ダンジョンで無双するのはおかしいだろうか   作:倉崎あるちゅ

2 / 27
問題児書いている途中なのに何をやっているんだ、私は!

どうぞ


冒険者
一話


ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?

自分より三つ下の少年にそう問われ、俺は即答した。

 

「間違いだ」

 

苦笑いを隠さないで、俺は少年に言った。問いかけた少年--ベル・クラネルはがっくりと肩を落とした。

この問いかけは数週間前のことだ。

現在俺は、迷宮都市オラリオにあるダンジョンの17階層にいた。

小太刀二本を腰に帯刀して歩いていると、モンスターの咆哮が聞こえた。それに続き剣戟も。

 

「誰がいるのかなぁ。まぁ、関係ないけど」

 

早くここら辺片付けてベルと合流しないとな。あいつ怪我しなかったらいいけど。

そう思っていると、咆哮と剣戟がだんだん近くなってくる。

 

『ヴヴォォォォォ!!』

 

「おらぁぁ!」

 

獣人の青年がミスリル製のメタルブーツで牛頭のモンスター、ミノタウロスを蹴り飛ばした。

その直後、その青年の目が俺の目と合った。

 

「おい、アルスじゃねぇか」

 

「………な、ナンノコトカナ」

 

彼の名前はベート・ローガ。狼人(ウェアウルフ)の冒険者だ。

ベートは仲間に後を任せて、ズカズカと俺に近づいてきた。

 

「おいおい、何とぼけてんだ? お前の姿は目立つからな。ある意味で」

 

ニヤニヤと笑うベート。俺は少しうんざりした気分で言った。

 

「ある意味で、は余計だ。黒の何が悪い」

 

俺の姿は黒のロングコートに紫色の手甲と胸当てを付けている。それに柄が黒い小太刀二本を帯刀しているだけだ。

 

「いやぁ? いいんじゃないか、どーでも」

 

「……何が言いたいんだベート」

 

イライラ、とうっすら青筋が出そうなほど俺は苛ついていた。

こいつがいるってことは【ロキ・ファミリア】だ。こんな深い階層にいるなら遠征だろう。ということは、あいつが--

 

「アル? どうしてここに?」

 

「っ!? ………あ、アイズ……」

 

ゴクリと固唾を飲んで、俺はベートの後ろを見た。そこには女神のような美少女がいた。

蒼と白の軽装で、自己主張をする胸を胸当てで押さえている。髪は真っ直ぐ伸びた金髪で、瞳は金色だ。

 

「アル、冒険者にまたなったの? どこの【ファミリア】に入ったの?」

 

神の眷属(ファミリア)】とは、簡単に言うと、神様による派閥のことだ。例えば、この目の前の美少女、【剣姫(けんき)】アイズ・ヴァレンシュタインはロキという神様の【ファミリア】に入っていて、その【ファミリア】の名前は【ロキ・ファミリア】という。

冒険者は神様の『恩恵』がなければダンジョンに潜ることは出来ないのだ。『恩恵』がないその他の人々は色々な商売をすることになる。

俺はある事件で、所属していた【ファミリア】が解散されて、一度単なる人に戻った。しかし最近--というより約半月前だが--俺は、神様一人に構成員一人の【ファミリア】に入った。

 

「……別に、いいだろうそんなこと」

 

目を逸らして、俺は呟いた。だが、アイズは俺に詰め寄った。

 

「……気になる。教えて」

 

「…………【ヘスティア・ファミリア】っていう小さな【ファミリア】だ」

 

間近にアイズの顔があり、俺はドギマギしながら口を割った。本当に俺ってお人好しだよな……

 

「……そう。でもよかった。アルがまた冒険者になってくれて」

 

少し、ほんの少しアイズは微笑んだ。僅か過ぎて表情の変化が分からないだろうが、間近にいるせいか分かった。

直後、アイズとベートの仲間がミノタウロスを狩り損ねた。

 

『ヴヴォォ! ヴゥムゥゥ!』

 

ミノタウロスはもうスピードで俺達の方へ走ってきて、俺達を通り過ぎていって上の階層に上がっていってしまった。

……上?

