Fleet Is Not Your Collection 作:萩鷲
翌日の朝。予定通り、大湊区第二十三番基地第一艦隊は、トラック泊地へと向けて出発することとなった。
「無事に、帰ってきてくれよ」
「こっちは任せろクマ。何か起きても、しっかりあんたらの提督を守ってみせるクマ」
提督と――艦隊不在の間、二十三番基地の防衛を任せることになった、十五番基地の第二艦隊に見送られながら、龍驤達は出撃する。
「今回も、ばっちり護衛、頼みますよ」
それと、もう一人。工作艦の明石も、龍驤達とともに、トラック泊地に向かう。そもそも本来、彼女はトラック泊地に配属される手筈であったわけで、トラック泊地が再編されるというならば、大湊に留まっている理由はない。
「おう、任せとけや。皆も、しっかり警戒、頼んだで!」
「ああ、分かっている」
「任せるぴょん!」
龍驤が呼びかけるが――反応は思わしくなく、返事を返したのは、長月と卯月だけだった。
「……ったく」
無理もない。つい数日前、惨劇の舞台となった場所に向かうのだから、気も滅入るというものだ。特に、瑞鳳は近付くことすら嫌でもおかしくはないだろう。
「――お前ら! しゃきっとせえ、しゃきっと!」
が、それとこれとは話が別だ。気持ちはしっかり切り替えないといけない。感情はなるべく切り離さなけれはいけない。任務を円滑に遂行するために。自分が死なないために。
「……あ、ああ、うん!」
「す、すまない……」
「ごめんね、ちょっと、ぼーっとしてて……」
三人の反応に、軽くため息を吐きつつ――いざという時にカバーをするのは、旗艦である自分の役目なのだと、龍驤は内心で自身に言い聞かせる。
「……ま、うちも、お前らも、結局ただの人間や。思うところくらいあるのは分かる。なんも思うなとは言わんし、なんも考えるなとも言わん。ただ、任務に支障は出さへんようにしてくれや」
――その言葉を最後に、口を開くものはいなくなった。
それからは、必要最低限の報告等を除けば、会話らしい会話は無かったに等しい。誰も、私語などするような気分にはなれなかったのだ。
「こりゃ、伝えんで正解だったな……」
誰にも聞こえないように、龍驤は独り言ちる。『戦艦レ級』の存在、そして遭遇の可能性について知るのは、龍驤と長月だけだ。提督から『戦艦レ級』の話を聞いたのは二人だけであり、黙っていれば他のメンバーには伝わらない。不確定要素の多い情報で、余計な不安を与えないように――と、話し合って決めたことであるが、その判断は、少なくとも現時点においては、概ね正しかったと言えよう。『戦艦レ級』について知らずとも、とてつもなく沈んだ雰囲気なのだ。もし知っていたら、今以上に酷い有様だっただろうことは、想像に難くない。
「さて、と――ほら、トラック泊地が見えてきたで!」
――少しでも暗い雰囲気を改善しようと、努めて明るい調子で言う。
「今回も、敵艦隊とは遭遇しなかったな」
「ま、たまたまやろけどな。それよりも――みんな! 今のうちに顔引き締めとけや! これからしばらく厄介になる相手や、第一印象悪くしたらあかんで!」
呼びかける声を辺りに響かせつつ、艦隊はゆっくりとトラック泊地に接近していき――問題なく、上陸を果たした。
「――ぞっとするくらいに、綺麗だな」
――ぽつり、と。陸に上がると同時に、菊月が呟く。
つい数日前の出来事は、まるで夢か幻でもあったかのように。一面に染まった赤も、辺り一帯に散らばった肉片も、綺麗さっぱりと片付けられ、目の前にはただ、何の変哲も無い軍施設が存在しているだけだった。
「血痕の一つや二つくらい、残ってるだろうって覚悟してたけど――拍子抜けだよ、正直」
普通を通り越して、清潔とすら言える泊地の現状に、皐月は思わずそんな感想を漏らす。
「確かに、その通りだが……これならあまり、気にしないで済む」
「まあ、ね。……正直、それでもあんまりいい気分じゃないけどね、ここでしばらく過ごすってのは」
「仕方がないさ、それは」
――菊月と皐月の二人が、そんな会話を交わす一方。どこか遠くを見つめるような表情で、佇む者が一人いた。
