ふいに肩に重さを感じた。
川崎がもたれ掛かっている。今日は小町に夕飯を任せたってことは疲れていたのかもしれない。
昨今の子供社会にはお弁当格差なるものが存在するそうだ。
キャラ弁。それによって優劣が生まれ、酷い時はイジメにまで発展する事がある。故に川崎家の長女さんはかなり気を使って朝から弁当を用意しているそうだ。
人気キャラ適当に詰め込んだら良いんじゃねーの?と聞いたことがる。それなら楽なんだけどねとは川崎の弁である。
なんでもリーダー格のママさんとなるべく被らず、被ったとしても相手よりクオリティーは低く。しかし低すぎずを維持するのが大事らしい。
そして一番大事なのが園児達にウケ過ぎないことだ。例えクオリティーが低かろうが人気アニメのサブキャラクターだろうが園児達にウケると不味い。まずそれを良く思わない園児がいる。当然ながら自分以外のキャラ弁が評価されたママさんも面白くは無いだろう。
なんと恐ろしい社会だろう。八幡怖い。専業主夫の夢の暗雲が立ち込めてんじゃん。
まぁ、仮に子供が出来たとしても家で面倒見れば問題無いから大丈夫だろ。たぶん
「うわ、お兄さん、目が尋常じゃ無いくらい腐ってるっす!」
「ほっとけ。あとお兄さん言うな川崎弟」
「なら良い加減大志って読んで欲しいっす」
「そのうちな」
「もうかれこれ一年そういってるっすよ」
「…ほらおまえの姉ちゃん寝てるんだから静かにしてろ。なんなら風呂掃除でもしてこい」
川崎家の長男で川崎の弟。川崎大志が俺と川崎が陣取るソファーの左手のソファーに腰掛け、話掛けてくる。
小町と同学年でどうやら小町に気があるようだ。なので割と扱いは良くないのだが、どうも懐かれているようでよく話にくる。
それともコミュ力高い奴ってみんなこうなの?可笑しい。なら何故俺はぼっちなんだ…
やはり川崎弟が気安過ぎるだけだな。
「なんか今、物凄く失礼なこと考えてませんでした?」
「考えてねーよ。ほら働け働け!働かざるもの食うべからずだぞ」
「姉ちゃんは良いとして、お兄さんは働いて無いじゃないっすか」
「ばっかおまえ、めっちゃ労働してるよ。絶賛おまえの姉ちゃんの枕として労働中じゃん。
見て分かんねーの?」
「…はぁ。まぁいいっす。姉ちゃんも気持ち良さそうに寝てますし、邪魔ものは馬に蹴られる前に退散するっす」
そう一方的に告げて川崎弟はリビングから離れていった。
「小町と一緒のこといってんじゃねーよ」
その返答には誰も答えなかった。
左肩に掛かる重みに目を向ける。静かな寝息を立てて寝ている。
どうも小町と川崎弟は俺と川崎姉をくっつけたいようだが…
「俺とくっつくなんて嫌だろうこいつも」
川崎はキツい印象を受ける顔立ちだ。
そのうえ、それを取り繕うことをしないのでクラスでも浮いてるボッチだ。
しかしキツめの印象を受ける顔立ちは整っていて美人と評しても遜色は無いだろう。
…そんで出るところも出て引っ込むべきとこは引っ込んでるし、振る舞いを変えればさぞおモテになるだろう。
俺も目が腐って無ければ整った顔立ちをしていると自覚してはいる。小町以外に言われたことねーけど…
しかし釣り合いは取れないだろう。
そんな事を考えながら再放送のアニメに視線を戻した。
けど…もしもだ。もしもこいつと付き合うことになれば…いや、やめておこう。詮無いことだ。
「…んぅ…寝てたみたい」
眠りが浅かったのだろう。川﨑が目を覚ます。
「疲れてるんだろう飯は小町が作ってるしゆっくりしとけばいいさ」
あれで要領が良い奴だ。
さっきの発言から夕食が出来るまではこちらに声を掛けには来ないだろう。
「そう…ならお言葉に甘えさしてもらうよ」
そういって川崎はまた俺の肩にもたれ掛かり、寝息を立て始めた。
「はぁ…俺じゃなきゃ勘違いしてるぞ…」
パーソナルスペースというものがある。
簡単に言ってしまえば縄張りみたいなもんだが、川崎は身内に対してはこれを取っ払っている。
喜べば良いのか判断に迷うが、どうやら俺もその身内としてカテゴライズされているようだ。
時折反応に困ることがあるが、まぁ役得として甘んじておこう。
高校に入ってから劇的に変化した日常。けれど居心地の良さは感じている。
こんな日が続けば良いと思いながら、いずれ来る終わりも理解していた。
窓から差し込む夕陽が感傷を沸き立たせる。比企谷家と川崎家の日常が変化したようにこの日常もいずれ変化を向かえ、きっと終わりが来る。
そう思うと少し寂しく感じた。
キャラ弁の下りはでっち上げです。
多分そこまで酷いもんじゃ無いと思います。