G・E・C 2  時不知   作:GREATWHITE

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失われた記憶の小路を抜けて 3

グボロ・グボロ

 

海洋型の中型アラガミであり、巨大なヒレと巨大な口、鱗など魚類の特徴を多く持つ水陸両用の種である。戦闘力は単体であればお世辞にも強力とは言えない。ある程度の経験を積んだGEならその鈍重な動きを易々と見切り、討伐が可能である。元々水中に適した形態を持つ彼等が御し易いのは当然である。

しかし一方で純然たる事実がある。彼等が海洋では生態系のトップクラスの地位を確立した上で地上進出を図っており、ある意味そこでも成功しているという事も。

数億年前、魚類が地上へ進出、両生類となってその後の爬虫類、哺乳類、そして人間とその進化の礎を築いたと同様に彼らもまた進化の可能性を地上に求めた。

残念ながら数億年前の昆虫やクモ、サソリなどの甲殻類しかいなかった地上の競争相手とは異なり、現代の地上は海千山千の猛者ぞろい。

ヴァジュラ、コンゴウ、シユウ種に始まり、ボルグ種、ハンニバル種、そして人間―GEと、彼等の地上進出はより強大な天敵達との縄張り争いの始まりであった。

 

そんな群雄割拠の地上でこのグボロ・グボロという水棲アラガミ種は健闘している。

火属性、氷属性にそれぞれ特化した堕天種という亜種を作り上げ、マグマから寒冷地まで生息域を拡大、黄金種というレア種まで作り上げるに至った。

この黄金種―耐久力が低く、攻撃力も低いと何故存在しているのかが一見解らない種である。が、彼らもまた実はこのグボロ種の適応能力というものを如実に表した亜種である。

 

このグボロ・グボロ黄金種―「同種に喰われる為」に存在している。

 

体内に希少な鉱石、素材を溜めこみ、保存して主要三種と行動を共にし、ある一定の段階にまで素材を調達すると自らを仲間に「喰わせる」のである。つまり「グボロ・グボロ」という全体の種の底上げを図る為に生れた贄なのだ。まるで自分の子供に自らを喰わせる蜘蛛の一種の様に。

アラガミが進化の段階で徐々にハンニバル、カリギュラ、ピターの様に強固な「個」を形成するに至ったのとは逆に彼等は「種全体」を重んじる。「個」としての能力をじりじりと上げつつ、安定した個体数を保っている多種多様なアラガミの中でも屈指の成功を誇っている勝ち組なのである。

 

そんな種の末裔―この湖の「主(ヌシ)」が水中という彼等の土俵、ホームに少女―「レイス」を引き摺りこみ、酸の結界を徐々に浸透させ、タダでさえ身動きの限られた水中の少女の行動範囲をさらに狭めていく。この時点で大勢は既に決している様にさえ見える。

 

しかし、この相対した銀髪の少女は現状の主のデータ、知識には無い得物、そして潜在能力を持っている。まずその1、ヴァリアントサイズだ。

 

―行くよ。カリス。

 

ぎゅるん

 

水中で水流を巻き上げるようにし、遠心力がどれほどこの長大な鎌を振り回す際に発しているか肉眼で見て取れるほどに少女の周囲が泡立ち、渦巻く。

 

ぐぐぐぐぐ

 

空気中を振り回すのと比べ、ここでは水の抵抗を受ける「レイス」のサイズの咬刃形態の斬撃速度はスローモーションに見えるほどだが現在、酸の結界の中で居座る結果、目標をはっきりと目視出来ない主に容赦なく横薙ぎの斬撃が切り裂いていく。

 

……!!

 

新神機ヴァリアントサイズの長大な攻撃範囲は完全に主の知覚外、計算外であった。尚も執拗な斬撃が左右から主のヒレ、顔を刎ねるようにして切り裂いていく。

その攻撃による主の困惑と混乱は例え姿が見えなくとも「レイス」には感応現象を通して完全にお見通しの状態である。

 

完全なアウェー、完全な相手の土俵に立たされながら痛烈な先制攻撃を浴びせたのは意外にも「レイス」の方であった。

 

―しかし

 

―……っ!

