衝動のままに決闘する   作:アルス@大罪

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夏休み編です。
そして次回からマスタールール3同様先攻ドロー無しになります。
つまり次回はデュエルします。


夏休み
打ち合わせ デュエル無し


デュエルアカデミアの一年が終わり、進級試験の結果が発表され、俺はラー・イエローからオベリスク・ブルーに昇格した。残る数日は床に広げたカード達とにらめっこして、取っては戻し、取っては戻しを繰り返し、終業式ギリギリにデッキが完成。非常にデッキの構築がおかしいが、この際ペンデュラムできればいいだろう。そして冬休み同様、居残り組と帰省組で別れ、俺はイベント関連で帰省組に。ゆまもついてくるらしい。

そして、居残り組は十代と丸藤だけだった。別れ際に、十代が何故か【M・HERO】や【インフィニティ】のカードを返すと言って渡してきた。どういうことか聞いてみると、『こっちの【HERO】を使うとあまりワクワクしないから』だそうだ。

しかし、この量産品を受け取っても、仕舞うケースが無いので、『何かあったときのために』とか適当に言って押しつけた。おそらくあのデッキは封印されたのだろうが、いつか役に立つだろう。

船に揺られること数時間、港に到着した俺とゆま、あとは明日香達テスター陣を待っていたのI2の用意したリムジンだった。

どうやら実家に帰してさえくれないらしい。まぁ、イベントまで1週間も無いし、打ち合わせとかで時間がかかるからだろう。数分後、俺達は海馬ランドに建設されたイベント会場前に到着した。

 

「お久しぶりデース龍斗ボーイ!明日香ガールにジュンコガール、ももえガールも!」

「会長……お久しぶりです」

 

会場では、ペガサス会長が笑顔で俺達を迎えてくれた。

 

「Youとは初めましてデスね。雪乃ガール」

「初めまして」

 

藤原は初対面のはずなのに、ペガサス会長に緊張することなく普段通り接している。思わず明日香達も、俺も目を丸くして藤原を見た。

お前、どれだけ図太い神経してるんだ……?

 

「そちらのガールは?」

「は、はじゅめましっ!……し、舌かんじゃ……」

 

ゆまが気になった会長が話しかけると、ゆまはガチガチに緊張したようすで盛大に噛んだ。

ダメだとわかっていても、思わずほっこりと和んでしまう。

 

「俺の従妹の宮田ゆまです。流れでついて来ちゃいまして」

「しゅ、しゅみましぇん!」

「No problem.そういうことならわかりました。彼女にもホテルの部屋を用意しましょう」

 

ホテルかよ。そう思いつつも『すみません』と謝ろうとしたが、

 

「あ、あにょっ!お兄ちゃんと一緒の部屋に……」

 

また噛んだことで、だんだん声が小さくなっていく。何故俺と同じ部屋。

ペガサス会長は何も気にしてないのか、笑顔で『わかりまシタ』と言っていた。会長に異見する気はないのか、明日香達は半歩前に出たが、すぐに下がった。藤原だけは何のアクションも見せなかった。

今日は移動だけらしく、すぐに近くのホテルに案内された。明日香達は親に連絡して、しばらくは帰らないことを伝えた。俺は両親が海外なので特に連絡せず、部屋でのんびりすることに。

部屋は高級ホテルのものなのか、一室がやけに広く、ベッドはイエロー寮のベッドより大きくふかふか。ゆまもこの部屋で寝るため、ベッドが二つあり、そのうちの一つを使ってデッキを調整する。

何度回しても余計な枚数同じカードを引いたりする。初手に【オッドアイズ】2枚だけ引いてもなぁ……調整していると、ドアがノックされた。開けると、親に連絡し終えたであろうゆまがいた。

 

「終わったのか?」

「うん!」

 

短い会話だけして、ゆまを部屋に入れる。荷物を適当は場所に置いたゆまは、ベッドを見るや否や、

 

「ベッドが大きいー!」

 

