G・E・C 2  時不知   作:GREATWHITE

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同族

 

 

 

 

 

「ノエル!!」

 

「おわ!!リグ!?ちょっ、ここで何してんの!?潜入中じゃなかったの!?」

 

香港支部郊外―中層スラム地区と中流階級居住区の丁度真ん中に位置する黒泉(ヘイセン)のアジトよりやや外部区域にて―

 

ノエルは簡易の神機倉庫を兼ねた装甲車内のドアを乱雑に開けたリグを前に彼の予定より遥かに早い帰還にノエルは最近手に入った最新神機カタログを手にビクッと慄いた。どうやら健全な「お楽しみ中」だったらしい。

 

「いい気なもんだなおめぇは…こっちの苦労も知らねぇで…」

 

「最近の君がそれ言うかな…」

 

「…まぁいい。こうしちゃいられねぇ。ノエル!俺の神機出せるか!?今すぐ!」

 

「え!?神機?いきなりでる気なの!?ダメだって!!出撃はちゃんと手順踏んでからでないとって散々皆に言われたろ?それに神機だってこんな簡易の倉庫じゃ碌にエネルギー補給も素材合成も出来てない状態だし直ぐにエネルギー切れを起こすよ!」

 

「ツベコベぬかすな!緊急事態なんだよ!!」

 

リグはノエルの制止を無視し、コールドスリープ状態の愛機―ケルベロスの端末に触れ接続。見る見るうちに先ほどまでただの物、機械に過ぎなかった神機に「生気」が灯っていく。しかし―

 

「…ちっ!!~~~~っ!!」

 

そんな急激な神機の覚醒の姿にもリグは「遅い」と言いたげな不機嫌そうな顔をし、周囲を鋭い目で交互に睨む。

 

「何があったの!?そんなに慌てて…っていうかアナンは!?君と一緒に居たんでしょ!?」

 

「…」

 

そのノエルの質問にリグは応えない。その代わりに一瞬だけちらりとノエルを睨んで再び視線を逸らす。その所作には形容しがたい不快といら立ちが混ざっている。

 

―まさか…アナンが!?

 

「ひょっとしてアナンに何かあったの!?答えてよ!リグ!!」

 

「…聞くな」

 

 

 

数分前―

 

「ヘイセン」アジト前にて

 

 

「ふん、ふん、ふん…その落ち着きっぷり…タダもんじゃねぇな?お前…」

 

 

香港マフィア「ヘイセン」の構成員にして同時GEでもある辨髪の少年―「J」の急襲、詰問を前に先ほど彼の猛烈な初撃を交わしたリグが四つん這いで向かい合いつつ、臨戦態勢を整えていた。

 

―…。

 

リグは無言のまま思考を巡らしつつ、「一瞬の隙も見せまい」と言いたげに目の前の戦闘態勢である「J」から目を逸らさない。そしてその姿勢のまま自分の次の行動指針を図っていた。対峙した少年―「J」もまたそれを解っているのだろう。勢いのまま放った初撃を易々と躱された事実を前に最早「獲物」というよりも「天敵」と出くわした際の蠍の如く、彼の愛機であるチャージスピア―通称「アロンダイト」の鋭い槍の先端をゆらゆらと動かしながらリグを牽制する。慎重だが同時、少なからず自分が相対した相手の非凡さを感じ取るゆえに「今が好機である」ということも往々に理解している。彼がGEとしてそれなりの場数を踏んでいる証拠だ。

 

実際、例えリグとはいえ神機を持った相手に現状、丸腰の状態では状況は「不利」以外何物でもない。一時この場を撤退、もしくはヘイセンのアジト内に居る神機を携行している「レイス」に助力を求める選択肢を考えていた。

 

―…いや。

 

しかし、後述の「レイス」に助力を求める案もすぐにリグの選択肢から消える。アジト内に居るエノハたちの現状が解らないだけにここはアナンと協力し、自分たちの力だけでこの場を凌ぐ指針に決定。即その判断をアナンと確認、共有するため、彼女にちらりと鋭くリグはアナンに目配せをする。

 

しかし―

 

 

「きゃ~~~っ!!助けて!!殺されるアルよ~~タスケテ~~かこいいゴッドイーターのお兄さ~~~ん」

 

 

「…あ?」

 

