ダンジョンで無双するのはおかしいだろうか   作:倉崎あるちゅ

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七話

 

【ロキ・ファミリア】が来て、俺は気配を殺していたのだが、ベルがあまりにもしつこいのでパスタを大量に食わせて大人しくさせた。

俺はチラッとアイズ達を見やる。乾杯を済ませて、ワイワイと宴会気分だ。ダンジョンの遠征が終わると、あいつらはここで宴会をすることになっている。

 

「…………何やってんだロキは……」

 

ジト目でロキを見る。アイズの肌を撫で回そうとしたロキにアイズが無慈悲にフォークの柄で殴った。

 

「痛いでぇ、アイズたん……」

 

「…………」

 

「自業自得だ」

 

微かに聞こえる【ロキ・ファミリア】の会話。最後の声はリヴェリアだろう。ロキ、ザマァww

 

「っ!?」

 

なんだ、一瞬殺気が………

振り向いて見ると、ロキがニヤッと悪い笑みを浮かべた。俺は背中に冷や汗をかく。

 

「やめてくれよロキ様……!!」

 

俺は神に祈った。文字通り、ロキにだ。主神が違うと思うだろうが、ここでこいつに祈らないと死ぬ。

俺が祈っていると、助け舟は意外なやつに出された。

 

「そうだ、アイズ! お前のあの話を聞かせてやれよ!」

 

「あの話………?」

 

ベートだ。こいつに助けられたことには癪だが、感謝するか。ありがとうございました、バカ犬。

 

「あれだって、帰る途中で何匹か逃がしたミノタウロス! 最後の一匹、お前とアルスが五階層で始末しただろ!? そんで、ほれ、あん時いた泣き虫野郎の!」

 

………感謝は取り消しのようだな。

俺は木製のフォークが軋むくらいの強さで握った。これはベルのことを言っている。

 

「それでよ、いたんだよ! いかにも駆け出しっていうようなひょろくせぇガキが!」

 

……てめぇもガキだろうが……!!

ベルの方へ俺は目を向けた。ベルも、顔を俯かせて固く手を握っている。

【ロキ・ファミリア】のフィンさん、リヴェリアさん、ガレスさん、アイズ以外の連中は笑う。ただし、盛大に笑っているのはベートただ一人。ロキ、アマゾネス姉妹、レフィーヤはまたか、みたいな感じで苦笑している。

 

「しかしまぁ、久々にあんな情けねぇやつを目にしちまって、胸糞悪くなったな。野郎のくせに泣くわ泣くわ。それに、アルスの仲間みたいだったしよ!ぷっ、アルスの仲間のくせにあんな腰抜けで……!くっくっ」

 

ただ一人だけ盛大に笑う。

あー、そろそろ俺もキレそうだわ。もう無理だ。殺してしまいたい。

 

「ああいうやつがいるから俺達の品位が下がるっていうかよ、勘弁して欲しいぜ」

 

「いい加減そのうるさい口を閉じろ、ベート。ミノタウロスを逃がしたのは我々の不手際だ」

 

リヴェリアさんがベートに言う。おそらくアイズの雰囲気を見て口を出したんだろう。あとは、俺の僅かな殺気も察知したからか。

 

「おーおー、流石エルフ様、誇り高いこって。けどよ、ゴミをゴミと言って何が悪い」

 

「これ、やめぇ。ベートもリヴェリアも。酒が不味くなるわ」

 

ロキが二人をたしなめる。ロキ、たしなめるなら早くやって欲しかった。いくらお前の眷属(こども)でも、俺はそいつを許すわけにはいかなくなる。

俺はベルのことを見る。俯いていたが、今は少し震えている。そろそろベルの精神的に危ないか。

 

「アイズはどう思うよ? 自分の目の前で震え上がるだけの情けねぇ野郎をよ」

 

「あの状況なら、しょうがなかったと思います」

 

そうだ。Lv.1のベルにミノタウロスと渡り合おうなんて無理だ。Lv.1は上層で経験を積まなければならない。けど死なない程度で。

 

「なんだよ、いい子ちゃんぶっちまって。……じゃあ、質問を変えるぜ? あのガキと俺、ツガイにするならどっちがいい?」

 

やっぱり殺すか。アイズの仲間だから、一応知り合いだから殺さないでおこうと思ったが。

 

「ベート、君、酔ってるね?」

 

フィンさんが苦笑いを浮かべながら押さえようとする。だが、酔ってるベートは構わず言う。

 

「うるせぇ。ほら、アイズ、選べよ。雌のお前はどっちの雄に尻尾振って、どっちの雄に滅茶苦茶にされてぇんだ?」

 

ブチッ、と頭の中で何かが切れた。無意識で《倶利伽羅》を転移させていた。

 

「……そんなことを言うベートさんとだけは、絶対にゴメンです」

 

「無様だな」

 

