「…………これはまた……」
「凄いッス」
「凄いドン」
「凄えだろ」
褒めてない。
十代に新しいデッキの調整をすると言われて見物しに十代の部屋に行くと、前回のデュエルが奇跡と思えた。丸藤と剣山も同意見らしい。床に広げられたデッキを見て呆然としている。
デッキ枚数が60枚。【融合】と【ミラクル・フュージョン】、【バブルマン】以外は1枚だけしか入っていない。こんなデッキで勝った十代が凄いのか、こんなデッキに負けたエドが弱いのか……判断に迷う。
エクストラは【ネオス】を素材にしたモンスターを限界まで入れ、余った枠に【フレイム・ウィングマン】等のカードを入れて15枚。
「【ネオス】を使うなら、【ネオス】を中心にデッキを構築すれば楽だろ。
他の【HERO】は正直入る枠がほとんど無いと思うんだが……」
あとこの【
横から口出しする俺の言葉が耳に入っていないのか、十代はあーでもないこーでもないと四苦八苦しながら60枚デッキを調整。完成したらしいので、テストプレイに付き合うことに。
レッド寮の前に移動して互いにデュエルディスクを展開する。丸藤と剣山は見学だ。
「「デュエル!」」
宮田龍斗
LP4000
VS
遊城十代
LP4000
デュエルが始まると、俺達の声が聞こえたのか、明日香が部屋から出てきた。
「先攻は俺だ。俺の墓地に魔法・罠がない場合、このモンスターは手札から特殊召喚できる!【超重武者ビッグワラーG】を特殊召喚!」
【超重武者ビッグワラーG】
守備表示
ATK800/DEF1800
機械でできた草履1セットを重ねて、頭を付けたようなモンスターが現れる。
ノース校との交流試合で御蔵入りになった【超重武者】デッキで相手になってやる。
「そして【ビッグワラーG】は、機械族モンスターをアドバンス召喚する場合、2体分のリリースにすることができる!【ビッグワラーG】をリリースして、レベル8の【超重武者ビッグベンーK】をアドバンス召喚!」
【超重武者ビッグベンーK】
攻撃表示
ATK1000/DEF3500
二又の槍を持った大男が現れ、槍の柄を地面に突き刺して仁王立ちになった。
「【ビッグベンーK】の効果!召喚・特殊召喚に成功した場合、自身の表示形式を変更する!」
【超重武者ビッグベンーK】
攻撃表示→守備表示
ATK1000→DEF3500
表示形式が変わったが、【ビッグベンーK】は微動だにしない。これが守備表示で先にこの状態になったのか?
「いきなり守備力3500!?」
「アレを突破するのはかなりキツいドン!」
丸藤と剣山は【ビッグベンーK】の守備力に驚いている中、明日香は十代がどう突破するのか気になるようで、十代に視線を向けていた。
「俺はこれでターンエンド!」
宮田龍斗
LP4000
モンスター
【超重武者ビッグベンーK】:守
DEF3500
魔・罠
無
手札3枚
「俺のターン、ドロー!【E・HERO バブルマン】を召喚!」
【E・HERO バブルマン】
攻撃表示
ATK800/DEF1200
「【バブルマン】の効果発動!場に他のカードがないので2枚ドロー!」
遊城十代
手札5枚→7枚
いきなり【強欲なバブルマン】か。無駄に枚数が多い今のデッキにはありがたいカードだ。
「魔法カード【フェイク・ヒーロー】発動!手札から【E・HERO】を特殊召喚する!来い!【ネオス】!」
【E・HERO ネオス】
攻撃表示
ATK2500/DEF2000
早速登場した【ネオス】。60枚デッキのはずだが、思いの外回っているのか?
