G・E・C 2  時不知   作:GREATWHITE

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第14話 化物 下

「・・ずいぶんとゆっくりなお着きで。エノハ隊長」

 

「・・お前が速過ぎるんだよ」

背後から現れたエノハの苦言をにやりと笑って満足そうに受け流し、解放状態を切ってステルスフィールドに切り替えたリグは愛機である暗緑色のスナイパー神機を構えたまま、顔と目線を傾かせ、エノハもまたその方向を見下ろす。

 

その蒼い瞳は既にその100m程の距離で群れをなすアラガミ―オウガテイルの一団を捉え、高台に陣取り、射程範囲内に侵入しながらも全く警戒を許していないという狙撃にはベストの状況を作り上げていた。

 

「よし・・。リグ?まず一番警戒をしていない最後尾の奴を仕留めろ。そして味方が仕留められた後一番気付くのが早かった奴があの群れのリーダー格、もしくは警戒役だ。そいつを次に仕留めればあの群れは混乱で壊乱する。その隙に残りを俺が仕留める」

 

「いや。アンタは黙って見てろよ。そういう任務なんじゃねぇの?今回は」

 

「・・狙撃だけじゃ一気にあそこに居る五頭すべて即仕留めるのは無理だ。確かに無警戒状態なら一発必中かも知れんが、警戒状態になったらそうもいかない。在る程度直撃の『芯をずらす』適応力、反応速度は在る連中だ。それに間隙無くオウガレベルのアラガミを一発必中で仕留める弾頭ならそれなりのオラクル消費があるだろ?連続で撃てても三発といったところか?」

 

「・・フーン。さすが。確かに的確な読みだわな。正確に言うと二発撃った後、次弾発射まで補充に三秒ほどかかる」

 

年相応な無鉄砲な幼さがあるリグだが任務中はある程度冷静な観点から分析する一面を持ち合わせている。

 

「・・二秒後に俺が出る。その更に二秒後に初弾を撃ってその後はさっき言った手筈通りにしてくれ。いいな?」

 

「・・やだね。もう一度言うぜ。黙って今は見ててくれよ。隊長さん」

 

「リグ・・聞き分けてくれ」

 

 

「・・言ったろ?俺達を今までの神機使いと一緒にすんなって―

 

 

 

 

さ?」

 

タァン!!

 

ビシュッ

 

 

その一言とほぼ同時に重厚な発砲音と真っ赤な風穴が一匹の100M先の最後尾のオウガの脳天に真っ赤な風穴を作っていた。痛みも何が起こったかも知覚する前に。

行動、選択肢を完全にリグの一撃はオウガから奪った。

 

「・・!リ・・」

 

タァン!!

 

リグの抗命をエノハが咎める暇も無くもう一発が発射され、初弾の発砲音で異常の欠片を僅かに知覚した一匹―現在群れの中での警戒役を務めていたオウガもリグの姿を目で捉える事も無く射抜かれる。傍目には同時に仕留められた様な光景。射抜かれた一匹目が最後にコアから伝達された「歩け」という電気信号を未だ忠実に実行している最中に起きた二つ目の惨劇であった。

 

さらにリグ側は追加攻撃の時間を得るが先程言った通り、ライフル弾は一旦打ち止めだ。もう一発撃つには数秒必要。オウガが混乱から立ち直り、こちらを視認して反撃体勢を整える事は可能な時間だ。

 

同時二発目の銃声と共にリグは狙撃地点から跳躍、宙を舞って

 

 

パチン

 

 

・・ズオッ!!

 

 

右手の指を弾き、解放。

 

高台からの跳躍、着地と同時、黄金に輝く物体が線を引いて高速で迫る光景に徐々に異常を察し、混乱、警戒態勢に入りつつあるオウガ達に再びの?を与える。

神機解放時の強い発光が丁度目くらましになった形だ。

 

未だ混乱するオウガの内一匹が収束した光の先で見た物は―

 

・・・・ッカアっ!!

 

喉元から痰を吐きだすような音を出して大口を開けた黒い巨大な顎であった。

 

 

―――・・・・!?捕食形態!?

