やはり鋼鉄の浮遊城での奉仕部活動はまちがっている。 作:普通のオタク
翌日の夕方。つまり1月22日。3週間と6日が過ぎた。
第二回の攻略会議が開始された。その場でまず報告されたことはある意味一大事である。
俺達の予想を超えたペースで攻略が進み、ボス部屋を発見するという戦果を攻略組は上げたというのだ。
士気高揚の賜物だとは分かるがその裏に見え隠れする思惑を考えると余り素直に喜べるとは言えない。
だが他の冒険者達にはそんなことは関係がない。その上がった士気を保った状態で如何にボス戦に挑むのか。そのようなことを考えているのが大多数であろう。
「では、第二回会議を」
「ディアベル。その前にいいか」
今回は攻略組メンバーとして参加しているために、座席から立ち上がって発言する。
「……なんだい?」
「いや、うちと提携している情報屋からの提供だ」
瞬間、会場にどよめきが発生する。だが、これで驚かれても困る。なぜならその内容は。
「内容はベータテスターへの取材から判明したボスの当時の詳細情報がメインだ。先にこれを配布したい」
一際大きい困惑が広がった。
現状ではアルゴや俺達への猜疑心がほとんどであろう。
だがディアベルは俺の持つガイドブックを受け取り一読すると、全体に向けて指示を出す。
「みんな! ハイキーくんからこの本をもらい、全員で熟読してくれ!」
それは、この本の内容を認める。情報の出所がどこでも構わないという意志の表れだ。
ディアベルは続ける。
「一番死亡リスクが高い上に2、3日かかる筈の偵察戦を省略できるんだ。俺はすっげー有り難いと思ってる! だって一番死人が出る確率が高いのも、その偵察戦だからだ!」
正論だ。だがこれもディアベルがベータテスターだという疑惑視点で見ると意味が変わる。
つまり、この情報がディアベルの持つ知識と違わないから受け入れた。ということだ。
恐らくはそうなのだろう。だが、それをこの場で指摘することはできない。
全体の士気に関わる。故に、俺はまだ動けない。
鼠のガイドブックを全員分配り、席におとなしく戻った。
その間にもディアベルは全体の士気を上げるために情報を元にした戦力解説を色々言っていたが、俺にはすべて実のない理想を語るようにしか聞こえなかった。
✕ ✕ ✕
「それじゃ、早速だけど、これから実際の攻略作戦会議を始めたいと思う! 何はともあれ、レイドの形を作らないと役割分担もできないからね。みんな、まずは仲間や近くにいる人と、パーティーを組んでみてくれ!」
全世界が停止したかとおもわれた。
さすがにそれは冗談だが、ディアベルは二重の意味でやらかしてくれました。ええ、くそぉ!
一つは俺がこの場でパーティーに加わってしまったら、奉仕部との窓口としての役割を優先しての攻略組離脱をすることができないということ。
枠に当てはめられたなら、そこを抜け出るのはマイナスでしかない。
二つ目はぼっち特有だ。俺みたいなハイレベルのボッチにとってチーム作ってはハブられのワードである。
というか、まずそもそもとして知り合いや親しくしてるメンバーが二人しか該当しない。
超スピードでパーティー組んで群れる奴らを尻目に、他に選択肢は無いため、キリトの方へ移動する。
そこでは、
「……あー。悪い。邪魔したか?」
「そういうのじゃないから」
「で、ですよねー」
そこではパーティーを組んだのであろうキリトとアスナの二人が隣だって座っていた。
超入り込みづらく、小粋なジョークを口にしてみたらアスナさんに一睨みで黙らされました。超怖い。
そんな俺達を仲介するように入り込んできてくれたキリト。中性的な顔つきが一瞬天使に見えたが戸塚程ではない。
いや待てよ? 本来天使とは両性具有だと聞く。ならキリトが天使でも間違ってないんじゃないか? おいおいシリカに続けて天使を見つけちまったぞこの世界はもしや天国じゃなかろうか。
「ハ、ハイキー? どうした? パーティーに入りに来たんだろ?」
