G・E・C 2  時不知   作:GREATWHITE

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筆者の愚痴ハイオク満タンで。


勘弁して下さい。


小休止

対戦アラガミ

 

 

I―スモルト

 

 

「機神」

 

 

元々神機解放レベルを上昇させる方法としての「リンクバースト」は外部からの受け渡し弾をGEが受け取る事によって神機より先にGEのバーストレベルが上昇するが、エノハの神機スモルトの特殊機能―レベル4は発動条件が「レベル3到達後の捕食」である為、先に神機側がレベル4に達する事により生まれた神機と主―エノハの力関係の大幅な逆転現象の結果、支配権を奪って暴走したスモルトの姿。

大型アラガミ種ヴァジュラを一瞬で喰い殺し、その後対峙した「レイス」、アナン、リグの三人を戦闘不能にまで追い込むほどの圧倒的な戦闘能力を有する。

 

見た目は通常時の三倍ほどの体積に膨れ上がった白銀色の捕食形態であるが、「GEリザレクション」の捕食形態変化の如く、ある程度変容させる事も可能。

獣の如く「咬む」「体当たりする」等の原始的な暴力に加えて神機の三形態、剣、銃、盾を顕現させて攻撃、銃撃、防御を使い分ける知性、狡猾さも持ち合わせる上、喰らったアラガミの最大威力のアラバレも発射可能と攻守に隙が無い。純粋なアラガミではないが戦闘力だけならトップクラスであろう怪物。

予想外の「レイス」達の奮闘に消耗し、怒りで我を失ったところに主であるエノハの介入を許し、力の半分以上を奪われ、最後に屈服する。

 

バトルシーンは実は生首みたいな神機捕食形態がぴょんぴょん跳ね回りつつ攻撃してくるという意外にシュールな光景であったりします。発想のモチーフは「もののけ姫」のモロの君。ただし「黙れ小僧」ではなく「小僧(エノハ)に黙らされた」という不遇な一面もあります。

 

 

 

 

 

ヒドラ

 

 

「擬神」 「擬神悪鬼」

 

 

 

この話のオリジナルの敵である特殊変異アラガミ―「固有種」の一体目。GEという一応ジャンルが「ハンティングゲーム」である以上絶対出来ない敵である「まったくの唯一、単一の個体」と言う風変りなアラガミの一種。

 

分裂、結合のできる流動的な体を持つスライムの様なアラガミであり、固定形態をもたない。分体は自律行動が可能だがコアを持たず、神機である程度の衝撃を与えられれば霧散し、分体単体では二度と結合、復活はしない。シユウ感応種アラガミである「イェン・ツィー」の生成する「チョウワン」と類似点が強い。

 

単体では戦闘力はさほど大したことはないがそれを補って余りある狡猾さと慎重さを持つ危険なアラガミ。喰らった獲物の姿形をコピーする能力を持ち、人間やアラガミに擬態して獲物の隙を突いて襲い、喰らう。

司令塔として情報統括を行うコアを持つ巨大な本体以外の分体は謂わば「子機」の様なものであり、捕食によるエネルギー確保と同時、外部情報を収集する役目をになう。ただし分体も各々が収集したデータの差異によってある程度の「個性」を持ち、それを本体と融合することで情報共有を行い、情報を精査、必要か不要の取捨選択を行う。

人間と言う比較的進化の先端に居る生物を多く喰らったせいか一部の高等生物しか持たないとされる嗜虐、愉悦の感情を既に手に入れており、獲物を嬲り、弄ぶ行為が確認されている。栄養、外部情報を吸収しアップグレードする毎に徐々に分体の行動の精密さ、知能、拘束力、擬態のバリエーション、分裂数の増加など危険度は指数関数的に増大する可能性があったある意味アラガミの究極形態と言える生態を持ったアラガミであるが「レイス」によって本体の存在を勘付かれ、リグ、アナンのコンビ攻撃によって分体全てを失い、アナンの血の力によって操られ、簡易の追跡、逆探知の装置と化した一体の分体に取り付けられたエノハの制御・充填爆破によって大ダメージを負った後、「レイス」の血の力「絶殺」によって収集していた全ての情報、体組織を奪われた後に切り裂かれ、消滅する。

 

