「明日香が?」
剣山と出会った翌日。
ゆまから連絡があった。
明日香が寮を出ていったらしい。こんな出来事あったか?疑問に思いつつ明日香のPDAにメールを送ってみる。数分後返信があり、レッド寮にいるらしい。ゆまに連絡して一緒にレッド寮に行く。
「明日香」
改修工事が終わったらしい万丈目の部屋に行ってみると、明日香がワインレッドのフリフリのドレスを持って十代、丸藤、剣山、万丈目と話していた。明日香の足下には大きな鞄が。
「あっ、龍斗」
俺とゆまに気付いた明日香に何故こうなったのか聞いてみる。
明日香によると、クロノスとナポレオン教頭とかいうちんちくりんのおっさんの2人が『アイドル養成コース』なる物を勝手に作り、その筆頭に明日香に声をかけたらしい。
…………海馬さんに言ったら……いや、『そんなくだらん事で連絡するな』とか言ってきそうだ。止めておこう。
そしてドレスはクロノスとナポレオンの暴挙の証拠として持ってきたらしい。
最近はレッド寮も潰そうとしているとかで十代が珍しく怒っていた。
「十代!大変だ!」
「わひゃあ!」
突如ドアが開けられ三沢がやってきた。いきなりのことでゆまがビックリしたのか変な悲鳴も聞こえたが……
「あれ、三沢。なんか久しぶり」
「そう言えばいたよね。三沢君」
「そういや同学年だったな。夏休み中会ってなかったから忘れてた」
十代、丸藤、俺の順で口にする。酷いと思ってはいるが、口が勝手に動いてしまった。三沢は少しだけ傷ついたように目を閉じ、『いたんだ』と呟いた。
「えっと……三沢さん、何かあったんですか?」
「あ、ああ」
ゆまが何があったのか聞こうとしたが、先に万丈目に促され、部屋の左側にコの字を左右反対にした配置で置かれているソファに座る。万丈目を一番奥にして、こちらこら見て右隣に明日香、丸藤、十代が座り壁側のソファを埋める。向き合う形に置かれたソファの一番ドアに近いところに三沢が。その左隣にゆま、俺、剣山が座る。
三沢の話によると、クロノスとナポレオンの策略というか、小物臭溢れんばかりの動きで丸藤とオベリスク・ブルーの生徒とデュエルすることが決まったらしい。
これを聞いた丸藤は驚き、十代は羨ましそうな顔をしていた。十代、お前そんなにデュエルしたいのか。
「相手の名は胡蝶蘭。これに勝てば、翔はラー・イエローへのランクアップが認められるらしい」
相手の名前に明日香が補足してくれた。
その胡蝶蘭とかいう生徒は、『インセクト・プリンセス』という渾名を持つブルーの中でも指折りのデュエリストらしい。使うデッキが丸わかりすぎる。
「渾名からして昆虫族使いか。【虫除けバリアー】入れればある程度止まるだろ。まだ昆虫族のシンクロもエクシーズも発売してないから、大掛かりなパワーアップはしてない」
ペンデュラムも【カレイドスコーピオン】しか出てきてない。【
「でも、僕の【ビークロイド】も出てきてないッスよ」
弱々しい声で返す丸藤。万丈目は『荷が勝ちすぎてる』とコメント。十代は『相手が強ければ強い程燃える』と十代らしいセリフを言う。しかし丸藤は、『自分なんかじゃ皆の前で恥を晒すだけ』と言って部屋を出ていった。そして剣山が丸藤を追う。
「翔……」
「2年になっても、気の弱さは変わらないか」
まぁ、そう簡単に変わってもこちらが困るんだが。接し方とか。
「お兄ちゃん、なんとかならない?」
友人を助けてあげたいのだろう、ゆまが助けを求めてきた。
「……別にただ勝たせるのは簡単なんだが……」
「何か問題があるのか?」
渋る俺に三沢が問いかける。
「十代は実際に見たし、ゆまにも前に話したが、俺が前田にデッキを貸したことがあってな」
「デッキを?」
三沢に頷き返す。そして十代が思い出したように『あっ』と声を出した。
「隼人の父ちゃんとのデュエルのときか」
「ああ。俺が貸したデッキでデュエルした後、アイツが暴走して『自分が最強だ』なんてことを言い出したアレだ」