と言って、俺が占拠していなかった方のベッドにダイブし、トランポリンのようにして遊んでいる。アニメとかで見るようなことを実際にするやつ初めてみた。あとゆま、スカートでそれはやめろ。一瞬白いのが見えたから。

ため息をもらしつつ、デッキの調整。

エクシーズもシンクロもできないのがとても辛い……どうやっても展開して終わりなデッキになってしまう。嘆きつつもデッキを調整。

 

「お兄ちゃん!終わったらデュエルしよ!」

「わかった。ちょっと待っててくれ」

 

ゆまにデュエルを誘われる。

調整がてら相手になってもらおう。このデッキは何が苦手なのかわかるし、枚数の調整案も出るだろうし。

 

「よし、終わった」

 

デッキを念入りにシャッフルして、ベッド間の隙間を隔ててゆまと向き合う。

 

「じゃあ、始めよう」

「うん!負けないよ〜!」

「「デュエル!」」

 

3分後

 

「【アブソルートZERO】に【マスク・チェンジ】で【アシッド】に変身!【アブソルートZERO】の効果でお兄ちゃんのモンスターを、【アシッド】で魔法・罠を全部破壊して、ダイレクトアタック!」

「…………負けた……」

 

速攻で叩き潰された。ペンデュラム召喚も、【アブソルートZERO】に【亜空間物質転送装置】でモンスターを全滅。通常召喚で壁を置いたものの、次ターンで防御を許さないコンボをくらって敗北した。

 

「やったー!」

 

両手を上げ、笑顔で勝利を喜ぶゆま。

ちょっと悔しいので、何回か挑戦したものの、攻撃力もそうだが、【属性HERO】の前にはほぼ無力だった。

 

「あははは!お兄ちゃんへっぽこー」

「…………」

 

この発言の直後、【幻奏クリスティア】を使った俺は悪くないと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………何故藤原とゆまが俺のベッドにいる?」

 

翌朝、意識が浮上して起き上がろうとしたが、何故か体が動かない。何事かと思い右を見ると、ゆまが俺の腕にしがみついていた。

左を見てみると、この部屋にいないはずの藤原が、ゆまと同じように腕にしがみついていた。ゆまはともかく、何故お前がここにいる?

 

「むにゃ……おにぃちゃぁん……えへへ…………」

 

夢に俺でも出てきてるのか、だらしない笑みを浮かべて寝るゆまの腕から、ゆっくり、慎重に腕を抜く。ゆまの拘束はさほど強くなく、想定より簡単に脱出できた。だが問題は藤原だ。

 

「……なんて格好で寝てやがるんだコイツ……」

 

ゆまは水色のシャツとズボンのパジャマなのに対し、藤原は紫の……キャミソールというやつだろうか?とにかく、布の面積が少ない。さらに布が薄いのか、素肌やら衣服とは明らかに違う黒い何かが見える。精神力の弱い男子ならおそらく過ちを犯すだろう。藤原に視線を向けず、ゆまの寝顔を見ながら腕を引き抜き……

 

「…………」

 

引き抜き……

 

「………………」

 

引き……抜き……

 

「……………………」

 

引き……抜き……!

 

「抜けねぇ!」

 

思わず叫んだ。

なんだコイツの力!?ジムトレーニングでもしてんのかというくらい強いぞ!

しかし叫んだのが原因なのか、ゆまと藤原から声がもれた。

 

「ぅぅん……おにぃちゃぁん……?」

「なによ急に……」

 

寝起きで若干舌足らずなゆまは右目を軽く擦りながら起き、藤原は不機嫌そうに起きる。

藤原はともかく、ゆまを起こしてしまった……

 

「スマンゆま。藤原、何故お前がここにいる?」

「ふぁ…………あふ……夜這いしに来たのだけれど、龍斗ったら寝ちゃってたの。代わりに寝顔を堪能させてもらったけどね」

 

何サラッと問題発言してんだ。

 