キリトの呼びかけで現実に俺は戻ってきた。やべぇ、超えてはいけない一線を越える所であった。
「あ、ああ。そうだ。とりあえず頼む」
リーダーであるキリトからパーティーへの招待が届いたので受諾する。
すると視界の左上にKirito、Asunaの文字列とHPゲージが表示される。
「綴は変だろうがそれでハイキーだ。ツッコムなよ」
「お、おう」
俺の先んじてのツッコみ防止に苦笑いを浮かべるキリト。対してアスナは首を傾げて声をかけてくる。
「どこに名前出てるの?」
「「え?」」
男衆二名の声が重なった瞬間だった。
ディアベルがパーティーメンバーの調整をしている間にアスナに左上の表示のことを教えた。そして。
「お前ら、後で教会に来い。キリトには無用の長物だろうけど一応ウチはサポートがメインの集まりだ。用語とか教えとく」
といった約束を取り付けることに成功した。俺が離脱するつもりの意図もこの時に説明するつもりだ。
そして、ディアベルが俺たちのPTに来た瞬間から、俺は視線をディアベルに注視する。
無論、悟られないようにだが。今はこいつの一挙手一投足を見逃すわけには行かないのだ。
ディアベルは俺達3人を眺めてから少し考えた様子で仕事の内容を口にする。
「君たちは取り巻きのコボルトの潰し残しが出ないように。それと、」
そこで一度区切り、俺の方を見る。対してこっちは思わず視線をそらす。笑顔が眩しい……! あとこっちが見ていたと悟られないためだ。
ディアベルは幸いにも気が付かなかったようで次の言葉を口にする。
「万が一にもハイキーくんが死なないように護衛。実力が見たいから手伝ってもらうけど死なれたら困るからね」
いやいや。お前さんそれは流石に聞き逃せない。なにせ最後の別行動チャンスだ。
「待った。おまえが俺の実力を知りたいのは理解している。だがそれなら最前線に出す以上は平等に扱うべきだろ。護衛とかやめろ」
俺の拒否にディアベルは目を見開く。だが俺は言葉を止めない。
「それともう一つ。そもそも護衛が必要だと思っているなら俺を入れるな。ボス戦は遊びじゃないだろ」
呼ばれたところで幾つもの意味で迷惑だ。
そう言った感情を持って今更に拒否する。
すると、もめていることに気がついたのか、少々周囲が騒がしくなった。そして原因を知ろうと誰もがこちらを注目してくる。
今現在。攻略組43名の視線がここの言い合いに集まりつつあった。
理由は簡単。リーダーに反発しているプレイヤーがいるからだ。
ディアベルのリーダー性は今やここのメンバーの共通認識だ。酒場に集まっていたメンバーからしたら信仰対象であるかもしれない。
それに逆らう異分子は、そりゃさぞかし注目をあつめることだろう。
俺の発言はディアベルの決定を今更になって否定する言葉だ。拒否するのなら昨日の時点で言うべきだろ。
そういった不満の視線がこちらに向いている。
だが、俺の拒否をを受けたディアベルは平然とそれを受け流した。
「そうだったね。護衛に関しては詫びるよ。だけど」
そこで一拍置き、ディアベルは笑顔を崩さずに決定を下す。
「君たちのギルドだって遊びじゃないだろ? だったら、君達が如何に真剣に、サポートに尽力し専念するか。その技量を観たいと思うのはおかしくないだろ」
来い。という命令形ではない。だが見させろ。という決定の意志が込められた言い回しだ。
もう逆らえない。そう察したが最後まで足掻かせてもらう。
「……わかった。だが、今回は特例だ。以降、奉仕部はどのような理由であれ支援組織であり、中立者である。ボス攻略に直接的に手を貸すことはしない。この事実とその周知の徹底を欠かすな」
悪あがきでしかないが、ディアベルのカリスマ性。リーダー性はもはや規律だ。 ボスを倒せば絶対となるだろう。
それこそ、白いものも黒といえば黒となる程度には。
だからここで念を押す。
ディアベルも馬鹿ではない。俺の意図を読んだのか、一つ頷いてから了解の旨を言った。