やはり鋼鉄の浮遊城での奉仕部活動はまちがっている。   作:普通のオタク

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ハイキーはアルゴについていく

ディアベルの発言の後、俺達はこれ以上話題を広げることは避けて会議の終了まで一参加者として話を聞いた。

と、言ったものの初日の攻略会議はディアベルによる呼びかけの元に一致団結、士気高揚で終わりとなったわけで、ほぼ何かが進展することはなかったのだが。

その後、オブジェクト化したアニールブレードと素材アイテムを配布した。

大雑把に集めたアイテムだったがほぼすべてのプレイヤーが最大成功率での武器強化、防具強化に一度は挑める個数にはギリギリ足りたようで、感謝の言葉をミナが受け取って照れくさそうに笑っていたのが印象深い。

生きることだけを目的とし、無気力に座っていた少女はもう居ない。これから奉仕部を実際に引っ張る仕事を色々と任せていけば、彼女は自然体で笑えるようになっていくことだろう。

俺がそれを見続けられるかは別なのだが。

 

その日の夜。

俺達、奉仕部主要メンバーにアルゴを加えた4人はディアベルの発言について額を付きあわせていた。

「今日の配布によって印象自体は植え付けられた以上、ディアベルが許可どうこう言ったところで俺達の事を認めなければならない。そうしなければ、リーダーの横暴として参加者の団結が崩れるからだ。それは攻略組補助組織として存在する俺達にとって望ましくない」

つまり、俺がディアベルの要請に従って今回のボス戦に参加すればそれで全てが丸く収まる。だが。

「けれど、そもそもとしてこの奉仕部は私達3人にとって危険な戦闘そのものを可能な限り避けつつ攻略に貢献するためのギルドよ。ボス戦に参加するのはハイキー君の失言が原因とはいえ本末転倒よ」

「それなんだよな」

そう。雪ノ下の言う通り本末転倒なのだが、原因としては俺の発言なのだ。

ミナに頼まれて支援している。そういう解釈になってしまったのは俺の言動と行いが原因だ。

ディアベルに……攻略組のプレイヤーにとって、あくまで俺達3人は奉仕部の支援者なのだ。故に、奉仕部の子どもたちに接するより俺達3人は攻略組から要請を受けやすくなる。

奉仕部と攻略組の窓口という立場に自分たちを置くつもりでの発言だったのだが、思わぬところで裏目に出たというのが今回の原因というわけである。

 

「少なくとも、ここで要請を引き受けるデメリットは大きすぎる」

「そうだよね……ヒッキーが死んじゃうかもだし」

「ウイちゃん。それがちょっと違うんだナ」

由比ヶ浜の疑問をアルゴが否定する。

「いいかい? 奉仕部の支援者とはいえ奉仕部と無関係じゃないんだ。ぶっちゃけ、微妙な立ち位置に3人は今いるわけ。ここでボス戦に参加したという実績が入ると以降、奉仕部そのものが臨時戦力としての認識が混ざりかねない」

それは、常に戦闘の危機にさらされるということだ。そしてそれは……。

「奉仕部の子ども達からではなく、保護者である私達3人が抜擢されることになるでしょうね。なぜなら『保護者』なのだから」

「なにそれ、そもそも戦力ってカウントされることおかしくない?」

二人の説明にウイは疑問を呈するが、これは何もおかしくない。当たり前のことなのだ。

「三浦がお前の態度がイマイチはっきりしなくてイラ立ったことあっただろ。奉仕部に入部する前辺りで。あれと同じだ。一度集団に入って自身の立ち位置を確定させたが最後、それを変えようとしたり断った瞬間にそれは怒りを生む」

人の押し付け、思い込み、固定概念というのは恐ろしいものだ。

 

文化祭の時もそうだ。

雪ノ下雪乃は優秀だった。

故に比較して無能であった委員長、相模南は頼られること無く優秀な副委員長に頼るという流れが生まれてしまった。

結果、相模は重圧から逃げ出すしかなくなった。

 

生徒会選挙の時もそうだ。

二人ならどう動くか。どう動けば奉仕部が維持できるか。

二人の気持ちを俺が勝手に印象から推論し、失敗した。

だからこそ空虚な一月が生まれた。

 

クリスマス合同企画もそうだ。

自分達ならできるという思い込みと曖昧な知識から行われた会議により歯止めが止まらなくなった。

その結果、2校合同企画から共同別企画という形になった。

 

認識の払拭はどうすれば行えるのか。それは早期であればるほど手段が残されているものだ。

だが一貫して、その全てがダメージを負う選択であり、今の奉仕部はまだ些細なダメージで崩れる砂上の楼閣だ。

さらに言えば、今回の件はあまり時間が残されていないのは確かだが。

いつがボス戦なのかが分からない。

まだボスエリアへのゲートが発見されたわけでもないのだ。だが今の士気的にいつ発見されてもおかしくはない。

故に不明。どう動くべきかがわからない。

「スノウ。お前の場合は……いや、そうだな。噂の類はスルーか真っ向否定だなお前は」

「不足ね。根絶もするわよ」

「ユキちゃん、だいぶ根が深そうだしナァ」

雪ノ下がユキちゃんと呼ばれかなり困惑している。ゆきのんに続いてアダ名ふたつ目だ良かったなユキちゃん。

「ウイは……場の流れに合わせつつなぁなぁに否定するタイプだしなぁ」

「た、たしかに空気読んじゃうところはあるし……」

そしてグループリーダーが一睨み効かせて黙らせる。カーストトップのお気に入りというのはそれだけの恩恵を受けることができる。

取り入ることで面倒な人付き合いも生まれるが逆にある程度カバーされる安心感。これも、カーストという集団の無意識の認識からくる思いこみでしか無いのだがさすがに今回の件に流用はできない。

だが、ふむ。思い込み、か。

俺達もこれは例外ではないのかもしれない。事実、俺も思い込んでた面がある。

 

「アルゴ。ディアベルについて情報を買いたい。敵を知り弱みにつけ込めば百戦する必要も不要(いらず)だ」

「腐れ目、とことん腐ってるなぁ……オイラも暇じゃないが、急いで調べてやるヨ。けどさ。ちょっと手伝えヨ」

「ああ、分かった。先に行っててくれ。あとで合流する」

アルゴは了解するとそさくさと教会を出て行く。

俺は二人に向き合って今思い立った結論を述べる。つまり、やられるまえにやる。確定する前に処理する。つまり。

「ダメージを負うのが嫌だから印象が付く前に撤回させる。ディアベルについてはアルゴが調べる。俺達はあいつのこれまでを洗う」

「だから弱みに付け込むなんて言ったのね……」

「ヒッキーせこーい……」

呆れた様子で笑っているが否定はない。それしか手がないとこれまでの話し合いで結論が出ているからだろう。

あそこまでの人数に攻略会議を呼びかけ、集められるプレイヤー。つまりそれなりに派手に動いているプレイヤーなのだ。必ず足取りは残っている。

それに。

「……今思い出したんだがな。俺、ホルンカでディアベルに会ってんだよ」

俺達がホルンカの村に行ったのは普通のプレイヤーもだいぶ動き出してからだが、それでも割と早い時期だったと思う。

もしかしたら、いやまさか。

そんな疑惑を俺は胸に潜めながら立ち上がった。


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