「どうやって部屋に入った?」

「ノックして、まだ起きてたゆまに入れてもらったの」

「そしたら、雪乃さんがすっごいパジャマのままお兄ちゃんのベッドにはいったから、私も入ったの!」

 

急にペラペラと喋り出すゆまに若干驚きつつも、現状に至る過程を把握。ベッドが二つある意味とか、何故藤原を追い出さなかったのかとか突っ込む気も失せ、ため息を吐いて荷物の中から私服を取りトイレで着替え、パジャマを適当な場所に投げ捨てて部屋を出る。

 

「あら、おはようございます龍斗さん」

 

部屋を出ると、私服姿の明日香とももえ、枕田と遭遇した。

明日香と枕田からも『おはよう』と挨拶されたのでこちらも『おはよう』と返す。

 

「ゆまは?」

「まだ藤原と部屋にいる。迷子になられても困るから待ってるんだ」

「雪乃が?なんで部屋に?」

 

明日香の質問に返すと、枕田から質問が飛んできた。

…………正直に答えるべきか?いや、十中八九ももえが騒ぐ。そんな確信がある。

 

「ゆまと遊ぶためだとさ。自分の部屋で寝ないで俺とゆまの部屋で寝ちまってな」

 

ほぼ嘘を話したところ、枕田は『ふぅん』と納得してくれたらしい。

 

「で、本当のところはどうなの?」

「龍斗の言ってることは嘘よ。本当は夜這いしに行ったの」

「っ!?」

 

明日香の微妙にズレた視線に疑問を覚える間もなく、背後から声がして思わずドアから跳ぶように離れると、

 

「きゃっ!?」

 

跳んだ先には明日香がいて、そのまま衝突。明日香が背中から倒れ、俺は明日香を押し倒すように倒れる。

 

「ふぎゅっ!」

 

情けない声とともに、柔らかいクッションに激突…………クッション?明日香のやつ、クッションなんて持ってたか?ゆっくりと顔を上げると、明日香が顔を真っ赤にして俺を睨んでいた。どうやら、俺は明日香の胸に顔を突っ込んだらしい……って!

 

「あ、明日香……ごめーーー」

 

『ごめんなさい』と言いきる前に、パンッと乾いた音が廊下に響いた。

 

「龍斗ボーイ、その頬、どうかしまシタか?」

「すみません。黙秘権を行使させてもらいます」

 

数分後、明日香に謝り倒してどうにか許してもらえた。そしてペガサス会長と食事するために、着替えたゆまや藤原とともにホテル内にあるレストランへ。出会い頭に頬についた赤い手形について聞かれるが、言いたくないので応答を拒否させてもらった。バイキング形式の朝食(何故かゆまは俺と同じものを取っていた)を摂り、その場で打ち合わせ。

渡された資料に目を通すと、今回のイベントを境に、ルールを大幅に変更するらしい。ライフは4000のままだが、基本的には『マスタールール3』と同じものとなるようだ。さらに禁止カードや制限カード……つまりリミットレギュレーションも更新と、ようやく意味不明なカード達が禁止になるのかと内心安堵に似た感情を得た。明日香達は『【強欲な壺】が禁止……!?』と驚いていたが、むしろなんであのカードが生きてるのか不思議だよ。

俺、明日香、藤原のイベントに出るやつは新ルール・リミットレギュレーションに対応したデッキ作り、ならびにデュエルの練習をすることとなった。俺も一年振りとなる『先攻ドロー無し』だ。ゆまにはサンドバッグになって…………昨日負けまくったな。とにかく、ゆまには相手になってもらおう。飽きたらデッキ変えるなり、相手変えるなりすればいいしな。デュエルディスクのバージョンも、マスタールールに対応したものに先駆けてアップデートしてもらい、宴会にでも使えそうな広間で全員集まってデュエルする。先攻ドロー無しに悪戦苦闘して、エラー音をあちこちから鳴らしている明日香達を笑いながら、ゆまにボコボコにされる俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「龍斗、今日は起きててね」

「藤原、今日は大人しくしてろよ」

「「…………」」

 