「さらに永続魔法【魂の共有ーコモンソウル】発動!【ネオス】を対象に、手札の【N・フレア・スカラベ】を特殊召喚!」
【N・フレア・スカラベ】
攻撃表示
ATK500/DEF500
「【コモンソウル】の効果で、【ネオス】の攻撃力は【フレア・スカラベ】の攻撃力分アップする!」
『今は関係無いんだけどな』と笑みを浮かべる十代は、すぐに次の手を見せた。
「【ネオス】と【フレア・スカラベ】でコンタクト融合!」
【ネオス】と【フレア・スカラベ】が飛び上がり、遙か上空で1つになる。
「現れろ!【フレア・ネオス】!」
【E・HERO フレア・ネオス】
攻撃表示
ATK2500/DEF2000
「【フレア・ネオス】の攻撃力は、フィールドの魔法・罠1枚につき400ポイントアップする!」
【E・HERO フレア・ネオス】
ATK2500→ATK2900
「だが攻撃力2900では、守備力3500の【ビッグベンーK】は倒せないぞ」
「カードをさらに2枚伏せる。これで、攻撃力がさらに800ポイントアップだ!」
【E・HERO フレア・ネオス】
ATK2900→ATK3700
「攻撃力3700!【ビッグベンーK】の守備力を上回ったッス!」
「バトル!【フレア・ネオス】で【ビッグベンーK】を攻撃!バーン・ツー・アッシュ!」
【フレア・ネオス】が全身に炎を纏って【ビッグベンーK】に突撃してくる。
「手札の【超重武者装留ファイヤー・アーマー】の効果発動!手札のこのカードを捨て、俺のフィールドの【超重武者】1体を対象に発動!ターン終了時まで、対象モンスターは守備力が800ポイントダウンし、戦闘・効果で破壊されなくなる!」
【ビッグベンーK】が炎をモチーフにした鎧を身に纏い、【フレア・ネオス】の攻撃を受け止めた。
【超重武者ビッグベンーK】
DEF3500→DEF2700
「手札から防いでくるか……俺はこれでターンエンド!」
攻撃を防がれたが、十代は楽しそうに笑顔を見せ、ターンエンド宣言。
すると、【フレア・ネオス】が7色の光に包まれた。
「【フレア・ネオス】……!?」
戸惑う十代を尻目に、【フレア・ネオス】は十代のデュエルディスクに戻っていった。
丸藤、剣山、明日香はもちろん、十代も戸惑い、デュエルディスクに戻った【フレア・ネオス】に呼びかけていた。
「おそらく【フレア・ネオス】……もっと言えば、【ネオス】の融合体はターンエンドと同時にデッキに戻る効果なんだろう」
「マジで!?だから【フレア・ネオス】がデッキに……」
推測に近いニュアンスで十代に声をかけたあと、俺はデッキトップのカードに手をかける。
遊城十代
LP4000
モンスター
【E・HERO バブルマン】:攻
ATK800
魔・罠
【魂の共有ーコモンソウル】
伏せ2枚
手札1枚
「俺のターン、ドロー!このモンスターは俺の墓地に魔法・罠が存在しない場合、手札から特殊召喚できる!チューナーモンスター【超重武者ホラガーE】を特殊召喚!」
【超重武者ホラガーE】
攻撃表示
ATK300/DEF600
赤茶色の鎧と法螺貝が特徴の小さい人型モンスターが、法螺貝を吹きながら現れた。
「レベル8の【超重武者ビッグベンーK】にレベル2の【超重武者ホラガーE】をチューニング!
荒ぶる神よ、千の刃の咆哮と共に砂塵渦巻く戦場に現れよ!シンクロ召喚!出陣せよレベル10!【超重荒神スサノーO】!」
【超重荒神スサノーO】
守備表示
ATK2400/DEF3800
肩と肘から先、膝から下が緑、それ以外が黒のカラーリングで、肘と膝には黄色い円筒状の部品が付いた数メートルの大きさの人型モンスターが薙刀を持ってフィールドに胡座をかいた。
「守備力3800!?」
「さらに手札の【超重武者装留ダブル・ホーン】は、フィールドの【超重武者】モンスター1体にこのカードを装備カード扱いで装備する!」
「だけど、龍斗の【スサノーO】は【超重武者】じゃーーー】
「そして【スサノーO】は自身の効果でルール上、【超重武者】として扱える。よって装備可能だ」
十代に割り込むように解説しながらカードをデュエルディスクに差し込むと、巨大な2本の青いツノを持った鎧が現れ左右に分かれ、【スサノーO】の肩に装備される。
「バトル!」
「守備モンスターしかいないのにバトルッスか!?」
「【スサノーO】は守備表示のまま攻撃できる!」
「守備表示で攻撃してくるザウルス!?」
丸藤と剣山が驚いているが、十代は面白いものを見ているように笑顔を見せる。明日香は真剣にデュエルを見ていて、何を考えているのかわからない。
「このとき、守備力を攻撃力として扱いダメージ計算する!」
「……ってことは、攻撃力3800の攻撃ってことか!」
「そういうことだ。【スサノーO】の攻撃!クサナギソード!」
【スサノーO】が胡座をかいたまま前進し、薙刀で【バブルマン】を斬り裂いた。
「【バブルマン】!ぐっ……!!」
遊城十代
LP4000→1000
リバースカードを発動する気配が無い。もしかして【フレア・ネオス】の攻撃力を上げるために魔法カードをセットしたのか?
