意外に雪ノ下は物分かり良く納得してくれた。
先程の調子からして、一言二言告げてくるものだと思っていたがすんなり話は進んだ。
「そういうわけで帰るわ」
「またね」
「えぇ、また今度」
こうして不本意ながらも俺は奉仕部に所属することになった。
次回がガハマさんの登場回の予定です。