「ごめんなさい。ナル。…私お父様が貴方のお家で起きた事についてフェンリルの職員とお話しているのを聞いちゃったの」
蒼い眼と整った顔立ちを曇らせ、レアは隣に立ち、ようやく目の前の培養液に浸された武骨な巨人の頭部に慣れ、やや落ち着いた表情になったナルフに本題を切り出した。
「…!…そうでしたか」
散々己の身内の恥を罵倒、侮蔑、ときに憐憫と様々な表情をすでにクラウディウス家に来るまでに周りの人間にされてきたナルは慣れてしまっていた。淡々とそれだけ呟いた。
「とても…ナルにとって悲しくて辛い出来事だったと思う…」
それをレア自身も解っているのだろう。自分がどんな言葉を取り繕うとも今までナルが晒されてきたものと大差なく、当事者の気持ちに立つ事など不可能だと言う事を。それ故に言葉は尻切れにすぼんでいってしまう。
「そうですね…悲しいことなのかもしれません。自分の親が自分の子供達全てを犠牲にしてまで殺す為の力を手に入れようとしていたなんて…」
「でもね…レア?私達にはそれが全てなんです。ずっと繰り返してきた。遥か昔から。アラガミが現れるずっと前から私達は常に自分が殺す相手を、そして効率的に殺す為の力、術を探し、磨き、求めてきたんです。それが私達一族の誇り、存在意義」
時に隣の集落や村落、時に隣国、時に海を越えた先の先住民、独裁国家、資源保有国、テロ組織…ヒトの歴史とは闘争の歴史。その渦中をナルの一族は駆け抜け、しかし、その道の先で完全な袋小路に在った。
「それを振るう場も資格も失った時点で私達は不必要な存在。…だからああするしかなかったんです。何が何でも闘う力を、術を手に入れなければならなかった―父は全て覚悟の上で私達もそれを理解したうえで身を差し出したんです」
「…」
「でも嘘です…」
「ナル…?」
「私本当は怖かった!!死にたくなかった!覚悟してたつもりだったのに、兄弟達が一人一人居なくなってようやく私が父と二人でお話しできた朝、本当に…本当に死にたくなくなってしまった!!『これだけ?これで終わり?そんなの嫌だ!』って思ってしまったんです!」
「生きたい。心底生きたい、…って思ってしまったんです。『闘えなくてもいい、殺す為の力なんていらない!』―私は一族の誇りも存在意義も捨てた…要らない子。父が望んだ適性も持たずただ生まれ、軍人一族としての誇りも勇気も何もない…空っぽ。そんな私が生きてた所で何の意味も成さない、でもだからって死ぬ勇気もない。ただ生きているだけの存在…弱くて卑怯で…」
「ナル!いいの!!弱くていいの!!」
「え…」
「人間が弱いなんて当り前のこと!!ずっと変わって無いの!!ただ何十年、何百年も生きのびて、栄えて…それで人間は自分達が強いと…この世界の頂点に居る存在だって思いこんでしまっただけ。でも今はね皆が解ってる。認めてる。自分達が弱くてちっぽけな存在だって!だからこそ考えるの!!闘う為に。生きのびる為にね。貴方のお父様だってそう!そして私もお父様達だってそう!!弱さを知った、同時に己を知った。だからこそ強くなれるの。だからこそもう一度這いあがれるの」
レアはしっかりとナルを見据えながら彼女の両手を取り、そして背後の神機兵の頭部を見上げて尚も力強く言葉を紡ぐ。
「この子がその答えになるって私達は信じてる。確かにナル?貴方は生まれた時点でアラガミと闘う資格は無かったかもしれない。でも志や思いだけではどうしようもない事なんてアラガミが現れる前からずっとあったの。それをどうにかする為に貴方のお父様は足掻いたの。…結果は悲し過ぎる結末だけど…でもだからって貴方が自分を無価値に思う必要なんてない。生き残った事をムダなんて思う必要なんてない。私貴方に会えてよかった。貴方はとても強くて賢くて綺麗で優しくて…私の憧れなの」
