ダンジョンで無双するのはおかしいだろうか   作:倉崎あるちゅ

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三話

 

 

俺達の住むこの都市の名前は、迷宮都市オラリオ。

『ダンジョン』と通称される地下迷宮の上に築き上げられた巨大都市だ。

大雑把に説明すれば、『ギルド』を中核にしてこの都市は、ヒューマンを含めて様々な種族の亜人(デミ・ヒューマン)が生活している。

ダンジョンに潜り、モンスターを狩って得た収入で生計を立てる人達を冒険者という。冒険者以外にも、ちゃんと仕事をしている人達もいる。まぁ、駄神様もちゃんとアルバイトしてるしな。

かく言う俺も、単なる人になった時は【ロキ・ファミリア】行きつけの酒場でアルバイトをしたものだ。

俺とベルは、人気のない路地裏深くに行く。そこに建っているのは廃墟みたいな教会。

その中に入っていって、一番奥にある棚の裏にある地下へと伸びる階段を下って行き、目の前にあるドアを開ける。

 

「二日ぶりのただいま〜」

 

「神様、帰ってきましたー! ただいまー!」

 

俺は疲れたように言い、ベルは声を張り上げて足を踏み入れた。広がるのは地下室とは思えない生活感溢れる小部屋だ。まぁまぁの広さだと俺は思う。

ベルが呼びかけた人は、部屋に入ってすぐある紫色のソファーの上で寝転がっていた。仰向けの姿勢だった彼女は、ばっと起き上がった。

 

「やぁやぁお帰りー。今日はいつもより早かったね? アル君は二日ぶりだね」

 

「二日ぶりだな、駄神様。ちょっとベルが死にかけてな」

 

「駄神様言わないでくれよ。ベル君大丈夫かい? 君に死なれたらボクはかなりショックだよ。柄にもなく悲しむよ」

 

駄神様もとい、ヘスティアは小さな手をペタペタとベルの体に触れて、怪我がないか確かめている。

その気遣いに照れたのか、ベルは頬を染めている。

 

「大丈夫です。神様を路頭に迷わせることはしませんから。それに、アルさんもいますから」

 

「分からないよ? アル君はこう見えて薄情者だからね。ロキのところに行きかね--」

 

「行かないっての。とくにロキのところにはな」

 

俺がそう言うと、ベルはあーと納得した顔になった。

俺達二人の目の前にいるこの少女は、神様だ。俺達に『恩恵』を授けてくれた人である。俺より上の冒険者達、まぁ英雄みたいな人達よりスゴーい御方なんだ。

 

「それじゃあ、今日の君達の稼ぎはあまり見込めないのかな?」

 

「いつもよりは少ないですね」

 

「まぁ、な。一応二人で一万ヴァリスはあるが……。ヘスティアは?」

 

「ふっふーんっ、これを見るんだ! デデン!」

 

「そ、それは!?」

 

ベルが目を見開いて声を上げる。

 

「ジャガ丸くんだな。小豆クリーム味ある? ヘスティア?」

 

「露店の売り上げに貢献したということで、大量のジャガ丸くんを頂戴したんだ! もちろん、小豆クリーム味もあるよ! 夕飯はパーティーだ!」

 

「神様すごい!」

 

「神様すごいなー」

 

ベルは嬉しそうに言う。俺は棒読みで褒める。まぁ、本当にすごいことだ。こんな大量に貰ってきたんだから。

その後、俺達はジャガ丸くんでパーティーをすることになった。

 

 

♠︎❤︎♣︎♦︎

 

 

「さて、夕飯も食べたことだし、君達の【ステイタス】を更新しようか!」

 

「はい!」

 

「二日でどれくらい上がってるんだか」

 

一昨日と昨日は俺はずっとダンジョンに籠っていた。Lv.6にもなり、【ステイタス】もほとんどがSなので、俺の【ステイタス】は微々たる上昇しかない。だから俺はダンジョンにひたすら潜って、ソロで深い階層のモンスターを狩っている。あ、一昨日と昨日の『魔石』換金してない。明日するか。