すぐ、隣に。
「……まるで、何もかも、夢だったみたい」
ああ、そうだ。あんなのはただの悪夢で、きっとみんなもいつも通りで――
「――瑞鳳ぉぅ?」
「――ふひゃぁっ⁉︎」
――龍驤が、思いっ切り瑞鳳の頬を抓った。
「うちの話聞いとらんかったんか、んー? 顔引き締めとけ言うたよなー? なんやその顔は、やる気あんのかー?」
「い、いひゃい、いひゃいです!」
怒りの含まれた笑みを浮かべつつ、龍驤は瑞鳳の両頬を摘んで引っ張り回す。
「今は任務中で、ここは任地や、惚けとる場合やない、分かったか?」
「ふぁ、ふぁい!」
返事と同時に、瑞鳳の頬が解放された。
「……本当に、愉快な艦隊ですね、貴方達は」
「褒め言葉になっとらんわ」
思わずそう呟く明石に、やや不機嫌そうに龍驤は返す。
「そうですか? 艦隊と言えど、やはり人と人との集団ですから、明るい方が良いんじゃないですか?」
「それはまあ、一理あるかも知れへんけども。ただ、うちらが言うほど明るく楽しい艦隊かっつーとなぁ……」
「――話はそこまでにしよう。誰か来たぞ」
不意に、長月が呟く。皆がその言葉に反応して、長月の視線の先に目を向けた。
「――大湊区第二十三番基地第一艦隊と、工作艦明石ですね」
視線の先には、白黒のセーラー服に身を包んだ少女が一人。無論、彼女がただの少女であるはずはなく――
「初めまして。トラック泊地第一艦隊所属、駆逐艦吹雪です」
――少女、艦娘吹雪は名乗り、慣れた動きで敬礼をした。
「ご丁寧にどうも。うちは、旗艦の航空母艦龍驤や」
「睦月型四番艦、卯月だぴょん!」
「同九番艦、菊月だ……」
「同じく睦月型の、皐月だよっ!」
「右に同じく睦月型、八番艦の長月だ」
「航空母艦、瑞鳳です」
「工作艦、明石です。これからお世話になります」
それぞれ名乗り返し、敬礼を返す。
「……なるほど」
姿勢を整えたままの大湊の艦娘達と明石を、吹雪は一人ずつ値踏みをするような視線で眺め回し――
「まあ、悪くはないでしょう。過半数が新人にしては、ですが」
――全員の観察を終えた後、小さく頷いて、呟き。
「改めまして――」
こほん、と。わざとらしく、咳をして見せてから。
「――ようこそ、最高に最低な地獄の出張先へ」
――おおよそ幼さの残る少女が出来るものではない、嘲りの篭ったシニカルな笑みを浮かべ、言い放った。
「では、司令官の所に案内します。着いてきてください」
しかし、吹雪は何事も無かったかのようにすぐ表情を元に戻すと、回れ右をして歩き始める。
七人とも、吹雪の態度についてそれぞれ心中で否定的な感想を抱いていたのは言うまでもないが――だからと言って何かを言い返せるような立場でもなく、全員ほとんど無言のまま、素直に従って後ろに続いた。
――そのまま屋内に入ってしばらく歩き、吹雪が立ち止まったのは、見るからに立派な木製扉の前。真横には、『執務室』と大きく書かれたプラスチック板が貼り付けられている。
「司令官。例の艦隊と工作艦が、到着しました」
こつこつ、と軽くノックをしながら呼び掛けると、少し遅れて「入ってくれ」と返事が返ってくる。それとほぼ同時に、扉を開いた。
「――やあ。ようこそ、トラック泊地へ」
部屋の中には、軍服姿の壮年の男性が一人。
「花木少佐から聞いているかも知れないけれど、自己紹介をしておこうか。――元呉鎮守府提督、現トラック泊地提督、村山末弘だ。一応、元帥という肩書きを貰っている」
男性――村山元帥は優しげな微笑を浮かべ、敬礼した。
「ああ、君達の自己紹介は不要だよ。全員、花木少佐に人となりは聞いているし、資料も受け取った。それに――初対面じゃない人間も、何人かいることだしね」
そう言って、まず視線を明石に向ける。
「久しぶりだね、相川中尉。いや、今は工作艦明石と呼ぶべきか」
「……まさか、貴方がここの提督だとは。提督は引退して、造船基地の責任者をしていたのでは?」
「そのはず、だったんだけどね。時代は老人すらも休ませてはくれないらしい」
次に、視線を長月と皐月へ。
「そこの二人は、呉の造船基地で会ったね」
「――ああ! あの時の元帥さん!」