 

「ファっ!? や、やばい。上にベルが!」

 

確か、ベルは5階層に行くと言っていた。少しぐらいなら大丈夫だろうと思っていたが、ミノタウロスがそっち行ったらヤバ過ぎる。俺がヘスティアに殺される。

 

「じゃあな、アイズ! ベート!」

 

俺は叫んで、上の階層へ走り出した。

敏捷はS972もあるため、後ろから追いかけてくるアイズ達より速い。

数秒後、ミノタウロスに追いついて、俺は小太刀二本を抜刀してミノタウロスの大きい背中を切りつけた。

だが、

 

「ちっ! 浅いか……」

 

浅かったらしくミノタウロスは上の階層へ逃げていった。俺の思考は、ある一つのことで埋め尽くされた。

やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。

Lv.1のベルにミノタウロスはキツ過ぎる。というより無理だ。

 

「クソ牛が! 逃げんなこらぁ……!!」

 

俺の呟きが聞こえたかどうか分からないが、ミノタウロスは恐怖の声を上げた。

そして、ミノタウロスはあっさり5階層についてしまった。もちろん、背中を切りつけているが、決定打になっていない。

俺は走りながら周りを見てみる。すると、

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

前方に、ミノタウロスを見て全力疾走している白髪の少年を見つけた。あれはベルだ。

 

「ベル! そのまま走ってろよっ!」

 

「え!? アルさん!? 助けてくださいぃぃ!!」

 

「馬鹿! 振り向かないで走ってろ!」

 

声をかけなきゃ良かった。そう後悔するが、後悔しても遅い。その前に、あのミノタウロスを倒さなければ。

俺はふいに後ろを振り返った。後ろにはアイズが俺ほどではないにしろ、速く走っている。

 

「うわあぁぁぁ! アルさんんんん! 助けてぇぇぇ!」

 

ベルが、泣きながら逃げている。後もう少しで追いつきそうなのだが、如何せん確実に殺す間合いに入っていない。《魔法》は使えるが、あれは生物以外なので今は使えない。

しばらく追いかけっこが続いていたのだが、ベルが行き止まりの方へ逃げてしまった。ミノタウロスはそんなベルを攻撃しようとしていた。

 

「間合いに入ったな……! 【転移(シフト)】」

 

確実に殺すなら、スピードじゃなくパワーだ。

俺は小太刀二本を転移させて大太刀を代わりに出した。紫色の柄に銀色の鍔。鞘は艶のある黒。そして、鞘走る刀身は仄かに紫色がかった綺麗な白銀。

 

「はあぁ!!」

 

抜刀して、ミノタウロスを横一閃した。速く、綺麗に斬られて出血するのに誤差が生じるほどだった。

ミノタウロスが倒れるちょうどに、アイズが到着した。綺麗に斬られているミノタウロスを見てアイズは目を瞬きさせている。それが、なんとも可愛………何考えてんだ俺。

 

「あ、アルさぁぁん!」

 

涙を流して、俺にしがみつくベル。十四歳なのだから、こうやって泣くのも当然だろう。

 

「よしよし、怪我ないかベル? 」

 

「はいぃぃ」

 

鼻水を俺のコートに擦り付けるかのようにしているベルを見て、俺は苦笑した。

若干ミノタウロスの血がついてるけど、大丈夫みたいだな。……なんか後ろから視線が凄いな……

 

「アル。その子、大丈夫?」

 

「あぁ、大丈夫みたいだ。………というより、なんでお前は俺の太刀を見ているんだ」

 

「アルがこれ使ってるの見たことないから」

 

俺は太刀をアイズの視界から遠ざけようとすると、回り込んで見てくる。やめてくれ、近いから。

俺とアイズのやりとりを見ていたベルは、爆弾発言をしてきた。

 

「アルさんって、アイズ・ヴァレンシュタインさんとそういう関係だったんだ……!」

 

目をキラキラさせて、ベルは言ってくる。

ベルはダンジョンに出会いを求めている。まぁ、このくらいの歳にそんなことを思うのは仕方ないが、それでもベルは美少年なのに頭が残念みたいだ。冒険者の素質はあると思うのにな。

