G・E・C 2  時不知   作:GREATWHITE

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クリムゾン・タイド 4

 

 

超音速が巻き上げる苛烈な衝撃波がまるで雲海の如く立ち並ぶビルを掻きわけさせ、その軌跡を譲らせる。

 

その中心に居る紅い弾丸―熾帝ルフス・カリギュラは深紅の眼光の軌跡の帯を伴わせながら「目標物」に向かって小細工無し、最短距離を一直線に天駆ける。

 

 

ズザッ…ザザザザザザッ!!!!!!

 

一方「目標物」―未確認アラガミ「赤斑」は数百メートル吹き飛ばされた肢体をようやく翻し、強靭な四肢で地面を抉りながら、かつてのマンハッタンの「オアシス」と呼ばれたセントラル・パーク―マンハッタン島の中心、南北約四キロメートルに渡って拡がる広大な公園跡地に留める。

 

 

……!!!?

 

 

自分の足元から延びた数十メートルに渡るスリップ痕とまるでワープしたかのような周囲の光景の急激すぎる変容にさしもの赤斑も困惑を隠せない。先程まで自分は確かに密林の如く巨大な建造物が密集する地帯であの「バケモノ」と交戦をしていたはず。

しかしそれがどうだ。今は視界の拓けたサバンナの如き緑褐色の小高い丘、そして平野が拡がっている。遮蔽物はほぼ無く、地形に関してのアドバンテージはほぼゼロ。

おまけについほんの数秒前自分の身に起こった事に関しての記憶が曖昧なまま、赤斑は目の前の厄災に相対する他無かった。

 

この赤斑を以てして「バケモノ」と断ずる他ない絶対的強者の急接近を前にして赤斑もまた「化物」を遥か超越した怪物としての対応力の片鱗を見せる。

突如開いた圧倒的な実力差を瞬時に埋める為に赤斑がフル稼働させた超感覚、集中力が生んだ次の光景はまさしく圧巻であった。

 

 

超音速の熾帝の超速突進。この世の何者であろうと彼を止める事など出来ようもない―誰もがそう判断するであろうその攻撃を―

 

 

赤斑は向かい入れる様に双腕を拡げ、一切小細工もなしに―

 

 

ゴッ!!!!!

 

 

突っ込んできた熾帝の両腕部に双頭で噛みつき、真正面から受け止めた。

 

 

 

ズズッズズズズ!!!

 

 

赤斑のしなやかな四肢が根を張る様に柔軟にしなり、前方からの熾帝の猛烈な突進の衝突エネルギーを吸収、拡散。数秒前には数百メートルも吹き飛ばされたはずの熾帝の攻撃を今度は僅か数メートルの後退に押し留めるほどの強靭かつ精密で繊細な作業を行ったのだ。驚くべき対応能力、修正能力である。

 

しかし―

 

これ程の赤斑の能力を以てしても熾帝の猛烈なチャージの完全な衝撃分散は困難であった。彼の後肢辺りの地形は地殻変動の如く鋭く隆起、更に超音速の物体が突如静止した事による余波、生身の人間が直撃されれば瞬時にミンチになる程の猛烈な衝撃波が赤斑の背後を直線数十メートルに渡って薙ぎ払い、地を抉り、巻き上げる。

 

 

 

その暴威が放つ烈風や轟音が一段落した後、がっぷりと組み合ったまま双頭の瞳と紅い軌跡を放つ熾帝の双眸がゼロ距離で睨みあう。今両者の心理の中では「舞って」いるのだ。

 

ピィン…

 

この硬直の時間が終わりを告げる際の合図―弾かれたコインが裏表に綺麗に回転しながら地に落ちる瞬間を固唾を呑んで両者待っているのだ。そして―

 

 

キィィィィィィン…

 

 

コインは地に落ち、時は動き出す。

 

 

 

バッ!!

 

 

両者弾かれた様に同時に後方へバックステップ。攻防は一瞬。瞬き厳禁。先手は―

 

すぅっ…

 

 

赤斑。

 

 

先程を遥か凌ぐ金色の炎のオーラを全身に纏い、一気に双頭に集約。

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!!!

