ダンジョンで無双するのはおかしいだろうか   作:倉崎あるちゅ

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だいぶバイトに慣れましたけど、大変ですね………仕事って。これまでバイトしたことなかったので大変為になるのですが、もう体がだるいんですよねぇ……

まぁ、私のことはどうでもいいですネ。

それではどうぞ!


二話

 

 

あれから一日経った。

そう。つまりは今日はベルとエイナさんのデートの日だ。昨日はどうやって尾行してやろうかと色々模索したが、結局は単純な後を尾ける形となった。

仕方無いだろう。尾行系のスキルや魔法なんて無いんだから。フウなら出来そうだが。

昨日は教会の地下室ではなく【ヘスティア・ファミリア】に入る前にお世話になっていた宿舎で寝た。何故かと言えば、ベルと一緒に出てはバレると思ったからだ。

 

「さぁ、今日は楽しみだ♪」

 

満面の笑みを浮かべて俺は宿舎の店主に声をかけて宿舎を出ていく。

しばらく歩いて、オラリオ北部の大通りと面するように設けられた半円形の広場に着いた。

キョロキョロと周りを見回すと、見慣れた白い髪が見えた。

 

「お、ベル君発見」

 

ニヤニヤ笑ってベルを見張る。

くくっ……ベルの奴そわそわしてる。まぁ、分からなくもない。

この買い物はベルの防具を買うためのもの。内容はそうなのだが、形式的にはデートという(てい)で見られる。

ん? そろそろ十時か。ならエイナさんが来る頃かな。

俺がそう思っていると、ちょうどエイナさんが手を振ってベルの下へ来た。

 

「おーい、ベールくーん!」

 

「!」

 

おーおー、顔を赤くしちゃって。やっぱりベルの反応は面白いな。見てて飽きない。

 

「おはよう、来るの早いね。なぁに? そんなに新しい防具を買うのが楽しみだったの?」

 

「あ、いやっ、僕は……!」

 

あの反応からして二人っきりの状況を意識してたな。本当にベルは初心だよあいつ。

 

「まぁ、実は私も楽しみにしてたんだよね。ちょっとワクワクしちゃってっ」

 

あ、これはベル君に脈アリですね。エイナさんに恋愛フラグ建ってるぞベル君! よかったな!

とと、そんなことよりそろそろ出発か。そういえばエイナさんの服装、随分可愛らしいな。白のブラウスにミニスカート。あとは黒のニーハイか。ギルドの制服を見慣れてるから違和感がある。

 

「あいたたたたたたったたっ!?」

 

「ほら、謝れー!」

 

「や、やめっ、許してくださぁぁああああいっ!?」

 

なんだかベルとエイナさんはイチャついているようだ。なんとも平和なひと時だな。

これをもしヘスティアが見たら発狂するだろうなぁ。

などなど考えていたら二人は動き出してしまった。見つからないように俺は二人の後を追うが、

 

「アールっ!」

 

「………」

 

急に首に抱き着かれた。正体など分かりきってる。というより明白だ。この綺麗なソプラノの声、背中に伝わる柔らかな感触。その正体は--

 

「離れろ、フウ」

 

「えー、いいでしょ? これもわたしの愛情表現なんだから」

 

「離れろ」

 

二度目でフウはブーたれながらも離れる。何故こいつは会ったら必ず抱き着くんだ。大して俺のことを好きでもないのに。

 

「それで、アルはなんでコソコソしてるの?」

 

ベルとエイナさんを追って歩き出した俺についてきて、フウはそのアイスブルーの瞳を俺に向けてきた。俺は紺色パーカーのフードを深く被り、そこから見える眼でフウを見た。

 

「アレだよアレ」

 

そう言って10M(メドル)程離れたところを歩いているベルとエイナさんを顎で指す。二人の楽しそうな雰囲気を察したフウは、なるほどと呟いた。

 

「へぇ………アルはあのハーフエルフちゃんが好みなの?」

 

「はあ? 何言ってんだお前。俺は二人のデートを生暖かく見守ろうとだな……」

 

なにやらフウの疑問の視線が気になるが、いつも通りスルーする。

二人が向かうのはどうやら摩天楼(バベル)のようだ。

バベルとは、ギルドが所有する超高層の塔のことだ。それは地下迷宮(ダンジョン)に蓋をするかのように建っている。バベルは冒険者のための公共施設という役割を持ち、簡易食堂、治療施設、換金所という多種多様の施設がある。そして、二人が行くのはバベルにある【ヘファイストス・ファミリア】の鍛冶屋のテナントだろう。あそこはたまに掘り出し物があって中々いい。

 

「そろそろエレベーターだな……フウ」

 

「んー? 何?」

 

「お前のお得意の認識阻害の魔法頼むわ」

 

「えへへ、頼まれちゃ仕方無いわね♪」

 

なんでか知らないが、一気に上機嫌になったな。

そのままフウは俺の方に体を向けて俺の手を取る。目を瞑って小さく呟いた。

 

「【阻害せよ(インヴィベーション)】」

 

一瞬、若緑色の光が俺とフウを包んだ。

 

「うん、これでOKよアル」

 

「さんきゅな、フウ。よし、行くぞ」

 

フウが使ったのは、認識阻害の魔法。他人は俺達を知覚することは難しくなるということだ。

そのまま俺達は手を繋いだまま二人をついていく。何故繋いだままなのか、それは、繋がなければ二人以上は無理なのだ。直接的、間接的にもフウに触れなければ効果は発揮しない。

 

「分かってると思うけど、声出してもバレないから安心してね」

 

「あぁ、分かってる。……にしても本当に便利だな」

 