 

「違うからな。俺とアイズはそういう関係じゃない」

 

「……即答しなくてもいいのに」

 

アイズが少し不満そうに俺を見る。

俺だって美少女で強いアイズと、恋人同士になりたくないかと言われれば、なりたい。だが、残念ながら俺には釣り合わないだろう。

 

「違うんですか? 僕はてっきりそう思ってたんですけど」

 

「違う違う、こいつとは前にダンジョンで会って知り合っただけだ」

 

「………そこまで、否定する?」

 

冷ややかな視線を受けるが、俺は耐える。

だが、忘れていた。ダンジョンに出会いを求める人物が近くにいることに。

 

「ダンジョンで!? アルさん、僕の質問に間違いだ、って言ったのに」

 

「………俺はお前と違ってダンジョンに出会いを求めてるわけじゃないからな。アイズはたまたまだ。それよりアイズ、俺達は帰るよ。ベートに絡んでくるなって言っといてくれ、じゃあな」

 

「あっ………」

 

俺はミノタウロスから出てきた少し大きい【魔石の欠片】を拾って、ベルを連れて歩く。

アイズが何か言いかけたが、俺は黙って歩いて行く。

 

「……アルの馬鹿……」

 

………悪いな。気付いてるよ、お前の気持ちは。けどな、俺にはその度胸がないからな。

俺はそう思いながら、ベルと一緒に帰って行った。

 

 

 

♠︎❤︎♣︎♦︎

 

 

 

「はぁ………本当に最低だな、俺は」

 

溜息をついて、俺は自分を卑下した。何をと言われれば、自分の度胸の無さだ。

俺はアイズとの会話のことを街を歩いている最中でもズルズルと引き摺っていた。

 

「アルさんってヴァレンシュタインさんのことを……」

 

ベルが怪訝そうに俺に訊く。俺は微笑んで、乱暴にベルの頭をワシャワシャ撫で回した。

 

「まぁ、な。でも俺は度胸もないし、それほど強くもないしな」

 

「そんなことないですよ! アルさんは強いですから。特に、太刀を持ったアルさんは無敵ですよ!」

 

年下に慰められるのは、なんだか不甲斐ないな。てか、

 

「度胸がないのは否定してくれないのな」

 

「あ……」

 

「まぁいいけどさ……」

 

そんな話をしながら、俺達はダンジョンを運営管理する『ギルド』に入っていく。

すると、ベルのアドバイザーであるエイナ・チュールというエメラルドの瞳を持った、茶髪でセミロングのハーフエルフの女性が小冊子を読んでいた。

ベルは小冊子を読んでいるエイナさんに声をかけた。大声で。

 

「エイナさぁああああああんっ!」

 

「うわ、うるせぇ……」

 

思わず耳を押さえる。ベルはそれほどの大声を出していた。

 

「ん?」

 

大声で分かったのだろう。エイナさんは小冊子から顔を上げた。

エイナさんは俺達というより、ベルの体を眺めみて怪我がないか確認して微笑んだ。

 

「エイナさぁああああああああああんっ!」

 

だが、ベルの白髪と顔、腕に飛び散るドス黒い血を見てエイナさんの微笑みは崩れた。

 

「うわああああああああああああ!?」

 

あまりの驚きにエイナさんは小冊子を放り捨てた。その小冊子が他の人にぶつかりそうだったので俺は《魔法》で転移させて机の上に置いた。

 

「聞いてくださいよぉおおっ! アルさんとアイズ・ヴァレンシュタインさんって--」

 

「ベルぅううううう!? お前は何言ってんだァああ!?」

 

ベルが口走りそうだったので俺は、転移で取り出した小石をベルの背中に向けて投げた。

 

「へぶっ!?」

 

見事にクリーンヒットして、前のめりに倒れた。

まったく、こいつは……!! 余計なことを言うんだから……!

前のめりに倒れたベルを見て、エイナさんは目をパチパチと瞬かせていた。




主人公はアイズさんのことが好きです。まぁ、私がアイズ可愛いなぁと思ってこれを書いてしまっているので………
ですが、後悔はしていません。

それでは失礼します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。