「弱いが一筋縄ではいかないオンリーワンの敵」としてこれから登場していく固有種の最初の一体です。

原作ゲーム「GE」の「極東に生息するアラガミが世界でもとりわけ強い」という厄介な設定、恐らくは手抜きの為の設定を筆者の「使い回しの為に手ぇ抜くんじゃね~よ。世界観もっと広げろや勿体ない」と言う原作に向けて怒りを込めて作ったアラガミだったりします。

 

 

 

 

登場キャラクター

 

 

 

空木 イロハ

 

 

注 GEアニメのネタばれ込みです↓

 

 

 

 

 

 

「GE」のアニメの10話目に出て来たキャラクターであり、この作品の「地獄で何が悪い」編のメインヒロイン。アニメ原作では死亡。10話を見た後に一瞬でこのヒロインを主役にした話の構想が出来上がり、ネタを漁る為に「飛行機の上でドンパチ戦う話」以外見ていなかった筆者がGEのアニメを見直す切欠となったキャラクターなん、です、が…

 

んが。

 

実はこのイロハ、10話以外全く出てこないキャラと言う事が解り、筆者絶望。畜生。金返せ。

の、割にはアリサ、シオ以降迷走が著しいGEのヒロインキャラ達よりよっぽどGEらしいヒロインであるという不思議。登場時間は三十分、いや厳密に言うと二十分にも満たないのに。20時間以上ストーリー見てきて未だに筆者には存在意義が解らない「2」以降のヒロイン達よ。…どうなってるんだ。

 

「一般人、両親を尊敬、家族想い、抱えている物は重いが基本は明るく、健気」とこの作品のメインキャラのレアやリッカとの共通点も多く、自然に溶け込んでいけそうな素直なキャラであり好感が持てる上、イロハや彼女の家族、そして弟であるアニメ主人公―レンカの抱える背景が「ハイド」の連中と不思議と似通った部分があったので構想段階の説話を総ボツにする事に全くの躊躇いは生まれず。

 

(アニメ放映時、イロハの最期のシーンで恐らく大抵のGEファンが画面の前で「……」となっているであろう中で筆者は―コレだ!!オウガさん…やっぱ貴方はいい仕事するなぁ…。と思い、意気揚々とペンを走らせたのは内緒だ。)

 

アニメ最期のシーンでオウガによって「実は両足のみ喰われていた」と言う追加の設定を加え、ある意味死ぬ以上の絶望の中で「ハイド」やレアに支えられ、「一度死を覚悟し、諦めたアニメ最期の場所で今度は絶望を断ち切って立ちあがる空木 イロハという一人の少女の最終シーンを描く」というモチベを素に―

 

筆者はGEアニメを一話から見た。ネタ探しの為に。

 

が、裏切られた…!これ以外の話にイロハが全く出てこない!おかげで十話だけ何度も何度も…見る羽目に。結果「どうやって包帯の上からハエはイロハに卵を植え付けたんだろう?」などとどうでもいい事を考えてしまう程の危険な精神状態に…。

 

 

以上…アニメを見ていない人には全く解らない困った筆者の愚痴でした。

 

もしこれで少しでも興味が湧いたのであれば良ければ「GE アニメ 10話」だけでも見てつかぁさい…。

 

 

 

 

 

 

 

さて。

 

ここから先は「おまけ」になります。

 

前話のオマケ欄に書こうとしたのですが読後感から「蛇足」と判断し、ボツにしたものです。補足とアフターフォローだけのつもりが無駄に余計な物が付いて長くなってます。

 

 

よろしければお付き合いを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

色の葉の庭

 

 

 

 

 

数週間後―

 

 

少女―空木 イロハが目覚めたこの病院にとある来客がある事をイロハは教えられた。

 

イロハが目覚めた病院―ここはフェンリル出資の公式な病院では無く、「とある」個人が出資し、医者、看護士、事務職員に至るまで、身分、経歴、学歴に拘らず完全な実力主義で採用し経営している個人病院らしい。

設立当初、「採算など取れるはずが無い」「すぐにつぶれるだろう」と散々バカにされたようだが周囲の予想を大きく裏切り、この病院を訪れる患者は増加の一途を辿っている。

 