 

水中で酸の結界を切り裂いている「レイス」の顔が痛々しく歪む。それは主の困惑と共に彼女に伝わってくる神機の悲鳴であった。

 

―…くっ…神機が…カリスが痛がってる。

 

酸の結界を切り裂きながらも「レイス」の神機は徐々に浸食され、ダメージを負っていった。ただでさえ薄気味悪い緑色に強酸性を帯びた液体の中に突っ込まされているのだ。神機でなくとも嫌になる。

そして更に悪い事に地の利、否、「水中の利」が更に主に有利に働く。

 

水中とは即ち液体を通して対象と対象が繋がっているということである。水中で「物質が動く」と言う事は空気中以上にその余波が伝わりやすい。音に至っては空気中より実に10倍以上の速度で伝播する。

そしてそれを敏感に感じ取る装置がグボロ・グボロという魚という素体を素に進化したアラガミには当然常備されていた。

 

「側線」である。

 

魚が暗闇でも獲物を正確に捕捉出来たり、夥しい数の群れをなしても殆ど互いに接触せず、一定の間隔を保っていられるのはこの器官のお陰である。

身体の側面についたこの線で水流を感知、水流が発せられた方向、角度を割り出して対象の動きを把握し、獲物を捕えたり逆に天敵からの攻撃を回避する際に利用する。

 

つまり「レイス」の斬撃が自分に達する前に発せられた水流を感知し、芯をずらすことが可能なのである。

痛みにぐずる神機を奮い立たせて斬撃を繰り出していた「レイス」の手元からスカされた様な手応えの無さ、同時徐々に冷静さを取り戻している主の心理状態を感じ取る。

神機のダメージが積み重なる上に効果は徐々に薄くなると言う悪循環、「レイス」は一旦攻撃を止め、次の手を考える必要がある。すぐさま咬刃形態を解いた―それが引き金となる。

 

―!

 

巨大な水泡弾が水流を巻き上げながら渦を巻き、空気中よりもやや遅いがそれ以上に機動力の押さえられた現状の「レイス」には十分すぎる速度で放たれた。咄嗟に彼女は装甲を開くほかない。が―

 

「...ぐっぐっ...ごぼっ!」

 

装甲を直撃した水泡弾のダメージは元より貴重な空気が彼女の体から失われ、水泡弾に押され後退。より水深の深い所へ押しやられる。直後「キーン」と言う音が彼女の耳を切り裂くように鳴り響く。

 

―...った!!!

 

水深が増すほど水圧は当然上昇する。度を越えた急激な潜航は鼓膜を圧迫し、頭を締め付けられるような圧迫感と意識混濁を引き起こす。同時肺内部の空気も圧迫されて負担が増す。潜水病と呼ばれるスキューバダイビングの際、人間が陥る可能性のある症状が顔を出すのだ。主の何気ない攻撃は彼女へのダメージ、そして水中という人間にとって究極のアウェーと言える空間で生じる絶対不変の時間制限の大幅な短縮に繋がる。強靭なGEの体とは言え長く持たない。おまけに側線によって彼女の位置を把握できる主は自らの酸の結界による視界不良も関係ない。

 

―こりゃモタモタしてるとヤバイね...。

 

元より「レイス」は短期決戦を挑むつもりであったが残念ながら主の利害とは全く逆である。主は長期戦に持ち込めば安全かつ確実に彼女を仕留めることが可能。勝負を焦る必要はない。つまりー

 

ドッドッ!!!

 

酸の結界の中からの水泡弾の連弾で十二分に事は足りる。「レイス」も主の意図を見抜いて回避するが完全に移動先を見越されている現状では連弾の全てを回避するには至らない。おまけに水中での移動はより体力と空気の消費が増し、より動きは鈍くなり、連弾に捉えられて更に湖の深いところまで後退させられてしまう。

酸素の欠乏、急激な水圧増加によって彼女の意識の混濁、乖離は更に進行。最早回避すらできずに主の水泡弾によってサンドバッグにされる。元より貧弱な彼女のバックラーシールドでは衝撃の吸収も限られ、衝撃で押し潰された彼女の上半身は耐えきれず

 

「ごばっ...」

 

空気を吐き出す。肺内部の空気は彼女の体を浮かせられないレベルにまで減少、神機の重みのみで彼女の体は沈んでいく。そして―

 

ずるっ...

 

彼女の体は遂に湖の水底に達した。体からは力が抜け、水底に背中をつけてわずかにバウンドする。最早死に体。眠るような無防備なボヤけた表情で力なく瞳を開ける。

 

―…。

 

こんな絶体絶命な状況にあって意外にも少女の意識はクリアーであった。それはこの湖の底に達し、少女の中でとある「結論」が出たからだ。

 

 

この極限まで深いところへ意識、そして体まで全て追いやっても何ら少女の中に浮かんでくるものはない。

 

ここは真っ暗闇だ。見えてくるものなど何もない。かつての自分は、記憶はここにはない。有るのは、理解したものはただ一つ。

 

ここには「何もない」ことだ。

 

―終わりだ。

 

もう堕ちるところまで堕ちた、これ以上の底はない。

 

結論。

 

ここに「私の答えはない」。

 

なら丁度いい。底の底に着いたことで私は「足場」ができた。後は蹴り上がる。前に進むだけの足場。

水の底で「背水の陣」というのもオツなものだ。洒落がきいている。

 

「…フフッ」

 

湖の底で少女は静かに口の端を緩ませて笑い、体勢を整える。撒き上がった水底の土砂が舞い、水中で美しい銀髪を天の衣の様に纏った少女の瞳が今―

 

―っ!