「お願い…そんな貴方が自分の事を『要らない子』、『空っぽ』なんて言わないで…」
「レア…」
「改めて聞くわナル?…貴方はどうしたい?」
「え…?」
「言って。あなたの願い…絶対に私と私のお父様が叶えるから…」
「私は…」
「うん?」
「私は…弱くてもいい。卑怯者でもいい。ただ…レア様…いえレア?貴方をそしてジェフサ様、そしてラケル様を守りたい…その資格とほんの僅かでもいい…お父様が…私の家族が望んだ力があれば…それだけで…」
「…うん!!交渉…ううん約束成立ね!!貴方の願い、私とパパが叶えて見せるから」
「…」
「…嬉しい…ナルに守ってもらえるなんて…。あぁナルが男の子だったらな…。多分恋に落ちてたかも。…ザンネン」
「くすっ…」
「うふっ…あはっ…ははははは!」
レア―
私は貴方を守ります。私の様な人にこれからも力と知恵と勇気を与え続ける誰にも、何者にも代えられない存在。
貴方にとって私は「蒼いバラ」そのもの。
…そう決めた筈なのに。
私は本当に肝心な時に貴方の傍に居る事が出来なかった。
あの夜―ジェフサ様がお亡くなりになられたあの夜。貴方が人生で最も怖くて、悲しくて、心細かった夜に私はあなたのお傍に居る事が出来なかった。
そして―
貴方の心の中にずっと「居た」彼女―貴方自身がずっと抑えつけ、否定してきた貴方の狂気その物とも言える彼女を救うことも。
ジェフサの葬儀―
式を終えた後、レアの実妹であり、ジェフサの第二息女であるラケル・クラウディウスはまるで興味を失ったかのように直ぐに取り巻きを連れてその場を立ち去った。ジェフサの死後、彼が遺した彼の研究成果や莫大な遺産、株式、土地等の資産運用等の変更手続きを行う為に。彼女は突如最愛の父を失った遺族として一見、自然な振舞いをしながらも見方を変えれば何処までも事務的で滞りの無い淡々とした作業で手続きをこなしていた。当然だ。実際、ジェフサを殺したのは彼女である。
彼女自身全く躊躇無し、「親殺し」と言う行為に何ら疑問を持つこともなく及んだ行為に動揺など生ずるはずもない。
余りにも対照的であった。
「うっ…ううっ…あぁああっ…!お父…様ぁあああ…ん…!!」
式を終えても変わり果てたジェフサの亡骸が納められた棺に縋り、泣き続ける姉―レア・クラウディウスとは。
「…」
ナルは沈痛な面持ちのまま立ちつくす他無かった。自分をまるで本当の娘の様に向かい入れ、育て、またあの日レアと一緒に初めて自分を叱ってくれた優しい義理の父の死にナル自身も悲しみが無い筈はない。しかし今悲しみのどん底に居るレアの前で泣く事は許されないと気丈にナルはレアの傍に立ちつづけた。
この時点ではジェフサ死亡における事のあらましをナル自身は知らない。以降公式発表とされる「正体不明のアラガミの襲撃」という報告を受け取っただけだ。
おかし過ぎる。奇妙過ぎる。
正直とても納得がいくような説明では無い。貴族、そして世界的にも重要人物であり、アラガミの世界と人間の世界を隔てた装甲壁から程遠い安全地帯に居た人間が何故アラガミに殺されると言うのか。しかし事態はその奇妙過ぎる結論で既に収束しつつある。事実、事の詳細を知るであろうレアは泣き崩れるのみでとても話が出来る状態では無い。そもそもあの夜の出来事、記憶をレア自身が話せる様になるのは随分先の話である。
しかし現状ナルフはれっきとしてクラウディウス家で起こった凄惨過ぎる真実を知り、理解した上でレアに協力し、「ハイド」に所属しながらレアを身体的、精神的にサポートしつつ任務に励んでいる。
その真実を語れるのはレアの記憶を持ち、尚且つあの日起きた事実をラケル以外で唯一語れる存在、レアから生まれたもう一人のレア―
「ルージュ」
彼女に初めて接触したのはナルである。
「ふふっ……くふふふふ…」
「…?レア…?」
「あはっ…あはははははははは!!」