「言われてみれば、そうだな」
――思い返してみれば。例の初陣を終えた後、着任先を伝えてきたのは、確かに目の前にいる元帥だ。
「他は多分、初対面だろうけれど、龍驤君と卯月君については、呉の頃から噂は聞いているよ」
「え? 龍驤さんはともかく、うーちゃんのことも知ってるぴょん?」
「勿論。元呉鎮提督と言っただろう? 君は大湊区に転属する前、呉区所属だったからね。同じ地区内の優秀な艦娘のことくらいは、把握していたさ」
「優秀だなんて……照れるぴょん」
やや大げさな調子で言って、頭を掻く卯月。
「龍驤君は別地区だったけれど――横須賀の赤城君から、よく話は聞いていたよ」
「――知り合いだったんですか、あの人と」
――赤城、という名前を聞くと同時に、龍驤の表情が変わった。
懐かしそうで、それでいてどこか暗い表情に。
「ああ。昔、横鎮に演習に行った時に、親しくなってね。横須賀のトップエースとは思えないほど、親しみやすく愉快な女性だったが……」
そこまで言って、元帥も、少し表情を曇らせた。
「戦場では、よくあることです」
「……そうだね」
小さく、悲しそうに、呟く。
「司令官、そろそろ本題に入りましょう」
「ああ、すまない。――さて、大湊区二十三番基地第一艦隊には、本日から一週間、ここトラック泊地の戦力として働いて貰うことになっている。主任務は、周辺海域の警備。及び、深海棲艦の襲撃が発生した場合の防衛だ。まあ、場所が変わっただけで、やることは普段とそう変わらない筈だ。いつも通りに、やってくれればいい」
「そうは言っても、この辺りは最前線付近ですから、本土周辺とは比べ物にならない程の強力な深海棲艦も出現します。普段と同じ様な調子のままでは、怪我では済まないでしょうね」
わざわざ不安を煽る様な補足を付け加えられ、さすがに幾人かの表情が曇る。
「確かに、その通りだ。しかし、ここにいる艦娘は君達だけではない。吹雪の他に五人、トラック泊地所属の艦娘がいる。全員、高い練度を誇る強者だ。もし自分達だけで太刀打ち出来ない様な敵と遭遇した時には、遠慮無く頼ってくれ」
「助けには応じますし、助けに入った以上は必ず護り通しますが、助けを呼んでから私達が駆け付けるまで、貴方達が生き延びれるかどうかについては、責任は持てませんからね」
――いちいち余計なことを言いやがる、こいつ。七人の内心は、概ね一致していた。
「明石君については、うちに正式に配属されることになる。なるべく早く、ここでの仕事に慣れてくれ」
「はい、了解です」
「……さて。私からは以上だけど、何か質問はあるかな?」
元帥の問いかけに反応して、菊月が手を挙げた。
「どうぞ、菊月君」
「こんなことを訊くのも、どうかと思う……思います、が」
「かしこまる必要はないよ。それに、遠慮をする必要もない」
「そうか……なら」
菊月は小さく咳払いをして、一歩前に出る。
「……ここトラック泊地は、つい数日前に、襲撃を受けて、壊滅したばかりだ。だが、吹雪さんも言っていたように、この辺りは最前線。なら、当時トラック泊地にいた艦娘の数や質は、ある程度以上の水準だったはずだ」
「その通りだ」
「ならば……万が一、再び襲撃があった時に。それだけの戦力で対応できなかった襲撃を、たった二艦隊と一隻で、どうにかすることが。果たして、可能なのか?」
不安の篭った表情で、問う。
「可能だ――と、言い切れれば気が楽なんだけどね。残念ながら、上手くやれるという保証はない」
「……それでは」
「――ですが」
不意に、菊月の発言を遮って、吹雪が割り込み――
「これだけは保証できます。“私達六隻は、当時トラック泊地に存在した全戦力よりも強い”、と」
――さも、当然のことである様に、言い切った。
「――流石に、誇張が過ぎるんじゃないかしら? トラック泊地には、数十隻は艦娘がいたわ。それに、練度だって高かった」
かつてのトラック泊地を知る者として、流石に黙っていられなかったのか、瑞鳳が口を挟む。
「貴方は……ああ、トラック泊地の生き残りですか。はい、貴方が言っていることは、確かに事実でしょう。ですが私は、それを分かった上で言っているんです」