「【ダブル・ホーン】を装備したモンスターは、1度のバトルフェイズに2度攻撃できる!ダイレクトアタック!」
【スサノーO】の肩に装備された【ダブル・ホーン】が分離し薙刀の刃を覆うように装備し直され、十代を突いた。
「ぅわぁああ!!」
遊城十代
LP1000→-2800
3ターンでの決着に丸藤、剣山、明日香が唖然としていたが、60枚のほぼハイランダーデッキなら、事故を起こしていても仕方ないと思えた。
部屋に戻って再調整することにし、先程より強く口出しをした。結果、【ネオス】を軸にしたデッキになったが、肝心の【ネオス】が1枚しかないのが怖いところではある。
「なんか、【ネオス】が疲れてるぞ」
丸藤や剣山にもテストプレイに付き合ってもらったら、デュエル中に十代がこう呟いた。1度のデュエルに最低3回も【ネオス】を特殊召喚したら疲れるだろう。
しかし、よくも1枚しかない【ネオス】をポンポンと召喚するなぁ。相変わらずの引き運に感心する。
「お兄ちゃ〜〜〜ん!!」
感心しながら十代のデュエルを見ていると、雪乃と焦った顔のゆまが走ってきて、
「ダイブっ!」
攻撃宣言とともに、ゆまが俺にダイレクトアタックしてきた。具体的には抱きつきながら飛び込んできた。急な攻撃に、俺は対処できずに倒れてしまう。
「ふい〜〜ん!」
「それで雪乃、何かあったのか?」
ダイレクトアタックによって倒れた俺はとりあえず起き上がり、仕置きにゆまの頬を引っ張り、雪乃から事情を聞くことに。
雪乃の話によると、図書室に用があり、寮からついてきたゆまを連れて用を済ませた帰りに職員室でクロノスとナポレオンの口論が聞こえたらしい。内容はレッド寮の廃止。
それを聞いたゆまが慌ててこちらにやってきて俺にダイレクトアタックしてきたということらしい。
「クロノス臨時校長はレッド寮廃止に反対していたけれど、ナポレオン教頭が優勢だったわ」
「そうか…………いや、クロノスがレッド寮廃止に反対ということは、多少はこちらの味方になりつつあるということか……?」
つい最近までレッド寮を潰そうとしていたのに、ここにきて反対に回るということはそういうことなんだろう。
「ゆま、おつかい頼めるか?」
「う?」
「クロノスを俺の部屋に呼んでくれ。俺はその間に準備する」
頬を引っ張りながらゆまにクロノスを呼んでもらう。
十代達と別れて寮に戻り、ゆまがクロノスを探している間にケースからカードを探す。
カードを見つけたところで、ドアがノックされた。
「シニョール宮田、呼んだノーネ?」
「入ってください」
部屋にやってきたクロノスを、備え付けてあるソファに座らせ、テーブルを挟んで対面しているソファに座りながら、ケースをテーブルに置く。
「聞きましたよ。貴方がレッド寮の廃止に反対していると」
素直に言うと、クロノスは目を丸くして何故か周囲を確認し、こちらに顔を寄せて小声で話してきた。この部屋に盗聴の類をする意味はないだろうに。
「……なんで知ってるノーネ?」
「偶然職員室を通ったゆまと雪乃から聞きました。こちらとしては戦力が、それも教師がこちらについてくれるのはありがたいのですが、念のために聞きます。レッド寮の廃止に反対なんですか?」
小声のクロノスに対して普通の声で対応して質問を返す。するとクロノスは少し気恥ずかしそうに視線を逸らした。
「……シニョールの言う通りナノーネ」
「そうですか。では……」
理由は聞かず、テーブルの上のケースを開ける。
ケースにはクロノスが使っている【古代の機械】が入っている。それもまだ発売していないカードばかりが。
「レッド寮廃止に関連することでデュエルすることもあると思いますので、クロノス先生にはこのカード達をお貸ししましょう」
クロノスは何度もカードと俺を見て、本当にいいのかと聞いてくる。
俺が無言で頷くと、クロノスは恐る恐るカードに手を伸ばした。
客観的に見ると、俺が悪役に見えなくもないかもしれないな。
次回はクロノス対ナポレオンです。