神の御前で血迷った、気でも触れたかのように突然レアは心底おかしそうに笑い始めた。駆け寄ろうとしたナルを手で制し、ぐらりとよろめきながら立ち上がる。
「はぁっ……あ~~あ…」
「レア…?いえ…『貴方』は一体…?」
既にナルは彼女を「レアとはちがうもの」と認識していた。その「ちがうもの」はそれを裏付ける様にこう呟いた。
「やぁね…ナル…?そんなに他人行儀にしないで?貴方は気付いていたはずでショ?『このコ』の中に私が居た事…」
見透かしたような蒼い瞳がナルを射抜く。ジェフサの隠し部屋にナルを招いたあの澄んだ蒼い瞳とは全く異なる揺らぎを感じる。瞳の周りは涙で濡れ、落ち窪んでいると言うのにまるでその瞳だけは別の生物の部位を無理やり捻じ込んだような不自然な輝きを纏う。
蒼い、しかし赤い炎を更に凌ぐ高熱を持つ激情の炎が今の彼女の瞳には宿っていた。
「『このコ』と同じようにナル?貴方もまた私を否定していたのよね。でも…いい加減レア―『このコ』を美化するのはやめなさい?…『このコ』はずっと脅えていたの。ずっと前…貴方が家に来る前…自らの手で妹を突き落とした時―ううん、ひょっとしたらその前から脅えていたのかも。他でもない愛する妹…ラケルにね」
コツコツと歩き出した「ちがうもの」は脅えながらも目を逸らさないナルの眼の前に立ち、にっこりと妖しく微笑んで尚も続ける。
「やっぱり♪貴方は『このコ』なんかよりよっぽど勇気がある。全てから目を逸らした哀れで可愛い『私のレア』なんかよりよっぽど―
使えそうね」
「使う」―その言葉にナルは言い知れない悲しさとやりきれなさを覚えた。事実自分が「使えなかった」からこそ誰よりも大事な義理の姉妹、同時親友であるレアを守り切れなかったと言うのに。
そしてレアが押し隠していた「狂気」とも言える彼女が今顕現していると言うのに。
「改めて聞くわ」
「…」
「ナル…貴方はどうしたい?」
幼い頃の澄んだ蒼い眼でナルに言い放った大事な大事なレアからの言葉。あの日、その言葉からナルは自分の決心、これからの生きる道は決めたと言って過言ではない。その言葉がこんな形でレアでありながら同時「レアとはちがうもの」の口からまた聞く事になろうとは―
それも
チャキ…
古びた。しかし手入れの行き届いたレアの護身用の回転式銃。その冷たい銃口を突きつけられた状態で。
「…」
私の解答如何で容赦なく…彼女はその引き金を引くだろう。
でも
なんて楽なんだろう。気が楽なんだろう。自分が銃口を突きつけられていると言うのにナルはどこかほっとした。
世界で誰よりも大事な人に狂気の矛先を突きつけられている気分―最悪な気分なはずなのに何故かナルは気が楽で在った。何故なら―
世界で最愛の存在に裏切られ、最愛の存在を喪った直後のレアの悲しみにほんの少し、一億分の一でも寄り添えた気がしたからだ。
―気の迷いでもいい。勘違いでもいい。それだけで―
私は何でもできる。
「…!」
「レアらしきもの」が瞳を見開く。ナルが徐に両腕を延ばしゆっくりと拳銃を握る彼女の腕に手を絡ませたからだ。
「もし私が少しでも疑わしいのなら…容赦なく引き金を引いて下さい」
そのナルの狂気が「レアの狂気そのもの」である目の前の女性の時間を止めていた。ナルは彼女の手から拳銃を受け取り、
カランカランカラン…
その六発の弾倉から弾丸を抜いた。…たった一発のみ残して。それが床で甲高い音を発して転がる。そしてナルは流麗な手慣れた動作でからりと弾倉を回し、容赦なく自らのこめかみに突きつける。
…全く以て気が楽だ。
父の愚行に比べれば生き残る確率が遥かに高い。例えここから五回―
否。
例え「六回」引き金を引こうとも彼女の父がかつて縋った偽りの希望よりも余程今のナルには希望に満ち溢れているように感じる。
…っカチン!!