ゆまもそれを聞いて思い出したのか『でもその後、お兄ちゃんが戻したんでしょ?』と言う。
「あの気の弱さだからな。簡単に暴走しそうで怖い」
暴走する度に戻すのも面倒だし。というとゆまは頭を抱えて必死にアイデアを出そうとしていた。
結局ゆまにアイデアは浮かばず、長居しても仕方ないので解散し、それぞれ寮に戻ることになった。明日香はクロノス達に対する抗議のつもりか、万丈目の部屋で寝泊まりするらしい。そして万丈目は十代の部屋に。
十代、丸藤、剣山、万丈目とあの部屋で寝泊まりするとなったら狭すぎる気もするが、誰かを部屋に泊めるつもりはないので、万丈目と十代には何も言わずにブルー寮に戻る。
夕食と入浴を済ませ部屋に戻ると、PDAにメッセージが来ていた。
差出人は丸藤。
「カードの催促か……?」
そう思いながら見てみると、デッキの強化を手伝ってほしいという内容だった。俺のカードを使うつもりもないらしい。
……強化出来るのか?不安に思いつつ寮を出る。
☆
翌日。
不安と後悔を胸に抱いてデュエルフィールドの観客席に向かう。
昨日は十代にも見られたくないということで、ブルー寮まで戻ってデッキを弄ることになった。
最初は真面目にデッキを弄っていたが、丸藤の持ってるカードに偏りがあり、デッキに1枚しか入らずに断念をすることになるなど、思ったよりも時間がかかり、ヤケクソというか、深夜のテンションに任せてデッキを作った部分がある。
事故らないと良いんだが……
今日は平日だが、このデュエルを見たい生徒のために自習となっている。
丸藤というより『カイザーの弟がデュエルする』という話題性が観客を集めているようだが……
「あ、お兄ちゃん!こっちこっち!」
ゆまに呼ばれて隣に座る。
俺のいる場所は丸藤の後ろの席の一番奥から3番目の列で、通路側に雪乃、雪乃の左隣に俺、ゆまとなっている。
後ろにはジュンコ、ももえ、剣山が座り、一番奥には万丈目、十代、明日香が座っている。
…………誰かいないような気がするが……まぁいいや。
丸藤の相手の胡蝶蘭とかいう人は、赤紫のボリュームのある髪を腰のあたりまで伸ばした女子生徒だ。髪型がなんというか、虫の羽っぽい。俺の印象でしかないが。
「アナタが丸藤翔?地味な子ねぇ。亮サマの弟君だなんて、とても思えないわ」
胡蝶は右手で胸元のロケットを開ける。ここからだと中身は見えないが、先程のセリフからしてカイザーの写真でも貼ってあるんだろう。
十代と剣山は彼女の態度に憤慨。明日香の話では、カイザーの熱狂的なファンらしい。
胡蝶はオシリス・レッドとのデュエルには乗り気ではないが、勝てばクロノスがカイザーのいるプロリーグ、デュエル・ワールドリーグに紹介してくれるらしい。
「クロノス先生って、プロリーグにコネでもあるのか?」
「そんな話、聞いたこと無いけど……」
俺の疑問にジュンコが答える。ももえは補足として『カイザーは実力でワールドリーグに行ったはず』とも言っていた。
カイザーが行った実績とでも考えているのだろうが、カイザーまだプロ1年目だぞ。コネになるとは思えない。
「「デュエル!」」
胡蝶蘭
LP4000
VS
丸藤翔
LP4000
考えごとをしている間にデュエルが始まった。
先攻は胡蝶。昆虫族デッキ……どんなデッキになるのだろう……
「私の先攻!モンスターをセットしてターンエンド!」
胡蝶蘭
LP4000
モンスター
裏守備1枚
魔・罠
無
手札4枚
静かなスタート……
「僕のターン、ドロー!魔法カード【シールドクラッシュ】!フィールドの守備表示モンスター1体を破壊する!」
丸藤が発動した【シールドクラッシュ】によって、胡蝶の裏守備モンスター【代打バッター】が破壊された。
「【代打バッター】の効果発動!このカードが墓地に送られたとき、手札の昆虫族モンスターを特殊召喚できる。【ドラゴンフライ】を特殊召喚!」
【ドラゴンフライ】
守備表示
ATK1400/DEF900
脚が異常に発達し、腕にも見える巨大な蜻蛉が現れる。リクルーターだったか?
