ダンジョンで無双するのはおかしいだろうか   作:倉崎あるちゅ

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四話

 

【ヘスティア・ファミリア】の本拠、教会の隠し部屋。

俺は七時に起きた。いつもは四時くらいに起きてダンジョンにまっしぐらなのだが、二日間合計一時間くらいの仮眠しかとってないので今日はよく寝た。

ソファーの上を見ると、ヘスティアがまだ寝ていた。ベルはというと、いつも五時に出て行ってしまっている。

 

「ふわぁ………。二日分の『魔石』とドロップアイテム売り払わないと……」

 

俺はフラフラした歩みで洗面所に行き、歯を磨いた。

今日は大量の『魔石』を換金して、これまた大量のドロップアイテムを売りに行かねばならない。

俺は黒のロングコートではなく白のパーカーを着て、静かに隠し部屋のドアを閉めた。

 

 

クゥー、と俺のお腹が子犬ように鳴った。騒がしいメインストリートにいるので気付かれなかったようだ。とはいえ、気付かれていないとしても恥ずかしい。

どうしたものかと悩んでいると、ある酒場の店頭で足が止まった。

 

「『豊饒の女主人』………ミア母さんに迷惑かけるけど、俺の生命活動のためだ……!」

 

「迷惑かけると思ってるなら、毎回のように強請らないでおくれ」

 

俺が呟いていると、酒場から声がした。声の主は大柄なドワーフの女性だった。そう、この人がこの『豊饒の女主人』の女将さんのミア母さんだ。

 

「あはは……で、でも困った時はお互い様というか……」

 

「じゃあ、今度うちの店を手伝っておくれよ。バイト代無しで」

 

この人なら本当にやりかねない。それに絶対にこき使うだろう。

俺は引き攣った笑みを浮かべて言った。

 

「か、勘弁してください。でも、その代わりに今日ここでご飯食べに来ますからっ!」

 

「本当だろうね? 嘘だったら金輪際、まかないをやる気はないからね」

 

「本当ですよ! 俺が嘘ついたことありました!?」

 

「確かになかったね。ならいいよ。ちょっと待ってておくれ」

 

俺の必死の頼み込みでミア母さんは頷いてくれた。それからミア母さんは酒場に戻って、すぐに弁当箱を持って俺のところまで来た。

 

「ほれ、その格好からして今日は換金尽くしで暇ないんだろう? 昼の分も入れておいたから、大丈夫だろ」

 

「ミア母さん……! ありがとうございます! 行ってきます!!」

 

深く頭を下げて、俺はミア母さんに手を振ってギルドへ走って行った。

 

 

♠︎❤︎♣︎♦︎

 

 

ギルドで換金を済ませたところで、俺はエイナさんに会ってしまった。

私服姿だったため、これからアイズと逢い引きするのかとか冷やかされた。もちろん、アイズと会うとかそんな予定はない。

もしあいつと会った時は、そのままダンジョン直行になってしまう。俺の魔法でアイテムとかなんとかなると思ってるみたいだけど、俺は便利屋じゃねぇからなっ!?

まぁそんなことはさておき、次に向かうのはドロップアイテムを高く買ってくれる場所を探す。あまり有名所を行くと【ロキ・ファミリア】の連中に発見されるから嫌だ。

 

「………死にたくなってくるな……」

 

「あはは! いいじゃん別に! アイズもほら、アルスに会えたよ!」

 

「……うん」

 

店を探していた俺は、【ロキ・ファミリア】のティオネ・ヒリュテとティオナ・ヒリュテ、レフィーヤ・ウィリディス、最後にアイズ・ヴァレンシュタインに捕まっていた。

運悪く【ディアンケヒト・ファミリア】という【ファミリア】の建物から出てきたアイズ達とばったり鉢合わせしてしまったのだ。本当に自分の不運を恨む。

 

「ねぇ、アルス。貴方、この時間に何しているの?」

 

アマゾネスの双子の姉、ティオネが訊いてくる。言外に、脳筋の貴方がなんでダンジョンにいないの? とでも言いたげだ。

 

「ドロップアイテムを売りに来たんだ。有名所はお前達がいるからあまり近付かないようにしてたんだが……」

 

会っちゃったよ、と俺は小さく呟いた。

これが【ロキ・ファミリア】団長、フィン・ディムナという小人族(パルゥム)や古参冒険者のガレス・ランドロックというドワーフなら良かった。あの人達とはたまに戦闘での意見交換をするから。

ただ、このティオネとティオナの双子とは会いたくなかった。こうやって絡んでくるから。レフィーヤはなんか責めるような視線向けてくるし、アイズに至ってはダンジョンに直行。