 

戦意を取り戻した。

 

そんな少女の状況、心理の変化など知った事では無く―

 

ドッドドドッドッ!!

 

主の放った水泡弾が水底に居る彼女の周囲に無数に突き刺さっていく。

 

 

 

 

…!?

 

 

 

主は違和感を覚えた。水底に達し、獲物の「レイス」が発する水流の波動が乱反射し、動きが捕捉しづらくなった事もあるのだがそれ以上に合点がいかない事がある。その水流の波動がこう示しているのだ。「レイス」の敏捷性が「水中で在りながら急激な上昇を示している」事を。

 

今主の側線に伝わるこの波動は獲物が「泳ぐ」時に生じる物ではない。なんとも奇妙な、体験した事の無い水流だ。視界を犠牲に酸の結界で自らを守る絶対防御を敷いている主は今水底で彼女が何をしているのかは解らない。

替わりに主の耳が捉えていた。規則正しく、ざすっ、ざすっ、と何かを突き刺す様な音が断続的に水底から響いている事を。

 

―たまには堕ちるとこまで堕ちてみるもんだね。人間って。

 

「レイス」はヴァリアントサイズを展開、水底でそれを楔にして自らの体を牽引。水中を高速移動して水泡弾の雨を回避し、同時水底の起伏を利用するなどしてやり過ごしていた。自ら放った水泡弾の着弾によって攪拌する水底は更に主に「レイス」の捕捉を困難にする。

 

……!!!

 

自分の住処という完全に己の本拠地に在りながら決定打を生み出せず、翻弄されている事に主は苛立たしさを隠さない。水泡弾を更に乱射する。一見やけっぱちだがこの選択は決して間違いではない。

「レイス」の目先の死活問題―「空気の補充」は彼女の最優先事項。水底でやり過ごすだけでは当然ジリ貧である。主にとって今は彼女を水底に釘づけにしておいて酸素を消費させるのが得策である。いずれは耐えきれなくなって彼女は浮上するか、それともこのまま水底で息絶えるかの単純な二卓になる。

しかし主はこうも確信している。「恐らくこの獲物の現在の運動量、機動量からして後述は選ばない」

側線に伝わる水流から彼女の動き、そして断続的に水底から響く音に彼女の戦意がありありと見てとれる。

 

死ぬ気はない。よって浮上してくる。

 

しかしその浮上、若しくは水面に獲物が達した時こそ水中の捕食者にとって最も容易で有利な攻撃態勢をとれる瞬間なのだ。それが酸素を求めて死に物狂いに浮上しようとする獲物なら尚更である。その無我夢中の無防備な背後を捉え、もう一度水の底へ引き摺りこんでやればいい。

 

気まぐれな地の利は一旦少女に微笑みかけた。が、やはりこの水中という空間はあくまで彼等の領域なのだ。

 

水底に留まる事を余儀なくされ、酸の結界によって神機の咬刃形態によるラウンドファングも出来ない。今「レイス」に出来る事といえば―

 

ドンっ

 

ビスッ!ビスッ!ビスッ!

 

 

……。

 

 

らせん状に水流と空気を巻き上げ、のろのろと水を裂きながら申し訳程度に主の巨大な鼻に何かが突き刺さる。「レイス」の神機に宛がわれた付け焼きのアサルト銃身による銃撃だ。

しかしながら元々受け渡しによる味方戦力の底上げの為に便宜的に付けられた彼女の銃身の攻撃力はリグの特化した銃型神機「ケルベロス」のアサルト銃身等と比べると威力は雀の涙。事実その着弾をその身に確認しながらも主は全く意に介さなかった。

 

成程。狙いはある程度正確だ。放った水泡弾の角度から酸の結界に覆い隠されたこちらの位置を計算し、射抜いているのだろうが…無駄な努力だ。この威力で自分を殺すには後数十万発はかかる―

主はそう判断した。むしろ弾丸が放たれた位置から逆に主も大まかな「レイス」の位置を把握できる。

 

ドドドドドッ!!

 

弾頭の出所周辺に容赦なく主は水泡弾を雨霰と送り込む。すると暫くして数発の「レイス」からの銃撃、そしてそこにまた主の十数発もの水泡弾―そんな応酬が続く。

 

「レイス」側のオラクルを消費して撃たれる弾頭とは異なり、主の放つ水泡弾は無制限で或る。何せその弾は彼の周りに腐るほどある水だ。言い過ぎでも何でもなく本当に数十万発だろうと撃てる。

主は全てに於いて今対峙している少女を上回っていた。力、機動力、防御力、感知能力、地の利、そして制限時間、更には物量まで。獲物の些細な抵抗を甘んじて受けるほどの余裕がある。

 

「ここ」で対峙する限り勝ちは揺らがない。そしてこの状況に痺れを切らして相手が不用意かつ無防備に浮上した時に勝負は決まる。それまでは現状維持―そんな主の状況判断に大きな齟齬は見受けられない様に一見思える。

 

―しかし

 

この獲物。この絶対的不利な状況にありながらこのままこの水底で、完全なる敵地でこの圧倒的な力の差がある湖の主を殺す算段を既に纏めていた。

 

 

その算段の最初の一手が今顕在化する。

 

 

 

 

……。……!?