「守備力900……なら、【スチームロイド】を召喚!」
【スチームロイド】
攻撃表示
ATK1800/DEF1800
デフォルメされた蒸気機関車が現れる。前輪の軸が伸び、腕のようになっている。
「バトル!【スチームロイド】で【ドラゴンフライ】を攻撃!」
【スチームロイド】が突進し、【ドラゴンフライ】を跳ね飛ばす。
そして丸藤が小さくガッツポーズをとる。
「ふふ……【ドラゴンフライ】が戦闘で破壊されたことで、デッキから攻撃力1500以下の風属性モンスターを特殊召喚できる。現れろ!【アルティメット・インセクト LV3】!」
【アルティメット・インセクト LV3】
攻撃表示
ATK1400/DEF900
青い表面に赤と黄色で作られた目玉のような模様を持つ巨大なイモムシが現れる。口のあたりから薄紫色の体液がポタポタと垂れている。
「キモ……」
「お、お兄ちゃん!レベルモンスターだよ!確かに見た目は気持ち悪いけど、すっごく珍しいんだよ!」
ゆまがフィールドを見ないように顔をこっちに向け、両手を自身の顔の左側で視界を狭める。
お前正直だな。視界に入れたくないのか。
……俺もゆまのこと言えないか。『キモい』って言ったし。
「そうよ龍斗。未発売のカードをたくさん持ってるアンタからしたらどうでもいいのかもしれないけど、すっごくレアなんだから」
「そうです。万丈目さんの【アームド・ドラゴン】程ではありませんが、それでも滅多に見ることのないカードなんです!」
ジュンコとももえも、手で視界を狭めてこっちに顔向けて話しかけてくる。お前ら自分に正直すぎる。
「でも、所詮攻撃力1400ッス!カードを1枚伏せてターンエンド!」
丸藤翔
LP4000
モンスター
【スチームロイド】:攻
ATK1800
魔・罠
伏せ1枚
手札4枚
「私のターン、ドロー!このスタンバイフェイズ、【アルティメット・インセクト LV3】を墓地に送り、手札またはデッキから、【アルティメット・インセクト LV5】を特殊召喚する!」
【アルティメット・インセクト LV5】
攻撃表示
ATK2300/DEF900
【アルティメット・インセクト】が成長し、メタリックブルーの体となり、背中から生えた脚で体を支える虫になった。
「ひぅっ!」
チラッと見てしまったのか、ゆまが小さな悲鳴を上げた。
反対側に座る雪乃を見てみると、少し顔を顰めていた。
「雪乃、大丈夫か?」
「ええ。ちょっと見た目は気に入らないけど、大丈夫よ」
雪乃は大丈夫なようだが、後ろでジュンコが『キモッ!』と言ったり、ももえが俯いて【アルティメット・インセクト】を視界に入れないようにしている。
「あの虫さんの攻撃力は2300。丸藤先輩のモンスターじゃ敵わないドン」
剣山は見た目を気にしないようで、冷静に状況を見る。別にあのモンスターじゃなくても、【スチームロイド】は攻撃されたら攻撃力が下がるから、今の攻撃力は関係ないんだけどな。
「【アルティメット・インセクト LV3】の効果で特殊召喚されたこのモンスターがいる限り、相手モンスターの攻撃力は500ポイントダウンする!」
【スチームロイド】
ATK1800→ATK1300
「【スチームロイド】の攻撃力が!」
「バトル!【アルティメット・インセクト LV5】で【スチームロイド】を攻撃!確か【スチームロイド】には、攻撃されたら攻撃力が500ダウンする効果もあったわね」
胡蝶がいやらしい笑みを浮かべながら言うと、丸藤はそれを忘れていたようで、ハッとした表情を浮かべる。
【スチームロイド】
ATK1300→ATK800
【アルティメット・インセクト】がカサカサと動き、尾の先についた二本の棘で【スチームロイド】を突き刺した。
「うわぁっ!」
丸藤翔
LP4000→2500
「私はこれでターンエンド!」
胡蝶蘭
LP4000
モンスター
【アルティメット・インセクトLV5】:攻
ATK2300
魔・罠
無
手札4枚
「諦めた?サレンダーしてもいいのよ」
「ま、まだッス!僕のターン、ドロー!」
胡蝶の挑発に似た発言に、丸藤は諦めないとカードを引く。
「お兄ちゃん、翔さん負けないよね。大丈夫だよね」
ゆまが心配そうに丸藤をチラチラと見ている。ジッと見ないのは、【アルティメット・インセクト】がいるからだと思う。