更新はベルが先に行うことになった。ベルは上半身の服を脱いでベッドにうつ伏せに寝た。

 

「そういえば死にかけたって言ってたけど、何があったんだい?」

 

「ちょっと長くなるんですけど……」

 

ベルが口を動かしている間、ヘスティアはベルの背中を撫でた。その背中にあるのが【ステイタス】だ。それを書いてある文字を【神聖文字(ヒエログリフ)】という。【神聖文字】はヘスティア達、神様達しか読めない。いや、極一部の者達も読める。まぁ、その極一部に俺も入っているんだがな。

たまたま、アイズの【ステイタス】が見えて器用と魔力の次に敏捷が長けていたから、敏捷が上がる指輪をあげたんだし。決してストーカーとかじゃない。偶然だ。

とかなんとか考えていると、ベルの更新が終盤を迎えている。ヘスティアは自分の指に針を刺して、滲み出る血をそっとベルの背中に落とした。

血は比喩なしで波紋を広げて、背中に染み込んでいった。

 

「出会いを求めて下の階層って………アル君、なんで君は止めなかったんだい?」

 

「俺は結構深い階層に行ってたから」

 

「保険代わりの君がいるというのに………まぁいいよ。この通り、ベル君は無事なんだから」

 

【神聖文字】を弄って、ヘスティアは言う。

 

「それで、アイズ・ヴァレンシュタイン、だっけ? アル君の近くにいた人。その人だってお気に入りの男の一人や二人いるに--」

 

「駄神様? 無駄口叩いてないでさっさと更新しような?」

 

ヘスティア、お前は地雷を踏んだぞ?

俺は笑顔でヘスティアに言う。 ヘスティアは【ステイタス】の更新をしているためこちらに顔を向けられないが、雰囲気で分かったのだろう。少し震えている。首をひねってこちらに顔を向けているベルの表情は引き攣っている。

 

「………はーい……。でも、ベル君。出会いを求めてダンジョンに行こうなんて、危険だよ」

 

返事をして、ヘスティアはベルに警告した。どことなく機嫌が悪いように聞こえるのは気の所為じゃないだろう。なにせ、この駄神様はベルにゾッコンだからな。

 

「神様何か怒ってません?」

 

「怒ってない!」

 

いや、怒ってるだろ。誰が聞いても怒ってるわ。

 

「ま、他の【ファミリア】にいる時点で、ヴァレン某や他の女とは婚約できっこないけどね」

 

「………」

 

「………だよな……」

 

俺とベルは止めを刺された。

あぁ、分かってたさ。この駄神様は他の神様達と仲悪いからな。とくにロキ。その次にフレイヤ。一番仲がいい神様なんて、ヘファイストスぐらいなんじゃないか? こんなことなら、ロキに誘われた時に加入すれば…………いや、それもないな。有り得ない。

 

「はいっ、終わり! まぁそんなこと忘れて、すぐ近くに転がってる出会いってやつを探してみなよ」

 

「……酷いよ神様」

 

……確かに、すぐ近くにいるよな。このツインテールでロリ巨乳の神様が。まぁ、神様に手を出そうとは誰も考えないだろ。

ヘスティアはベルに用紙に書かれた【ステイタス】を手渡した。

俺もベルの【ステイタス】を見る。

 

ベル・クラネル

Lv.1

力:I 77→I 82 耐久:I 13 器用:I 93→I 96 敏捷:H 148→H 172 魔力I 0

《魔法》

【】

《スキル》

【】

 

うん。敏捷の上がりが凄いな。24も上がってるぞ。あと、相変わらず魔力は0なのな。

基本アビリティ--『力』『耐久』『器用』『敏捷』『魔力』の諸項目--は五つ。更にSからA、Bと続きIまでの十段階で能力の高低が示される。この段階が高ければ高いほど俺達冒険者の能力は強化される。