 

 

流石のエノハも驚いた。当然だ。本来第一世代神機銃形態には捕食機能は付随されていない。しかし目の前の光景は認めざるを得ない。確かにリグの神機は捕食形態を成し、今―

 

パグン!!

 

・・・!!

 

オウガの上半身を呑みこんだ。オウガは悲鳴を上げる余裕すらない。

 

「・・そらっ!!!!!」

銜えたオウガの一匹を軽々と振りまわし、突然の強襲に呆気にとられていた更にもう一匹のオウガに投げつける。

 

・・・!!?

 

頭部の大半を喰いちぎられ血飛沫を巻き上げながら飛来する同胞の体が直撃し、四匹目のオウガは腹の中の空気が押しだされるような「グギャアっ」というか細い悲鳴を上げ、押しつぶされた。それに向かってリグは即銃口を向ける。

 

―・・充填完了。

 

タァンっ!!

 

数秒遅れの「久々」の重厚な発射音と同時、押し潰されたオウガは既に屍と化していた同胞と一緒に貫かれ、絶命する。ここで―

 

グ・・・オァアアアアアア!!!

 

同胞が一瞬にして四体屠られた惨劇を目の当たりにし、残った一頭がリグに襲いかかる。反撃どころか敵襲の自覚、知覚すら遅れていた彼らにようやくの反攻の光が差し込んだ瞬間であったが既に大半の仲間を喪い、半パニック状態の彼では旗色が悪すぎた。

リグの中でそれは「練り」終わっている。先程の一発でオラクルは使いきった。

しかし「代替」としては十分な物が装填されている。

 

パスっ!

 

リグは構えた銃口から先程より乾いた銃声と共に鋭い針の先端―オウガテイルの尾部から射出される針攻撃を象ったアラガミバレットを射出。それがオウガの胸部に勢いよく突き刺さり、衝撃でオウガは吹き飛ばされ―

 

ズドォっ!

 

背後の家屋に串刺し、張り付けにされ、悲痛な悲鳴を辺りに響かせた。しかし

 

グッ・・グルァっ!!!

 

胸部を貫かれ、ごぼごぼと口内から血が混じった泡を噴き出しながらもオウガはまだ生きていた。その光景を見ながらリグは薄ら笑いを浮かべつつ

 

「はっ。悪いな?早く楽にしてやりたいんだけどよ。弾切れでよ?」

 

そううそぶいた。

その態度は言葉は通じなくとも嘲笑や見下しである事をオウガは本能的に勘付き、「早く殺せ」と言わんばかりに壁に縫い付けられたまま喚き始める。

確かにアラガミバレットは後二発残されている。それを頭部に打ち込めばそれでオウガは確実に絶命する。しかし―リグは撃たない。

 

「あ!・・そうそう。『これ』があったな。丁度いい。隊長サマにお披露目しなきゃな」

そう言って銃口を気を取り直したようにリグはオウガに銃口を向ける。オウガは再び怒声をあげリグを威嚇する。

 

 

「お望み通り今送ってやる。ただし―・・・早くは死ねるが楽には死ねねぇぞ?」

 

 

途端、リグの神機が音を立て始める。先程の捕食形態時の様なみちみちと肉が捩れる様な生物的な音では無く―

 

ガコン・・

 

そんな機械的な音であった。

エノハには聞き慣れた音だ。なぜなら第二世代神機が行う変形である銃→剣、剣→銃への形態変化の際に伴う音はそれは酷似していた。

 

―しかし

 

結果は似て非なるものだった。

スナイパーの銃身の先端がぐるりと折れ曲がり、替わりに円柱状で、まるでチーズのように無数の穴が施された奇妙な物体がせり上がってきた。これは―

 

「・・ルール無用だな?」

 

エノハはその二つ目の信じられない光景に呆れて乾き、歪んだ笑いがでる。

今「変形」が完了。先程まで暗緑色のスナイパーライフルであったリグの神機は確実に今、

 

「・・お待たせ」

 

アサルト銃身に姿を変えていた。

 

 

・・・!!!