「まぁ、あのモンスターをどうにかする手段はいくつかある」
「本当!?」
期待が篭った眼差しで近寄ってくる。近い。凄く顔が近い。
「【パワー・ボンド】から【リミッター解除】までいけば、大抵の奴は一撃だろう」
「まさかの力技!?」
耳元で大声を出すな。他にも選択肢があるんだが、どれになるかは丸藤次第だからな……丸藤の手札に期待しよう。
「永続罠【リビングデッドの呼び声】!墓地から【スチームロイド】を特殊召喚!」
【スチームロイド】
攻撃表示
ATK1800/DEF1800→ATK1300
「そんなモンスター復活させてどうする気?」
「まだまだッス!【ステルスロイド】を召喚!」
【ステルスロイド】
攻撃表示
ATK1200/DEF0→ATK700
黒いV字型の飛行機が現れる。
「攻撃力1200?何を考えてるの?私の【アルティメット・インセクト】の効果で、攻撃力が下がるのよ。わかってるの?」
いや、今の丸藤のデッキにはアレがあるから……
「攻撃力なんて関係無いッス!フィールドにレベル4のモンスターを揃えることが重要なんッス!」
「レベル4のモンスターを揃える……!?まさか!?」
「お兄ちゃん、まさか翔さんにカードをあげたの?」
胡蝶を含めた全方位から視線がやってくる。なんで丸藤がパックとか構築済みデッキを買ったっていう発想が出ないんだ。
「昨日俺が言ったこと忘れるのはこの頭か?変なこと言うのはこの口か?」
「ふにやぁう〜!?」
左手で頭を揺らすように撫で、右手でゆまの両頬を円を描くようにこねると、ゆまが妙な悲鳴を上げた。
「俺はデッキ作成の手伝いをしたくらいで、カードは1枚足りともあげてない。わかったか?」
「う!うー!」
頬をこねられながらなのが原因か、返事がおかしかったが頷いていたので良しとしよう。
手を離すと、ゆまはあうあう言いながらこねられた頬をマッサージしていた。
「僕はレベル4の【スチームロイド】と【ステルスロイド】でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!ランク4!【鳥銃士カステル】!」
【鳥銃士カステル】
攻撃表示
ATK2000/DEF1500→ATK1500
丸藤が間違えて買ったというペンデュラムのパックで当てたスーパーレア枠。そして丸藤のデッキ唯一のエクシーズ。
ペンデュラムのパックは、まだペンデュラムモンスターの数が少ないからか、エクシーズやシンクロが紛れているらしい。
「【カステル】のモンスター効果!ORUを2つ使い、このカード以外の表側表示カードを対象に、そのカードをデッキに戻す!【アルティメット・インセクト】をデッキに!」
【カステル】が持っている銃を逆に持って【アルティメット・インセクト】に接近。体の右から左に向かってフルスイングし、フィールドの外に吹き飛ばした。
銃が【アルティメット・インセクト】に当たるとき、クシャァッ!と嫌な音が聞こえたが……
「【アルティメット・インセクト】がフィールドから消えたことで、僕のモンスターの攻撃力が元に戻る!」
【鳥銃士カステル】
ATK1500→2000
「バトル!【カステル】でダイレクトアタック!」
【カステル】が発砲。一発分の発砲音だが、胡蝶の体の数箇所に弾が当たった。散弾ってやつか。
「ぐぅっ!!」
胡蝶蘭
LP4000→2000
防戦一方となるかと思いきや、1ターンで反撃にでる丸藤に、ギャラリーが声援を送る。
「ターンエンド!」
丸藤翔
LP2500
モンスター
【鳥銃士カステル】:攻
ATK2000
魔・罠
【リビングデッドの呼び声】
手札4枚
「【リビデ】なかったらキツかったな。でも【ドバーグ】入れるっていう選択肢もネタとしてはワンチャン……」
「宮田先輩」
「?」
「あ、宮田先輩じゃなくてこっちの宮田先輩ザウルス」
剣山が俺の呟きに突っ込もうと名前を呼んだら、ゆまが先に反応した。同じ『宮田』だしな。いつかはこんなことが起きるとは思っていた。剣山はゆまも『宮田』であることを考慮したのか、それぞれ下の名前で呼ぶことになった。
「私のターン、ドロー!【ドラゴンフライ】を召喚!」
【ドラゴンフライ】
攻撃表示
ATK1400/DEF900
