やはり鋼鉄の浮遊城での奉仕部活動はまちがっている。   作:普通のオタク

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ひとまず、彼らは自らの振る舞い方を考える

転移地点から手早く離れ、とりあえず近くの宿屋に駆け込むように入った。一泊分のコル(このゲームの通貨)を支払って部屋に転がり込み、俺達はそこでやっと一息着くことができた。

俺は近くの椅子に座り、二人はベッドに腰かける。

そのまま、誰もが口を開かない。

まあ、当然だろう。何から言えばいいのか分からないだけでなく、現実に何をどうすれば良いのかも分からないのだから。

だが、ネトゲにおいて無駄にして良い時間はない。ネトゲとは限られたリソースの奪い合いであり、敵の敵は敵が成立する世界だ。

なぜ知っているのかと言われれば、ぼっちは中学生位の時に大概ネトゲにはまり、そこでもコミュニケーションが上手く取れずにハブられるという流れを大概経験するからだ。ソースは俺。

つまり、ここでじっとしている理由はない。

若干憚られるが話をしなければ進展はない。

ゆっくりと少しの間を置いてから口を開いた。

「俺達が取れる行動は、2つある」

二人は黙って視線を向けて来る。

「攻略を狙うか、このまま安全地帯でゲームがクリアされるのを待つことだ」

俺の言葉に由比ヶ浜がビクッと、恐怖するように震えるのが見えた。

だが、最後まで聞いてもらった上で選択してもらいたいと思い、あえて無視して言葉を続ける。

「前者なら、もう、今すぐにでも動き出す必要がある。ネトゲは金。アイテム……リソースの奪い合いだ。強い装備がそのまま自分の生存率に繋がるからな。このゲームではそれがより顕著になる」

なにせHP0=死亡だ。他人を蹴落とし、自らを高める行為が全プレイヤーの当たり前になるのもありえる。

「……逆は、どうなるのかしら」

雪ノ下が訊いてくる。攻略の逆、つまり街に篭もることだろう。

「攻略しない場合、当分は安全だ。街を出るとしても攻略していったプレイヤー達の使ったルートや方法、情報をそのまま適応できるからな。ただし」

「装備品が一般レベルだから生活費を稼ぐためにしかならないのね。後から攻略に追い付くのはかなり厳しい」

俺の言葉の続きを察した雪ノ下がその回答を言う。

もっとも、付近のモンスターでボアや……まだ見かけただけで倒しては居ないが……ワーム等といったモンスターを倒せば20コル程度にはなるので、一層で贅沢して暮らせるだけの生活費にはなるのだろう。

節約すればチマチマとであれば進めれるかもしれない。とりあえず正解のため、頷きで返した。

その仕草を見て、雪ノ下は目を閉じ、数瞬。

ゆっくりと目を開き、ポツリと。しかし明確に宣言する。

「私は……今は攻略に行こうと思っているわ」

「ゆきのん!?」

由比ヶ浜が慌てて立ち上がる。気持ちは、俺も由比ヶ浜と同じだった。

だが、雪ノ下雪乃という人間をある程度理解している以上、その答えは予想出来てもいた。

世界が相手でも、この負けず嫌いさんは変わることがない。

世界が間違っているのなら、世界を変えようと言うやつだ。こいつは。

「比企谷君は由比ヶ浜さんと居てあげて。私は、あなた達がいれば頑張れるから」

優しい笑みで雪ノ下はそう告げる。文化祭の時と違い、抱え込んでいるというわけではないのだろう。だが、それを認める訳にはいかない。

ここにいる3人全員で無事に帰ることを再優先にするべきだ。

ならば、俺が出せる回答は一つしか無い。

「ここはネトゲに慣れている俺が行くべきだろ。いつものやり方じゃなく、立ち回り方を知っているからっていう理由で進言させてもらう」

「ヒッキーまで!?」

 由比ヶ浜が叫ぶ。悲鳴のようだ。

「すまん。由比ヶ浜……だが、雪ノ下が一人で行くのを見逃す訳にはいかないし、お前を一人にするわけにも行かねぇだろ」

「だからって、貴方が一人で行く理由にもならないわ。それに、貴方と違って私なら武術に多少は覚えもあるのだから、相手がモンスターでもちゃんと戦える」

俺の言葉を雪ノ下が即座に否定する。

俺が、次の言葉を言おうと口を開き

 