 

オウガは目を見開いた。

僅かながらも自分の生に対する執着を思い出す。それは詰まる所恐怖だ。

体をゆすり、突き刺さった針に抉られ体液が飛び散ろうとも必死でもがいた。

あがいた。

しかし・・

 

 

無意味だ。

 

 

 

ガガガガガガガガガガッ!!!!

 

 

 

「あっはっ!あっはははははははははっ!!!!!!!!!!」

 

 

 

リグの高笑いと共にオウガを縫い付けた壁に無数の穴が出来、同時に悲鳴と赤黒い体液を撒き散らしながら徐々に、ゆっくりとオウガの体は原形を無くしながら崩壊していく。

悲鳴が掻き消えた頃には家屋は倒壊、埃を巻き上げた見るも無残に穴だらけにされた壁の破片の周りには赤黒い体液とどこの部位なのか最早解らない程損壊した肉片が四散している。

 

 

「・・・。成程」

 

 

高台でその光景を見守っていたエノハがそう呟いたのを聞いたかのように得意げな顔でリグは遠目のエノハを見据える。顔についた血を拭いながらの獰猛な獣の表情であった。彼の神機は一見第一世代神機に見えて実は銃形態でありながら捕食が可能。そして二つの銃形態―スナイパー銃身、アサルト銃身の2タイプに変形可能な神機であった。

 

―・・確かに『違う』な。

 

神機も。

 

そして持ち主も。

 

節制、加減、抑制の利かない獣だ。

 

 

「どうよ?」

 

「!」

いつの間にかリグはエノハの目の前、狙撃地点の高台まで瞬時に舞い戻ってきていた。未だに健在な黄金のオーラを纏い、エノハを品定めするかのように横目で見据えながら歩き、エノハの背後に立つ。

 

「・・・いや本当に驚いた。まさか捕食形態だけでなく銃身タイプの変更すら可能とはね。怖れいった」

 

素直にそう言った。悉く予想の上を行った褒美としてエノハは心から賛辞を贈る他ない。そう言いながら微笑み、背後に立ったリグに振り返った時であった。

 

「・・まだ納得いかねぇな」

リグが不満そうに呟く。

 

「・・?」

 

「もう少し驚いてもらわないとな?」

 

「・・!」

 

 

ガコン・・

 

銃身がエノハの目の前に突きつけられる。

エノハは目の前の暗緑色の砲身が目の前で丸く、巨大に変形していく光景を間近で見た。

 

「・・六時の方向」

 

リグのその言葉と同時に背後を振り返ると跳躍し、エノハを狙う明らかに先程までの個体より巨大なオウガテイルの姿が

 

 

ボンっ!!

 

 

まるで空中で破裂したかのように爆散した。

血の雨の降りしきる中、エノハは開いた盾形態で己に降りかかる血の雨を防ぎながら自分の左頬にある発砲後の高熱化した砲身の熱をチリチリと感じつつ、耳元で響いた轟音によって一時的にバカになった耳を調節しながら慎重に言葉を発した。

 

「これは・・?見た事無い銃身だ」

 

「・・・神機ってのは日に日に進化してんだ。『レイス』の神機―ヴァリアントサイズを見たろ?今まで主流だったブレードタイプだけでなく各個人の適性、次々に進化、もしくは新種を発生させるアラガミに合わせて神機も種類、選択肢を増やしていく必要があった。それは当然刀身だけに限らない」

 

リグはそう言いながらゆっくりとエノハの肩口から銃身を下ろすとエノハの眼からも全体像がはっきりした。先程リグが換装したスナイパー銃身、アサルト銃身に比べると武骨でがっしりとした直方体の砲身。今まで主流の三銃身、やや細身のスナイプ、アサルトと大砲身のブラストの丁度中間点に入りそうな精悍な肉付きをした銃身であった。

 

「コイツは新しい銃身タイプ―『ショットガン』だ。以上。俺の神機はスナイパー銃身、アサルト銃身、そしてこの新銃身である『ショットガン』の三種類に加え、捕食形態にも換装できる特殊第三世代神機ってわけさ」

 

 

「だからリグ・・君の神機の名前は・・」

 

 

―『ケルベロス』なのか。

 

 