カチン!
カチン!
カチン!
カチン!
カッ…
「最後」の音が響き渡る前にその音が止む。
「…」
「レアらしきもの」が最後の銃創の回転を両手で覚束ない動作ながらもしっかりと止めていた。未だに焼き尽くす様な蒼の激情の炎が燃え上がったままの蒼い瞳、しかしその瞳に映ったナルの顔はまっすぐと…そして曇りない微笑みで「レアらしきもの」を見つめていた。
「…安心して下さい。私の命はレア、そして『貴方』の物。決して…裏切りません。私の思いは今も、昔も変わらない。私は…貴方を守りたい」
「……ナル?」
「はい?何でしょうか?」
「ナル…『貴方』は…私を裏切らないでね?失望させないでね…?」
さっきまでの挑発的な口調とは打って変わったまるで少女の様な…必死で感情を絞り出した様な声であった。
「…はい。だからせめて…今だけは…レアも。そして『貴方』も。…私と一緒に大切な方を亡くした事を悲しんでは下さいませんか…?」
いつの間にかナルも絞り出すような口調を抑えきれないまま目の前の彼女の額に自分の額を合わせる。
からりと二人の手から取り落とされた拳銃が床に落ちる。
―…確かに私は「貴方」に気付いていた。ずっと見ていたのだから。
過去の事件によるラケル様への負い目、恐怖、傍目には見えぬ支配によって徐々に生れていく貴方と言う存在に。
しかし貴方と言う存在は同時に。
お父様であるジェフサ様への強く、純粋で曇りない愛情ゆえに生まれてしまった存在でもある。
ジェフサ様亡き後、私がそれを全て受け止め、受け入れます。
私は貴方によって今を生きて来たのだから。貴方によって生んでもらえたのだから。
だから貴方がこれから生む存在、育んだ存在、そして愛する者を全てを守り、受け入れましょう。
「う…っ…あ、あ。…ああああああああん…」
ナルは泣き崩れた「彼女達」を強く抱きしめる。例え今この世界が滅ぼうとも最後の刻まで我が子を抱く聖母の様に。
現在―
彼女は発つ。
在るはずの無かった、手に入るはずもなかった物を手に入れて。
レア、そして彼女の父―ジェフサ・クラウディウスの夢、希望の結晶。人類の新たな矛―神機兵。
その先駆け―生まれたてのその機体に相応しい名が付けられた。
「ブルーローズ」
2074年
極東支部アナグラ
新設のカフェテラスにて
「あの~~エノハせんぱ~~い?」
「おおエリナ!!う~~ん今日もめっちゃ可愛いな~~君は~~」
金髪碧眼の美少女が可愛らしいがいつも不機嫌そうな所が玉にキズな後輩の少女に走り寄り、抱きつき、頬ずりを始める。…どうやらこれ日課らしい。
「うう~~っ!一緒にお茶を呑む度にこれやるんですか~~?」
「前戯、前戯ぃ~~!もうこれが無いと始まらんっちゅ~~ねん。はぁ~~気持ちええわ~~♪」
「これじゃ文字通り『お話にならない』ですぅ~~せんぱ~い」
金髪の少女ブラッド隊所属伊藤 エノハ。極東支部第一部隊所属エリナ・フォーゲルヴァイデとカフェテラスでプライベートタイム。
加えて英気補給中。
エノハとエリナ、お互いに帽子を被っている為、密着して夢中で頬ずりをすると互いの唾が擦れ合い、よくエノハ側の帽子―軍帽が脱げる。
「あ。あ。おっちょちょっちょっ!」
エリナから英気補給中でも相当大事な物なのかエノハはいつも帽子が脱げるたびに愛撫を中断。綺麗な金髪を透き通るような白い手で整えつつ、軍帽を被りなおして束の間解放され、ちょっとへとへとのエリナに天使の様な笑顔でにかりとほほ笑むのだ。
「よし!終わり!エリナ座ろか・・いつもありがとね♪」
「ふぅ・・はい・・」
なんだかんだで恒例の行事が終わってしまうと最近少し寂しい気分がする自分に「毒されてるな」とエリナは少し落ち込む。
軍帽が落ちる瞬間、いつもエノハは切り替わる様にしてエリナへのスキンシップを止めてしまう為、少し軍帽に嫉妬してしまう気分すら覚えつつある。
だから今日は―
「ん!先輩!?今日はちょっとそれ貸して下さい!!」
「あ」
エリナはエノハが被っている恋敵のようなもの―軍帽をひょいと取り上げた。
―コレ没収です!