場にふさわしくない、何ともワザとらしい声が周囲に舞う粉塵を切り裂いて響き渡る。声のした方向にはエメラルドの瞳をウルウル、しぱしぱ瞬かせ、上目遣いの赤毛の少女が両手を合わせて懇願するように現れた少年GE―「J」を見、涙声でこう呟いた。

 

「ひっく、ひっく、ワタシ…家族に売られてこの目つきの悪い『むっつり変態外道チビ男』に連れてこられたアルね。私はコイツの言われるがまま、されるがままにここに連れてこられただけのキュートでカワイソウナ女の子アルよ!!タタタ助けて~~っ」

 

「…」

 

「…」

 

ほんの暫時、突っ込みどころが多すぎてリグは閉口。一方で対峙したGEの少年―「J」もまた無言で、チャージスピアの基本姿勢を保ったまま視線のみジロリとアナンに向けていた。体の向き、間合いは保ったままのため、リグがどのような行動に移ろうと対処できる体勢でアルある。しかし、リグは例えそれで「J」に僅かながらも隙が発生したとしてもそこを突く精神状態に無かった。

 

「アナン…?おめぇ…ふざけてる場合か?ん?」

 

リグにしてはアナンに冷静に、そして尤もな問いかけを返す。口の端は怒りでひくひくしているが。しかしそれに対するアナンの返答は…コレだった。

 

 

「…『アナン』?誰ねソレ。ワタシそんな名前じゃないアルね。私『メイリン』言うヨ。オマエにあんなことやこんなこと好き放題サレて辱められたアト、今まさに香港に売り飛ばされようとしてるカワイソなカワイソなか弱い女の子アル」

 

「…」

 

ふつふつと湧き上がる怒りと混乱を堪えたまま取り敢えずリグは早々もうあきらめる。そして今度は対峙している辨髪の少年―「J」に向き直った。

 

「ま、まぁ落ち着こう。な?何かヘンな奴が意味わからん事目の前でほざいてるけど気にせずに。…落ち着こう。…俺もお前も。うん」―とでも言いたげな視線でリグは「J」を見る。

 

まさか今時こんな見え見えの演技に引っかかるバカなんて居ないだろ―そう彼は自分に言い聞かせていた。

 

 

 

「…てんめぇ…こんなカワイ子ちゃんになんてことを…!!許せねぇ…!!あんなこと?こんなこと?好き放題だ、と…?」

 

 

 

「……!!」

 

―馬鹿だったーーー!!正・真・正銘の!!!

 

完全に今「J」の標的はリグただ一人になった。目の前の馬鹿―「J」がコンクリートの地面に足跡を残せそうなほど怒りに震えた歩みを開始。その姿にリグが思わず珍しく突っ込み役に回る。

 

「お。おい!!お前っ馬鹿なのかっ!?今時こんな語尾が『アルアル』してる奴なんてあっきらかにそっちの方がパチモンだろーがよ!??」

 

「あ!?『パチモン』!?『チャイナクオリティー』だと!?昨今のメイドインチャイナ舐めんじゃねぇぞ!!?このチビ!?」

 

「言ってねぇ!うわっ!?」

 

横薙ぎの槍の一閃がリグの頭頂付近を通過。間髪入れず鋭い数発の突きがリグの両頬の側面を次々に掠めていく。押されるがままに交戦は再開。しかし当然、丸腰のリグは圧倒され、後退するほかない。

 

「死ね!!…羨ましいことしやがって!」

 

どうやら少々ずれたところで「J」は苛立っているらしい。

 

「~~~っ!!お前!曲がりなりにもゴッドイーターなら神機を人サマに向けてんじゃねぇ!!あっぶねぇだろが!!」

 

「はっ!!『人』ぉ!?女の子香港に売り飛ばす奴なんて人なもんかよ!!ゴミ掃除してやらぁ!!って~かちょこまか逃げんな!!避けんな!!」

 

「~~~っ!!おっまえ!!覚えてろよ!?アナン!?」

 

「きゃっ!!こわいアル~~殺して~~お兄さ~~ん」

 

身をすくめて縮こまるアナンの猫なで声に更に煽られ、標的のリグを追い、「J」もまたその場からいなくなってしまった。

 

 

 

 

 

「…ほぉお~~」

 

嵐の様に現れ、嵐の様に去っていた少年―「J」と彼の標的になったリグを見送り、アナンは一人うんうんと頷きながらこう言った。

 

