進級 VS.ーーーー
夏休みが終わり、俺は正式にオベリスク・ブルーの生徒になった。
新入生歓迎会で無駄に高い自尊心を持った1年が挑んできたので、【終焉のカウントダウン】で特殊勝利して心をへし折ってやった。でも仕方ないとも思う。
【終焉のカウントダウン】と【一時休戦】が初手にあって、【一時休戦】を使ったら2枚目の【一時休戦】を、そして2枚目を次のターンに使ったら3枚目を引いてしまったのだから。他にもフリーチェーン罠で攻撃を止めていたら、15ターンくらいで新入生が泣いてしまった。
デュエルが終わったあと、クロノスに『やりすぎナノーネ』と軽く注意されてしまった。
「エド・フェニックス…………」
歓迎会を終えると、明日香からPDAに連絡があり確認して見ると、プロとして活躍中のエド・フェニックスが十代にデュエルを挑んだらしい。それも昨日の売れ残りの8パックで組んだデッキとも言えない紙束で。
エド・フェニックス…………【DーHERO】を使う奴……
「……【ディアボリックガイ】くれねぇかな……?」
無意味に願望を口にする。あのカードがあれば組みやすくなるデッキがあるから、ダメ元で……やめとこう軽く張り倒される未来しか見えない。
内心ため息を吐きながらイエロー寮のものよりフカフカのベッドに身を預け、瞼を閉じた。
☆
翌日、朝早くにゆまから連絡を受けた。なんでも今年度からデュエルアカデミアに来た2年の女子が、俺に会いたいと言っているらしく、デュエルディスクとデッキを持って来いというものだった。
夏休みのイベントが原因か?と思いつつ、とりあえず集合場所に指定された校舎前に行く。
「あ、お兄ちゃーん!」
校舎前に行くと、体を目一杯伸ばして手を振るゆまと、ピンクの髪をウェーブさせた女子がいた。
「えっと、この女の子みたいな顔の人が、私のお兄ちゃんの宮田龍斗」
「余計なこと言うな」
「あうっ!」
ゆまが俺を女子に紹介しようとしたが、変なことを言ったので頭を小突いて中断させる。
「ぅ〜……この子が、お兄ちゃんに会いたいって言ってたツァンさんだよ」
微妙に涙目になり、左手で頭を押さえながらも、右手で紹介するゆま。
紹介されたツァンという女子は、見るというより睨むというのが正しく思えるほどに俺を見ていた。
「……宮田龍斗だ」
「ボクはツァン・ディレ。あんたのデュエルは3回見た」
3回……イベントとそのあとの雪乃に言われたやつと……あとはどこだ?いや、そもそもなんでデュエルを見た回数のことを言うのかわからん。あ、デッキが毎回違うからその辺を突っ込みたいのか?そのためにわざわざ編入してきたのか?変なやつだな。
「1回目は、あんたが【ワイト】が入ったデッキでデュエルしてるところ」
【ワイト】?イベントでも雪乃のときも使ってない。もっと言うと夏休みに使ってないぞ。
「お兄ちゃん、冬休みに私とカードファイル買いに行ったときだよ!たぶん!」
復活したゆまが指摘してくれて思い出した。確かに使ったな。だがそれよりも……
「……ゆま、お前そんな昔のことを覚えていられる記憶力があるんだな」
「なんか酷いっ!」
涙目が戻ってきたゆまを無視してツァン……あ、名前の雰囲気からして『ツァン』が名前で『ディレ』が苗字か。ともかくディレは話を進める。
「次にテレビで。シンクロ召喚を使ってた」
……雪乃とのデュエルか。海馬さんに言われて【ジャンク・ウォリアー】を使うことになったやつだ。アレがきっかけなのか、雪乃が本校に来ることになったんだよな。
「最後に夏休みの新召喚の発表で」
「これで3回だな。で?何故そんなことを言うんだ?」
「試したいの」
そう言ってたデュエルディスクを構える。
「複数のデッキを使いこなすあんたに、ボクのデュエルがどこまで通用するのか、試したいの!」
……ただデュエルしたいだけか。
だからデュエルディスクを持って来いと。というか、使いこなしてない。使いこなしてたら負けた回数はもっと少ないからな。