患者のターゲット層を人工増加の傾向にある下流から中流層に絞り、私立病院で在りながら比較的安価で、尚且つ良質な医療を提供する事から最近は評判を聞きつけた上流層、貴族層の患者までこの病院を訪れるようになっている。基本競争相手の居なかったフェンリル直属の公立病院では内部の派閥、権力争いの激化による医療の質、サービスの低下が著しく、おまけに医療費も高額と全く世間のニーズに逆行していた為、完全にこの地域周辺ではこの病院に大きく水をあけられた。

 

 

そんなこの病院を纏め上げている最大の出資者、筆頭株主、最高経営責任者、理事長を兼任している人間が本日来訪するらしい。

 

 

「まぁ…はっきり言ってカネに汚い嫌な奴だけど、悪い奴じゃ無い、…とも言い切れないけど一応一番のお偉いさんだからそれなりにしてやって?」

 

「は、はぁ…」

 

現在イロハの治療、そしてリハビリの担当をしている女医が自分の働いている病院で一番のお偉いさんに会う割には何とも非礼かつぞんざいな口調、かつめんどくさそうにイロハにそう言った。

 

ぼさぼさの黒髪を乱雑に後頭部で縛り上げ、着崩しすぎの乱れた白衣と適当さ満開、おまけに目元には深々とクマが刻まれており、一見「大丈夫かこの女医…」と突っ込みたくなる風貌だが眼鏡の中に光るやや上目遣いの鋭い吊り目がやり手を伺わせていた。

実際、非常に評判の良い腕のたつ医者らしく、その風貌で在りながら患者からの人気が高い。

 

だが

 

リハビリが「超」がつくほどスパルタなのが最近イロハの悩みのタネだ。

午前中のリハビリを終えたイロハはその女医が引く車椅子の上でぐったりしながら乱暴に「運搬」されていた。口から魂がぽわわんと出ている状態である。

 

「ちっ。こんのクソ忙しい時に来やがって…あいっかわらず空気読めない奴」

 

そんなイロハの背後で容赦なく口汚くCEOを罵る女医。

 

しかし一方でどこか不思議と親しみを覚える口調でもある。罵ってはいるものの相手を信頼しているのがイロハには解る。車椅子を押す速度もいつもより更に早い。どうやら相手を待たせる気はない様だ。

 

 

キキキキキッ!

 

 

「わわわわっ!」

 

 

イロハを乗せたまま華麗な車椅子ドリフトで廊下をコーナリング。途中で若い看護婦に「コラ!廊下は走らないで!って…アダチさん!?」と、窘められるものの「ごめんよ!」と軽く言い放って女医―アダチは走り続けた。

 

そして

 

 

「おっと…いたいた!お~~~い」

 

キキキキキッ!

 

とある病棟2Fに達するとアダチはAK〇RAばりの急ブレーキをかける。乱暴な「運転」によって酔い、横倒れになりそうな体を何とかイロハは支える。

 

 

―うう。吐きそう。

 

 

そんなイロハの事など露知らずマイペースな女医アダチは相変わらず能天気な口調で適当に手を振りながら声を上げる。

 

「こっちこっち~~」

 

 

「…ん?」

 

その声にこの病棟のとある一室から出て来たばかりらしい一人の男性が反応する。長身で細身。そして長い金髪の前髪から見下ろす、見下すような細く、猜疑心に溢れた細い瞳が隙間からぎろりと覗く。

恰好もパンキッシュな白のシャツにダメージ加工のされたデニムとかなりラフな出で立ちである。第一印象は大概の人間は「おっかなそうな、怖そうな人」になるだろう。

しかしアダチは相も変わらず能天気に

 

 

「お~~~い。カレルぅ~~~~」

 

 

そう言いながらその青年に手を振る。すると青年は腰に手を当て、大げさに溜息をついてこう言った。

 

 

「アダチ…いつも言っているだろうが。俺の事を名前で呼ぶな。そして敬語を使え。部下に示しがつかん。そしてこれもいつも言っている事だ。『時間は守れ』。時間を無駄にする事は金をドブに捨てるのと同じだと」

 

 

「はいはい。シュナイダー理事。こんなクソ忙しい時に空気を読まずよく来てくれやがりました」

 

 

 

カレル・シュナイダー

 

 