 

 

灼熱の火球連弾。実に秒間数十発の小型の火球が双頭から高速で放たれる。それは瞬時にまるで勢いよくシャボン玉を噴き出したかのように広範囲を席巻。おまけに熾帝を取り囲むように若干の誘導性能まで持ち合わせている。

質、量共に先程通りを焼き掃った物とは比べ物にならない。加えて放たれた距離は近距離。熾帝の回避は到底間に合わない。なら全て両腕の刃で弾く?ダメだ。熾帝が千手にでもならない限り不可能な物量である。進退は極まった。

 

 

ならば―

 

 

薙ぎ払うのみだ。

 

 

ギュるん!!

 

 

天翔ける熾帝は身を翻し、真っ正面から迫り来る無数の小隕石の如き火球の群れに向き直り、

 

 

すうううううううぅぅぅぅう!!!!!

 

 

胸部が破裂しかねんほどの虚空を吸い上げる。その吸引力は空中を席巻した前方の小火球群によって生じた水蒸気を全回収。熾帝の絶対零度の体温によって空気中で既に一気に氷結し、蒼白い煙となって熾帝の口内へ。

 

 

っ……!

 

 

熾帝の冷厳なる「徴収」は終了。今―

 

厄災は解き放たれる。

 

 

 

 

 

ゴォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!

 

 

 

熾帝。極限、究極、極大の氷のブレスを口内から放出。実に前方四十五度を一気に薙ぎ払う。その直径は実に数百メートルに達し、セントラルパーク東西800メートルの中央から放たれたブレスは公園の東西の直径の半分以上の巨大さに達し、その範囲内すべての物体が運動を止め、時の流れすら凍りつかせたかのような絶対零度の世界を形成。当然前方の空間を支配していた赤斑の火球群をも一発残らず呑みこみ―

 

シュボッ!!

 

最早「吹き消す」では生ぬるい。「掻き消す」「切り裂く」と表現した方が相応しいほど無数の灼熱の小火球が一発残らず儚いシャボン玉の当然の末路、予定調和の如く「壊れて消える」。

 

そしてその猛威は―

 

 

……!!!

 

 

赤斑さえ喰らい尽くそうとしていた。最後の火球が消滅したとほぼ同時、逃げ場なし、蒼白の異空間が真っ赤な赤斑を包み込み、文字通り無地、無色のキャンバスの中の紅一点に変える。

 

数秒後、赤斑は巨大な氷のオブジェクトの中に閉じ込められ、時を止めていた。セントラルパークほぼ全域がその氷のオブジェクトの発する冷気の煙に覆われ、元々乾季と冬期でかなりの寒暖差のあるこの地域でも例を見ない程の温度差を作り上げていた。

 

 

 

 

しかし―

 

 

冷気にはあくまで「下限」が存在する。「絶対零度」、つまり摂氏マイナス273。しかし対する熱には上限値が無い。このアドバンテージの上では理論上、灼熱の業火を纏った赤斑の方が遥かに延びしろがある事が解る。

 

赤斑の中に宿るこの地球上の遺伝子データの最先端情報を集約したオラクル細胞の更なる突端の集合情報組織―赤斑のコアがこう促す。

 

―この極寒の世界を跳ね退け、再び世界を闊歩せよ―

 

怪物の覚醒を。

 

 

 

氷の中で赤斑の金色の眼が光る。それと同時に

 

 

ぐしゃあ!!

 

 

瞬時に溶解された水気を伴う氷に流されながら、赤斑は水浸しの足元に着水する。

 

 

ぶはっぶはっぶはっ…

 

 

流石の赤斑もコアまで凍りつかされかねなかった冷気により、冬眠状態に陥った体組織を起こすのに若干の時間を要する。赤斑は白い息を吐きながら呼吸を整えつつ酸素を体内に招き入れ、コア内で燃焼、運動能力の変換に全てを費やす。今はそれで手一杯だ。足元をナイフで突き刺すようなうざったい冷水を蒸発させる熱量は後回…

 

 

 

 

後回…

 

 

 

 

後回…し?

