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それでは、どうぞっ!
殺す、その言葉は冗談で言っていいものではない。
まぁ、以前俺はベートに向けて殺してやろうかとか思っていはいたが。口には出してなかったはずだ。
しかし今回、俺とアイズの目の前にいる少年は確かにそう言った。俺を殺すと。
「何故、俺を殺す?」
「……テウル様が、貴方を殺すように僕達に命じたからですよ」
「テウル、だと?」
その名前を聞いた瞬間、背中が粟立った。脳裏に奴の顔が映る。
俺の狼狽ぶりを見て、不思議に思ったアイズが近寄る。
「アル?」
俺に話しかけてくるが、俺は反応する余裕がなかった。右腕が震えて、その震えが構える太刀にまで伝わる。
「今度は、俺の命を奪いに来たか………あの馬鹿
歯を食いしばって、俺は忌々しげに吐き捨てた。
♠︎❤︎♣︎♦︎
兄貴、そうアルスは言った。
それを聞いたアイズは驚いた。アルスに兄がいるというのに驚き、その兄が弟であるアルスを殺そうというのにも驚いた。
「それで、あの馬鹿兄貴はなんて言ってた?」
トーンを低くして、眉間にシワを寄せるアルスの顔は、アイズが見たこともない程怒りを孕んでいた。
「あの方は、"アルの一番大切なものを奪え"と仰っていました」
「ふぅん、それで俺の命か……」
そう言うアルスは表情を一変させ、呆れたと言うような表情を見せてアイズを見た後、口を開いた。
「悪いな、俺の大切なものって、そう簡単に奪わせない。それにまだちゃんと伝えてないし」
アルスはクスクス笑って太刀を地面に突き刺した。そして彼は、だが、と続けた。
「奪えるものなら奪ってみろよ。俺の大切なもの自体知らないのにさ」
四人はアルスの大切なものを自分の命と勘違いしていた。しかし、彼の大切なものは自分が好意を寄せるアイズだ。それを知らないこの四人は、アルスの大切なものを奪うことはできない。
それにアイズ自身は第一級冒険者だ。そう簡単に殺されはしない。返り討ちにしてしまう光景しか浮かばない。
「自分の命じゃないのかよ………」
「これは、一杯食わされましたね」
アルスとアイズの目の前にいる少年以外の三人は苦い顔をして、撤退しようとジリジリ後退する。しかし目の前の少年はまったく表情を崩さなかった。
「なるほど。貴方の大切なものとは、そこにいる【剣姫】でしたか」
「………観察が得意みたいだな、少年」
アルスは目を細めて、目の前にいる青い髪にそばかすがある少年を見た。アイズは、少年の言葉を聞き、えっ、と戸惑いの声を上げてアルスを見た。
「どうするつもりだ? Lv.1のお前達じゃ、Lv.6の俺とLv.5のアイズに勝てると思ってるのか?」
「えぇ、勝てると思っていますよ。この魔剣があればね」
少年が取り出したのは、黄金に輝く短剣だった。だが、その黄金は綺麗な色ではなく少し濁ったような輝きを放っている。
「貴方のその太刀も、魔剣ですよね? じゃなきゃあの光は出ない。もうそろそろ魔剣の方は限界なのでは?」
得意げに笑う少年を見て、アルスとアイズは溜息をついた。溜息をついた二人に少年は苛立たしげに問う。
「何故、そんなに余裕でいられるんです」
「何故って、なぁ?」
「……うん」
頷き合う二人は可哀想な人を見る目で、息を合わせて言う。
「「魔剣はその人自身の力じゃない」」
「……くっ」
二人の指摘を受けて、少年は後ずさった。
二人の意見は最もだ。魔剣はその人自身の力などでは決してない。もちろんアルスの神剣も同様だ。
だが、少年は首をブンブン振って、魔剣を振りかざした。
「このっ……!」
黄金の光がアルスとアイズを襲う。アイズはそれを防ごうとして《デスペレート》を構えるが、アルスは何もせずにただ立っているだけだった。
すぐに黄金の光が二人を飲み込んだ。やったかと少年はにやりと笑う。
しかし、光は二人を飲み込んだと思った時には掻き消えていた。
「そんな………」
「なんだよあれ」
「……モンスター達に向けた攻撃と同じ……?」
光が掻き消え、そこに立っていたのは無傷のアイズと、髪と瞳の色が変わったアルスだった。
「ッたく、面倒くせぇな。なァ、アイズ?」
「………う、うん……?」
アルスの姿が突然変わり、口調も変わったので、アイズはパチパチ目を瞬かせた。
「あ、あとな、これ、魔剣じゃなくて神剣な。
普段なら見せない軽薄な笑みを浮かべて、アルスは一歩、前へ歩いた。それと同時に、彼が放つ神々しい雰囲気に気圧されて少年は後ずさる。
「なんだァ、ガキ。俺が怖ぇか?」
「な、なんなんですか、貴方は……っ!」
「あァ? 何って、俺は第一級冒険者、【剣王】アルス・レイカーだが?」
面倒くさそうにアルスは棒読みでそう言う。現在、彼の眼は面倒になってきたので若干眼が死んでいる。
少年は子供がよくするイヤイヤして、怯えで震える声を出す。
「ち、違う……貴方は、か、神ヴリトラ……」