 

 

 

「痛い」

 

先程までの相手のささやかな反撃もまるで主に効果を為さなかった。しかし現在、主の全身に気だるいほどの鈍痛が包み込んでいる。

 

何だ?これは?一体?「何か」が自分を攻撃している。その正体は―

 

 

…!?…!!…!????

 

 

ジュウウウ…

 

紛れもなく主が放ち、今彼の周囲を包み込んでいる緑色の酸の結界であった。それがあろうことか主自身の体を溶解させている。ヒレ、背びれ、鱗、歯、そして眼球まで溶解し、鈍痛を超えた激痛が主の全身を包み込む。そして次の瞬間―

 

ぶちゃあ!!

 

まるで破裂するかのように主自慢の長っ鼻が結合崩壊する。間違いない。何故かは解らないが今確実に彼が体内で自ら精製する酸の液が彼に牙を剥いている。それの貯蔵庫で在った鼻、砲塔が酸の液によって今崩壊したのだ。

一体何が起こったのか。何故自分を敵から守るはずの酸の液がいきなり反旗を翻したのか―?主はその理由が解らないまま自らの酸の結界の中でもがき苦しんでいた。そんな主を―

 

―効いてきたみたいだね。

 

 

ノエル?

 

 

アンタはやっぱすごいよ。

 

 

 

 

一か月前―

 

 

「『結合阻害弾』……?」

 

「うん。その名の通りアラガミの体内に打ち込んでオラクル細胞の結合配列を変え、極端に防御力を下げたり、部位の破壊を補助できる新型特殊弾頭だよ」

 

「へぇ…」

 

何の変哲もなく見える「無属性」を示す透明のカラーのラべリングが施された親指くらいの小さな新型弾頭を「レイス」は掌で転がしながら興味深そうに眺める。

 

「まだまだ実験段階だけど…研究が進めばアラガミの弱体化だけじゃなくて彼等が行う特殊攻撃自体を防ぐ事が出来る可能性を持ってるんだ。例えば火属性の攻撃を仕掛けてくるアラガミから極端に火属性に対する耐性を奪うとする。するとその攻撃の際の反動にアラガミの体自体が耐えられなくなって燃焼してしまうんだ。丁度人間が体の中に入り込んだウイルスや病原菌を殺す為に高熱を出して逆に参っちゃうのに似てる。その状況を作り出すのがこれってワケ」

 

「…大人しい顔して結構えげつない物作るね。ノエルは」

 

「いや僕が発案したんじゃないし…」

 

「…でもさ?なんで私に渡すの?それこそガンナーのリグに持たせた方がいいんじゃない?」

 

「う~ん。なんかさ。リグに渡しても『面倒くせぇ』とか『そんな回りくどい事しているヒマあったらとっととブッつぶしゃいいんだろが』とか言って素直に受け取ってくんない気がするし…」

 

「…。同感」

 

「それに―」

 

「?」

 

「これははっきり言って君にぴったりな弾頭だと思うよ。『レイス』」

 

 

 

現在―

 

 

最早酸の結界は主を守る絶対防御などでは無く、逆に彼を蝕む毒の沼と化した。当然主はその影響範囲内から抜けだした。体中にへばりつく様に纏わりついた酸を振りほどく為にまるで釣り針にかかった魚の様にもがく。溶解した彼の体組織がその行為によってちぎれ、水中に飛散し漂う。

「脱皮後」にしては何ともボロ雑巾のようなみすぼらしい姿になった主は自分をこんな姿にさせた下手人の姿を探す。

 

 

 

―こっちだよ。

 

間もなく主の魚眼に今も尚水底で佇み、こちらを見上げる少女の姿が映る。もう小細工なしに一気に喰い殺してやると言いたげに主は大口を開けて吠え、活性化。しかし―

 

 

―――!?

 

次に目に映った光景に主は再び呆気にとられる。溶解し、ズタボロになって水中を漂う彼の肉片、そして今も尚結合がぶれたままの彼の体から―

 

 

ズオオオオオ!!