この若さにしてこの病院のCEOであり、最大株主の男がアダチ、そしてイロハの下に歩み寄る。そして三メートルほど手前で腕を組みながら顎を上げ、ギロリと車椅子に座るイロハを鋭い目で睨む。長身の上に鋭い目つき、そして癖なのか少し顎を上げて他人を見下すように見るので

 

―う。

 

イロハは思わず委縮したように身を縮こまらせ、反射的にぺこりと頭を下げてしまう。

 

―な、なんか目を合わすと噛みつかれそう。そんな事しないだろうけどなんか怖そうな男の人だな…。

 

フンと鼻で笑う声がイロハの頭上で響いたかと思うと

 

 

「アダチ…『この女』が例の?」

 

 

「そ。さ。イロハ。一応挨拶して。一応ここでは一番偉い人で、一応一番ここに金払ってて、一応こう見えてそれなりの常識はあるからさ。多分」

 

「『一応』。『多分』。『それなり』俺が最も嫌いな部類の言葉を連呼するんじゃない」

 

「だからこそ連呼してるんですのよ。嫌になってアナタが早く帰られるようにしてやってあげてやるんでありますよ」

 

「…アダチもういい。お前が敬語使うな。余計に腹が立つ」

 

 

「…」

 

―仲いいな。この二人。

 

その二人のやり取りを見て少しイロハは安心する。

 

 

「は、初めまして。空木 イロハと言います。その、大変お世話になっております」

 

 

「フン…」

 

 

イロハの形式ばった挨拶に何ら反応せず、金髪で細身の男―カレル・シュナイダーは膝を下ろし、今度はイロハを見上げる格好になった。そして

 

 

スッ

 

 

男はイロハに右手を延ばしてきた。握手を求めているらしい。な、なんだ。いい人じゃないか。イロハはそう思いほっとして彼女もまた手を延ばすが…

 

 

バッ!

 

 

「え。うひっ!!」

 

ずりっ!

 

 

自分自身でも驚く位の気色悪い声がイロハの喉から出る。それもそのはずであった。

カレルの差し出した右手はイロハが差し出した右手をスルーし、リハビリで火照った彼女の足が冷えないように敷いていたブランケットをめくり上げ、徐に彼女が履いていた膝上くらいのショーツを脱がしにかかっているのだから。

 

 

「え。えぇええええ!??い、いきなりなにするんですか!??」

 

「うるさい黙れ」

 

一喝。ひぃ。

 

「あ、アダチさん」

 

アダチに助け船を求める。が、

 

「イロハ大丈夫。コイツにそう言う趣味ないから」

 

 

―そういう問題ですかぁ!?

 

 

 

 

 

 

「……」

 

―成程な。確かにコイツは凄い―いや、色んな意味でヤバすぎる技術だ。アダチがあんなに取り乱しながら俺に報告してきた訳が解る。

 

車椅子に座った少女のショーツを脱がし、下着姿にしてマジマジとその股ぐら周辺をガン見する男の姿―はっきり言って光景だけなら変態以外何者でもないがカレルは至って平静だった。

 

彼の頭の中では急速に渦巻いている。少女の足の付け根に走る接合痕、その圧倒的な技術力、この時代に於いてもオーバーテクノロジーとも言える医療技術の結晶が今こんな小さな少女の足下で息づいている。

 

―元々貴族でも、そもそもフェンリルの庇護化にもいなかった金も何もない難民の女にこれ程の処置を施す奴か。はっ、相当のバカで相当の天才だな?

 

 

そしてその「馬鹿」は先日

 

直接「交渉まがいのこと」までカレルにしてきた。

 

 

 

 

 

 

俺は先日

 

「病院の庭で一人の人間が捨てられていた」との報告をアダチから受けた。それは別段このご時世珍しい事ではない。俺にとって「またか」程度のことではあった。

 

―全く…俺の病院は養護施設じゃないんだぞ。

 

いつも通り「保護施設に預けるだけの話。いらん報告はするな」と、アダチを突っぱねたのだがアダチは喰い下がってきた。

 

「この患者おかしいんだよ。上手く言えないけどなんか色んな意味で」

 