―あ~すごいわ。マジもんのバカだわ。あっつかいやすぅ。…さてバカはバカ同士行っといで。私は…私の仕事をしないと。

 

まさか一反フェンリル組織(あくまで表向き)がゴッドイーターを飼っているなんて予想外の事だ。いろいろと疑問はあるにせよまずは早急にアジト内に居る「ハイド」のリーダーであるエノハ、「レイス」達と合流し、情報交換を行い今後を考えていかないといけない。先程までのふざけたやりとりに反してアナンの心根は氷の様に冷静であった。

 

「あろうことかフェンリルの反政府組織であるマフィアに神機、そしてゴッドイーター、か…。なるほど。この支部に未来(さき)無いかもね」

 

「うっ…」

 

「…。悪いけどアンタらはもう少し寝てて」

 

「げっ!」

 

「J」の一撃によって舞い上がった壁の破片が直撃し、意識を取り戻しかけた「ヘイセン」アジト前で門番をしていた男―「J」が「リーさん」と呼んでいた男がうめき声をあげた姿をアナンは無感動に見下ろし、無造作に顔を蹴り飛ばして再び彼の意識を断つ。

 

 

 

 

数分後―

 

再び簡易神機倉庫―装甲車内にて

 

 

「…」

 

ノエルはリグから聞かされたアナンのおふざけの裏にある冷静な判断に半ば気付いていた。だが少々今回に関しては全て面倒を押し付けられたリグを不憫に思う。

 

「…で。話を戻すけどリグ…本当にGEが居たの?表向きとはいえフェンリル以外の一組織がGEを囲っているなんて…とても信じられない」

 

「…直に解る」

 

「え?」

 

「…来たぜ」

 

ガスン!!!!

 

リグがそう呟いた瞬間、鈍い光を放つ銀色の矛の先端が易々と砲弾すら弾く装甲車の堅い壁を突き破り、そしてそこからまるで包丁で魚の腹でも裂くみたいにぞりぞりと横薙ぎに削っていく。腹のなかの内臓―つまり中に居るリグ、そしてノエルを引きずり出すために。

 

「うわ…うわわ…」

 

余りに強引で雑な行為。ノエルは違う意味でおののく他ない。一方ー

 

「好き放題にやっちゃってくれてまぁ…目にもの見せてやるぜ。蠍野郎」

 

 

ガコン…

 

 

アナンの仕打ち、そして売られた喧嘩を前に完全にブチ切れたリグの殺気が―

 

「…あ?…ん!?ちっ…!?」

 

ーなんだ!?

 

装甲車の切り裂かれた隙間から冷気の如く漏れ出すのを装甲車の外に居る「J」は感じ取り、反射的にバックステップ。同時盾形態を構える。彼の装備する盾形態は細く長大な刀身形態のチャージスピアとは対照的に大型アラガミ―ボルグカムランの両腕に施された般若の如き顔を纏った堅牢な盾をそのまま象られた巨大な銀色のタワーシールドである。非常に重く、展開速度もやや遅いが見た目通り純粋な防御力に関しては世界に存在する数多の神機の盾の中でも上位クラスである。ひと度展開すれば生半可なアラガミでは傷ひとつ付ける事すらできない。

鋭く、長大なリーチを持つ「槍」と難攻不落の堅牢な盾形態を装備した装備者ー「J」の典型的なアジア人、大陸系、東洋人の顔立ち、風体、見た目に反したさながら中世ー西洋の「重騎士」の如く堅実な「堅守速攻」の実用性の高い戦闘スタイル―それが「J」の持ち味である。

 

ドォン!!!

 

しかしそんな彼の堅牢な盾を以てしても、漏れ出したリグの強烈な殺気と共に装甲車内から放たれた爆発音らしき轟音の後の―

 

ドッドドドドドドッ!!!

 

装甲車を内部からチーズの様に穴だらけにしながら降り注ぐ無数の弾丸の盾への直撃を前に衝撃を緩和しきれず吹き飛ばされる。

 

「っ……!?ぐ~~~~~っ!!!」

 

一発一発の着弾間隔が極端に短い割に、まるで重いボーリングの玉を高速で何発もぶつけられるかのような重い何発もの銃撃を盾で防いだ結果、両腕に痺れが伴い、思わず「J」の顔が苦悶に歪む。

 

―な、にぃ……!?