 

 

 

 

 

 

 

バチチチチチチチチチッッッッ!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

そう。

 

熾帝は「それだけ」ではない。

 

 

確かに彼の持つ冷気は絶対的、ただし冷気である以上限界値はある。しかし彼の引き出しはそこで終わらない。

彼は冷気の権化では無く、あくまで―

 

「冷撃」、「斬撃」、「雷撃」。そして類稀な戦闘本能、戦闘センス。

 

つまりは圧倒的「暴力」の権化だ。集合体だ。それこそが彼をここまでの高みに押し上げている。生まれ持った圧倒的な力を持ち合わせた「同族」を空中から脆く見下ろせるほどの絶対強者である熾帝―

 

 

それがルフス・カリギュラ。

 

 

右手の極大の電撃球を熾帝は噛みしめる様に眼前で掲げた後―

 

 

ズオッ!!!

 

 

一気に急降下。熾帝の右掌内の電撃球が水浸しの地面に突き刺さると同時、まるで地割れの様に雷撃が地面を迸り、瞬時に行動機能の全復帰に全精力を注いでいる現在行動不能の赤斑の全身を捉え、駆け巡る。

 

 

……!!!!!

 

 

赤斑悶絶。電撃の熱エネルギーは赤斑の体機能の復帰を手助けした形にはなったがあまりに負荷が過ぎる。そのお釣りは余りにも痛い硬直時間の激増であった。そしてそんな時間を―

 

 

「あの」熾帝が見逃すワケもない。

 

 

 

 

 

 

 

ドスッ……

 

 

 

 

 

 

カッ……!!!

 

 

赤斑の双頭の口が双方掻き消える様なか細い息を吐き出す。崩れそうな上体をようやく震える四肢で支えながら自らの腹部を恐る恐る覗きこんだ赤斑は全部で「四つの眼」を同時大きく見開いた。

 

 

…!!!

 

 

そこには赤く細い物体が自らの腹を貫き、地に深々と先端を突き刺している光景であった。

熾帝は動きのとれない赤斑を前にしても全く情け容赦なく接近。空中でホバリングしながら自分の身長より遥か長い巨大な尾の鋭い先端を赤斑の背部より突き刺し、貫通させて地面に縫い付けたのである。是正に全身凶器。

 

それにこうすると赤斑を拘束できる上に両手が自由になる。つまり熾帝必殺、最高硬度の絶対武器を思う存分振るえる―というワケだ。

 

ずずず...

 

熾帝は尾に赤斑を蠍の如く突き刺したまま、悶絶している赤斑の巨体を空中へ難なく持ち上げる。己の絶対の優位性を知らしめるように獲物を見下ろし―

 

 

カキン…

 

 

熾帝は徐に両腕の刃を同時展開。そして

 

 

 

ズバッ!!!!!

 

 

 

X字に両刃を交互に振るい赤斑の胸部を切り裂く。その強烈な必殺の斬撃は強固な赤斑の鋼体すら深々と切り裂き、間欠泉の様に胸部から赤黒い体液を噴出させながら赤斑を再び吹き飛ばした。

 

 

ずるり…パァンっ!!!

 

 

熾帝は赤斑の胴を貫いた尻尾の先端にべっとりと付着した彼の体液を己が纏う冷気によって瞬時に凍らせ、同時砕いて掃う。そして充分過ぎる手応えに満足するように熾帝は両刃を格納した。

 

びしゃびしゃびしゃびしゃ!