それがこの女だった。最早成人に近い女が俺の病院に捨てられていて、おまけにフェンリルには登録されていない難民だった―これだけなら「厄介な奴が転がり込んできたな。適当な所で追い出せ、働けるようなら働かせろ。それがダメならお前の好きなようにしろ」

 

で、済む話なのだがそうもいかなかった。

 

こう言うのもなんだがアダチは俺が認めた優秀な医者だ。そのアダチがこの女の足に施された治療痕を前に目が離せなかったというのだ。技術がある医者であるからこそ、この女の足に施された処置の異常さが解ったらしい。

 

全く以て未知の治癒行為。技術が施された事は間違いない。それしか言えないと電話で語るアダチの声は俺の興味を引くには充分な話だった。

 

そしてそれだけに終わらなかった。

 

その電話をアダチから受けたその日、俺は封筒を受け取った。差出人不明の封筒だ。

いつもなら考慮にも値せず即ゴミ箱行きにするが何故か俺は即処分する気が起きず、その封を開けた。中に入っていたのはたった一つのデータディスクであった。

 

その内容はかいつまんで言うとこうだ。

 

俺の病院で捨てられていた女の名前は「空木 イロハ」と言う名前である事。

 

その女を保護し、歩けるようになるまでリハビリを施してほしい事。

 

その女が歩けるようになったら暫く働き口を与えて欲しい事。

 

そして出来る事ならば女の「人探し」を手伝ってやってほしい事。

 

このデータディスクの情報を外部、そして彼女には絶対開示しない事。

 

正直ここまでなら「俺が何故そんな慈善団体みたいな真似を」で終わる話なのだが…この送り主は「おまけ」に厄介な土産をつけて来た。

 

 

「これら条件を受け入れてくれるのであれば段階を持って―

 

この医療技術を貴方がただけに開示していく」

 

 

実際にそのデータディスクにはこの医療技術に関する一部データが確かに掲載されており、当然俺だけでは判断がつかない為アダチにも見せた所―

 

「…」

 

あのいつもやかましいアダチが絶句していた。それだけで俺には充分だった。

 

 

 

 

 

「うぅ…カレルさん?ズボン履いていいですか?」

 

「…」

 

―金も血筋も品性も何も持っていない女だがこの女には価値がある。莫大な金を生み出す可能性のある金の卵だ。

 

「うう。なんで無言なんですか。そして何故か凄く失礼な悪口を言われている様な気がします」

 

「…」

 

―そして同時に幾人かの俺の病院の患者を救える希望の―んっんんっっ!!…より多くの患者を引き連れ、俺の病院を儲けさせ、発展させることのできる幸運の招き猫かもしれない。

 

おまけに先行投資はバカみたいに安いときている。このデータディスク内に在った第二の情報開示の条件が何と「218万92fcをキャッシュでとある場所に置いていけ」という格安条件だ。

 

恐らくは長年国家レベルの予算を開発、研究費用につぎ込んだであろうこんなオーバーテクノロジーの一部情報をこんな安値で売り捌くとは。

 

ああ。もう既に払ったさ。妙に中途半端な額で少し訝しげだったが1fcたりとも削らず払った。そして事実ちゃんと追加情報は来た。どうやら「本物」らしい。

 

相手は本物のバカのようだ。

 

基本甘い情報やバカな根拠のない話に絶対乗らない俺であるが、同時に「世界にはバカな話などごまんとある」のも知っている。世界にはとんでもなく悪い意味でバカな奴もいれば、違う方向性でこんなバカなお人好しが世界にも居るというのも事実と言うことだ。

 

 

 

「…で。おい。女」

 

「は、はい?」

 

「リハビリは順調なのか」

 

カレルはある程度の情報をイロハの足から読み取ると全く興味を無くしたように、払いのけたブランケットをイロハの膝の上に乗せる。ここまでされたのに女性としては傷つく反応だ。

カレルの興味は既に次の段階に移っている。この少女のリハビリの成功が次の情報開示の条件であるだけに。

 

 

「…っどう、なんで、しょう…?」

 

「頼りない反応だな。…アダチ」

 

「う~ん。まぁ順調は順調だね。一応この子はそれなりにガッツはある。何よりもこの子自身『歩けるようになりたい』って思いが強いみたいだし。その点は自信持ちな。イロハ」

 

アダチはようやくイロハに助け船を出す。珍しく笑って。

 