許可なく侵入しようとする者を襲い、焼き尽くす三つ首の地獄の番犬。その名を冠するに相応しい遠・中・そして近を兼ね備えた超攻撃的銃形態神機である。

 

「・・・」

 

エノハは無言で見据える。それを持つに相応し過ぎる攻撃性、才を持ち合わせた危う過ぎる目の前の少年の姿は一般の人間の基準で鑑みれば間違いなく

 

「化物」だ。

 

 

ただ無軌道に。刹那的に。己以外の者を拒絶し、破壊するだけの者。

そしてそれがいずれ自分をも壊し、滅ぼしてしまう両刃の剣である事を理解し切れていない。圧倒的な力を見せつけたリグに対してエノハに浮かんだ感情は「化物」などではなく、一人の少年の危うさを危惧し、フォローをしなければならないという「庇護」の感情であった。

 

そして。

 

即それを実行に移した。

 

 

「リグ。まず一つだけ言っておく」

 

「・・あ?」

 

「無線は常に携帯しておけ」

 

ザリッ!!

 

エノハが身を屈め、地に根を張る様な姿勢に臨戦態勢に入った事をリグに確信させる。

直前の無線でノエルから報告されていた敵影は「七体」。無線を聞いていないリグに解ろうはずも無い。

 

隊長エノハが部下リグを離れて監視していたのと同様、オウガもまた見ていた。じっと見ていた。「敵」の技量を。側近を含む部下六体のオウガを「費やし」て。

そしてようやく見つけたのだ。

自分の勝利に酔い、完全に慢心、油断していた「敵」の隙を。

 

チリッ

 

―・・・!?

 

リグの足元に予兆の「放電」が走る。この期に及んで慎重だ。姿を現すことなくリグを仕留めにかかる。奇襲、暗殺はリグ―つまり人間の専売特許ではない。

狙う者は同時狙われる者。狩る者は狩られる者。常に表裏一体である。

 

急に胸倉を掴まれたかと思うと一瞬にしてリグの視点はひっくり返って行った。ようやく目端で捉えたのは地から発せられる蒼い稲妻の様な閃光とエノハの後ろ姿であった。

 

 

クッ。クッ。クッ。クッ。

 

リグを爆心地から払いのけたエノハの眼球が忙しなく眼窩を縦横無尽に駆け巡る。目の前の地面から発せられた高圧電流の衝撃波、破片が舞い散る中で何の逡巡も無く。

そこには驕りも油断も慢心も無い。

 

同時無線が入る。ノエルだ。

 

『・・ようやく動体感知、熱源感知に引っかかりました。目標は高台の真下です!』

 

 

グオァアアアアアア!!!!

 

自分の居場所を特定された事を瞬時に確信した最後のオウガが跳躍し、姿を現す。先程の六体を遥かに凌ぐ巨体を持ったヴァジュラを定期的に捕食した結果進化したオウガテイル―ヴァジュラテイル。このオウガテイルの群れの主であった。

 

この個体をここまで巨大にさせたのはこの個体の純粋な力もさることながら味方を囮にして不意を突き、敵を仕留めるまで発達した悪知恵であろう。

 

しかし今日に関しては相手が悪すぎた。万策尽きた末の強硬手段は完全に裏目に出る。

 

 

ぐばっ!!!

 

・・・!!!

 

大口を開けた己を遥かに上回る巨大な黒い顎が目の前に展開し、戦慄を覚えた瞬間にヴァジュラテイルの視界は真っ黒に染まる。同時猛烈な遠心力が体にかかるのを体に感じたかと思うと気付けば遥か上空に巻き上げられている事を理解する。真っ逆さまの視線の先に黄金のオーラに包まれた人間が見えた。

そしてその人間の持つ己に喰い付いた顎が収縮していき、銀色に輝く巨大な砲身が明らかに自分に向けられている―それが最後に彼の眼に映った光景だった。

 

矢継ぎ早に三発の針が的確にヴァジュラテイルの急所を抉り、最後に巨大なホーミング弾頭が彼を空中で爆散させたのはその二秒後である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読了お疲れさまでした。
前作バロンドールのオウガテイルさん・・・今作もお世話になります。