「ふ~~む」
そしてまじまじと見つめる。が―
―う。なんで…?なんでこんないい匂いがすんねん…。おかしいやろ…これ。
思わずエノハの口調で頭の中でぼやいてしまうほどエリナは軍帽から香るエノハの匂いに腰砕けになった。
「じゃあ私はこれも~らおっ。よっ!!」
「あ」
「交換交換♪…似合う?似合えへん?」
エリナからひょいと取り上げた彼女愛用の帽子をエノハはぽすっと頭に乗せる。その姿に
―くっそ~~似合ってるとは言い難いけど…可愛いなぁこの人…。
エリナは苦虫を噛んだ。
「エリナも私のかぶってみぃ?ちょっと大きいかもしれへんけどな?エリナめっちゃ頭ちっちゃいから」
「…はい」
何の躊躇いも無くエリナ愛用の帽子を自分の頭に載せたエノハと対照的におずおずとエリナはエノハ愛用の軍帽を被る。が、やはり少しサイズが大きいのかすぐにエリナの頭の上でやや不格好に斜めになってしまう。
「あっはは~~ホンま可愛いな~~エリナは。ホンマに」
「…アリガトウゴザマス、…です」
エリナはエノハの少し大きな軍帽で両目を覆い隠す。
「あの~~先輩?」
「ん?」
「前から思ってたんですけど~この先輩の軍帽って…正式なブラッドに支給されてる物とひょっとして違います…?この前ナナさんやシエルさんに見せてもらったのとちょっと違う…よな?」
「ほう!よう見てるね!エリナ!そやで?私のだけちょっと特別品やねん。頂き物やからな」
「やっぱり」
「すっごい素敵な恩人さんに貰った奴やからいつも肌身離さず持っときたくてな」
「へぇ…」
「エリナ…私な?孤児院に居たねん。『伊藤園』っちゅうところ」
「みなしごやねん。私」
「私の『伊藤』って苗字もそこから貰ったんやで」
「そこがな?『もうアカン!資金難でもう閉鎖される~~!』っちゅ~時助けてくれたのが今のマグノリア・コンパスのラケル先生とレア博士のクラウディウス家やったねん」
「…ええ!!そ、そうだったんですか!?」
「…あのお二人のお陰で私らの孤児院の皆は離れ離れにならんで済んだ。おまけに私らの新しい施設が出来るまで暫くお世話までしてくれたんやで?誰かに任せるだけやのうて忙しい合間縫って私らの様子もちょくちょく見に来てくれた。…嬉しかったな」
「で、そこでな?私ら孤児院の子らにすっっっ、ごい良くしてくれたたすっっっ、ごい美人でカッコいい軍人のお姉さんがおってん。その人に貰ったんやで?その軍帽。それから私の宝物やねん」
「…」
「私の憧れの人や。…あんな人になりたい思た。優しくて強くて綺麗な大人の女の人に。だから自分にGEの適性があるって解った時、…怖かったけどホンマ嬉しかったんやで」
「センパイ…」
「まぁ…
形見になってもうたけどね?」
「え?」
「去年な…亡くなったらしいわ…」
―…ナルさん。もう一度―
逢いたかったわ。