「…そうでないと困る。女、お前の入院費、治療費はきちんと払ってもらわんといかんからな」

 

カレルはきちんと「分けて」いた。情報を得る事で生まれる利益と逆にイロハを預かる事によって生まれる諸経費を全く別物にして。流石に金に汚い彼だけはある。

 

しかし

 

それも「相手側」は織り込み済みだった。カレルの性格を知っている「彼」はカレル自身が決してイロハを甘やかさない事、そして同時に治療を終え、イロハの価値が実質無くなっても完全に見捨てて放り出すような人間ではない事を知っている。

 

故に「彼」はカレルに彼女を預けたのだ。

 

「足が治った後、その分を埋める為にお前の体で支払ってもらうぞ」

 

「カ、カラダ!?……っ?」

 

―あれ。なんでだろう?私どこかでこんな経験をしたような……?

 

「…ん?勘違いするな。ここで暫くの間タダ働きをしてもらうだけだ」

 

「…ほっ。そ、そう言う事ですか…」

 

「まぁ女?お前が『そちらの方』をお望みであれば俺にも幾つかアテがある。お前がリハビリをさぼったり、役立たずであれば容赦なくそっちに放り出していいんだぞ?」

 

「が、頑張りますからそれだけは!!」

 

「ふふん。それでいい。曲がりなりにもその齢まで『外で』生きのびて来たんだ。最低限の医療知識ぐらいあるんだろう?」

 

「あ。…まぁほんの少しぐらいですが。…お役にたてるかどうかは」

 

「お前にはアダチをつける。せいぜい勉強するんだな」

 

事実である。

 

カレルは彼自身GEである以上知っている。装甲壁内で住み、フェンリルに対して雇用の拡大を要求しているような無職の人間達より厳しい外の世界で生きのびている難民の方が時に生き残る為の術、知識を吸収している事が多い。そもそも限られた物資、食料、薬剤で出来る限りの最高の効果を出す為の知識を最低限持っていないと外ではそもそも生きのびる事すら難しいのだ。

 

それをこの歳まで女性の身でありながらイロハは生き残ってきたのだ。治療後もしばらく飼っていて「損はない」とカレルは踏んだ。「使える」人間は正直大歓迎だ。病院という物はとかく金がかかる。その上人手がいる。こんなご時世なら尚更だ。

 

 

 

「…女。お前探している人間がいるそうだな?」

 

「は、はい!」

 

「働き次第ではその『人探し』とやら手伝ってやってもいい。せいぜい励め」

 

にやりと笑ってカレルはそう言った。最高の餌を最後ににぶら下げて。

 

「…はい!」

 

―色々失礼なことされたけど…いい人だな。この人。

 

 

でも―

 

 

「あの…その…カレ…いえシュナイダー理事長?一つよろしいですか?」

 

「長いな。もう『カレル』でいい」

 

「ん。ちょっとイロハには甘くない?アンタ」

 

「うるさい。で、なんだ?女?」

 

 

「…私の名前は『女』じゃないですよ。『空木 イロハ』です。ちゃんと名前で呼んで下さい…カレルさん」

 

 

イロハは少し反撃の意図を込めて上目遣いで強気に笑ってみせた。すると

 

 

「…フン。上等だ」

 

 

カレルも笑った。

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

「カレルお兄ちゃん!!」

 

「カレルさんっ!!」

 

「りじちょ~~~っ」

 

「カレル様!」

 

 

ずしっ!

 

 

「ぐおっ!」

 

 

いきなり背後からカレルに飛びつく影があった。その時イロハは気付く。アダチに連れられた先、現在自分達が居るその病棟が小児病棟だと言う事を。

 

「お前ら…」

 

カレルは重みで前のめりになりながら恨めしそうに背後に絡みつく小児病棟の患者である5歳前後くらいの少年二人、少女二人の四人組をぎろりと睨む。普通なら委縮しそうな位おっかない彼の視線だが子供達はどこ吹く風だった。

 

 

「カレルお兄ちゃん!!お土産有難う!!」

 

「あの…その…お母さんが御礼を『言っておいで』って」

 

「ちっ余計な事を…」

 

「りじちょ~~つぎいつこれる~?今度はいっぱいいっぱい遊んでね!」

 