「朝っぱらからデュエルするとは……」
「お兄ちゃん、頑張って!」
ディレの傍からガッツポーズで応援するゆまに右手を上げて返事して、こちらもデュエルディスクを構える。適当にデッキ持ってきたけど大丈夫かな……
「「デュエル!」」
ツァン・ディレ
LP4000
VS
宮田龍斗
LP4000
「あっ」
「?」
「お兄ちゃん?」
手札を見て思わず声が出た。これは……持ってくるデッキ間違えたな。適当に持ってきたらガチなデッキになってしまった……
「な、なんでもない」
ディレの訝しむような顔とゆまの声に噛みながらデュエルを始めさせる。
「……ボクの先攻!ボクは永続魔法【六武の門】を発動!」
ディレの背後に和風の門が現れる。
「このカードは、フィールドに【六武衆】モンスターが召喚・特殊召喚されるたびに、武士道カウンターを2つ置く。そして、ボクのフィールドの武士道カウンターを好きな数取り除くことで効果を変えていく!」
そしてその効果に『1ターンに1度の制限』が無い。ぶっ壊れてる。
「さらに永続魔法【六武衆の結束】を発動!このカードは、【六武衆】モンスターが召喚・特殊召喚されるたびに武士道カウンターを1つ置く。そしてカウンターが乗ったこのカードを墓地に送ることで、乗っていたカウンターの数だけドローできる!」
【門】と【結束】が揃った。大体の展開は読めるし、その後のブーイングと絶望も見える。もうちょっとしっかりデッキを選んでくれば良かった……
「【六武衆ーイロウ】を召喚!」
【六武衆ーイロウ】
攻撃表示
ATK1700/DEF1200
黒い鎧を上半身につけ、長刀を右肩に担いだ男が現れた。
「この瞬間、【六武の門】と【六武衆の結束】にカウンターが乗る!」
【門】に描かれている家紋にある6つの穴のうち、上下中央の穴が青く光り、【結束】のソリッドヴィジョンに家紋の上半分が浮かび上がった。
「このモンスターは、ボクのフィールドに【六武衆】モンスターがいる場合、特殊召喚できる!【六武衆の師範】を特殊召喚!」
【六武衆の師範】
攻撃表示
ATK2100/DEF800
長い白髪で右目を眼帯で隠したイカツイ男が現れる。
それと同時に、【門】に描かれている家紋の右上と左下が青く光り、【結束】のソリッドヴィジョンに家紋が完全に浮かび上がった。
「【六武の門】の武士道カウンターを4つ全て使って、効果発動!デッキから【六武衆の師範】を手札に加える!【師範】はボクのフィールドに1体しか存在できないから、特殊召喚はしないよ」
なら何故今サーチした。【師範】破壊されてからでもいいだろう。俺の手札に魔法・罠除去無いんだから。
「さらに【六武衆の結束】を墓地に送って2枚ドロー!」
ツァン・ディレ
手札2枚→4枚
「カードを2枚伏せて、ターンエンド!」
ツァン・ディレ
LP4000
モンスター
【六武衆ーイロウ】:攻
ATK1700
【六武衆の師範】:攻
ATK2100
魔・罠
【六武の門】《武士道カウンター:4》
伏せ2枚
手札2枚
「……なぁ、デッキ変えちゃダメか?」
「だ、ダメに決まってるでしょう!!」
「お兄ちゃん!私もそれは無いと思う!」
ダメ元でデッキチェンジの許可を願ったがやはりダメか。でもなぁ……
「……俺のターン、ドロー」
「お兄ちゃん、やる気が凄い無いよ!」
ゆまにやる気の欠片も見せずに『スマンスマン』と謝る。仕方ない。
「俺は手札から永続魔法【六武の門】を発動!」
「ろ、【六武の門】!?」
ディレの驚きをよそに、俺の背後にディレの背後にあるのと同じ門が現れる。今回使うのは【六武衆】。ディレのと違ってぶっ壊れてるアイツらが大量に入っているガチデッキだ。
「効果の説明はしないぞ。さらに永続魔法【六武衆の結束】を発動!追加だ。魔法カード【紫炎の狼煙】を発動!デッキからレベル3以下の【六武衆】を手札に加える!【真六武衆ーカゲキ】を手札に!」
「真……?」