俺のドロップアイテムが知りたいのか、ティオナが訊いてきた。

 

「へぇ? 何拾ったの?」

 

「ん? あー、『カドモスの皮膜』だったかな」

 

「「「え?」」」

 

俺が言うと、アマゾネス姉妹とエルフのレフィーヤが口を開けた。アイズは首を傾げて本当かどうか訊いてきた。

 

「本当?」

 

「なんだよ、そんなに信用ないの? まぁ見せてやるけど。……【転移(シフト)】」

 

ジト目で見ながら、俺は詠唱式を唱えて『カドモスの皮膜』を手に持った。

 

「ほ、本当でしたね……」

 

「驚いた……。よくもまぁドロップさせたわね」

 

「ねぇ、アルス。やっぱあんた化物?」

 

「お前ら、俺のことなんだと思ってるんだ」

 

化物呼ばわりされて、俺はベートの時ほどではないにしろ苛つきを覚えた。

確かにソロで51階層は有り得ないけど、ダンジョンに潜って初日だったから調子良かったから狩れた。まぁ、二日目でも狩れることは狩れるが。

ん? なんだかさっきからアイズ暗いな。どうしたんだろ?

 

「アイズ、何かあったか? 暗いぞ?」

 

アイズの顔を覗き込むと、少し頬を染めて首を振った。

 

「……なんでも、ない」

 

「はぁ……どう考えても、なんでもないような顔じゃないぞ。まぁ、大体は分かるがな」

 

こいつのことだ。【ステイタス】絡みで、頭打ちになって落ち込んでるんだろう。

 

「おー、見せつけてくれるね」

 

「なんの話だ。とりあえず俺は行く。じゃあな」

 

こいつらに会った以上、次に会いたくないのはベートだ。いつも絡んでくる。あいつ狼じゃなくて犬だろ。

歩き出した俺に、アイズが俺のパーカーを掴んだ。

 

「なんだよ……」

 

首だけアイズの方へ向ける。

 

「『カドモスの皮膜』ならここで、買ってくれる」

 

「幾ら?」

 

「一二〇〇」

 

「万?」

 

うん、と頷くアイズ。そして、俺のとった行動は迅速だった。

くるりと回って【ディアンケヒト・ファミリア】の大きな建物に入ろうとした。

 

「あ、でもあたしらいないと」

 

ティオナが爆弾をぶち込んだ。その言葉に俺は頭の中で葛藤する。

どうする? このまま入って安く買われるか、それともアイズ達と一緒に入って高く買われるか。というより、こいつらぶんどったよな。

アレコレ考えていたが、今優先するのは【ファミリア】の資金を貯めること。それを考えたらこのままアイズ達と入った方が得策……

 

「分かった……じゃあ、頼めるか?」

 

「えぇー、どうしようかなぁ?」

 

「どうしようかしら?」

 

「どうしましょうね」

 

ニヤニヤ笑ってこいつら何が言いたいんだ! 段々腹が立ってきたぞ。というかアイズ、いつまで俺のパーカーを掴んでるの。

 

「……アル、交渉手伝うから、付き合って」

 

「………どっちの意味でだ」

 

俺がそう言うと、首を傾げた。

こいつこういう時だけ抜けてるよな。とくにティオネはこういう時に迫ると思う。フィンさん、早くもらってやれよ。あんなにアタックしてるのに。

 

「? 武器の、整備に」

 

「分かった」

 

武器の整備くらいなら大丈夫だろう。買い物でも大丈夫だった。二人だけなら死ぬが。

 

「じゃあ、アルスとアイズは交渉行ってね。あたし達は先に行くから〜」

 

え? ティオナさん何言ってんの? それって二人だけってことだよね!?

 

「それじゃあ、また会いましょうアイズ。アルスもね」

 

「アイズさんに何もしないでくださいねレイカーさん」

 

レフィーヤにキツく言われるが今の俺はそれどころじゃない。勘弁して欲しい。

アイズと二人で、なんて俺の心臓が耐えられるわけない。ちょっ、パーカー引っ張るなよ。

 

「アル、早く」

 

「分かったから、引っ張るなっ」

 

この時のアイズの表情は、さっきの暗い表情とは打って変わって、いつも通りの表情だった。いや、少し微笑んでたか。

それと、アイズのお陰で『カドモスの皮膜』は一二〇〇万ヴァリスはいかなかったが、一〇〇〇万ヴァリスはいただいた。これで【ファミリア】が少し楽になる。………今度買い物に付き合うようにアイズに言われたが………まぁいいだろう。

 




アイズさんこんな感じでしょうか?

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