 

 

まるで渦巻きのように奔流を巻いて吸い込まれていく。少女の掲げた禍々しい色の鎌に向けて。そして巻き上げられた体組織はまるで少女の鎌を赤黒く肉付けしていくように張り付き、元々の禍々しさに更に拍車をかける。

 

 

 

―…まぁ謂わば「養殖品」だけど…今は我慢して?カリス。

 

 

 

 

 

 

 

再び一か月前―

 

 

「君の血の力の二つの内一つである『絶殺』。君の神機カリスは結合の緩んだオラクル細胞、つまり瀕死のアラガミの体組織を没収して刃に変える事が出来る能力を持つ―つまりこの結合阻害弾を使ってアラガミの体を擬似的な瀕死状態、結合不良の段階に押しやれば『絶殺』の力をその時点で行使できるってことさ。トドメだけじゃ無く、その過程に至るまでの間に君の血の力の行使が可能かもしれないってわけ」

 

 

 

 

 

 

確かに天然物に比べれば「味が落ちる」のか正真正銘のトドメの「絶殺」程の力は無い様だ。しかし―

 

―今はそれで十分。

 

「レイス」は水底に根を張る様に足を踏み込み、目一杯細くしなやかな体を限界まで捻る。するとまるで「レイス」を中心に水底で波紋が波打つように水底の泥や砂が舞い上がる。

取り戻した、否、取り戻す他無かった視界に映る光景と同時のその現在の「レイス」の発する水流、波動は今主にとって最大級の凶兆を纏っていた。

 

ガスンッ!!

 

巨大化した仮の「絶殺」状態になった彼女の愛機―カリスが一瞬で展開。切っ先を主の脇腹に突き刺す。

 

―う、あああああああああ!!!!!

 

そしてまるでハンマー投げの様に主を突き刺したまま「レイス」は神機を咬刃形態のままブン回す。酸の結界に主の体を再び突っ込ませ、主に更なるダメージを与えると同時に酸の結界をかき混ぜ、散らしていく。

 

!!!!

 

猛烈な遠心力と酸の結界に立て続けに「漬けられる」主は回転数毎に更に体組織の崩壊が進む。

 

ブン!!

 

数秒後、最早何回転させられたか解らない、上も下も解らないほど方向感覚を狂わされた主は独楽の様に廻りながら水上へ巻き上げられた。しかしそのさらに水上で―

 

 

―…。

 

酸の結界が掻き消され、透明度を取り戻しつつある澄んだ水上に一人の美しい銀髪の少女が相変わらず無表情で主を見下ろしていた。あまりの苛烈な攻撃とダメージに抵抗、反撃の意思すら掻き消された主には今、水中の捕食者にとって絶好の位置に居る獲物に対する攻撃本能すら奪われていた。

 

 

―正真正銘の「絶殺」…行くよ。

 

 

次に主の眼に映ったのは先程とは比べ物にならない程の巨大に膨れ上がった漆黒の羽根の如き禍々しく鋭い鎌を背負い、振りかぶっている死神の少女の姿。

 

これがこの地に最後まで居座った神、主の最期に見た光景であった。

 

 

 

 

 

 

 

ボッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

湖面が盛り上がり、次に巨大な水柱が静かで絵画の様な風景の中の美しい湖の中心にて上空数十メートルにまで噴水の様に拭き上がる。まるで火山が噴火し、巻き上げた溶岩の様にその水は赤黒く染まっていた。

 

 

 

 

ゴボゴボゴボッ…

 

 

 

 

「…」

 

息絶えた「かつて」のこの湖の主が紅黒い体液を煙の様に上げながらゆっくりと沈んでいく光景を背に少女は浮上していく。ようやく待ちに待った浮上、求め続けた水面が目の前に在るのに少女の表情は憂いとやや悲しげな瞳を隠さなかった。

 

―浮上した所で。

 

あの場所―故郷に戻った所で。

 

どうなる?

 

結局私は―

 

 

「……っ!!」

 

 

 

ゴボッ!!

 

 

突如少女の口から大きな気泡が意志に反して漏れる。先程までは戦闘の緊張によるアドレナリンが誤魔化していたが彼女の体は酸欠状態での苛烈な戦闘行動によって既に限界であった。

 

 

―…う。や、ばい。

 

 

再び少女は水底を背に沈んでいく。足が動かない。体も浮かない。戦闘による喧騒から解放され、ようやくいつもの静かで澄んだこの湖の水面に鏡の様に映った自分の姿が遠ざかっていく。出来る事はその姿勢のまま僅かに手を水面に向かって延ばすことぐらいだ。水面に映る自分も彼女に向かって手を延ばすが届かない。

 

 

 

もどかしいぐらいに。

 

「自分」との距離が遠い。

 

 

 

―私らしい間抜けな

 

 

最期かもしんないな。

 

 

少女は自嘲気味に笑った―

つもりだった。しかし水面に映る自分の姿は悔恨と未練が隠しきれない、消しきれない表情に見える。

 

今「レイス」には自分が見えた。過去の自分ではなく、正真正銘の今の自分が。

 

ゴボボ…

 

それも主の身体から漏れた赤い体液によって覆い隠された。もともと酸欠でぼやけていた目はもう完全に意味を為さない。

 

瞳を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピィン!!