ゆまに35戦目にしてようやく1勝をもぎ取り、小休止をいれるために丸椅子に座ったところで藤原がやってきた。昨日……というか今朝のこともあるので先に止めさせようと思い、合流と同時に『大人しくしてろ』と言うと、同時に藤原に『今日も行く』と遠回しに言われた。

 

「良いじゃありませんか龍斗さん。遊びに行くくらい」

 

後ろから抱きつかれ、頭を撫でられる。犯人はももえだ。藤原の相手をしていたが、藤原がこっちに合流するときに回り込んできたのか。

 

「遊びに来るのは別に構わん。俺が寝てるベッドに侵入してくるのは止めろと言ってるんだ」

「ん〜このサラサラ髪……いつ撫でても……羨ましいですわ〜」

 

聞いちゃいねえし。てか離れろ。頭撫でるのはいいから抱きつくのはやめろ。背中に当たってるから。

 

「あーっ!ももえさんズルいです!お兄ちゃんの頭撫でてる!」

「今度はゆまか……」

 

ももえに離れるように言おうとすると、明日香と枕田のデュエルを見物していたゆまが、俺とももえを見ると駆け寄ってきた。ゆまは自分も撫でると俺の意見など聞かず俺の頭に手を伸ばしてきた。

逃げようにも、ももえに抱きつかれて身動きが取れない。首を動かしても焼け石に水だ。まさかももえのやつ、これを狙って抱きつき……もとい、拘束してるのか?

 

「意外に逃げないんですね。従妹だからでしょうか?」

「お前が抱きついてるから逃げられないんだよ!」

 

自分で抱きついてることに気がつかなかったらしい。小休止を終え、俺達は対戦相手を変えてデュエルしていった。明日香も藤原も、自分のデッキを回すのに四苦八苦して、この2人相手だとそこそこの勝率だった。

 

「【ライズ・ファルコン】で攻撃!」

「あ、【魔宮の賄賂】使いますわね」

 

枕田とももえは、ゆま同様容赦無く俺達を潰しにかかってきた。こっちの最大火力に【ライズ・ファルコン】使われたとき、マジで詰んだと思った。除去したけど。ももえは……ペンデュラムゾーンにカード置いた瞬間に【賄賂】されたり【サイクロン】されたりと、ペンデュラム召喚すらさせてもらえなかった。このデッキ、最上級モンスター多めだから何もできなかった。

そして夜。

 

「おやすみなさい龍斗」

「なら俺のベッドじゃなくて、自分の部屋行け」

 

昨日に続いて藤原がやってきた。着替えは俺とゆまの部屋に置いてあって、またあのパジャマになりやがった。目のやり場に困る。そして『眠いから寝る』と言って俺のベッドに侵入してくる。それを阻止するための攻防がたった今始まった。

 

「なんで俺が使うベッドに入ってくるんだよ。寝るならゆまと寝ろ」

「いいじゃない。減るものでもないし」

「んな格好の女子と同じベッドで寝れるかボケ!」

 

100歩譲ってゆまレベルまで布の面積と厚みを増やせ。そしてゆまと寝ろ。

 

「お兄ちゃん!提案があります!」

「却下だ」

「聞いてもくれないの!?」

 

この状況でゆまの『提案』なんか聞けるか。どうせ藤原と何か企んでるんだろ?昼間お前と藤原がヒソヒソと話してるのは目撃してんだよ。

ゆまは涙目で俺を見て、藤原は意外そうに俺を見る。俺がゆまからのお願いをなんでも聞くと思ったか?俺はゆまの傀儡じゃないぞ。

 

「う〜……こうなったら……雪乃さん!突撃です!」

「ちょっ、ゆま!怒るぞ!」

「これもお兄ちゃんと寝るためだもん!」

 

2対1では勝てなかった。

数の暴力に敗れた俺は、昨日と同じ構図で寝ることになった。

しかしそんな状態で寝られるわけもなく、睡眠時間は大幅に削られた。




次回からあっという間にイベント突入です。

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