 

赤斑の胸部から噴き出した赤黒い体液が周囲に撒き散らされ、赤い雨の様に広範囲に降り注いでいく。上空から見れば赤い巨大な大輪の花が開花している様な光景であった。その大きさは赤斑の胸部から噴出し続ける体液を吸い上げ、ゆっくりと、しかし確実にその範囲を広げていく。

 

セントラル・パーク一帯を覆う氷の世界の白地のキャンバスの上に鮮やかに紅に輝く大輪の花はまさしく紅一点であった。

 

 

その光景を作り上げた二体のうち一体は今斃れ、正真正銘のただ一点となった勝者―熾帝ルフス・カリギュラが今―

 

 

 

グッ……

 

 

オオオオァアアアァアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!

 

 

勝鬨の雄たけびを摩天楼に轟かせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どくん

 

 

 

 

 

 

 

 

未だなお溢れ続ける胸部からの赤黒い体液の噴出により、生命維持の限界に達した赤斑は横たえた体をピクリとも動かす事が出来ない。しかしはっきりと彼の意識は現状を認識していた。己の絶望的状況を。

 

熾帝に深々と切り裂かれた胸部、丁度生物で言う心臓の周辺に彼のコアは強固な外殻に守られながら存在していた。それを脅かされることはおろか、そこに達するまでの外皮にすらかすり傷一つ負ったことも無い。そんな彼の不可侵箇所であり、何層もの強靭な装甲を敢え無く一撃で切り裂かれ、コアを両断された―そんな想定外過ぎる敵の強大さを前に己自身もここを曾て支配していた三下、先程何の感慨もなく細切れに切り裂いたアラガミと大差が無かった事を思い知る。

 

そして末路もまた同じ。コアを切り裂かれた以上、アラガミとして避けられぬ消滅の結末を後は待つのみ。

 

しかし―

 

先程自分に何が起こったのかさえも認識できず事切れた嘗ての王―父祖とは異なり、赤斑は脳裡に、そしてその身に刻みつけている。想定外の強敵、熾帝ルフス・カリギュラ―の圧倒的暴力、暴威を。

 

 

既知と不知。自覚と無自覚。そう言う点では赤斑と父祖では遥か対極、大差がある。

 

 

 

 

その一つの事実が予想だにしない光景、展開を生む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

確かに赤斑は斃れた。

 

 

 

しかし、

 

 

 

…!?

 

 

 

今熾帝は目の前の信じられない光景に双眸を見開く。確かに手応えは在った。コアは確かに両断したはず。彼の鋭敏な感覚は現在、この目の前の相手から全くのコア反応を察知、検知できない。

 

それでも。

 

先程事切れたはずの赤斑の体が胸部より未だ大量の出血をだらだらと垂らしながら足元を濡らしつつ、ひたひたと歩いているのだ。熾帝の「アラガミの常識」の範疇を擬人的に置き換えて説明するとなれば「首無しの人間の死体が歩いている」様な物である。しかし当の双「頭」も双方だらりと力無く垂れ下がり、先程まで爛々と金色に光っていたそれぞれの眼からも光が全く失われている。意志、遺志すらも見受けられない完全な沈黙状態である。

 

 

ならば一体「何」の意志がこの朽ちたはずの体を動かすのか?

 

……

 

 

ジリッ…

 

 

熾帝はこの戦い初めて一歩後ずさる。恐怖があることは否定しない。しかし同時に消しきれない好奇心が生まれていた。その好奇心が元々彼の鋭い感覚器官を更に鋭敏にさせる。すると―

 

 

…そこか。

 

 

完全に潰え、朽ちた様に見えた赤斑の体のある一部分にほんの僅かではあるが「灯」の様な物が宿っている事を感じ取る。「有」と「無」の境界が殆ど誤差レベルといって差し支えないほどの僅かな「灯」がこの朽ちた怪物―赤斑のX字に切り裂かれた胸部、かつてコアがあった部位の周辺に心許なく鎮座していた。

このまま掻き消えてしまっても何ら不思議はない。それ程曖昧で不確かで微かな残滓。強大な熾帝にとって余りにも矮小で些細なもの。

 

「そんなもの」が

 

 

 

 

……!!!!!!!!!