「さらに魔法カード【孵化】を発動!【ドラゴンフライ】をリリースして、デッキから【ドラゴンフライ】よりレベルが1つ高い昆虫族モンスターを特殊召喚する!【アルティメット・インセクト LV5】を特殊召喚!」
【アルティメット・インセクト LV5】
攻撃表示
ATK2300/DEF900
「また出てきた!」
【アルティメット・インセクト】が本当に嫌なのか、ゆまが少し大きな声を出してしまった。
幸い、周囲も同じような声を出しているのでデュエルしている2人にゆまかどうかを判別できなかったが……聞こえてたら怒られてたかもな。
「【LV3】の効果で特殊召喚されたわけじゃないから攻撃力を下げられないけど、そのモンスターを倒すには充分ね。
バトル!【アルティメット・インセクト LV5】で【鳥銃士カステル】を攻撃!」
【アルティメット・インセクト】の棘で刺され消滅する【カステル】。
丸藤翔
LP2500→2200
「ターンエンド!」
胡蝶蘭
LP2000
モンスター
【アルティメット・インセクト LV5】:攻
ATK2300
魔・罠
無
手札3枚
丸藤のデッキにエクシーズはもう無い。【貪欲】入れてあるからそれで回収したいが、墓地にモンスターが3枚しか無いからそれも無理。魔法・罠による効果除去、高攻撃力モンスターを召喚の二択くらいか。
「僕のターン、ドロー!【サブマリンロイド】を召喚!」
【サブマリンロイド】
攻撃表示
ATK800/DEF1800
青と黄色の潜水艦が現れる。
「バトル!【サブマリンロイド】は相手プレイヤーに直接攻撃できる!ダイレクトアタック!」
【サブマリンロイド】が床に溶けるように潜り真っ直ぐ接近。1〜2m手前でUターンした直後、胡蝶の足下が爆発した。おそらく魚雷による攻撃だろう。
「ああぁぁぁ!」
胡蝶蘭
LP2000→1200
「【サブマリンロイド】は攻撃したあと、守備表示になる!」
【サブマリンロイド】
攻撃表示→守備表示
ATK800→DEF1800
「カードを1枚伏せて、ターンエンド!」
丸藤翔
LP2200
モンスター
【サブマリンロイド】:守
DEF1800
魔・罠
【リビングデッドの呼び声】
伏せ1枚
手札3枚
「私のターン、ドロー!スタンバイフェイズに【アルティメット・インセクト】はさらなる成長を遂げる!現れろ!【アルティメット・インセクト LV7】!」
【アルティメット・インセクト LV7】
攻撃表示
ATK2600/DEF1200
体の光沢が無くなり真っ青になり、大きな羽音を立ててフィールドを飛び出した。よく見ると、赤く光る粉が丸藤のフィールドに向かって飛んでいる。
「【LV5】の効果で特殊召喚されたこのモンスターがいる限り、相手モンスターの攻撃力と守備力が700ポイントダウンする」
【サブマリンロイド】
ATK800/DEF1800→ATK100/DEF1100
「さらに【アルティメット・インセクト LV3】を召喚!」
【アルティメット・インセクト LV3】
攻撃表示
ATK1400/DEF900
「バトル!【アルティメット・インセクト LV3】で【サブマリンロイド】を攻撃!」
【サブマリンロイド】に向かって、ゆっくりと進む【アルティメット・インセクト LV3】。無駄に動きがリアルだ。
「罠カード【進入禁止!No Entry!!】発動!フィールドの攻撃表示モンスター全てを、守備表示にする!」
黄色い輪が【アルティメット・インセクト】2体を縛りつける。
【アルティメット・インセクト LV3】
攻撃表示→守備表示
ATK1400→DEF900
【アルティメット・インセクト LV7】
攻撃表示→守備表示
ATK2600→DEF1200
「くっ……!ターンエンド!」
胡蝶蘭
LP1200
モンスター
【アルティメット・インセクト LV3】:守
DEF900
【アルティメット・インセクト LV7】:守
DEF1200
魔・罠
無
手札3枚
「アナタ、オシリス・レッドでも落ちこぼれで、遊城十代の腰巾着なんでしょう!?腰巾着なら腰巾着らしく、さっさとやられなさいよ!」
イライラを隠すことなく癇癪を上げる胡蝶。オシリス・レッドの生徒に苦戦しているというのが許せないのだろう。
オベリスク・ブルーの生徒はプライド高い奴が多いから、大して珍しくないが。
あ、でも女子はそうでもないのか?