 

気付くと8Mも両足を引きずりながら後退させられた自分の現状に驚き、細い瞳を見開く。

 

「ちっ!」

 

彼が横一文字に切り裂いた装甲車の隙間、そしていつの間にか無数に空いた直径十センチほどの弾痕を前に気を取直して身構える。先ほどまで彼の中で攻撃:防御の配分、割合は約9:1程であった。が、この銃撃を前にしては彼の中で防御の割合を4程に上方修正せざるを得ない。それ程警戒すべき看過しづらい衝撃であった。

同時先程隙間から漏れた別格な程「昇華された」相手の気配を前に「J」は慎重に再びじりじりと装甲車に近づいていく。

 

―…む!

 

同時装甲車の後方の両開きのドアが片側だけ申し訳程度に「キィ…」と開く。「J」はそれを見つつもそれが相手の「ドアから外へ出る」ように見せかけて再び装甲車の中から射撃を放つための陽動―ブラフの可能性を疑いつつ、盾を構えながらゆっくりと近づく。

しかし―

 

「あーー失礼。その、攻撃、しないでくれますか!?」

 

「…?」

 

明らかにリグとは異なる平和主義そうな控えめな少年の声が響き、同時にょっきりと片側のドアから敵意の無い事を必死で示す様に両手を広げて細目の小さな少年―ノエルが「J」の前に現れる。ひきつった顔で苦笑いしながらできる限り無能っぽく振舞いつつ。すると「J」はほんの少しだけ警戒を解き、リグの不意打ちを気にしながらも問答無用にノエルを攻撃しようとはせずにこう尋ねてきた。

 

「…お前は?さっきの奴と違うみてぇだが…まぁいい。答えろ。アイツはどこに行った。正直に答えたら…まぁお前は半殺しで済ましてやる。お仲間なんだろ?あのチビと」

 

攻撃意志は幾分抑え、弱まらせたとはいえまだまだ強い敵意、そしてかなり強い「J」の言動と語気にノエルはひるむ。

 

「は、半殺しですか…」

 

―ええ…アナンとは随分対応が違うな…。ひー。

 

これではアナンみたいにすっとぼけたり、被害者面しても望み薄。すぐに殺されるのは流石に無いにしてもある程度痛めつけられて行動不能にぐらいはさせられる。「何て損な役回りだろう」とノエルは内心半泣きになる。

 

「…そうです。僕は彼の仲間です。でも…彼はともかく僕は抵抗する気はありません」

 

正直に、偽らずノエルはこう答える。

 

「抵抗する、しないは関係ねぇ。残念だけどお前をボコることは決定してる。アイツがどこに行ったかだけとっとと答えろ」

 

「逃げました。多分もうここには戻ってきませんよ」

 

「…」

 

「…」

 

「嘘じゃあねぇみてぇだな。じゃ、とりあえず覚悟はいいか?お前がアイツのお仲間である以上ほっとくわけにはいかないんだワ?」

 

一頻りノエルを睨んだのち、彼の言葉に嘘偽りはないと「J」は判断。先程アナンにはアッサリ騙されたにもかかわらず、今回は冷静で的確な判断と言える。

 

「はいどうぞ。慣れてますんで」

 

「…?調子狂うやつだな」

 

粛々と受け入れるノエルに流石に「J」も首をかしげる。先程のリグと比較すると全く以て性格が正反対なノエルは奇異に映る様だ。

 

「そうですか?あ、でもよかったらその前に…一つお願いしていいですか?」

 

「あ?お前自分の立場解ってる?時間稼ぎのつもりなら四分の三ぶっ殺すぞ」

 

「別にそれでもいいです。でもその代わりに……あなたの神機!!僕に見させてください!!」

 

「…は?」

 

「アロンダイト…!!うわ~~初めて見た!!ボルグ・カムランの素材から作り出した超攻撃的神機の逸品!チャージスピアとして必要な機能が全て詰まった傑作神機ですよね~コレ!」

 

ノエルは開き直って完全に趣味に走る。どうせボコられることが決定しているのなら楽しんだ方がいい―そういう点でノエルは案外図太いところがある。

ただ只管神機以外眼中無く、奸計も懐柔してくるような雰囲気もなく駆け寄ってきたノエルを唖然と「J」は見送る。

 

「…あ、てめ!べたべた触んな!捕食されっ…!!..!?」

 

「大丈夫です!!ちゃんと専用のグローブはつけてますよ♪~~ほら~大丈夫でしょ~~♪」

 

「…」

 

「J」は目を丸くしながらその奇妙な悦に浸る少年を見る他なかった。リグ達が「J」に対して「一体何者なのだこいつ」と思っていたように彼もまた今こう感じ始めている。

 

―コイツ「等」…一体…?