「カレル様。結婚して。ダメなら第二夫人にして、それもダメなら妾にして、最悪養子で」

 

口々にカレルに纏わりついた子供達は矢継ぎ早に彼に語りかける。

 

 

「…」

 

イロハは呆気にとられる。そして同時に

 

 

 

「くすっ…あはぁ…あはははははは!」

 

 

 

後ろに立っているアダチと一瞬顔を見合わせた後、大声で笑った。そんなイロハを忌々しそうな目でカレルは見てこう呟いた。

 

 

「ほぉ…決めた。…お前の当分の仕事はコイツらのお守りだ…。はっきり言ってコイツらはアラガミより質が悪いからな。せいぜい殺されない程度に頑張るがいい。リハビリと勉強と並行してやれ。つい今しがたあれ程の啖呵を切ったんだからな。…弱音など一切許さん」

 

 

イロハは調子に乗り過ぎたと後悔したが既に遅かった。

 

小児病棟の子供達の眼はカレルに組みつきながらも既にイロハをターゲットに捉え、車椅子に座った彼女を興味深そうに見ていた。イロハはその瞳に気圧されるようにたじろぐ。が、やがて覚悟を決め、苦笑いしてこう言った。

 

「初めまして。私はイロハって言います。よろしくね。皆」

 

 

 

 

「…イロハさん」

 

「イロハちゃんか…」

 

「ふ~ん。イロハさんね」

 

「イロハ…おねえちゃんだね」

 

 

 

 

 

―あ。

 

イロハはしっかりと自分を見るその四人の子供達を見て何故かこみ上げてくる物を感じた。とても懐かしいような温かい感覚を。

 

 

 

―イロハさん。

 

―イ~ロ~ハちゃん!

 

―イロハさん?

 

―…イロハねえちゃん。

 

 

 

イロハの様子がおかしい事に気が付いたアダチがイロハの顔を覗き込む。そして同時驚きの声を上げた。

 

「…!イロハ?貴方…」

 

 

「……?え。…あれ?あれ?あれ…?」

 

 

イロハはぽろぽろと流れる涙を抑える事が出来ないまま笑っていた。何故今自分が泣いているのか解らない驚きの表情のまま。

 

―なんでだろうね?なんでだろうね?バカみたい。

 

でも。

 

無理だよ。止まらないよ。

 

 

心の中でそう呟きながら。

そんなイロハを心配そうに既に四人の子供たちが取り囲み、「泣かないで」と訴えかけるように一人一人イロハの手を小さな、しかし温かい手で握ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間後―

 

 

「ここだよ。イロハ。アンタが捨てられていた場所…」

 

「ここが…」

 

「味気ないけどここには草が生えてるし、おまけにコイツ一本だけだけど一応木も生えてるからね。オーバーナイトの仕事がようやく終わっていつものここで寛ごうと思ってたら思いがけない先客がいたってわけだよ。それがイロハ…アンタだったワケ」

 

私は私があの病室で目覚める三日前、唐突にこの場所―この病院の中庭に生えたこの一本の木の根で眠っていたらしい。そんな私を見つけたのがアダチさんだった。

 

「どう?何か思い出さない?」

 

「いえ。すいません…」

 

「そっか…ま。アンタにこれだけの処置施した上にまぁマシな所に放置するあたり少しはマトモなのかもしんないけどね。アンタを捨てた連中は」

 

「アダチさん…」

 

「ん?」

 

「少し…一人にさせてもらっていいですか?」

 

 

 

 

「よいしょっと…ふぅ…」

 

私は車椅子から這いずる様に降り、私が放置されていたその日と同じような姿勢―木の幹に背中を預けつつ見上げ、目を閉じる。木漏れ日が風に吹かれてさらさらとそよぐ。

成程。アダチさんの言った通り昼寝には最適の場所だ。

 

 

―私はここで捨てられていたのか。…ふふっ。レンカ?奇しくも貴方と私…一緒になっちゃったね?