おまけ


「・・新手?」

『はい。『レイス』から先程報告があり、こっちもモニターで捕捉した所です。中型種二匹。種別は・・コンゴウ通常種と堕天種の各一匹だそうです』

「・・報告に無いな」

『ええ。欧州第二支部の報告では「討伐済み」と報告されている二匹ですからデータに無いのは当然です』

「でも実際は未だ我が物顔でこのへんをうろついていたと」

『・・そういう事です』

「・・やれやれ。戦果の過大、誇張報告か。意地を張る所と張らない所の分別はつけてほしいもんだね」

『僕達「ハイド」の特性、都合上必要以上の戦闘は避けたいところなんですが・・どうやらそうも言ってられません』

「聞こうか」

『今のエノハさんの位置から10キロ、この二匹の現在地から約7キロの地点にサテライト拠点建設予定地があり、現在着工中で幾人かの技師、土木関係者、地質調査学者、研究者が査察に訪れているらしいです。・・GEの護衛も無しに』

「・・ま。『存在しない』アラガミの為にGE(ひとで)は割かんわな」

『この二頭の速度、現在の進行速度、方向を考えると・・』

「了解。向かう。レイスとアナンに目標の進行方向を建設予定地から遠ざけるように誘導するように伝えてくれ。・・そうだな。このポイントまで誘導するように伝えてくれ。そこで落ち合おう」

『了解。・・確かに「ここ」なら第二支部の連中と鉢合わせの可能性は低いでしょう』

「頼む」

『了解です。エノハさん』

通信を切る。

「・・誘導なんか面倒なことせずさっさと潰せばいいだろーが。あの二人がコンゴウ二匹如きに後れを取らねぇよ」

リグが無線を終えたエノハに面倒くさそうに話しかける。

「出来るだけ人目につきにくい所で始末した方がいい。サテライト建設予定地点周辺は元々工場跡だから秘密裏に資源漁りに来る連中が多くてね。その連中に『居ないはずのアラガミ』を始末するヘンな部隊が目撃されたらちょっとした騒ぎになる。欧州第二支部のメンツもあるしな」

「・・メンドくせぇ」

「そう。面倒くさい。なんなら変わってくれるかい?」

「エンリョしときます」

そう言ってんべっと舌を出してリグは視線を逸らす。その仕草にエノハは微笑みこう言った。

「そう。それでいい。リグ」

「・・?」

「君はその力・・レア・・ママとレイスの為に存分に振るえ。今はそれで構わない。無軌道、無謀になりさえしなければ君の力は十二分に己の為だけでなく数多い他者の力になり、救い、守れる力だ」

そう言ってリグの元へエノハは歩いていき、「スモルト」の銃形態であるブラスト銃身をカチンとリグの手元の彼の神機―「ケルベロス」に当て、

「・・期待してるぜ」
そう言って背を向け歩き出す。

―・・やっぱ俺はアンタを好きになれねぇよ。

その後ろ姿に向け、リグは内心そう言い捨てた。その背中は無言で「それでも構わない」と言っていた。アラガミ相手の時とは違って全く以てスキだらけの背中だ。

生まれながらにGEであった自分とは異なり、この男は自分の意志でGEになったらしい。通常断れない召集を断る事さえ出来る権利を持った恵まれた家庭、環境に生まれながら、だ。リグに言わせれば正直正気の沙汰とは思えない。

彼の母親が最後に彼に言い捨てた言葉―「化物」は紛れもない真実だ。
所詮GEは「化物」。「人類の守護者」と銘打ってはいるが常人には理解不能の異能をもった連中だ。そんな存在に望んでなる様な奴は繰り返して言うがやはり正気の沙汰とは思えない。

この男もまた「化物」だ。ただしリグの思う「化物」とはまた違う「化物」だ。
生物的には同じでありながら対照的。理知的で冷静で人間的で穏やか。
同時に明らかに自分以上のGEの力―「化物」の力を持ち合わせた男の後ろ姿を飽きずにリグは眺めつづけた。



―いいぜ?

従ってやる。アンタに俺みたいな化物が扱えるならな。

どうぞ。

よろしく。

俺以上の―



「・・化物」


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