英文字の隣の数字は熟練度だ。0〜99がI、100〜199がH、というような感じで基本アビリティの能力段階と連動している。ちなみに999が上限。Sに近付くにつれて伸びは悪くなる。俺もよくもまぁ、Sに行くまで頑張ってたものだな。

あとはLv.だな。これは一番重要。一つ上がるだけで基本アビリティ補正以上の強化がされる。簡単に言えば、Lv.1のベルがLv.2のミノタロスに対して大負けすることだ。もしくは死ぬ。

 

「……神様。僕、いつになったら魔法を使えるようになると思いますか?」

 

「それはボクにも分からないなぁ。主に知識に関わる【経験値(エクセリア)】が反映されるみたいだけど……ベル君、本とか読まないでしょ?」

 

「はい……」

 

【経験値】とは、その名の通り経験したことだ。例えば、俺が太刀でモンスターを斬るとする。それが経験となり、【ステイタス】に反映される、となる。まぁ、俺もそこら辺は曖昧だがな。

 

「アルさんは魔法を使えますよね。どうやって使えるようになったんですか?」

 

「ん、俺はあまり荷物を多く持ちたくなかったんだ。だから転移系の魔法が載った本を読み漁ったな。本を読むのは好きだし」

 

「やっぱり本か………」

 

「まぁでも、別に本だけじゃないから。安心しろよ」

 

はい、とベルは項垂れて用紙を再度見た。

そこで俺は用紙に違和感を覚えた。ベルもそれに気付いたみたいだ。

 

「神様、このスキルのスロットはどうしたんですか? 何か消した跡があるような……」

 

「ん、あぁ、手元が狂ったんだ。いつも通り空欄だから」

 

ベルはカクン、と頭を下げてデスヨネーと言った。

 

「はぁ、すぐ強くなる方法ってないのかなぁ……」

 

そう呟いてベルはベッドから降りて、歯を磨きに行った。

さて次は俺の番だ。

 

「さてさて、お次はアル君だね。上脱いでね」

 

「はいはい」

 

俺は上半身の服を脱いでベッドにうつ伏せに寝た。ベルに対してやったように、ヘスティアは俺の【神聖文字】を書き替える。

しばらく経ち、更新は終了した。凄くくすぐったいから出来れば早めにやって欲しかった。地味にこういうところがSだよなヘスティアって。

 

「どれどれ? …………全然上がんねぇのな」

 

「まぁ、君はほとんどSだしねぇ」

 

アルス・レイカー

Lv.6

力:S 950→S 951 耐久:A 840→A 841 器用:S 903→S 904 敏捷:S 972→S 974 魔力:A 809→A 811

《魔法》

【転移魔法】

《スキル》

【刀神斬殺】

 

ほとんど1か2しか上がってないだろ。まぁ、仕方ないかもだけど。それに、魔力に関してはアイズより少ないしな。

指輪をつけた状態で力が951ということは、実質俺の力は931くらいだろう。

 

「いつ見ても、君のスキルは怖いね。【刀神斬殺】。神様でさえ殺せるんだから」

 

「安心しろ。神様なんて殺さないよ。そんな罰当たりなこと」

 

そう、しないさ。二度と。俺はもう二度と自分の主神を殺さない。あいつを殺す時に誓ったんだ。

ヴリトラ。お前と最後に交わした約束、裏切らないよ。

 

『絶対に……お前の次の主神に同じ道を歩ませないでくれ……! これが俺とお前の最後の約束だ』

 

血を流した状態で、俺と約束を交わすヴリトラの光景が俺の脳裏にフラッシュバックする。

俺もベルと同じように歯を磨きに行き、磨き終えて掛け布団を持って床で雑魚寝をした。




アルス君の前所属していたファミリアに関しては過去編を書きます。その時に分かると思います!

今日はこの話で終了します。ストックを書かないとなんで。あと、問題児も書かないと。

それでは失礼します。

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