「ああ。お前が使っている【六武衆】の昔の姿。初代【六武衆】といった設定らしい」
ディレの呟きに返すと『せ、設定……』と呟いていた。
「【真六武衆ーカゲキ】を召喚!」
【真六武衆ーカゲキ】
攻撃表示
ATK200/DEF2000
機械……というより絡繰式と思われるアームと腕に刀を1本ずつ計4本持った男が『ハァッ!』という掛け声とともに飛び出した。そしてディレのターンも同じエフェクトで【門】と【結束】にカウンターが乗る。
「初代って言うわりには攻撃力がショボいんだけど?」
嘲笑うような、挑発するようなディレの態度を無視して次のカードに手をかける。
「【カゲキ】の効果発動!召喚に成功したとき、手札のレベル4以下の【六武衆】を特殊召喚できる!チューナーモンスター【六武衆の影武者】を特殊召喚!」
【六武衆の影武者】
攻撃表示
ATK400/DEF1800
【カゲキ】が刀を掲げると、縦に長い兜をつけた武士が【カゲキ】の傍に現れ跪く。そして【門】と【結束】に再びカウンターが乗る。
「チューナー!?【六武衆】がシンクロするの!?」
「これが【真六武衆】だ。シンクロを取り入れ、特殊召喚しすぎて相手を選ぶんだ。【カゲキ】は他の【六武衆】がいると攻撃力が1500アップする」
【真六武衆ーカゲキ】
攻撃表示
ATK200→ATK1700
「一気に1500ポイントも!?」
「【門】の効果で【結束】から2つ、【門】から2つ武士道カウンターを取り除いてデッキから【真六武衆ーキザン】を手札に加える!」
宮田龍斗
手札2枚→3枚
「【門】の効果のコストに【結束】のカウンターを……!?」
「同じ名前のカウンターだからな。普通に使えるぞ」
まさか今まで【門】からしか取り除いてなかったのか?よく使う気になったな。
「このモンスターは手札に他の【六武衆】がいる場合、手札から特殊召喚できる!【六武衆の師範】、【真六武衆ーキザン】を特殊召喚!」
【六武衆の師範】
攻撃表示
ATK2100/DEF800
【真六武衆ーキザン】
攻撃表示
ATK1800/DEF500
黒い鎧と刀を持った黒い長髪の男が現れ、【門】の家紋の円が全て青く光り、【結束】に家紋が浮かんだ。
「【キザン】は俺のフィールドに他の【六武衆】が2体以上いる場合、攻撃力と守備力が300ポイントアップする」
【真六武衆ーキザン】
ATK1800/DEF500→ATK2100/DEF800
「再び【結束】と【門】のカウンターを2つずつ取り除いて、デッキから【真六武衆ーキザン】を手札に加える!」
宮田龍斗
手札1枚→2枚
「レベル3の【カゲキ】にレベル2の【六武衆の影武者】をチューニング!魔を斬り伏せる者、仕えし者らとともに力を示せ!シンクロ召喚!レベル5!【真六武衆ーシエン】!」
【真六武衆ーシエン】
攻撃表示
ATK2500/DEF1400
赤い鎧から竜のような金の翼が出ている武将が現れる。そしてカウンターが乗る。
「【紫炎】!?シンクロモンスターになったの!?」
「【門】のカウンターを4つ取り除いてデッキから3枚目の【キザン】を手札に加える!」
宮田龍斗
手札2枚→3枚
「そして【キザン】を手札から特殊召喚!自身の効果で攻撃力と守備力が300ポイントアップ!」
【真六武衆ーキザン】
攻撃表示
ATK1800/DEF500→ATK2100/DEF800
「【門】と【結束】のカウンターを2つずつ取り除いて、デッキから【真六武衆ーミズホ】を手札に加える!」
宮田龍斗
手札2枚→3枚
「そして3枚目の【キザン】を特殊召喚!」
【真六武衆ーキザン】
攻撃表示
ATK1800/DEF500→ATK2100/DEF800
「も、モンスターが5体……!」
「お兄ちゃん……凄いよ!ツァンさんが使ってる【六武衆】、こんなに強いんだね!」
まだ一般には販売してないけどな。
「【門】のカウンターを2つ取り除いて、【師範】の攻撃力を500ポイントアップさせる!」
【六武衆の師範】