「まぁね。これで色々な依頼を達成出来たし」

 

手を繋いで歩きながら会話する。第三者がこれを見ればデートだが、残念ながら--この場合第三者に対して--デートではなく尾行だ。

二人がエレベーターに乗り込んだのを見て、俺達も急いで乗り込む。密閉空間でどんなに騒いでもバレはしない強力な魔法なので大丈夫だ。

 

「え、エイナさん……僕、【ヘファイストス・ファミリア】で買い物できるお金なんて無いですよ?」

 

「ふふふ、大丈夫よ。今から行くところは目的の場所ではないけれど、そこも【ヘファイストス・ファミリア】のテナントだから、見てみよう?」

 

ふむ。ベルの防具はやはりヘファイストスのところで買うのか。

かく言う俺も、Lv.1の時は【ヘファイストス・ファミリア】の防具を使ったものだ。今は【ゴブニュ・ファミリア】だけど。

 

「そう言えば、アル」

 

「ん、なんだ?」

 

俺は隣にいるフウを見下ろす。身長の高低差があって自然とフウは俺を上目遣いで見るようになる。

 

「アルって『魔剣』って持ってたっけ?」

 

突然、フウが今の俺には到底手に付かないことを言ってきた。俺は握っている彼女の手をギュー、と力を込めて言う。

 

「持ってるわけないだろうが。現状は金が足りないんだよ」

 

「痛いってアルっ。ごめん、ごめんなさいっ!」

 

最後にグッ、と力を入れてすぐに緩く手を繋ぐ。フウは少し涙目になりつつも、言葉を紡いだ。

 

「えっと、魔剣の話をした理由はね、アルにちょうどいい魔剣を持ってきたのよ」

 

「……何?」

 

すっ、と目を細める。

魔剣というのは、普通、魔法を使う時は詠唱が必要なのだが魔剣は無詠唱で魔法を行使する剣で消耗品なのだ。そして効果は低い。

 

「どんな魔剣なんだ?」

 

「えーっとね、まだ使ってないから分からないけど、製作者は()()()が出るって言ってたよ」

 

黒い焔だと? そんな焔、有り得るわけが……。いや、有り得る。俺がヴリトラの力を使った時に似たようなものが漏れ出ていた。なら、それに近いものだとすれば……確かめてみる価値はあるか。

 

「……フウ、尾行は無しだ。すぐダンジョンに行くぞ」

 

「えっ!? 今から!?」

 

エレベーターの扉が開き、 ベルとエイナさんが出ていく。俺はすぐさまエレベーターのボタンを押して下にエレベーターを向かわせる。

俺の頭の中は、もう魔剣のことでいっぱいだった。もしヴリトラの力との関係があれば、以前使った力を出力を抑えて使うことが出来るかもしれない。

ふと、製作者の所属してる【ファミリア】が気になった。下に向かいながら、俺はフウに聞いてみた。

 

「製作者の所属してる【ファミリア】は?」

 

「【ゴブニュ・ファミリア】だけど……」

 

そうか……なら、ならヴリトラの力との関係がある可能性が高い。ゴブニュとヴリトラは仲が良かったから。

あれこれ考えていると、不意にフウが俺の顔に手を添えた。

 

「どうした、フウ?」

 

「………なんだか、アルが怖い顔してたから……」

 

背が俺よりも低い彼女は、少し背伸びして手を差し延べる。彼女のそのアイスブルーの瞳は悲しそうに潤んでいた。

俺は、ふっ、と笑った。

 

「なんでもない。どんな魔剣なのか、考えてただけだから」

 

「…………そう……」

 

その時、エレベーターの扉が開いた。もう尾行するわけではないので手は繋いではいない。

それから俺達は一旦フウの装備を取りに戻り、ダンジョンに潜ることになった。俺の装備は転移させて装着している。

そして今、ダンジョンの16階層に俺達は足を踏み入れた。ここの方がやりやすいからだ。

 

「さて………フウ、魔剣見せてくれ」

 

フウの方に体を向けて言う。彼女は頷いて腰につけた鞘から短剣を抜いた。その短剣は刃以外全部白。刃の色は深い紫色。その深い紫色に引き込まれる感覚に陥るが、なんとか正気を取り戻す。

 

「これが、黒い焔を出す魔剣……か」

 

「うん……」

 

手渡される短剣を握って、俺は掲げて見る。

確かにこれは魔剣だろう。だが、何かが違うように思えた。なんだろうか、この感覚は。

魔剣に魅入っているとフウが俺の裾を掴んで揺すった。

 

「アル、一回使ってみれば? わたし見たくて我慢できないよ」

 

「……はいはい、分かったから揺するな」

 

はーい、と言ってフウは裾を離した。

フウが少し離れたのを確認して、俺は短剣を前に突き出した。そしてちょうど良く、ダンジョンの壁が割れてモンスターが生まれ落ちた。

 

『ブモォォォッ!』

 

現れたのはミノタウロス。

そのミノタウロスに向けて俺は短剣を振りかざした。

 

「行っけ---!」

 

振りかざす瞬間、仄かに黒い焔が散ったように見えたが、振りぬいた後には黒い焔なんぞ何も出なかった。

 

「「はぁっ!?」」

 

『ブゥゥムゥ?』

 

俺とフウは間抜けな声上げてミノタウロスも声を上げた。当の短剣はリィン、と鈴が鳴ったような音を出していた。




さて、ミノタウロスを目の前にして魔剣が不発のアル君。どうなるのかお楽しみにしてください。
それにしても今回はフウ成分が多いですね。彼女は果たしてアル君のことをどう思ってるのやらww

感想お待ちしております!

それでは失礼しますっ。

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