 

 

 

沈む少女の背後―更に深い暗闇の中で。

 

「何の間違い」か、二つの光が灯る。

 

かつての湖の主が息を吹き返していた。その瞳は最早何も映していない。僅かな光源を吸い取ってただ光るだけのガラス玉だ。

 

間違いなく主が「最期に見た光景」は少女が兇刃を薙ぎ払う直前の姿であった。

しかし眼では無く側線、そして彼に備わった全ての感覚器が獲物の最後に発した微弱な「生へのあがき」―水流に反応した。

ただただ捕食者としての本能に従った反射的な蘇生、否、「生きている」と書くのもおごがましい程の電気反応、反射行動だがそれでも十二分に無抵抗の少女を喰らう事は造作もない。「喰う」事に特化させた巨大な口はその為に在る。

どちらにせよ「個」として息絶えるのは決定している。なら「個」として最低限であり、同時最大の欲求を満たして事切れる事が出来るのであれば本望だ。

 

人間はこの行為が「往生際が悪い」というだろう。

しかし彼等にとってはそれが全てである。そして例え「個」が絶えようともその「個」が喰らった遺産を次の世代に反映させる事が出来るのが彼等―アラガミと言う生物だ。

 

主の足掻きは決して無駄な行為ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―…確かに俺達はお前達の事を未だ良く解らないまま狩っている。

 

でも―何となく「その行為」の意味は解る気がする。お前達のそう言う所は人間ももっと見習うべきかもしれない。

 

でもな?

 

 

 

それだけは承服できない。看過できない。

 

 

 

 

 

 

ゴボッ!!

 

 

ガシッ!

 

少女の力の抜けた手を力強く、一回り大きいもう一つの手が掴む。水面に映った少女が踏み出せなかった、手を取れなかった一歩を軽々と踏み破って。

 

 

そして正真正銘最後の主の攻撃―巨大な口が閉まる直前の空間から少女を引きずり出す。

 

 

…。

 

口が閉じた瞬間―主は再び事切れた。その口からむき出しの牙の先端を無言のまま青年―エノハはそっと押す。

 

 

今度こそ静かに主はゆっくりと霧散しながら沈み、自らの住処―水底に還っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二時間後―

 

 

「…」

 

空を眺めていた。ゆらゆらと揺れる小舟の上で。視界に目一杯拡がる満開の星空と蒼い月に照らされながら。

 

「…気が付いたか」

 

「んっ…」

その声に反応して少女はゆっくりと体を起こす。小舟の向かいには頬杖をついて座っている青年の姿があった。ずぶぬれだった少女の上半身には彼の上着がかけられている。

 

「…。…。」

 

GEとしての習慣か目覚めた少女はすぐに無言のまま自分のコンディションを確かめる。呼吸は安定、怪我も大したことはない。圧迫された鼓膜もエノハの言葉を聞きわけている事から特に問題はなさそうだ。血の力を行使した事による気だるさはどうしようもないが特に支障はない。

 

「問題無いかい?」

 

平時と変わらずルーティンを怠らない少女に苦笑しながらエノハはそう尋ねる。

 

「うん」

 

微かに頷く。そして同時にちょっとした疑問を含んだ瞳でエノハを上目遣いで見る。

 

 

―まさかさ。「アレ」…やってないよね?

 

 

「……?…あ!やってないやってない!呼吸は安定してたし」

 

エノハは手と首をやや大げさに振って明確に否定する。

 

「そ。残念」

 

全然残念そうじゃない口調で少女―「レイス」はそう言った。同時、即時自分の発言に興味を無くしたかのように辺りを見回す。完全に神々から取り戻した故郷の姿を。

 

月明かりの蒼い光、輝く満天の星。美しい澄んだ湖、朽果てた教会や街並み。幻想的な光景である。昼間と違って無風でさざ波一つ立たないべた凪の水面が空を鏡の様に映しとり、小舟による波紋だけでややブレながら蒼い月や星の光を反射させて少女の顔を照らす。

 

「綺麗な所だな。君の故郷は」

 

「だね」

 

「レイス」はエノハの問いかけに相変わらず他人事の様にそう答え、再び仰向けになって星空を見上げる。「レイス」が動いた事によって水面がトプンと音を立て、小舟を中心に波紋が広がっていく。

 

「…私さ」

 

「ん?」

 

「記憶を失う前はとてもお転婆な子だったって」

 

「そうか」

 

「甘えたがりな半面、喧嘩っ早いとこもあって…いつも年の近い兄と喧嘩して、泣かされてその度いっつも祖父や一番上の兄にひっついてたんだって」

 