「?どうしたのお兄ちゃん?」
「いや、なんでもない」
思わずゆまを見てしまう。ゆまはそれに気付いて僅かに首を傾げたが、『なんでもない』と言うとすぐにフィールドに目をやった。
「たしかに、僕は小さいころから背中を追いかけてきた。お兄さんやアニキの背中を……でも、もう決めたんだ!僕はもう追いかけない!強くなって、一緒に歩いて行くって!」
強い意志を感じさせる語気で言い返す丸藤。背後で十代が丸藤の名前を小さく呟いていた。
「僕のターン!魔法カード【ビークロイド・コネクション・ゾーン】発動!手札の【ドリルロイド】、【スチームロイド】、フィールドの【サブマリンロイド】を融合!【スーパービークロイドージャンボドリル】を融合召喚!」
【スーパービークロイドージャンボドリル】
攻撃表示
ATK3000/DEF2000→ATK2300/DEF1300
「…………」
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「いや、【ビークロイド・コネクション・ゾーン】なんてカード、入れて無いと思うんだが……【パワー・ボンド】と【融合】は入れたんだが……」
「ならあのカードと、【パワー・ボンド】を入れ替えたんだろう」
俺の疑問に何故か万丈目が答えた。
顔を半分だけ1番奥の席に向けると、十代が万丈目から受け取ったと思われる白い封筒から1枚のカードを取り出していた。
十代はカードを見ると、目を見開いて万丈目に掴みかかる寸前まで詰め寄った。おそらくあのカードが丸藤の【パワー・ボンド】なのだろう。
「なんて陰険なことするドン!」
状況を理解した剣山が席を立って限界まで詰め寄る。明日香も万丈目を非難しようと眉を吊り上げている。
「万丈目さんがこんなことをする方だったなんて……」
「ショックだわ……」
雪乃は興味無しと視線すら万丈目の方に向けない。
「そんな小物に成り下がったボウヤに興味は無いわ」
状況をわかってるのか聞こうとしたら、言いたいことはわかってるとばかりに先に言われた。
……まぁいいや。ゆまは……
「さ、サンダーさんがドロボーを……け、警察に……あ、でも盗ったカードは十代さんに渡したから……お兄ちゃん、弁護士さんって119番だっけ!?」
とんでもなくテンパっていた。
とりあえずゆまを落ち着かせていると、万丈目が丸藤から無理矢理渡されたと必死に自身を弁護していた。
まぁ俺としては勝てるからいいけど、何故【パワー・ボンド】を……
「バトル!【ジャンボドリル】で【アルティメット・インセクト LV7】を攻撃!【ジャンボドリル】は守備モンスターを攻撃したとき、攻撃力が守備力を超えていれば、貫通ダメージを与える!」
「【アルティメット・インセクト】の守備力は1200……でも、それでも私のライフは残る!」
「速攻魔法【リミッター解除】発動!これで【ジャンボドリル】の攻撃力が倍になる!」
【スーパービークロイド・ジャンボドリル】
ATK2300→ATK4600
キュラキュラとキャタピラ音を響かせて【アルティメット・インセクト】を押し潰す。その際クシャァッと嫌な音が聞こえ、思わず顔を顰める。
【ジャンボドリル】はそのまま直進し、胡蝶を轢いた。
「きゃあああぁぁぁぁぁぁ!!」
胡蝶蘭
LP1200→-2200
丸藤は自分の勝利を知らしめるように、右手を高々と上げてVサイン。
後ろでは十代達が歓声を上げていた。
「お兄ちゃん、翔さん勝ったよ!すごいよ!」
ゆまは丸藤の勝利を自分のことのように喜んでいた。
☆
「【パワー・ボンド】に頼っていた、ね……」
デュエルに勝利したことで、丸藤はイエローに昇格できるようになり、丸藤はこれを承諾した。
万丈目や剣山は『クロノスの思う壺』だの『レッド寮の存続』だのと言って丸藤を止めようとする。
しかし、十代は丸藤の『強くなるためにイエローに行く』という思いを理解していて、丸藤の背中を押し、快くイエローに送り出した。
しかし、あくまでイエローに昇格しただけであって、レッド寮に泊まることの方が多いらしい。
十代の弟分に寮まで同じになった剣山といがみ合うことが増えたのは、必然だった。
アイツら進歩しないな……
裏設定的なものですが、翔のデッキには【ガイアナイト】と【ニトロ・シンクロン】が入ってるので、そこから【ユーフォロイド・ファイター】にも行けるという無茶な構成になってます。
次回は復活のツァンです。