 

と。

 

彼―「J」は本来GEが所属するはずの組織―フェンリルに属していないGE―謂わば「はぐれGE」「野良GE」である。おまけに「ヘイセン」という反フェンリル組織にとって自前でアラガミに唯一対抗できる切り札的存在であるため、存在を隠匿されている人間だ。よって現状ヘイセンの構成員という「仲間」は存在しても彼の「同族」―GEと触れ合う機会が無い。

今はまだ彼はその事実知らないがリグ、アナン、そして目の前に居るノエルも「元」とはいえGE―彼の「同族」だ。それをどこかで知らず彼自身感じ取っているのであろう。

 

ー...。

 

何故か際限なく湧き上がってくるリグに対する敵意、競争心―「同族嫌悪」に近い感情。一方で現在の目の前のノエルに対する同族をどこか心の中で求めている―謂わば「同族愛」に近い複雑な感情が彼の中でせめぎ合っているようだ。それが今のノエルに相対する彼の何とも中途半端な対応に現れていた。

 

 

「ふ~~っ♪すごい!やっぱりいい神機ですね!!アロンダイトは!!一見原始的な風貌ながらその実洗練され、無駄を極限まで削ったストイックなデザイン…。惚れ惚れします!」

 

「...」

 

ー...。

 

「あ。その、申し訳ない、です。馴れ馴れしくって…。さぁ!ボコってくれて結構ですよ!!」

 

「…興が削がれた。後にしといてやる。んでお前は四分の一殺しに勘弁してやるよ…」

 

自分の神機の事でここまで騒げるうえ、理解の深い人間はそう居ない。何となく「J」はこのノエルという少年を攻撃する気には最早なれなかった。

 

「え…いいんですか?ありがとうございます」

 

「…勘違いすんな。お前には聞かなければならないことがあっからな。お前のお仲間のチビは全殺し決定だからお前に聞くしかないだろが。覚悟しとけ」

 

「…そうですか。お気をつけて。あ。神機の事ならいくらでも相談に乗りますよ?」

 

「調子に...乗んな」

 

ー変な奴。

 

「J」はそう思い、振り払うようにノエルに背を向け、彼が言うには既にこの場から居なくなったというリグの逃げた方向―装甲車の反対側側面に歩を進めた時―

 

「…っ!!!」

 

思わず息を呑んだ。

ここで彼は先程弾丸の弾幕を構えた盾に浴びる直前、発せられた「轟音」の正体に気付く。そして同時、再びこの疑問を内心「J」は呈した。

 

―コイツ等…本当にナニモンだ…?

 

ちらりと横目で振り返り、まるで「お帰りお待ちしています。お気をつけて」と言いたげな無害そうながらもどこか「J」にとって落ち着かない笑顔で見送るノエルの表情を確認する。自分の事を「脅威」と認識しながらもそれでも「自分の仲間は彼に対抗できる」という自信―詰まるところ「信頼」がその表情から伺えた。

「野良GE、はぐれGE」―組織でたった一人のGE故に「J」では今まで決して持つことの出来なかったものだ。

 

そのノエルの「信頼」の表情の圧倒的裏付けである「その光景」を凝視し、じとりとチャージスピアを握る「J」の手が汗ばむ。

 

―…面白れぇ。

 

その光景ー装甲車の反対側の側面の片側の一つ当たり10センチ程度の「小さな」弾痕を遥か凌ぐ直径2m以上の巨大な円形の大穴がぽっかりと口を開けていた。そのエネルギー、破壊力は恐らく先程「J」の受けた弾幕の軽く十倍以上。

 

その「口」がまるで呑み込もうとしている様に口を開けている先は外部居住区、貧民街―

あの「J」にとって不愉快でクソうっとおしいアラガミが潜んでいる場所だ。

そこに今日突然現れた、割り込んできた「よそ者」、「異物」、「闖入者」を前に今までにない不思議な興奮、高揚を覚えつつ、「J」は愛機を肩にかけ、雑踏に消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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