 

 

 

 

直後、まるで地球の四十五億年の歴史を瞬時に早回ししたかのように膨張し、破裂するように膨らんだ感覚を覚えた瞬間、熾帝は

 

 

 

ブオッ!!!!

 

 

 

全速力で後方の空を舞っていた。その目的はただ一つ。「逃げ」の一手。

 

先程までの闘争中に於いて例え回避に注力しても決して攻めッ気を失わない、防戦時であっても常に反撃の機会を伺っていた熾帝が一瞬ではあるものの完全に逃げに回った。それ程の凶兆であった。

 

その危機察知能力の優秀さを直ぐ様裏付ける余りにも凄惨な光景が空中で佇む熾帝の眼に映る。

 

 

 

 

ブッシュウウウウウ!!!!

 

 

 

 

最早体液など残っていないだろうと思えるほどの出血量をしていた赤斑の胸から更なる体液が噴火の様に上がり、周囲を真っ赤に染め上げる。その胸部の出血の反動にのたうちまわりながら生気を失った双頭が大量出血している胸を掻き毟る様に苦しそうに虚空を引き裂く。

 

それは一見「断末」の光景にしか見えない。深紅に染めあがったこの世の終わりの如くの凄惨過ぎる光景だ。

 

 

しかし―

 

 

それが本当に意味するものは全くの真逆であった。

 

 

ピィン!!!!

 

 

双頭に宿るそれぞれ二つの眼に再び剣呑で狂暴なまでの金色の光が爛々と灯る。力が抜け、心許なくふらふらとたゆたっていた赤斑の体に再び生気と力強さが戻り、氷の大地を踏みしめる。

 

 

「復活」?「蘇生」?いや、そんな生温い物では無い。

 

 

これは最早「転生」だ。命運の尽きたはずのかつての己に別れを告げ、新たな個として再び生まれ、舞い戻るのだ。

 

「前世」の記憶、経験、つまり己以外の絶対的強者との邂逅、そして敗北を糧に。

 

 

 

ビシィッ……!!!

 

 

赤斑の四肢全てで凍りついた地面が地割れを起こす。これは赤斑の体に生気と力が戻った事による物では無い。これは単純に質量が飛躍的に増大している事を指し示す。つまり―

 

 

巨大化しているのだ。

 

 

双頭が体液の帯を撒き散らし、肉が裂け、引き千切られる様な湿った音を立てながら先程までの位置より「後退」していく。本来の四足動物の前肢の上部―丁度肩の位置に収まろうとしているのだ。同時に双頭は更に巨大になり、それを支える双腕の部位も肥大化、体高も盛り上がる。全身の体毛が棘の様に逆立ち、元々禍々しい赤黒い体色が更なる禍々しさを帯びる。上半身から始まった巨大化、肥大化に伴って、それを支えるバネの様な柔軟な後肢、下半身もまた二回り以上に瞬時に巨大化。

 

 

全ては―新たな己を「向かい入れる」為。その「土台」は今完全に整った。

 

 

 

 

上空に浮かぶ熾帝はその驚異の光景を目の当たりにし、理解した。曲がりなりにも絶対強者である己に食い下がれるほどの実力を持ち備えた怪物が在ろうことか―

 

 

 

「未成熟」「未完成」だった事を。

 

 

 

 

「完成」の瞬間は思いの外早く訪れた。

 

 

 

 

新たな「己」を今準備の整った彼の深紅の身体は向かい入れる。

 

 

初めて出会えた己を遥か凌ぐ強者によってX字に切り裂かれた胸部―そのぱっくりと割れた隙間がまるでニタリと微笑んだかのように開いたかと思うと同時であった。

 

 

 

ギッシャアアアアアアアアアア!!!!!!!!

 

 

 

赤黒い体液を巻き上げ、破裂した胸部から巨大な第三の頭部が発生。

「転生の炎」の火柱を上空高く巻き上げながら摩天楼をつんざく咆哮を響かせる。

 

 

 

赤斑―成体。

 

 

 

転生。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅蓮の潮流―最終局面へ。

 

 

 


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