 

瞬間。それ以上の声量で、声が部屋に響いた。

 

 

「二人共、どっちが行くのもダメだよ! 他の人に任せればいいじゃん!」

由比ヶ浜が俺たち二人を静止する。その様子に、俺は衝撃を受けた。

由比ヶ浜は強くなったと思う。

最初は周囲に合わせ、自分の意志を殺して、笑顔を浮かべていただけだ。今でも、三浦とかに強く出れるほどではない。

しかし、今。俺たち二人共の意見に正面からNOを突き出した。

雪ノ下も俺と同じような表情をしていることだろう。

俺達が黙っているのを見て、由比ヶ浜が言葉を続ける。

 

「なんで、そんな、冷静に自分の命を懸けれるの……? 私、怖くて。どうすればいいのか、全然分からなくて……。それに、戦闘だって、一番始めに闘う動物相手にも上手くできなくて……いつ死んじゃうか分からないの。なのに、なんで……」

 涙を流しながら、由比ヶ浜は言う。

 ああ、そうか。

 雪ノ下は表情にその恐怖を出さない。俺も冷静でいようと自分を律し、その上で結論を出した。

では、由比ヶ浜は?

 由比ヶ浜は感情に敏感だ。それは、よくも悪くも。

 さっきも思ったことになるが、周りに気を使って自分を押さえるのが本来の彼女だ。

 

では、彼女が周囲に合わせた対応とは?

 

 こんな、緊急の時でも、由比ヶ浜は俺たち二人が冷静であるのに合わせようとした。

 彼女に抱え込める容量を超えて。

 これは、俺と雪ノ下の失敗だ。由比ヶ浜に……本当に優しい彼女が、いつも通りで居られるはずがないのにそれに気が付かなかった。

どうやら、俺の望む本物はまだまだ近くて遠いままらしい。

「……すまん。結論を急ぎすぎた」

「ごめんなさい。由比ヶ浜さん」

「う、ううん。私こそ、ごめん。二人共、私たちのこと思って言ってるって、わかってるのに……。けど、それでも……」

涙を流しながら、由比ヶ浜が言う。続きは言葉にならなくとも、思いは伝わってくる。

雪ノ下が由比ヶ浜に寄り添う。いつもとは逆の光景だ。

由比ヶ浜が泣き止むまで、その光景は続いた。

 

× × ×

 

由比ヶ浜が泣き止むまで、少し時間がかかった。

というのも、どうやらこのゲームの……フルダイブ技術共有のようだが……脳が泣いていると認識したらアバターが自動で涙を流すようで、とにかくダーダー泣くのである。

「こういう面を考えるとフルダイブ技術も考えものだな……。いや、俺からしたら疑う要素が減るんだし、助かるんだが」

本物を見つけやすくなるかもしれない。という面ではうん、悪くない。俺が常に泣いているような状態にならなければ。

「あら、でもよく出来ているけれどこの世界は全部偽物よ? 貴方も偽物は嫌いだったはずだけれど」

「元から世界なんて欺瞞まみれだろ。むしろあれだな。下手な本物より本物に近いんだからよっぽどマシまである」

俺の言葉に雪ノ下は一瞬返事に詰まり、

「……この世界に来てから言い負かされたり、言い包められることが増えて癪ね」割りとマジトーンでそう言った。

いつも通りに完全に封殺されたほうが怖えーよ……。

「ぷっ……ヒッキー、なんでそんなに冷静なわけ? マジキモイ!」

そんな俺達を見て、由比ヶ浜はこらえきれなくなったのか笑い出した。まぁ、そっちのほういいんだが……ついでのように罵倒するなよ。今度は俺が泣くぞ。

 