ATK2100→ATK2600
「龍斗、こんなところにいたのね」
「バトル!【シエン】で【六武衆の師範】を攻撃!」
「罠発動【次元幽閉】!攻撃してきた相手モンスターを除外する!」
攻撃宣言と同時に後ろから雪乃の声が聞こえたが、ディレは気にすることなく面倒な罠を発動した。
「【シエン】の効果発動!1ターンに1度、相手が発動した魔法・罠を無効にして破壊する!」
「嘘っ!?」
【シエン】の翼が上を向き、羽ばたく。翼が空気を押し、【シエン】を加速させて【次元幽閉】を突き破り、ディレの【師範】に向かって刀を大上段に構えて振り下ろした。
「【紫炎】にこんな効果が……」
ツァン・ディレ
LP4000→3600
「【キザン】で【イロウ】を攻撃!」
【キザン】が【イロウ】を袈裟斬り、しかし【イロウ】に変化は無くその場に立ち尽くす。【キザン】が刀を鞘に収めると爆発した。…………いや、斬られろよ。
ツァン・ディレ
LP3600→3200
「くっ……!罠発動【諸刃の活人剣術】!ボクの墓地から【六武衆】2体を攻撃表示で特殊召喚する!戻ってきて!」
【六武衆ーイロウ】
攻撃表示
ATK1700/DEF1200
【六武衆の師範】
攻撃表示
ATK2100/DEF800
2体の【六武衆】が刀を杖代わりにして、片膝をついて現れた。肩で息をしている。
「【師範】で【師範】を攻撃!」
俺の【師範】がディレの【師範】を縦に斬った。
ツァン・ディレ
LP3200→2700
「2体目の【キザン】で【イロウ】を攻撃!」
先程と同じく袈裟斬り、納刀、爆発。
もうこういうエフェクトで固定らしい。
「くぅ!」
ツァン・ディレ
LP2700→2300
「【キザン】でダイレクトアタック!」
【キザン】がディレの額を刀の柄で小突いた。
「痛っ!?」
ツァン・ディレ
LP2300→200
「……なんとか生き残った……次のターンで逆転して」
「次は無いぞ」
「えっ!?」
ディレの台詞を遮り、メインフェイズ2に移行する。
「俺はレベル4の【真六武衆ーキザン】2体でオーバーレイ!」
「エクシーズ!?シンクロとエクシーズって同時に融合デッキに入るの!?」
今はエクストラデッキな。という突っ込みはせずに台詞を続ける。
「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!終焉を告げる銃声よ、今響け!エクシーズ召喚!ランク4!【ガガガガンマン】!」
【ガガガガンマン】
守備表示
ATK1500/DEF2400
「効果発動!ORUを1つ使い、このモンスターの表示形式により効果を変える!守備表示のとき、相手プレイヤーに800ポイントのダメージを与える!」
「そんな!?」
【ガガガガンマン】がディレの額めがけて銃を撃ち抜いた。
「痛っ!」
ツァン・ディレ
LP200→-600
デュエルが終わり、デュエルディスクをしまうと、雪乃が右腕に絡んできてディレとゆまの方を見た。
「あの娘はたしか、今年編入してきた……」
「ツァン・ディレだってさ。なんか、俺のデュエルを数回見たらしく、自分がどこまでやれるのか試したかったんだと。あと離れろ」
雪乃はディレとゆまを睨むように見つめる。ディレは後攻1killくらって落ち込んでいるのか俯いていて、ゆまがなんかオロオロしてる。
「えっと……えぇっとぉ!」
俺を見てディレを見て、ディレをフォローしようとして言葉が見つからず俺を見て、しかしやっぱり自分がとディレを見てとループしてるようだ。その様子を見た雪乃が小さく吹き出してた。
見かねた俺はため息を吐いてディレとゆまに向かって歩き出す。
足音が聞こえたのか、ディレはピクリと肩を揺らし、顔を上げた。
顔を真っ赤にして俺を睨むディレは、
「絶対…………絶対リベンジしてやるんだからぁぁぁ!!」
と叫んで走り去っていった。
なんだアイツ……?
ツァンはまだ出ます。
次回は出ないですけど……