「中々強かな女の子だな」

 

「そして何よりもこの街、この国、家族が大好きな子だったんだって」

 

「…」

 

「全部『だって』『だった』。…昔の私は全部誰か、何かの記憶の中―父や母、祖父母の知り合い、かつて兄や私の友達『だった』子達、そして今日知ったここに在る植物達の記憶が全て。…全部誰か、何かの記憶から知ったもの…全部貰い物みたいなもの。私の中の私は今も閉じてしまいたいみたい…」

 

「…」

 

「冷たいよね。私」

 

「…冷たい?」

 

「だってそうでしょ?もし思い出してしまったら間違いなく辛い思いをする。それほど温かい、優しい記憶だったって事ぐらいは解る。辛い…悲しいに決まってるじゃん。それを避けるために、謂わば私は自分を守る為だけに大切な記憶を閉じてるんだからさ」

 

 

―悲しまないように、傷つかないように。

 

 

「だから…私は冷たい人間だよ」

 

ぼんやりと空を見つめながら繰り返し「レイス」はそう言った。

 

「やっぱり優しいな君は。『レイス』」

 

「え?」

 

「優しいよ『レイス』」

 

「やめてよ」

 

「レイス」は思わず上体を起こし、珍しく感情的に首を振って否定する。しかしエノハはしっかりと眼を逸らさず続ける。

 

「その記憶にない故郷の為に君は全身全霊を賭けて闘い、実際取り戻した。そんな事を出来る子が『冷たいコ』なはずがない」

 

ずぶ濡れで満身創痍の少女をしっかりと指差し、見据えてはっきりとエノハは断言する。

 

「そしてちゃんと自分の過去から逃げずに向き合ってきた。そして今は思い出せなくともちゃんと自分の記憶の欠片を自らの手でそうやって回収してきたじゃないか。大切で大事な人達の記憶を。思い出したら辛い、悲しい想いをするのは間違いないのに逃げることなく、ね」

 

「…」

 

「今回手に入れたそれを頼りに昔の事を思い出そうとしてもいい、所詮過去の事、思い出せないならこのままで、と切り捨てるのもいい―少なくとも君は今回この地に逃げずに向かい合った事でそれを選ぶ事が出来る」

 

過去を知り、過去への向きあい方、そしてこれからをどうするのかを決めるのは自由―完全に逃げてその選択肢すら得る事もせず、放棄するよりは余程勇気のある行為だとエノハは想う。

 

 

「『レイス』?君は冷たくなんかない。むしろもっと小狡くなるべきだ。結論は今すぐに出さなくていい。まだ君はついさっき自分の記憶の欠片を取り戻したばかりだ。それをどう扱うかをこれから決めていけばいい。焦る事はない」

 

「…問題の先送り?」

 

「そうとも言う。ただ俺は明確に否定しておきたいだけさ。君が『冷たい』なんて事はない、断じて無い。君は優しい女の子で大事な俺の仲間だ。その間違った自己評価だけは仲間として、上司としてきっちり否定しておかないとな」

 

「…くすっ」

 

「ん?」

 

「大事な仲間、部下の危機にいつも遅れてやってくるエノハさんに言われてもねぇ」

 

「うぇ。それ言われると面目ない」

 

「でも―確かに何も知らずに忘れたままでいるよりも知って、尚それで思い出せない事で自分を責める方が私は良い様な気がするよ。正直気が楽。…後悔と自己嫌悪、罪悪感が人を楽にする事もあると思うから」

 

「…本当に生真面目だな。『レイス』。君は」

 

「少なくとも私は思い出せずとも自分がはっきりとこの地に存在し、この地に居た人達、家族の事を愛し、愛されて育った事だけははっきり解った、感じ取ることだけは出来たから…それだけで結構…そのなんて言うか…嬉しかったから」

 

「『レイス』」

 

「うん?」

 

「俺だって君の事愛してるぞ」

 

「え?は?え?」

 

「俺だけじゃない。レアもナルもアナンもノエルもリグだってな」

 

「……アナンの悪影響をだいぶ受けてるね。エノハさんも」

 

「そうか?まぁそんな悪影響なら大歓迎だけど」

 

 

 

 

くすくすくす…

 

本当に。飾ることなく心から愉快そうに「レイス」が笑った。イロハが言っていた。「レイス」に「もっと笑って。可愛い笑顔をもっと見せて」、と。

 

―悪いねイロハ。お先に頂きました。

 

とエノハは心の中で手を合わせる。「ごちそうさまでした」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「!」

「…お。始めたかな」

湖面の上で浮かぶ小舟の上で銀髪の少女「レイス」が思わずその光景を前に立ちあがった。エノハは訳知り顔で満足そうに金色に照らし出された今の「レイス」の驚いた表情を眺める。