 

貴方は汚泥の中で。

 

そして私は…この木の根元か。

 

 

私は自虐的にそんな風に思いながら目を開ける。すると小さい頃膝枕をしてもらった時のお母さんの様な安心感を与えてくれる大きな木が風に吹かれながらもどっしりと佇んでいた。

 

私はこの木の正式名称を知っている。伊達に長年植物図鑑を読み漁ってはいない。

この木の品種はソメイヨシノ。つまり「サクラ」の木だ。

 

 

 

元々私は正直、この「サクラ」というものがあまり好きでは無かった。

 

 

2070年代の現代―

アラガミ出現後、世界中の気候が大きく変動した影響なのか、21世紀初頭まで三月後半から四月初旬にかけて桃色の花を一年に一回限られた期間のみに満開に咲かせたというこの品種は現在その周期を喪っており、ほぼ年中緑色の葉をつけるのみの木となっている。

 

 

かつては限られた短い期間ながらもとても美しい花を咲かせ、そして一瞬にして散る。そんな儚いサイクルが多くの人々を魅了してきた神秘的な自然の象徴ともいえる植物―と小さい頃、穴が空くほど読み返した図鑑には書いてあった。

 

その儚さが幼い私にとってどこか悲しげで寂しげに映ったのだろう。自分達の境遇、そしてこんな時代故に少しでも。せめて図鑑を見ている間くらいは夢に浸っていたかったのかも知れない。

 

 

でも私は眠りから覚めた後、何故かこの「サクラ」という物の印象を変えていた。

 

 

確かに短い期間であってもそれが掛け替えのない物であるからこそ人はそれに惹かれるのだろう。そして「サクラ」というものは散ってそれで終わりではない。その刹那的なサイクルは「終わり」を表す物では無く、新しい季節の始まりの象徴でもある。そして次の季節には異なる色の葉をつけ、それは一年の大半を芽吹き、生き続ける。木そのものはそれよりもさらに長く生き続ける。そして季節を繰り返し、また短く儚い、しかし素敵な時間を人々に与える。

 

 

これはまさに私が忘れてしまった「貴方達」そのものではないか。

 

 

貴方達は私の前に現れ、あまりにも鮮やかに短く、早く居なくなってしまった。記憶からも居なくなってしまうほどに。

でも例え覚えていなくても私にとって貴方達との出会いがどれほど素敵で素晴らしいものであったかは覚えている。

 

 

「サクラ」

 

 

この一つの言葉が私と貴方達とのキーワードで在る様な気がしてならない。貴方達と私を繋ぐ何かであるという根拠の無い確信が強くなっていく。

 

だから私は前に進もうと思う。貴方達がくれたこの両の足で立って歩く。次の季節に芽吹く―

 

 

異なる「色の葉」となるために。

 

 

 

その先でまずは蓮花と再会して。色んな事を一緒に乗り越えて。

 

そしてもう一度季節がめぐるその時に―

 

 

きっと

 

きっと―

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ……」

 

 

イロハは膝に力を込める。ぴりぴりと神経が放電するように両足から発せられる激痛が彼女の頭の上まで一気に貫く。その度に頭のどこかで何かが囁く。「無茶するな。無理だ」と。

でも今のイロハは止めない。止められない。

 

「う、うう…!!うっつぅううう!!!」

 

心もとなくがくがくぶれる両足、木を掴んだ両腕の支えなしではそのままくず折れてしまいそうだ。それでもイロハは唇を噛みしめ、徐々に上へ上へ。汗と激痛によって思わず生じた涙が頬を伝うがそれをぐいと拭い、呼吸を整えてまた上へ少しずつ体を押し上げる。

激痛は異常なほどの時間感覚の延長を生む。もう既に何度も何度も季節を巡ったような永遠にも感じそうな時間。

苦痛の時間。

 

しかしそれが唐突に。

 

彼女の中で終わりを告げた。

 

 

「…あ」

 

 

体が飛んでいきそうな程ふわりと浮いた様な感覚がした。両手をゆっくりと名残惜しそうにイロハは木の幹から離す。未だに覚束ない、体の軸はふらふら。まだまだとても一歩踏み出せそうなバランスではないが…

 

 

彼女は立っていた。彼女の両足で。緑の草の大地を踏みしめて。

 

 

ザアッ

 

 

栗色の髪が揺れる。風が優しく彼女の足を浚っていく。

 

 

「……あはは♪」

 

 

少女は一人立っていた。

 

 

新しく芽吹いた色の葉の庭で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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