アイズは明確な拒否を表した。そこには嫌悪感も入っている。続けてリヴェリアさんが吐き捨てた。

 

「黙れババァっ! ……あー、そうだったもんな。お前はアルスのこと好きだもんな」

 

「……っ!」

 

アイズがピクリと肩を震わせた。

 

「ハッ、けどよぉ、あいつも弱くなったぜ? ミノタウロスを一撃で殺れなかったしなぁ! 俺より弱くなったんじゃね? そんなやつにお前の隣に立つ資格なんてねぇよ。まぁ、つまり……」

 

 

「あんな雑魚共とお前じゃ釣り合わねぇ」

 

 

俺は《倶利伽羅》の柄に手をかけた。何も知らないで、何を言ってやがる。絶対に殺して--

 

「ベルさん!?」

 

ベルが椅子を蹴飛ばして立ち上がって、外に飛び出した。

俺は我に返って、すぐさま外へ飛び出すベルを追う。

 

「ベルっ!! おい! ベル!」

 

すぐに追いついて止めたが、何故か分からないが、押し退けられた。

ベルは夜の街を駆け抜けていってしまった。

 

 

♠︎❤︎♣︎♦︎

 

 

俺は呆然と小さくなるベルの背中を見つめていた。すぐ近くに、人の気配がする。アイズか。

 

「………どうして、押し退けられたんだ……」

 

普通なら、Lv.1のベルがLv.6の俺を押し退けるなんて難しいことだ。なんで。

 

「……アル。いた、の………?」

 

アイズが少し声を震わせて言う。ベートに酒場にいた連中に暴露されたことが恥ずかしいのか。

 

「まぁ、な。………なぁアイズ」

 

「は、はい」

 

「ははっ、なんで敬語なんだよ。………ベートに説教していいか?」

 

こいつに敬語使われるなんて最初の時以来だな。なんだか懐かしいな。けど、今は懐かしんでる場合じゃない。殺しはしない。だが、死んだ方がマシな説教だ。O☆HA☆NA☆SHIなんか可愛いほどに。

 

「……うん。トラウマになるほど」

 

「アイズも相当キテるみたいだな。いいよ」

 

苦笑しながら、俺はベルを追いかけるのを一旦やめる。振り向いて酒場の中へ俺は歩みを進める。

 

「………ベート。話があるんだが」

 

「あぁ? なんだよ、雑魚のアルスか」

 

なんだろ、俺のことなんかどうでも良くなった。昔は雑魚呼ばわりされて一々キレてたっけ。

 

「お前さ、言っていいことと、悪いことって分かる?」

 

「ハッ、そんなもん分かってるよ。で、なんだよ。そんなののために話しに来たのか?」

 

「いいや、ただ、お前には死んだ方がマシに思えてくる地獄を見せてやるよ」

 

俺はそう言って、ベートの頭を鷲掴みにして床に叩きつけた。喚くベートを押さえつけて、《倶利伽羅》を抜き、首にあてがう。

 

「な、てめぇ! 何しやがる!?」

 

「静かにしろ犬。喚くとうっかり首落としちゃうだろ?」

 

自分でも言ってて思うが、完璧に悪役のセリフだ。周りのやつらが騒ぎ出してるが、まぁ、殺気出してやれば黙るだろ。ミア母さんには悪いが、許してくれるだろう。

 

「な、何をしてるんですかレイカーさん!?」

 

レフィーヤが止めに入ってくる。しかし、リヴェリアがそれを手で制した。

 

「これはベートの自業自得だ。【ファミリア】のメンバーをバカにしたこいつの罰だ。ロキ、いいな」

 

「あぁ、ええで。ベートは勝つ気満々みたいやけど………『黒閃(こくせん)』相手じゃあ、瞬殺やで」

 

ロキは呆れて首を振った。他のやつらも諦めたようだ。

 

「だ、そうだ。ベート、お前には説教が必要だからな。弱いやつを見下す悪い癖を俺が叩き直してやる」

 

大太刀を鞘に納めて、頭から手を離す。

離した瞬間にベートが、その長く強靭な脚で襲いかかってきた。

身をかがめて避けて、背負い投げで店の外に出した。

 

「っつ! クソっ! ふざけんなよ、アルス!!」

 

「誰もふざけてねぇよ。ただ俺は、ベルのことを馬鹿にされて、アイズに失礼なこと言ったお前にキレてる」

 

目を細めて、俺は冷たく言う。この、戦場を支配している感覚。懐かしい。

自分でも分かるほどアドレナリンが多く分泌されてるのが分かる。

 

「この、雑魚野郎が!」

 

「……雑魚はお前だよ、犬」

 

ベートの蹴りを俺は大太刀の腹で防ぐ。そのまま押し込んで、飛び退いた直後にベートの胸を一閃した。

 

「かはっ……!?」

 