蝋燭を灯された掌程の大きさの舟が無数に浮かび、元々幻想的なこの地の光景を更に感慨深いものに昇華させている。
まるで湖面に映った星空の川がそのまま実体化、具現化したかのようにゆっくりと流れていく。

「……!」

その美しく幻想的な光景に言葉を喪い、瞳を見開く少女を前にエノハはその無数に浮かぶ蝋燭の小舟の一つを掬い上げ、掌の上で「レイス」に見せる。

「…昔は卵の殻を使ってやっていたらしいんだけどさ…このご時世卵は貴重だろ?だから少し味気ないけど自然に帰る天然ゴムの器を使ってるらしい。まぁそれでも中々のコストだろうが」

白い卵の殻を半分に割ったような形の器に乗る蝋燭の火を消さないようにエノハはひとしきり愛でた後、再び水面にそれを返す。

「この地にアラガミ出現よりずっと以前から長年伝わる風習、祭りの目玉行事だったらしくてね。今度ここに住む事になってる貴族連中が『ここにかつて住んでいた人達のせめてもの鎮魂になれば』って、ここを俺達が取り戻した暁に企画してたみたいなんだよ」

―中々粋な計らいだろ?

そう続けてエノハは「レイス」に向かってにっこりとほほ笑んだ。

「うん…贅沢は素敵だね」

チャプ…

そう言って「レイス」も足元に来た小舟の一つに軽く触れ、細い指先で転がす。蝋燭の灯に照らし出された自分の顔が澄んだ湖面に映る。まぁ…我ながらさっきよりは悪くない表情だ。

「…。…!ん、んんっ!」

いつもより更に柔らかい表情をした「レイス」をニコニコ微笑ましく見ているエノハの視線を感じ、「レイス」はいつもの調子を取り戻すように軽く咳払い、掌の小舟を無数の仲間達の元へ返してやる。

「レイス」が愛でていた小舟はやや勢いよく水面を滑り、その小舟を待っていたように佇んでいた無数の小舟の内一つとやや勢いよくぶつかる。蝋燭に灯された火が消えないかと一瞬あっと「レイス」は息を呑んだが幸いにも双方直ぐに体勢を取り直し、仲良く無数の仲間達の下に戻り、流れていく。ホッとした表情で「レイス」は「彼等」を見送った。

まるでその姿は記憶の中のあの仲睦まじい幼い少女と彼の兄の姿の様だ。
手を繋ぎ、家族の元へ帰っていくかつて毎日のようにこの地で繰り返されていたであろう光景―


―…さよなら。


その背を今はただ「レイス」は見送る。戻れないかつての場所を想う時間は一旦終わりだ。かつての少女がそうだったように今の「レイス」にも居場所がある。







それでも

ほんの少しでも過去の記憶の欠片達を今の自分に中に留めておきたい。その上で前に進みたい。だから少女は決心する。



「エノハさん」

「ん?」

「私の本当の名前を教えるよ」

「…!聞いていいのか?」

「でも条件があるの。その名前で私を呼ばないで。今まで通り私の事は『レイス』と呼んで。でもお願い…決して忘れないで。そして私の記憶がもし戻った時…」


―最初に私の名前を呼んで?


少女はそう続けた。



「どう、守れる?」

「…正直」

「…正直?」

「これ以上約束事や秘め事は増やしたくないんだけどな…」

エノハは頭を掻きながら情けない態度でそう言った。

「先約が多いもんね」

ノエル、そしてかつての自分の愛機を仲介人にリッカに贈った「エノハの手紙」の内容を知っている彼女はエノハのその情けない逡巡に一定の理解を示して微笑みながら頷いた。




「で、どうする。止めとく?」


「…いいや。可愛い部下の頼みごとを聞けずしてなにが隊長か。…こちらからお願いするよ。聞かせてくれ。約束は…絶対に守る」


「…ありがとう。


私の名前はね―


『――――』」




―いつか、私が胸を張って他の誰かにその本当の名前で呼んで貰える時が来るまで。
私は「レイス」として貴方の、そして皆の傍で闘う。

でももう一つ。

実は我儘を許してほしいんだ。エノハさん?

過去の幸福な日々を、優しい温もりの凄く悪い言葉で言えば「替わり」をエノハさん。
貴方に求めて…いいかな?





「…お兄」


「…え?」


「私ね?昔一番懐いていた一番上の兄の事を…『お兄ぃ』って呼んでいたらしいんだ…


エノハさんの事…『お兄ぃ』って呼んだらダメ…?」


精一杯の勇気を振り絞っているらしい。言った直後にくちゃくちゃに頭を抱えて「レイス」は丸まった。相当にレアな光景である。


「…いいよ」

「…ありがと」

「ただし俺も条件がある」

「…何?」





「もっかい言って?」




「バカお兄ぃ!!!」


























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