「そりゃそうだろうなァ。なんせ、この力はアイツの力だからな」
アルスが言い終えた後、少年の横の壁に亀裂が走った。そこから現れたのはキラーアントよりも光沢があり、ゴツゴツした殻を持ったモンスター、『ラーピーアント』二体だった。
ラーピーアント二体は少年に襲いかかるが、攻撃を仕掛けるまで残り数
「敵と見なした対象を斬る能力なんだってよ、俺のコレ」
太刀をブンッと切り払って、アルスは少年に突きつけた。
「てめぇは、この力の前で何が出来る? 抗えるか?」
勝ち誇ることもなく、彼はただただ面倒臭そうに言うだけ。
その光景をボーッと見ているだけのアイズは無理だろうな、と思った。青髪の少年の後ろにいるヒューマンの少年、エルフの少女、獣人の少女は腰を抜かして立てないでいる。青髪の少年は俯いて、何も言わない。
それを好機と見たアイズは未まだヴリトラの姿でいるアルスに話しかけた。
「……アル、この子達、拘束した方がいい?」
「ん? あァ、その方がいいな。コイツらはギルドに突き飛ばして事情聴取した方がいい」
どうなるか知らんがな、と最後にアルスは言って転移で出現させた数本の長い縄をアイズに半分渡して青髪の少年、ヒューマンの少年を縛り上げた。アイズも少女二人を縛って、アルスの下へ連れていく。
「完了っと………悪かったなァ、アイズ。巻き込んで」
振り返って、アルスはアイズに微苦笑を見せて言った。彼の綺麗な黄金色の眼とアイズの金色の眼が合う。
神秘的なアルスの眼に見つめられて、アイズは若干頬を赤く染めて視線を逸らした。
「どうしたァ、アイズ?」
「なんでも、ない……」
普段とは違った姿、違う口調、尚且つ見つめられ、アイズは胸が締め付けられるような感覚に陥ってしまい、どうしたらいいか頭が混乱している。
対してアルスは、そんなアイズのことなど露知らず、四人の冒険者達を縛る縄を握って、次にアイズの手を握った。
手を握られたアイズは一瞬ビクッと肩を震わせ、アルスを見た。
「っ……あ、アル……?」
「ん? あァ、悪ィな、ギルドの連中に事情話さないといけねぇからアイズにも頼みてぇんだ」
「う、うん……わかった………」
頷くアイズだったが、アルスの手がアイズの手を握っており、彼女は顔を赤くして俯くことしか出来なかった。
アイズの行動がいまいち分からないアルスは、首を傾げる。
「んじゃあ、このまま転移するからなァ。【
アルスは詠唱式を唱えて、四人の冒険者達とアイズと一緒にギルドへと転移していった。
♠︎❤︎♣︎♦︎
ギルドに着いた俺達は軽い目眩に襲われたが、すぐにそれは治った。
俺は神化を解除して普段の姿に戻って、ギルドの職員を探す。
ちなみに現在、ギルドの中にいるのだが、突然人が虚空から現れるのははばかられると思い、人の目があまりないところに転移しているので大丈夫だ。
「あ、アル……そ、その……」
「なに、アイズ?」
躊躇いがちにアイズが話しかけてくるので、俺は彼女の方を振り向いて訊ねる。もじもじするアイズを見て、俺は一瞬可愛いなぁ、と思ってしまった。
いや、可愛いんだよ? ただ、今はこの四人を突き出さないとさ。
「さっき、その……その子が言ってた、アルの大切なものの話……」
その子が、と言ってアイズは未まだ俯いている青髪の少年を指差して、さっきの話の件を俺に訊く。
「あ、あぁ……その事か。それは、また今度な……」
変な汗をかいて、俺は逃げるように別の機会に移した。
俺の言葉を聞いたアイズは、少し残念そうに俯いていた顔を一層俯かせる。当然、俺だって
「……さて、早く終わらせてもう一回ダンジョンに篭もりたい」
まだ朝の八時くらいだ。これから少し深い階層に行っても大丈夫なはずだ。
「……うん。アル、私もアルについて行っていい?」
「あぁ、アイズがいれば、楽になるからな。一緒に行こう」
俺は彼女に向けて頷き、四人をズルズル引き摺ってギルドの中を歩いた。
それから、俺とアイズは四人を引渡して軽い事情聴取を受け、すぐに解放された。四人のことが分かり次第俺達二人のところに連絡が来るそうだ。
おそらくだが、俺が思うにあの四人はそう簡単に口を割らないだろう。だが、俺が事情聴取を受けた時に、俺はあの四人と俺の兄貴が繋がっていることを話した。後は、時間の問題だ。
馬鹿兄貴一一テウル・レイカー。奴だけは、許さない。俺から両親と、あいつを……
自分の弟に、大切なものを奪え、とか。こいつ兄貴じゃないと書いている最中思ってました。
てか、そんなことより、今回も拙い文で申し訳ありませんでした。次回はしっかりと書きますので。………いや、前回と今回、適当になんてやってませんからね? しっかり書いてましたよ? バイトの休憩の時にずっと書いてましたし………。石投げないでくださいね? 痛いのはやですよ? (涙目)
感想、待っていますねっ! なんか、この辺こうしたらいいと思う箇所がありましたら言ってください。……その代わりにお手柔らかくお願いしますよ? (震)
それでは、失礼致しましたっ!