「大した自信ね?」
「正直なだけですよ。そもそも、壊滅前よりも戦力を減らしてしまったら、二の舞を踏むことは明らかじゃないですか。赤煉瓦はそこまで馬鹿ではありませんよ?」
――あからさまに、不穏な空気が辺りに流れ出す。
「みんなのことなんか知りもしない癖に、よくそんな口が――」
「瑞鳳」
そろそろ、止めないとまずい。周囲がそう思い始めた頃に、二人の間に割って入ったのは、長月だった。
「何よ、長月ちゃん。ここまで言われて、黙っているなんて――」
「無理なんだろう、ということは分かった。だったら、はっきりさせれば良いだろう」
言って、吹雪の方を見る。
「――吹雪さん。私達と、演習をしてくれないか」
「――喜んで。此方としても、貴方達の戦力を把握しておきたいですからね」
シニカルな笑顔を見せて、吹雪は即答した。
――そして、数十分後。
「……ったく、勝手に演習なんか挑みよって」
「すまない。だが、こうでもしなければ、瑞鳳は納得しないだろうと思ってな」
「まあ、確かになあ……」
航行で消耗した燃料を補給した大湊の六隻は、吹雪達よりも一足先に、演習海域で待機していた。
「それに、これから一週間、私達が背中を預けることになる相手なんだ。さっきの発言が、ただの大言壮語なのかどうかは、今のうちに見極めておかなければいけないだろう」
――そこまで言った辺りで、泊地の方から複数の主機の駆動音が近付いてくる。
「――お待たせしました」
そして、長月達の前に、吹雪を先頭に六隻の艦娘が整列した。
「吹雪型一番艦、吹雪」
「金剛型一番艦、金剛」
「加賀型一番艦、加賀」
「最上型一番艦、最上」
「最上型二番艦、三隈」
「秋月型一番艦、秋月」
「――以上、トラック泊地第一艦隊全六隻、ここに集合しました」
淡々と名乗りを上げ、最後の吹雪の締めと同時に、一斉に敬礼をする。長月達も、敬礼を返す。
「あれだけ大口叩いたんだから、相応の実力、見せて貰うわよ?」
「勿論。貴方達こそ、せめて勝負として成立するくらいの力を、見せて下さいね? まあ、無理でしょうけれど」
馬鹿にする意思すら感じられない程に、すんなりと言い放つ吹雪を、きっと睨みつける瑞鳳。
「あーもう、ほら。決着は実力で付けよ、な?」
「分かってるわよ、龍驤さん」
そう言いつつも、表情はきついままだ。
「……ま、さっきみたいに、ぼけっとされてるよりかはマシか」
呆れたような、諦めたような、それでいてどこかほっとしたような表情で、龍驤は呟く。
「一本先取、一発被弾で戦闘不能、先に全滅した方が負け。異論は?」
「無いで。それでええ」
龍驤の返答に、吹雪は小さく頷き、トラック艦隊が後退を始める。長月達も、吹雪達とは逆方向に後退して行く。そうして、二艦隊がある程度距離を取ったところで、両者ともに停止した。
『――今から、三つ数えます。数え終えたら、交戦開始です』
無線越しに響く吹雪の声に、六隻は自然と小さく頷く。
『一つ』
――主機を空ぶかす。
『二つ』
――主砲を、発艦装置を構える。
『――三つ!』
「――行くでぇ、みんなぁ!」
――空母二人が一斉に艦載機を放ち、長月を先頭に、駆逐艦達が突撃を開始した。
「相手艦隊の半数以上は、私達より射程が長い。今のうちから、警戒を――」
言葉を切って、進路を右に傾ける。直後、周囲に複数の大きな水柱が立ち、四隻の全身を濡らした。
「――しておかないと、こういうことになる。いや、この程度で済めばマシか。戦艦サイズのペイント砲弾が、直撃するかもしれないわけだからな」
「うわ、痛そうだなぁ、それ……」
「ともかく、射程圏内に入るまでは、回避に集中するぞ。いいな」
――長月達が、そんな会話を交わす一方。
「んンー……一隻くらい、落とせると思ったんですけどネー」
目の上に手をかざし、細めで長月達の様子を眺め見る、片言気味の戦艦娘。和服か巫女服をモチーフにしたであろう、白と赤の制服に身を包んだ彼女は、金剛型一番艦、金剛だ。
「まあ、
がこん、と、装填音が響く。
「距離、照準、良し――撃ちます!