一見浅く斬られたかと周りのやつらが思うだろう。だが、俺がやったのはただの斬撃じゃない。

俺は《倶利伽羅》の刀身を見つめた。仄かに紫色がかった白銀の刀身には、真っ黒なナニカが纏っていた。

 

「ロキ、あれが『黒閃』本来の姿かい?」

 

微かに届く声。フィンさんがロキに問いかけている。

 

「そうや。あいつのスキル、【刀神斬殺(ゴッド・リーパー)】の副産物。一回、ヴリトラに頼んであいつの【ステイタス】見たんやけど……」

 

ロキがフィンさんに説明している。そしてフィンさんは驚愕の色で表情を染めた。

 

「神を殺すことで、その神の『神の力(アルカナム)』の一部を行使出来る……!?」

 

あーあ、バレちゃったか。これは【ステイタス】にも、【神聖文字(ヒエログリフ)】にも書かれないから都合が良かったんだけど……まぁいいか。バレたのがフィンさんとアイズだけみたいだし。

 

「ぐっ………なんだよお前のソレ……」

 

「ん? これ? あぁ、気にするな。チートだから」

 

『神の力』なんぞ、チート以外の何者でもない。だから神様方皆、この力を使えなくして天界から来たんだから。

 

「この……! うおらぁぁ!!」

 

上段蹴りをするも俺が一歩引いて躱す。そのまま流れに逆らわずに踵落としを繰り出してきたが、ひらりと左に避ける。

 

「俺を雑魚雑魚言うなら、もっと強くなってから言えよ、ベート・ローガ!!」

 

せめての慈悲として、逆刃にして大上段から振り下ろした。

ズガァァッ! と《倶利伽羅》を叩きつけた。

 

「ぐっ………ぐお……!」

 

頭に叩きつけたが、こいつならなんともないだろう。俺は近付いてベートの様子を見る。

 

「て、めぇ……」

 

「さて、謝ってもらおうか。まずはアイズに謝れ。次はベルに謝ってもらいたいが、あいつは多分ダンジョンに行っただろう。……今度ベルに会ったときに謝れ」

 

俺はベートに言う。いくらなんでもアイズに言ったことは失礼過ぎる。

ベートはヨロヨロと立ち上がって、アイズの方に歩いていき、深く頭を下げた。

 

「…………悪かった……」

 

「……もう二度と、ああいうことは言わないでください」

 

アイズは凄く機嫌が悪いように言う。相当腹が立っているようだ。

 

「じゃあ、ベルには会ったときに謝ってくれよ」

 

「ちっ、なんであんなのを……!」

 

こいつ、反省してないんだな。

 

「お前な…………誰だって最初はモンスターは怖いだろうが! あの状況でミノタウロスを向かい打とうなんて馬鹿のすることだ! それがLv.1なら当然だ! 弱者を顧みるなんて出来ないのは俺だって知ってるよ! けどな、少しは人の気持ちを考えろよ馬鹿が!」

 

はぁ、はぁ、と肩で息をする。

こいつも、アイズと同じで力を求めている。俺だって同じだ。力は欲しい。けど、俺が欲しいのはその弱者を守る力だ。

 

「………じゃあな」

 

あまりの剣幕に息を呑むベートを無視して、俺は店の中に入った。カウンターにいるミア母さんに謝って、食事代を払った。

そして、俺はベルを追いに行こうとした時、

 

「……アル。その……ごめん、なさい」

 

「なんでお前が謝るんだよ。これはベートのせいだから、アイズのせいじゃない」

 

「でも……」

 

なおも言おうとするアイズに、俺は頭を撫でた。アイズはびっくりしたようにしたが、すぐに気持ちよさそうに目を細めた。

 

「さて、俺はベルを追うから。じゃあな」

 

俺は最後にポンポンと叩いて、店から出た。

ベートはどうやら後から来た【ロキ・ファミリア】のメンバーに送られたみたいだ。

ロキが何か言いたそうにしていたが、踏み止まったのか、顎でしゃくった。

早く行け、か。悪いなロキ。

俺は心の中でロキにそう謝って、ダンジョンへ敏捷全開にして走って向かった。

 




およよ、文字が5000字行きそうでした。

今回、アル君がベートをメタメタにしました。ん? メタメタっていうほどでもないかな? むむ?
そしてアル君のスキルの副産物はまぁ………紹介しておきます。簡単にですけど。

《スキル》
【刀神斬殺】
・早熟する。
・刀を持ち続ける限り効果持続。
・精神を研ぎ澄ませることにより効果向上。
・基本アビリティ、力を補正。
・神を殺すことが可能。

判明していること
殺した神の『神の力』の一部を行使出来る。
殺した神・ヴリトラ
・モンスター、人に対してのダメージが跳ね上がる。


こんな感じですかね………
まだまだ効果ありますが、後々わかります!

それでは失礼しました。

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