まぁ、これで話をようやく元に戻せそうだな。

 

「……で、実際、どうする。結論は出さないとだぞ。どうするにしろ」

俺がそう言うと、再び笑顔が消え、二人共顔を俯かせた。

「……本当に、その二択しか無いのかしら?」

「無い……いや、厳密に言えばあるが、やることは攻略組と今の所変わらねぇ」

「どういうこと?」

雪ノ下の言葉に答えた俺に、由比ヶ浜が追求する。

「RPGって言うのは支援職が存在すんだよ」

言いながらスキルスロット画面を操作し、可視化モードにしてから開いてみせる。

すると、そこにはずらーっとスキルの名前が並んでいた。

「武器作成、調理、裁縫……こういった実用性もあれば趣味にしか見えない雑多なスキルもあるんだが、これもある程度育てておけば立派な職業になるわけだ。だが」

「スキルスロットシステムの都合で敵を狩る必要性が理由、かしら。比企谷くん」

「お前は俺のセリフをなんでさっきから取ってるわけ? なに? いい負かせれてない鬱憤を発散してるの?」

途中で言葉を遮られるのって思ったよりもストレス貯まるんだからやめてくれない?

「えっと、スキル、スロット……あ、私、<<片手直剣>>になってる」

「デフォルトだな。ついでに後何か一つ付けれるぞ」

話を聞きながら、慣れない手つきでいじっている由比ヶ浜に言う。

ちなみに俺は<<短剣>>と<<軽業>>だ。<<軽業>>は説明を読む限り、ざっくり言えば身軽に動けるらしい。うわー、そのまんま。

雪ノ下は<<細剣>>と何かだろう。まぁ探るのはマナー違反だから訊かないが。

 

「ま、雪ノ下が言ったような理由だ。だから街に篭もるって選択肢を取る場合は結局これも没なわけだ」

「そっかー……やっぱりゲーム、なんだね。私、全然できること無いや」

「「それはない(わ)」」

由比ヶ浜の発言に俺と雪ノ下の言葉がハモった。なにこれ恥ずかしい。

雪ノ下も同様なのか、由比ヶ浜に言葉を、早口で投げる。

「そもそもとして私と比企谷君が攻略をしようと思っているのもこの3人で居続けるために必死なためであって、そこで貴方が何もできないと悲観的になる理由はないのよ由比ヶ浜さん」

「むしろあれだな。一人くらい落ち着かないでいてくれた方が、こっちがしっかりしようという意識が出て冷静になれるからな。由比ヶ浜が『バリバリ攻略目指そう!』 とか引っ張ってたら逆に俺たちがビビってたまであるぞ。多分」

俺も気がつけば口に出している。さっきから恥ずかしい発言と行動のオンパレードじゃねぇか俺。穴があったら入りたい。もしくは布団に包まりたい……ベッドには二人が座ってるしダメか。

「……まぁ、さっきは逆にそれで不安にさせたみたいですまん。もう大丈夫だ」

「う、ううん。ヒッキーが謝ることじゃないし!」

改めて謝罪をして、また話題をリセットする。話が全然進まねぇ。

俺は1つ咳払いをして、ふとした思いつきを口に出すことにした。

 

「……まぁ、そういうわけだ。スキルが全部じゃない。そう考えるとあれだな。ここで奉仕部の活動でもするってのもありかもしれねぇな。支援職ほどじゃなくても、ポーションをかき集めて、攻略しようとするプレイヤーとかに配布するとかの支援組合的な活動しつつ悩み相談に乗るとかで。これならレベルも急いで上げるとかはしなくてもいいし、全体的な進行に関われるだろ。さすがに本格的にやるなら規模を広げないとだが、スキルに拘る必要もない、リアルスキルが問われる範囲だからな」

 

俺の何気ない発言に、視線が2つ集まる。

え、な、なんなの? ハイキーはーずーかーしーいー……。ほんと、なんなの?




終盤無理矢理だったかなぁ

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