威勢の良い掛け声と共に、背部艤装に装備された、四基の
「――各艦散開!」
――再び飛来した砲弾は、先程よりもより正確だった。多少方向転換するだけでは避け切れないと判断し、陣形を崩す。
「ど、どこから撃って来てるのさ⁉︎」
「電探の反応からして、かなり遠方、としか言いようが無いな。ここからじゃ到底視認出来ん。それよりも――また来るぞ、回避行動!」
繰り返される、砲撃。しかし、駆逐艦の射程では、反撃は不可能だ。
「――見っけたで」
――駆逐艦の、射程では。
「
『吹雪から、暫くは様子を見るように言われているの。ごめんなさい』
無線越しに助けを求める金剛だったが、返答は非情だった。
「
『ハンデですよ、ハンデ。私達が六隻同時に動けば、勝負は一瞬で決してしまうでしょう?』
「それならそうと、先に言ってヨ!」
『金剛さんなら平気ですよ。頑張って下さい』
ブツッ、と、雑に無線が切られる。
「……ブッキー、帰ったら覚えておくデース」
口では怒りつつも、さほど気にした様子もないままに、金剛は視線を上に移す。
「三式弾、
そして、対空用の砲弾に切り替えて、照準を空に向け――
「――
――花火のように、
「――あかん、回避行動!」
「急にそんなこと――っ!」
艦載機を操っていた龍驤と瑞鳳は、慌てて艦載機達を散会させる。しかし、予想以上の攻撃範囲により、少なくない数の艦載機が、三式弾――の、模擬弾を喰らい、撃墜判定を受けて海面に不時着していく。
「ま、これだけで何とかなるなんて、最初から思ってないヨ――ッ!」
続けざまに、金剛は二丁の十五・五センチ三連副砲を取り出し、主砲や対空機銃と共に乱射して、弾幕で以って艦載機への対抗を始めた。
「――これじゃ、攻撃する暇なんか、ないじゃない!」
――対空射撃を躱すのが精一杯で、爆撃も雷撃も、狙う隙さえ見付けられない。
「いや、これでええ!」
「どこがよ! このままじゃ――」
「困るのは、向こうや」
瑞鳳に向かって、手を突き付けて静止の姿勢を取る、龍驤。
「ええから、艦載機の制御に神経注いどけ」
言って、懐から爪楊枝を一本取り出し、口に咥えた。
「――さぁて、まずい状況ネ」
――未だ被弾していない金剛だったが、しかし表情は優れない。
「――ようやく、捉えたぞ」
「――いよいよ、見つかっちゃったワ」
既に目視出来る位置にまで、長月達が接近して来ているからだ。
「さすがのワタシでも、対空射撃をしながら、
引き攣った笑みを浮かべ、小さく恨み言を吐く。しかし、そんな行為で状況が好転したりはしない。
「まあ――やるだけ、やるけどネ」
対空機銃と、左手の副砲で上空を狙ったまま、右手の副砲と背部の主砲を前方に向ける。
「――さあ! 私の実力! 見せてあげるネー!」
「――来るぞ!」
接近した分、着弾は早くなる。狙いも精密になる。先程までの長距離砲撃に比べて、回避の難易度は飛躍的に上昇していると言って良い。
「うわ――っ⁉︎」
「っ――つぅ!」
――故に、菊月と皐月の二人が被弾してしまったのも、致し方の無いことだ。
「くそっ――卯月! 行けるな!」
「当ったり前ぴょん!」
しかし、残された二人は怯むことなく、降り注ぐ砲弾をすんでの所で掻い潜りつつ、突撃していく。
「――右! 砲雷撃戦!」
「開始するぴょん!」
そして、射程圏に入ると同時に、息の合った調子で呼応し合い、主砲を構え――放った。
「……
――果たしてそこには、演習用のペイント砲弾でピンク色に染まった、金剛の姿があった。